チルアカ

藍色綿菓子

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エピローグ

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 部屋の隅に色とりどりの箱が多数ある。一々リボンを巻かれたそれらは、おぞましいことになんと全て私への贈り物らしい。開けることもなく放置している。日が経つにつれ量が増えていく。
 あなたといるのが辛い。再三訴えた言葉だ。彼は私の言葉を無視するのが酷く上手で、毎夜部屋を訪れる。窓に鉄格子の張られたこんな部屋にようこそ。
 好きだった。その気持ちが大きな杭になって過去に突き刺さる。外へは出してくれない。日差しの射し込む気持ちのいい部屋で、ベッドに横になって日がな一日眠って過ごす。彼が訪れたときに目を覚まして、人形のように好き放題されて、それでまた眠る。食べて洗われて寝る。まるで人形そのもの。アルバートなんて人形遊びがしたいだけの大きな子供だ。
 私は徐々に憔悴してしまった。拘束具が重くて、動くのも辛い。この世は辛いことだらけだ。
 過去がぐるぐると頭を回る。それから逃れようと眠りにつく。夢の中で私は、逃げ切れなかった過去に糾弾されるか、アルバートに抱かれている。大体二択。
 酷い死に様だったカケル君。普通に死ぬこともできないなんて、と恨み言を呟きながら近付いてくる。彼が近付くと、それに伴って私の体も変質していく。皮が剥がれていく。釘が突き刺される。火であぶられて破片が落ちる。仕方ないな、カケル君の味わった痛みだものな。ただ夢の中だから、痛覚が伝わらないのが我ながら不公平だと思う。
 マリア。助けてくれると、言っていた。アルバートがどういう人なのか知っていたんだ。簡単に死んでしまう程度の力で、アルバートに逆らってまで、私を連れ出そうとしてくれた。ぽたぽたと顔に血が落ちてくる夢を何度も見る。
 夢は覚めてしまえばただの夢だ。ただ、夢の中でアルバートに抱かれると、高確率で夢から覚めても抱かれているのだ。何の冗談だ。夢だけど夢じゃなかった。
 繰り返し行われる行為。終わりのない生活。疲れてしまった。自害しようにも、拘束された手足では難しい、道具もない。舌をかみ切って喉に詰まらせる? そこまで気合い入ったことする度胸もないんだわ。
 
 荒れることのない水辺のように静かに息をしていたら、食事の匂いが妙に気持ち悪くて吐き戻してしまった。どうしたんだろう。ただの穀物だったのに。
 慌ただしい周囲に気付かず、ぼーっと過ごし続けていたら、ゆっくりと腹部が歪に膨らみ始めた。アルバートが愛おしげにそれを撫でる。乱暴なことは何もしなくなって、拘束も随分緩くなっていた。時々腹の中で何かが動くんだ。
 涙は涸れた。もうどこへも行けない。
「ずっと欲しかったんだ。ありがとう……」
 アルバートは私に寄り添って離れることがない。仕事も疎かにし始めたらしい。町の人々は大丈夫なんだろうか。いや、町の人々の心配をする余裕はない。
 私は大きなお腹を撫でる。チャラにならないだろうか。私は幸せにならなくても、この子が幸せになればそれで、なんかチャラになったりしないだろうか。そんな期待を込めて、産まれる時を心待ちにする。彼が欲しがっていた家族だ。
 産まれる子の首を絞める自分を想像する。どうせ、できない。一矢報いるなんて考えない方がいい。全て諦めよう。それが一番マシなんだから。
 心が渇いている。彼は幸せそうだ。私も、笑った。
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