13 / 13
第13話 何故かディーフェンスムーヴをかまされた件について
しおりを挟む「悪いね。こんな状況なのに夕飯までご馳走になっちゃって」
自己紹介も無事に終ると、タイミングを図りつつ僕はおもむろに椅子から立ち上がった。
「フフフ、こういう時こそ助け合いが大事だもの」
「へへへお前運がいいぞ。うちは結構備蓄もあるし食うのには困らないぞ」
対する天草と鉄槌は僕に向けて何の含みもない純粋な笑顔を浮かべている。
……こいつら本当にいい奴なのかもしれないなぁ。普通、初回であんな粗相をした人間をここまで手厚く扱わないよな。しかも、この状況では貴重であるはずの食糧を何の躊躇も無く分け与える程のお人好しだ。案外、ここに居座るのも悪くない選択肢なのかもしれない。
でも、僕にはやらなきゃいけない事がある。
「じゃあ僕はここで」
なので淡々と言葉を告げて僕はクールに立ち去るぜ。
幼馴染も探したいし、ぶっちゃけて本音を言えばこの女性だけの空間に居座るのが地味にキツい。もちろん美少女達がいる状況は嬉しくないと言えば嘘になるが、それよりも居心地の悪さの方が目立つ。友達ですらろくにいないのに異性一〇〇パーセントの空間とか無理にも程があるでそも。ムンクお家帰る!
「え?」
「は? おい!?」
「……」
ちっ、引き止められた。
「せっかく安全な場所に来れたのに出ていくっていうの!?」
天草の声音は真剣そのものだったし、愛贄を除きその他の面々も困惑したような表情を浮かべていた。
自分から出て行こうとする人間を案じているあたり、真性のお人好しである事が理解出来た。普通この状況で異性かつ、得体の知れない他人をここまで心配なんかするわけもない。ここまでお人好しだと何か裏があると疑いたくなるものだが、僕にしては珍しく彼女らは嘘をついているようには思えなかった。
あれ? 僕の隠キャセンサー鈍ったかな?
「人を、幼馴染を探しているんだ。だからここにいるわけにはいかないんだよ」
「幼馴染……?」
一瞬、天草の瞳に動揺が走ったように思えた。何か彼女も幼馴染関連であるんだろうか。
うーん、彼女らの不安に漬け込むようで気が進まないけど致し方ないか。ここは押し切らせてもらおう。
「大体僕みたいな男なんていない方がむしろ安心でしょ? 何されるかなんて分かったもんじゃないし」
「そ、そりゃそうだけどよ……」
とりあえず向こうが不安に思っていそうなことをぶちかました。やはり少なからず不安に思っていたのか、鉄槌の声には不安が混じっている。愛贄に至っては僕がいなくなった方が安心なんだと思う。頑なに視線を逸らしている辺り、内心はそんな感じだろう。
そもそもこの状況。向こうだって下手に食い扶持が増えるのは好ましく無いはずだ。
「それと僕はここにいる理由もメリットもないしね。じゃあ、死なないように達者でね」
会話を一方的に切り上げ外に向けて歩き出す。
僕の今の目的は幼馴染を探すことだ。ここにはいないみたいだし、さっさと他を探しに行きたい。
まぁここは外から見た感じ屋上菜園や太陽光発電等の設備が充実していた。拠点候補としては申し分ないが、それよりも今は足枷が増える方が面倒だ。
「純真、邪魔なんだけど」
教室のドアに差し掛かったところで、小さい影が目に飛び込んだ。この中の面々でも一際小さい彼女は両手両足を限界まで広げて僕を通さないようにしていた。
「……」
「……」
ただ僕も僕で譲る気は無い。脳裡に浮かぶのはあの名前すら知らない彼女。彼女のように手遅れになってからでは遅いのだ。
しかし、彼女じゅんしんも彼女じゅんしんで譲る気はないらしくお互いが睨み合う形になった。
「ディーフェンス! ディーフェンス!」
はい?
純真は何を思ったのか、両手を広げたままピョコピョコと反復横跳びを始めたんですけど。
ス○ムダンクの読み過ぎかな?
「ったくアイツは。仕方ねえアタシも加わってやるか!」
一瞬、鉄槌はポカーンとした表情を受かべるが、ニッカっと口端を釣り上げて純真の方へ歩き出した。え、なんで?
「「ディーフェンス! ディーフェンス! ディーフェンス!」」
そして鉄槌も加わり二人揃ってバスケのディフェンスムーブをかましている。カオス過ぎてこれもう分かんねぇな。どうしてこうなったし……。
「どんだけお人好しだよ、見ず知らずの僕を受け入れようなんて」
「だってせっかく友達になれたのにすぐお別れなんて嫌だもん!!」
「と、友達!?」
どうやら純真の中では既に僕は友達認定らしい。一瞬でもときめいた自分のボッチ具合が憎い。ボッチは友達と言う単語に弱いのだ。くぅ。
「と、友達は作らない派なんでそれはちょっと……」
「そ、そんな!?」
「なんだよー! 観念して友達になりやがれー!」
そしてこんなどうしようもないセリフを吐き出すというね。まぁ、でもどこかの偉い吸血鬼さんも友達がいると人間強度が下がるとか言っていたしね。ボッチはボッチであることがアイデンティティでもあるのだ。クソみたいな価値観だな……。
「ふぅ……落ち着いて皆」
僕らの煮え切らない状況に天草が前に出た。彼女の歩く動作は上品と思えるほど綺麗で、履いているのは上履きなのにコツコツとヒールの音が聞こえてきそうである。
「さっきメリットが無いと言ったわねムンク君。いいえ、あるわ。だって貴方は陽乃さんを探しているのでしょう?」
「えっ」
「だって陽乃さんは少し前までここにいたんですもの」
えっ、ほんとにまじでどういうことだってばよ?
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きが読みたいです。凄く気になります。投稿お願いします。