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第1話 異世界では貴族が料理をしてはいけないそうです
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噛むとほんのり甘味が鼻から抜ける炊きたての白米。きれいに巻かれた黄色い卵焼き。そして、大豆の味がしっかりとした、湯気の香るお味噌汁。
今思えば、お母さんが作ってくれた毎朝のご飯は温かくて、凄く美味しくて、毎日食べても飽きなかった。
家族の会話が弾み、みんなが笑顔を浮かべていたけど、今は……正直言って、その美味しくて温かい食事の記憶が辛い。
「アリスお嬢様。朝食で御座います」
大きな長いテーブルに着いていると、綺麗なメイドさんが朝食を運んできてくれた。
だけど、目の前のお皿に置かれた丸いパンは手で千切れず、ナイフで切らないといけないほどに硬い。
そして、その隣に一センチくらいの分厚いハムがあって、終わり。
これが、私が十七歳の次女アリスに転生した、フェイン侯爵家の朝食だったりする。
料理などという物ではなく、ただキッチンにあったものを並べただけ……そんな感想にしかならない食事なのだけど、最も我慢出来ないのは、どれも冷たい事だ。
食料は氷魔法で冷やされている保存庫に置いてあったのだから、せめて温めるくらいはして欲しい。
この世界に転生してからまだ数日だけど、朝食に限らず全ての食事がこんな調子なのだから、元日本人の私が限界を迎えてしまうのも仕方がないだろう。
「キッチンに入らせてください! 自分で朝食を作ります!」
「アリスお嬢様!? 何を仰っているのですか!? 前にも申し上げましたが、厨房はお嬢様が立ち入るような場所ではございません」
思わず立ち上がると、メイドさんが血相を変えて駆け寄ってきた。
二日ほど前に、こっそりキッチンで大量にサンドイッチとスープを作り、領地を守る騎士さんたちと一緒に食べたのが、相当ダメだったのだろう。
料理人さんのお仕事を私が奪ってしまった訳だからね。
だからこそ、改めてお願いをしたつもりだったのだけど……同じテーブルに着いていた父親の意見は、私が考えていたのとは大きく違った。
「アリス! 貴族が厨房へ立ちたいとは、何事か! 料理など下賤の者がする作業ではないか!」
「……料理は下賤の者がする作業!?」
「その通りだ。娘を厨房へ立たせるなど、フェイン家の名を汚す愚かな行為ではないか。先日の事は報告を受けておるが、二度とそのような事をしないように! ワシに恥をかかせるな!」
……は?
私が料理をしてはいけないのは、料理人さんを気遣っての事だと思っていたのだけど、そうですらなかった。
下賤の者? 作業? 厨房へ立つのは恥!? 料理と食事を舐め過ぎでしょっ!
医食同源って言葉があるように、日々の食事と栄養は健康に大きく影響するのよっ!?
何なの!? 毎食、パンとハムだけとか、たまにハムがチーズに変わるだけどか!
こんな食生活をずっと続けていくなんて、私は耐えられないっ!
「……わかりました」
「うむ。わかれば良……」
「貴族が料理をしてはいけないというのであれば、私は貴族を辞めます!」
父の怒鳴り声で凍りついた空気の中に、私の声がはっきり響き、頷こうとしていた父親の表情が固まった。
「……アリス? お前は何を言って……」
「お父様。今までお世話になりました。私はフェイン侯爵家の名を捨て、料理人アリスとして生きていきます」
「そっ……そんな事が許されると思っているのか!? よりによって料理人だと!? 何を考えているのだ! 料理は平民にやらせるものであり、貴族がする事ではない!」
「ですから、私は家を出ます。温かく、美味しくて、みんなが笑顔になって身体にも良い食事を作る為に」
前に騎士さんたちとサンドイッチを食べた時に聞いた話だけど、このフェイン侯爵家の食事が特別酷い訳ではなく、一般的らしい。
料理はお腹が満たされれば良い訳であって、手間や労力を掛けるものではないのだとか。
そんなの……悲し過ぎる! お母さんが作ってくれたような、優しく癒される料理を作るんだ!
「……ふはははっ! そんな食事を作る意味が何処にある! まさかお前がそんなに愚かだったとは思わなかったぞ! わかった……もう、勝手にしろ! ただし、金輪際フェイン家を名乗るなよ!」
「はい。元よりそのつもりです。では、お父様。さようなら」
「ふんっ! 大人しく隣国の王子に嫁げば家の役に立つと思っていたが……とんだ見込み違いだったようだな!」
後ろで父親が何か言っているけれど、完全に無視して自室で荷物を纏めると、悠然と屋敷の外へ踏み出していく。
これから大勢の人に沢山料理を食べてもらうの!
異世界の人たちを、美味しいご飯で癒すんだからっ!
今思えば、お母さんが作ってくれた毎朝のご飯は温かくて、凄く美味しくて、毎日食べても飽きなかった。
家族の会話が弾み、みんなが笑顔を浮かべていたけど、今は……正直言って、その美味しくて温かい食事の記憶が辛い。
「アリスお嬢様。朝食で御座います」
大きな長いテーブルに着いていると、綺麗なメイドさんが朝食を運んできてくれた。
だけど、目の前のお皿に置かれた丸いパンは手で千切れず、ナイフで切らないといけないほどに硬い。
そして、その隣に一センチくらいの分厚いハムがあって、終わり。
これが、私が十七歳の次女アリスに転生した、フェイン侯爵家の朝食だったりする。
料理などという物ではなく、ただキッチンにあったものを並べただけ……そんな感想にしかならない食事なのだけど、最も我慢出来ないのは、どれも冷たい事だ。
食料は氷魔法で冷やされている保存庫に置いてあったのだから、せめて温めるくらいはして欲しい。
この世界に転生してからまだ数日だけど、朝食に限らず全ての食事がこんな調子なのだから、元日本人の私が限界を迎えてしまうのも仕方がないだろう。
「キッチンに入らせてください! 自分で朝食を作ります!」
「アリスお嬢様!? 何を仰っているのですか!? 前にも申し上げましたが、厨房はお嬢様が立ち入るような場所ではございません」
思わず立ち上がると、メイドさんが血相を変えて駆け寄ってきた。
二日ほど前に、こっそりキッチンで大量にサンドイッチとスープを作り、領地を守る騎士さんたちと一緒に食べたのが、相当ダメだったのだろう。
料理人さんのお仕事を私が奪ってしまった訳だからね。
だからこそ、改めてお願いをしたつもりだったのだけど……同じテーブルに着いていた父親の意見は、私が考えていたのとは大きく違った。
「アリス! 貴族が厨房へ立ちたいとは、何事か! 料理など下賤の者がする作業ではないか!」
「……料理は下賤の者がする作業!?」
「その通りだ。娘を厨房へ立たせるなど、フェイン家の名を汚す愚かな行為ではないか。先日の事は報告を受けておるが、二度とそのような事をしないように! ワシに恥をかかせるな!」
……は?
私が料理をしてはいけないのは、料理人さんを気遣っての事だと思っていたのだけど、そうですらなかった。
下賤の者? 作業? 厨房へ立つのは恥!? 料理と食事を舐め過ぎでしょっ!
医食同源って言葉があるように、日々の食事と栄養は健康に大きく影響するのよっ!?
何なの!? 毎食、パンとハムだけとか、たまにハムがチーズに変わるだけどか!
こんな食生活をずっと続けていくなんて、私は耐えられないっ!
「……わかりました」
「うむ。わかれば良……」
「貴族が料理をしてはいけないというのであれば、私は貴族を辞めます!」
父の怒鳴り声で凍りついた空気の中に、私の声がはっきり響き、頷こうとしていた父親の表情が固まった。
「……アリス? お前は何を言って……」
「お父様。今までお世話になりました。私はフェイン侯爵家の名を捨て、料理人アリスとして生きていきます」
「そっ……そんな事が許されると思っているのか!? よりによって料理人だと!? 何を考えているのだ! 料理は平民にやらせるものであり、貴族がする事ではない!」
「ですから、私は家を出ます。温かく、美味しくて、みんなが笑顔になって身体にも良い食事を作る為に」
前に騎士さんたちとサンドイッチを食べた時に聞いた話だけど、このフェイン侯爵家の食事が特別酷い訳ではなく、一般的らしい。
料理はお腹が満たされれば良い訳であって、手間や労力を掛けるものではないのだとか。
そんなの……悲し過ぎる! お母さんが作ってくれたような、優しく癒される料理を作るんだ!
「……ふはははっ! そんな食事を作る意味が何処にある! まさかお前がそんなに愚かだったとは思わなかったぞ! わかった……もう、勝手にしろ! ただし、金輪際フェイン家を名乗るなよ!」
「はい。元よりそのつもりです。では、お父様。さようなら」
「ふんっ! 大人しく隣国の王子に嫁げば家の役に立つと思っていたが……とんだ見込み違いだったようだな!」
後ろで父親が何か言っているけれど、完全に無視して自室で荷物を纏めると、悠然と屋敷の外へ踏み出していく。
これから大勢の人に沢山料理を食べてもらうの!
異世界の人たちを、美味しいご飯で癒すんだからっ!
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