愛などもう求めない

一寸光陰

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逃亡

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もうこれ以上はここにはいられない。

そんな思いがずっとヴェリテの頭を支配し続けていた。

少し瞼を閉じただけであの夢のことを思い出せる。

父と兄の冷たい視線。
ファクティスに寄り添う婚約者。

少しの差異はあるものの、夢の通りになってきている。
ヴェリテはそう確信していた。

早くここから出よう。
嫌な思い出ができる前に。
幸せな思い出だけ連れて行って。


時刻はもう真夜中。
人の多い王宮も静まり返っている。

ヴェリテはずっしりと重いリュックを背負った。
リュックの中にはいくつかの宝石と、幾らかのお金、硬いパンが入っている。

ヴェリテは自室の机の上に手紙を4つ置いた。

脱出するのは簡単だった。ずっと前から逃亡を考えていたのだ。護衛の目をくぐり、いとも簡単に王宮の外に出る。

振り返って王宮を見ると、今までの幸せの日々が走馬灯のように甦ってきた。

ガルディエーヌに抱きしめられたこと、父に愛していると言われたこと、兄に勉強を教えてもらったこと、ジュスティスにキスされたことーー。

全ての思い出がキラキラとヴェリテの胸の中で輝いていた。

この思い出とともに生きていく。

あぁ、とても幸せだったな。

「さようなら、お元気で。」

そう呟くと、2度と戻って来れないような気がした。


「ヴェリテ様。…ヴェリテ様?」
返事のないヴェリテを訝しむ。
ヴェリテは早起きでいつもすぐに目を覚まされるのに。

「ヴェリテ様…?」

悪い予感にガルディエーヌの胸はバクバクと鳴る。

ベッドの上にヴェリテの姿はなかった。


「探せ!何がなんでも!今すぐに!!兵を用意しろ!」
皇帝が声を張り上げる。
「お待ちください!落ち着いてください、陛下!」
「大事な息子が消えて落ち着いていられるわけがないじゃないか!」
「あなたは父親であって、一国の皇帝でもあるのですよ!」
メイユーラミの声にハッとする。

「ヴェリテ様は手紙を残されたとお聞きしました。自分の意思で出て行ったことは確かです。暴漢にさらわれたなどということではありません。焦ってはなりません。
大事にしてしまえば、これはこの国の弱みになってしまいます。慎重に、密かにヴェリテ様を探さなくてはなりません。誰にも悟られぬように。」
「はっ!息子1人思うように探せないなんてな。
俺は最後まで父親らしいこともできないのか。」
「陛下…。」

皇帝は頭に重くのしかかった王冠を煩わしく思った。


皇帝の命で密かにヴェリテ探しは行われた。王宮でもヴェリテが消えたことを知るものは少ない。表向きは病気のため部屋で療養ということになっている。

「ヴェリテ…。」

また、俺は大事な人を失ってしまうのか。

彼の微笑んだ顔が瞼の裏に浮かび上がり、儚く消えた。
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