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第一章 恋愛編
第12話 助けを求めて
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私は、体調が急激に悪化した拓弥君を助けるために、痛めた足を引きずりながら、地下鉄のホームから地上へとやってきた。
地下鉄の出入口に立ち、そこから外の様子を見回した。
ビルが建ち並ぶ見知った景色である。
しかし、地震の影響なのか、道路には車の存在が乏しく、路上を歩く人々も極わずかで非常に閑散とした雰囲気が漂っていた。
ビルや商店などの一部には、壁が崩れ落ちていたり、看板が落下していたりした。
道路にいたっては、隆起している箇所があったり、逆に陥没していたりと、これらを見る限りでも地震の爪痕が残されているのを知ったのである。
私の目の前を中年男性が通りかかる。
私は勇気を振り絞って声を掛けることにした。
「すみません、友人が大変なんです。どうか助けてください。」
「ごめんね、急いでいるから…。」
男性は、少々困ったような顔をみせながら走り去ってしまった。
(時間がないわ。救急車を呼ばなくては…。)
私は、手元にあるスマートフォンの画面を確認する。
外に出た為なのか、あるいは通信トラブルが解消された為なのかは不明だが、電波状況が改善されているようだ。
私は即座に、救急車を呼ぶための緊急通報番号である「119」番に電話をかけることにした。
「どうされました?」
電話の向こうから女性の声が届く。
消防局のオペレーターの方のようだ。無事繋がったことにひとまず安堵する。
「友人が倒れてしまっていて大変なんです。すぐに助けが必要です。お願いします。」
「お気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください。事情を順を追ってお伺いいたしますのでね。」
「あっ、はい。すみません。」
消防局の方に指摘をいただいた通り、私はパニックに陥っていたようだ。
このままでは必要な情報が相手に伝わらず、かえって時間を浪費してしまうかもしれないと悟った。
私は、一度大きく深呼吸をしてからオペレーターの方の質問に答えていく。
現在地や、拓弥君の情報。
そして、彼の容態。地震発生時や、その後の状況なども詳しく説明した。
救急要請は、地震の影響で早朝でありながらもパンク状態であるらしい。
待ち時間は30分から1時間とのことだ。
しかしながら、拓弥君の状態は非常に危険であるため、即座に駆けつけて貰えることになった。
救急車を待っている間、私は拓弥君の安否が気になって仕方がなかったが、私自身も足の状態が限界に達しており、立つことさえも躊躇われるほどであった。
10分程待った所で救急車は到着した。
「連絡して下さった方ですか?」
「はい、そうです…。」
「患者様のサノタクヤさんはどちらに?」
「地下鉄のホームにいます。」
「では、ご同行をお願いしても?」
「いえ、行きたいのですが、足がこの状況でもう動けません。」
私の足首の様子を隊員に見せる。
私も実際に見て驚いたのだが、昨日の腫れより1.5倍は膨らんでおり、黒紫色に変色を起こしていた。
「ああ…。確かにこれは酷いですね。わかりました。あなたはここでお待ちください。」
四名いる隊員さん達は機敏な動作で地下鉄のホームへ向かって移動を始めた。
(拓弥君…。どうか無事でいてね。)
◇◇◇
しばらく待っていると、担架に乗せられている拓弥君の姿がそこにあった。
「拓弥君!」
彼は、既に意識を失っているようで、私の声に反応することはなかった。
さっきまで話をしていたことを思うと、心が悲しみで張り裂けそうな気持ちになる。
「急いで!」「はい!」
救急隊員の方は、搬送の準備に忙しそうだ。
「彼女さん…ですか?」
「えっ…と、友人です。」
隊員さんに彼女であるか質問されて一瞬戸惑ってしまう。
肯定するか、否定するかを迷った結果、結局否定を選んだ。
「失礼しました。彼の付き添いもそうなのですが、あなたも重症だと思いますので、どうぞ乗ってください。」
「わかりました。お願いします。」
私も救急車に乗り込み、彼の搬送先の病院に同行することになったのであった…。
地下鉄の出入口に立ち、そこから外の様子を見回した。
ビルが建ち並ぶ見知った景色である。
しかし、地震の影響なのか、道路には車の存在が乏しく、路上を歩く人々も極わずかで非常に閑散とした雰囲気が漂っていた。
ビルや商店などの一部には、壁が崩れ落ちていたり、看板が落下していたりした。
道路にいたっては、隆起している箇所があったり、逆に陥没していたりと、これらを見る限りでも地震の爪痕が残されているのを知ったのである。
私の目の前を中年男性が通りかかる。
私は勇気を振り絞って声を掛けることにした。
「すみません、友人が大変なんです。どうか助けてください。」
「ごめんね、急いでいるから…。」
男性は、少々困ったような顔をみせながら走り去ってしまった。
(時間がないわ。救急車を呼ばなくては…。)
私は、手元にあるスマートフォンの画面を確認する。
外に出た為なのか、あるいは通信トラブルが解消された為なのかは不明だが、電波状況が改善されているようだ。
私は即座に、救急車を呼ぶための緊急通報番号である「119」番に電話をかけることにした。
「どうされました?」
電話の向こうから女性の声が届く。
消防局のオペレーターの方のようだ。無事繋がったことにひとまず安堵する。
「友人が倒れてしまっていて大変なんです。すぐに助けが必要です。お願いします。」
「お気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください。事情を順を追ってお伺いいたしますのでね。」
「あっ、はい。すみません。」
消防局の方に指摘をいただいた通り、私はパニックに陥っていたようだ。
このままでは必要な情報が相手に伝わらず、かえって時間を浪費してしまうかもしれないと悟った。
私は、一度大きく深呼吸をしてからオペレーターの方の質問に答えていく。
現在地や、拓弥君の情報。
そして、彼の容態。地震発生時や、その後の状況なども詳しく説明した。
救急要請は、地震の影響で早朝でありながらもパンク状態であるらしい。
待ち時間は30分から1時間とのことだ。
しかしながら、拓弥君の状態は非常に危険であるため、即座に駆けつけて貰えることになった。
救急車を待っている間、私は拓弥君の安否が気になって仕方がなかったが、私自身も足の状態が限界に達しており、立つことさえも躊躇われるほどであった。
10分程待った所で救急車は到着した。
「連絡して下さった方ですか?」
「はい、そうです…。」
「患者様のサノタクヤさんはどちらに?」
「地下鉄のホームにいます。」
「では、ご同行をお願いしても?」
「いえ、行きたいのですが、足がこの状況でもう動けません。」
私の足首の様子を隊員に見せる。
私も実際に見て驚いたのだが、昨日の腫れより1.5倍は膨らんでおり、黒紫色に変色を起こしていた。
「ああ…。確かにこれは酷いですね。わかりました。あなたはここでお待ちください。」
四名いる隊員さん達は機敏な動作で地下鉄のホームへ向かって移動を始めた。
(拓弥君…。どうか無事でいてね。)
◇◇◇
しばらく待っていると、担架に乗せられている拓弥君の姿がそこにあった。
「拓弥君!」
彼は、既に意識を失っているようで、私の声に反応することはなかった。
さっきまで話をしていたことを思うと、心が悲しみで張り裂けそうな気持ちになる。
「急いで!」「はい!」
救急隊員の方は、搬送の準備に忙しそうだ。
「彼女さん…ですか?」
「えっ…と、友人です。」
隊員さんに彼女であるか質問されて一瞬戸惑ってしまう。
肯定するか、否定するかを迷った結果、結局否定を選んだ。
「失礼しました。彼の付き添いもそうなのですが、あなたも重症だと思いますので、どうぞ乗ってください。」
「わかりました。お願いします。」
私も救急車に乗り込み、彼の搬送先の病院に同行することになったのであった…。
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