チルアカ

藍色綿菓子

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新しい生活

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 頬が濡れる。胸が痛くて仕方なかった。全て思い出してしまった。穏やかだった日々を忘れることもできない。
「やり直してよ! やり直せばいいじゃない!」
 思い出さなければ良かった。そしたら今も、のんきにアルバートと共にいただろう。全て恨めしい。何もかもが嫌だった。
「嫌だ……」
 そう言ったのはアルバートだった。
「やり直したくない。あなたに一度でも好かれたのが嬉しい」
 それを聞いて私は言葉を失った。代わりに涙がぼろぼろ出てくる。もう自分の意思もわからない。失ってしまった物が多くありすぎる。気付けばアルバートも泣いていた。闇色の瞳から大粒の涙が流れて、情けない。
 泣きたいのはこっちなのだ。彼を憎む気持ちと、好きだった淡い気持ちが入り交じって溶ける。
「マリアは君をさらいに来てたんだ。仕方ないことだ」
 アルバートは罪を懺悔するように顔を歪めて言った。そんなものはもう問題じゃない、とはねのけた。アルバートは優しく私を地面まで降ろして、静かに抱きしめている。
「やり直してよ・・・・・・」
 彼が声もなく首を横に振るのを感じた。
「やり直さないなら、時空の歪みに飛び込む」
「危険だ。やめろ」
 硬い声でアルバートが言う。私はだだをこねる子供のように泣きじゃくっていた。なんとか伝えたのが、「あなたといるのが辛い」

 視界の端に、綺麗にラッピングされた箱が積まれているのが見える。どんどんと溜まっていく。誰か中身を開ける仕事をしてくれないだろうか。私はベッドから起き上がるのが億劫だ。
 アルバートの部屋に閉じ込められて、どれくらい日が昇っただろう。数えていないからわからない。
 愛情の印、としてはめられた首輪は、ワインレッドの色をしていて革製だった。金属の鎖部分は押しても引いてもびくともしない。少し息苦しいのが懐かしい。前にもこうしてつながれていた気がする。
 私はベッドの周辺と、かろうじてトイレに行けるくらいの自由しか無い。手も届かない窓に鉄格子がある。部屋の入り口は鍵が二重だ。そんなに警戒しなくても、と思う。どうせ逃げるのなんて諦めてしまう。相手が悪すぎる。
 ぼーっと、あったかもしれない優しい未来に思いを馳せる。マリアの誘いに乗らなかったら。今頃私は記憶を失ったまま笑っていただろう。カケル君の話をそんなに頻繁に聞かなければ。まだカケル君も生きて近くにいたかもしれない。
 私を責めるように明るい太陽は窓から姿を消し、赤い月が昇ってくる。ああ、そろそろだ。
 防音のしっかりしたこの部屋のこと、外の足音なんて聞こえないけど、第六感的なものが告げている。そろそろあの人が帰ってくる。私はベッドの上で、まな板の上のコイになったつもりで彼を待った。不安で気持ち悪くて泣きそうだ。ドアが開いた。
「ただいま、ナツミ」
 泣きそうだったのが堰を切ったようにこぼれ落ちた。
「おかえりなさい」
 小声で言う。不満そうなアルバートが近付いてきて、私の頬をがっと掴む。今言ったおかえりの言葉は聞こえていなかったのか。
「ただいま」
「お……お疲れ様です」
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