愛などもう求めない

一寸光陰

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来訪

「皇帝陛下、ご機嫌麗しく存じあげます。」
「久しいな、アガサ侯爵。元気にしていたか?」
「はい、お陰様で。
…本日はお伝えしたいことがあって参りました。」
アガサは自慢の口髭をするりと撫でた。
「何だ?」

「陛下の本当の御子を見つけたのです。」


いつも通り刺繍をしていると、ざわざわと王宮が騒がしい。

「何かあったの?」
「いいえ、何でもありませんわ。刺繍を続けましょう。」
ガルディエーヌはやはり何かを隠しているようだ。

ざわざわと心が騒ぐ。嫌な予感に冷や汗をかく。

いや、まだ早い。夢では17歳の時のことだった。


刺繍を終え、庭を散歩していると、話し声が聞こえた。

「私はね、やっぱりかって思ったわ。」
若い侍女の声だ。
「俺もなー、怪しいと思ってたんだよ。だって全然似てないもんな、王族に。」

きっと自分のことだ。
どきりと胸が痛む。

「ファクティス様、だっけ?王妃様にそっくりだよな。」
「本当に!金髪で菫色の瞳で、まるで生き写しみたいよ!」

あぁ。あぁ、現れてしまったのか。ファクティスが。真の皇子である彼が。

僕の今の位置は自分のものではない。
ファクティスが現れるまで借りていたものだ。

ファクティスが現れる前に逃げようと思っていたのに。できなかった。

父を、兄を、そして婚約者を愛してしまったから。


ヴェリテは部屋に引き篭もった。

「ヴェリテ様、陛下が一緒にお食事を、と。」
「体調が悪いからと言って断って。」
「分かりました。…無理はしないでくださいね。」
ガルディエーヌはヴェリテを抱きしめた。


トントントンっと部屋がノックされ、ガチャリと音を立ててドアが開いた。

「ヴェリテ、体調は大丈夫か?」
「…大丈夫です。」
「ゆっくり休んでくれ。体調不良にいいと聞いた果物を持ってきた。気が向いたら食べてくれ。」

「どうして、優しくしてくれるんですか?」
「え?」
「僕は、偽物なのに。」
「…誰がそんなことを。」
「聞きました、真の皇子だという方が現れたと。その方は王妃様に似ているそうではないですか!」
「俺はヴェリテが息子だと思っている。」
「え?」
「確かに、タンドレッスに似ていたが、それは髪色や瞳の色だけだ。血のつながった子供だと断定するには早い。」

父はポロポロと溢れ出るヴェリテの涙を拭った。

「ヴェリテ、お前は俺たちの息子だ。」

ヴェリテは父の手をぎゅっと握りしめた。

「また、アガサ侯爵は来られますよね?」
「ああ、明日また来る。」
「僕も会いたいです。」
「…分かった。」
父はぎこちなく頷いた。
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