15 / 67
オタクに優しいギャルは実在する
しおりを挟む月夜に照らされた露台。
そんな中で彼女はこれまた月夜に煌めく金髪を輝かせていた。その毛髪は天然ではないもののどこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。まるで真夜中だけに咲く向日葵だ。俺は陰キャのくせしてそんなことを柄にもなく思った。
「オタク君こっちこっち!」
俺と同じくこの世界に強制転移させられたクラスメイトのギャル氏。彼女は此方に気がつくとはチョイチョイと突き出した人差し指を動かした。
「?」
なんぞ?
疑問符を浮かべていると彼女は現在座っている長椅子をポンポンと叩いた。どうやら座れということらしい。
特段断る理由もないのでお言葉に甘えることにした。
もちろん陰キャなのでちゃんと距離を空けて座った。俺はそこんとこキチンと弁えた陰キャなのだ。しかしギャル氏は何故かそんな俺の様子を見て苦笑いを浮かべた。
「今日はごめんねー。アイツら全然目茶苦茶でさ。全然話も聞いてくれないし困っちゃうよねー」
「あっ、はい」
アイツらとは陽キャ氏達のことを指すのだろう。
それにしても彼女の言うとおり魔女裁判《日中のアレ》は酷かった。人の武器を問答無用で寄越せだもんね。そりゃねーよ。現代民主主義法治国家に在住しているとはとても思えない発言だぞ。
あ、でも現実の民主主義もだいたいそんなもんか。上手いこと法律やらを駆使してやりたい放題だもんね。大国は国際法とかガン無視だし。やっぱり世の中はクソ。
彼女曰く事前に俺を除いた話し合いがあったらしく、彼らは全然人の話を聞かない状態だったという。
まぁ、案の定といった感じだ。むしろギャル氏が止めに入ってくれていたことのほうが驚きだった。オタクに優しいギャルか? 都市伝説とまで言われるオタクに優しいギャルなのか?
「明日、アタシの方からも言っとくから大目に見てくれると嬉しいな」
ギャル氏は『アイツ等も根は悪くないんだ』と付け加えた。
なにこの子。天使かな?
そもそも彼女は何も悪いことをしていない。さっきの件だって上手いことフォローしてくれたぐらいだ。
しかしここまでくる少し罪悪感が湧いてくるな。なにせ俺は明日の朝には一言も告げずにここからおさらばするわけだし。
「どしたんオタク君。固まっちゃってさ」
反応が遅れたせいかギャル氏は俺の顔を不安そうに覗き込んできた。
よし彼女には本当のことを言うか。
本来であれば逃亡計画を他者に漏らすなどリスクでしかない。だけど彼女には話していいと素直にそう思った。
「あー悪いけど俺、ここ出るわ」
ギャル氏は一瞬目をパチクリさせた。
「あー、そのほうが良いかもねー」
そしてなんとも申し訳なさそうに後頭部を数回かいた。
やっぱりこの人は良い人だなぁ。
なにせ俺は聖剣を引き抜いた勇者だ。最重要人物であり、そんな人間が勝手に逃亡したら連帯責任で何を言われるかわかったものではない。
それなのに彼女は文句一つすら言わなかった。むしろこちらの心配までしてくれているまである。大天使かよ。
「……」
そんな普段らしからぬ彼女を見て俺にも思うところあった。
普段ならこんなこと思いつきもしないし、ましてや実行に移そうなど露ほども思わないだろう。でもギャル氏は良い人だ。よく揶揄される都合の良い人とかではなく文字通り善い人。
「ギャルさんも一緒に来る?」
だからだろうか。自然とそんな言葉が零れた。
「へ? 私も?」
「あっはい嫌ですよね。サーセン忘れてくださいなんでもないです」
これだから陰キャは。そういうところだぞ。優しくされたらすぐ勘違いして調子に乗る。穴があったら七年ぐらい籠りたいレベル。そして時が来たら究極完全体グレート陰キャになるんだ……存在価値のない化物ですねこれ。
「あ、いやいや! 嫌とかじゃなくてさっ! 急だったから驚いちゃっただけだよ!!」
慌てて訂正するギャル氏。何この子、めっちゃいい子じゃん。結婚しよ。
「気持ちは本当に嬉しいけど今回はパス。ミーコとか友達《ダチ》のことほっとけないし」
ほんとこのギャルさんはいい人だなぁ。オタクに優しいギャルは実在したっ完!
「でもオタク君がこんなこと誘ってくるなんて意外だなぁ。ニシシ、案外タラシだったりする?」
俺がオタクに優しいギャルの実在に胸打たれ震えていると、何を思ったのか彼女は悪戯っぽく笑った。
「そんなわけない。悲しいことに未来も含めてろくにモテた試しがないよ」
「未来もないんだウケる」
彼女は俺の言葉にケラケラ笑った
そうなんだよとても可哀そうな存在なんだよ俺。是非ともギャル氏のお力でこの救いようのない化物を救済して欲しい。具体的には陰キャにも寛容なお友達を是非とも紹介して頂きたい。出来れば美人目な感じで……あ、なんでもないです。
「んーそうだなー。あっいいこと思いついた! オタク君があんまりにもモテなくて暇そうにしてたらウチが彼女になって上げるっ!」
「ブフォッ!!?」
阿呆な空想に浸っていたら斜め上遥か上空にキャノンボールをぶち込まれた件について。何をおっしゃられているんです???
「あ、もしかして嫌だった?」
しゅんとするギャル氏。
「いや違う違う違う!!」
「アハハ必死でウケる」
今度は満面の笑みを咲かせた。やっぱり大天使ですわ。俺は彼女の笑顔を見てそんなことを思うのだった。
◆
「っともうこんな時間か。色々と準備があるしそろそろ行くよ」
気がつけば彼女と会話してからかなり時間が過ぎていた。時計はないが既に一二時は超えているように思える。
「了解! オタク君も達者でね!」
「うん。そっちもね」
基本的に俺はクラスメイトが嫌いだ。うるさいし、無駄に恋愛脳だし、謎カースト制度だしこの上なく価値観が合わない。
今後、この世界で死なないぐらいで目茶苦茶不幸な目に合えと思ったりもする。
それでも人の良い彼女だけは幸あれと、俺は柄でもなくそんなことを思うのだった。
ちなみにキモオタ氏にも声をかけてみたがデュフデュフ何言っているか分からなかったので放っておくことにした。
81
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる