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第8話 オタクに優しいギャルは多分存在したんだと思った件について
しおりを挟む「ギ、ギャハハ!! ザマァねぇぜ!! ギャハハハハハハ!!!!!」
イカれたバカの狂笑とともに夥しい数のゾンビ達が開かれた扉から溢れ出す。彼らもまた狂ったように生者を求める。まるで生きていた頃の自分を渇望するかの如く。その光景はもうはや絵画に出てくるような地獄の亡者だ。まぁ、ゾンビだからあながち間違っていないか。
ともかく、生き残るためにはこの亡者達を討ち滅ぼす以外の道はない。しかし、大きい問題が一つ。
「クソ、ここじゃ大剣が使いずらいっ」
「え、あ、何それ!? 何でオタク君そんなヤバいの持ってんのよ……」
大剣を取り出したはいいが、いかんせん障害物の多い室内でこの巨大な武器は振り回せない。
とりあえず今、ビッチ氏の言葉は無視する。この状況でそんな時間はないしそれどころでもない。
状況は非常に厳しい言わざる得なかった。僕一人生き残るだけであれば余裕も余裕。鼻歌まじりに本を読みながらの上、珈琲を嗜んだとしても余裕だろう。だけど今は足手まといがいる。流石に生きている人間を目の前で見殺しにしない程度の倫理観は持ち合わせているつもりだ。とりあえず、僕の近くにいるビッチさんはともかくゾンビ達の近くにいるその他陽キャ達が不味い。
「馬鹿! いいから早くそこから離れろっ!!」
呼びかけたが、彼らはこちらの言葉に聞く耳すら持ってもくれない。頭に血が上っているのか、襲われるのは僕だけと錯覚して此方をせせら嗤う始末。
「は? 何言ってんーーお、おい!? 何で俺の方に来るんだよ!?!? アイツだ! アイツの方に行き……ぎゃああああああ!!!???」
「ちょっ、ハルト!?」
「うわっ!? 俺の方にも……があああああああ!?!?!?!?!?」
弁護士ドラ息子率いる陽キャ達はビッチさんを除き呆気なくゾンビ達の群れに飲まれてしまった。本当に笑えるぐらい呆気ない。自業自得だし、フラグを立てまくってたから仕方ないとも言えるが。
「い、いや! こっちに来ないで!? た、助け……」
「ちっ! 頭伏せて!!!」
ズパアアアアアアアアン!!!
大剣を水平に振り払う。歪な鉄の塊は鋭い風切り音と共に、彼女の頭スレスレを通り過ぎた。剣に触れたゾンビ達は例外なく上半身と下半身がおさらばしているが、想像以上に数が多い。
不味い。陽キャドラ息子に気をとられている内に、いつの間にかゾンビがこの部屋を埋め尽くしていた。
「あ、ありがと」
ビッチ氏は平然とこの歪な大剣を振り回す僕を見て唖然としていた。まぁ気持ちは分かるよ。ゾンビもので銃火器使うならまだしも、大剣振り回してるもんね。ほんとファンタジーもいいとこだ。
さてと、これからどうしたものか。彼女を気にかけながら戦うのは中々に骨が折れそうだし、どうにか何処か安全な場所に行かせられないものか。
「あっ……オタク君危ない!!」
しまった。考え事をしている隙にゾンビが後ろに回り込んでいた。振り返るとゾンビが大口を開けて僕の肩に噛みつこうとしている。
一瞬驚いたが、冷静に考えれば僕には安心安全のステータスさんがある。多少噛まれたところでHPが減るだけだし無問題のはずだ。タイミング的にもう逃げれなさそうだし、この一撃は甘んじて受け入れることにしよう。
「え?」
しかし、目の前で起きた事は予想の範囲外のものだった。
トンと小さな音がしたと思ったら、視線が傾いた。
は?
一瞬だけ遅れて自分がゾンビから助けられた事をようやく理解する。
僕の後ろにいたはずの彼女はゾンビに首をガブリと深々く噛みつかれていた。
「うっ……あはは、これ結構痛いじゃん。あーあ、こんな最後か」
「な、何で僕なんかを……」
「あーし二回も助けられたかんね、オタク君に助けられっぱなしってのもムカつくし」
彼女はこんな状況なのに苦笑いを浮かべていた。何で、何でだよ。
今日会うまでお互い、ろくに顔すら知らなかったはずだ。僕もどうだって良かったが、君だって僕の事なんか体の良い食料係ぐらいにしか思っていなかったはずじゃないか。それが何で、何で身を挺してまで助けてくれるんだよ。
知っているの? 僕はこのレベルアップやらステータスとかの能力で少し噛まれた程度なら全然問題ないんだぞ。それなのに生身の君が僕を庇うなんておかしいじゃないか。
「あはっ……ひっどい顔。間違っても彼氏とかにしたくねーし。でも……」
何だよ、僕だって君みたいな奴ゴメンだ。無駄に露出が激しいし、化粧が濃いし、テンションがウザイし、尻軽そうだし。なのに、なのにビッチなギャルがオタクに優しくしないでよ。軽く惚れそうになっちゃうじゃんか。
「今になってもっと話せば良かったなってちょっと後悔。そういえばオタク君の名前知らなかったな……」
何だよそれ。最後の言葉がそれかよ。それでいいのかよ。僕だって君の名前なんか知らないよ。
彼女は全てを悟っていた。自分がもう助からないと全て悟った上で僕に向けて微笑みを浮かべていた。
そして、呆気なく事切れた。
「あ……ア……ぁ」
「全く、情緒も糞もないじゃねーか」
現実は無慈悲だ。
たった今、僕を助けるためゾンビに殺された彼女はゾンビになろうとしていた。死んだはずなのに全身が震え始め、赤黒い血管が全身に浮かび上がる。あの穏やかな微笑みを浮かべていた顔に見る影はなく、目の焦点は滅茶苦茶になり大きく開けた口からはよだれがドロリと垂れ流される。
「アぁaアアア……」
結局、何かするわけもなく彼らはソンビに噛まれゾンビに成り下がってしまった。
こうなった以上、僕が選べる選択肢は多くはない。大剣をゆっくりと振りかぶった。
「ま、顔見知りの慈悲か。一思いにやってあげるよ」
せめてこれ以上苦しまないようにと。
せめて、あの穏やかで優しい微笑が汚れないようにと優しく大剣を振り抜いた。
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