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第10章 聖剣と魔王

第336話 全てはおっぱいの為に

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「ヘンリーっ! ほらっ! 今も誰かとイチャイチャしてるじゃないっ!」
「はい? フローレンス様……一体何の事ですか?」
「何を話しているかまでは分からないけど、何となく雰囲気で分かるのよっ!」

 フローレンス様が、意味不明な事を言いつつ、纏う黒い魔力が更に大きくなる。
 そして、

「お兄さんっ!」

 突然背後からマーガレットに抱きつかれた。
 抱きついてくれるのは嬉しいが、こんな時じゃなくても……と思ったら、

「マーガレットっ!」

 マーガレットの下半身が、床から生えていた黒い顎に、食べられている。
 今までは、前から大きな球体が飛んでくるだけだったのに!

「ヒールっ!」
「大丈夫だよ。私は魔を滅する聖女だからね。闇に対して耐性があるから。だけど、神聖魔法で支援するのは難しいかも」
「分かった! 分かったから、マーガレットは何とか自身に治癒を……」

『ヘンリーさん! 彼女は多分大丈夫です。ただ動けないだけで、命に別状は無さそうです。それより、ヘンリーさんの方が危険です。あの攻撃を受けたら、おそらくヘンリーさんだと即死かと』

 アオイから指摘を受け、フローレンス 様に向き直ると、気合いを入れ直し、集中する。
 定かではないけれど、フローレンス様の中に魔王らしき何かがが居て、俺たちの仲間を攻撃してきている。
 アオイの言う通りだ。
 俺は何を躊躇っていたんだろう。
 今倒さなければ、俺の仲間たちが、俺の大切な女の子たちが、未だ見ぬ可愛い美少女たちが、命の危機に陥ってしまうんだっ!

「はっ!」

 聖剣を上段に構えると、フローレンス様に向かって走りだす。
 俺は、この数日で悟ったんだ。
 大きいおっぱいも、小さいおっぱいも、皆違って皆良い!
 この世界のおっぱいを守る為、俺は魔王を倒すっ!
 だが、

「聖剣が……弾かれたっ!?」

 黒い魔力の塊が、フローレンス様の前に壁のように立ち塞がり、斬りつけた俺の剣を弾く。
 これまで使っていた愛剣よりも、段違いの斬れ味だというのに。

『雑念が多過ぎるからですよっ!』
(雑念なんて、一つもないっ! 全身全霊をかけ、おっぱいの事だけを考えて剣を振るったのに)
『一切の雑念無しに、胸の事だけしか考えていないからですよっ!』

 その直後、黒い魔力を避け、回り込むようにしてフローレンス様へジェーンが近付き、

「主様の敵と認識しました。排除します」

 得意の連撃を放つ。
 しかし、

「剣がっ!? きゃあっ!」
「ジェーンっ!」

 俺と同じように、ジェーンも黒い壁に阻まれた。
 だが俺と違うのは、ジェーンの持つ剣が吸い込まれるようにして闇に飲み込まれ、ジェーン自身は大きく吹き飛ばされる。

「大丈夫です。それより、お借りしていた剣が……申し訳ありません」
「ジェーンが無事なら、剣なんてどうでも良い」
「……ヘンリーっ!」

 呼ばれて見てみれば、刃も柄も、全てを真っ黒に染めた剣――おそらくジェーンが持っていた剣をフローレンス様が手にしていた。
 そして、

「この期に及んで貴方は……バカーっ!」

 片手剣を両手で持つフローレンス様が、無茶苦茶な振り方で剣を振ると、黒い斬撃が飛んで来る!

「くっ! ……らぁぁぁっ!」

 聖剣で受け止め、弾き返そうとしたが、受け流すのがやっとだった。
 最初の勢いをそのままに、俺の横を飛んで行った斬撃は、床や壁を削りながら後ろへ飛んで行く。
 そんな重い一撃を、

「バカバカバカバカーっ!」

 狙いも定めず、乱発してきたっ!
 瞬間移動でジェーンの元へ行くと、抱きしめ、マーガレットの前に。
 ジェーンを床に座らせると、そこから全力で斬撃を受け流す。
 十を超えたところで数えるのを止めたが、俺の周囲はグチャグチャで、俺の後ろ――座り込むジェーンと、床に半身を埋め込んだマーガレットだけが無事だった。

「はぁ……はぁ……どうしてヘンリーは、その二人を守るのよっ!」
「俺の仲間だからだっ!」
「……じゃあ、私は……」
「だから、仲間を傷付けようとする者は許さない。それが例え、フローレンス様……いや、フロウでもっ!」

 そう言って剣を構えると、

「やっと……その名で呼んでくれたわね。ヘンリー」

 先程まで、ずっと怒っていたフローレンス様の表情が、突然穏やかになる。
 何だ? 一体何なんだっ!?
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