あなたと歩む未来を取り戻したい。

飛燕 つばさ

文字の大きさ
14 / 51
第一章 恋愛編

第14話 夢か現実か

しおりを挟む
◇ 拓弥 ◇

 俺は、不思議な夢を見ていた。

 自分自身を客観的に眺めているかのような、現実と非現実が混ざり合った夢だった。

 俺と真由は、地下鉄の線路を移動していた。

 俺は真由の足が負傷した状態だった為に、背負って歩いていた。

 仮眠を取るより前までは感じなかった頭痛が、目覚めた時より徐々に強く感じるようになっていた。

 俺は頭痛体質で、いつも頭痛薬を持ち歩いていたが、今回はこれまでとは違う痛みに感じられていた。

(頭の中で何が起こっているのだろう?崩落した際に強く頭を打ったのが原因かもしれない…。)

 俺は異変に気づきながらも、真由を助けるために進み続けた。

 真由の足は、彼女には伝えていないが、恐らくは折れてしまっているのだと思う。

 だから、彼女には適切な治療を早急に受けさせなければならない。

 俺がここで諦めていたら、真由に心配をかけるだけでなく、脱出にも時間がかかり、状況はますます悪化するだろう。

 俺は、再び気を引き締めて、ゆっくりとだが着実に前へ進んでいった。

 俺は、真由と話をしながら歩いている。

 真由と話すことで、気分が晴れやかになり、身体の不調に心を奪われることを忘れられるからだ。

 身体の不調とは、頭痛と右手と右足の違和感である。

 少し力が入りにくく、自由に動かしにくい感覚があったのだ。

 それでも止まることなく歩き続けた。

 真由には、俺を見て情けない男だと思われたくなかったし、俺のことを昔のように頼って欲しいから…。

 先の方に明かりが見えた。

 あれは、地下鉄のホームかもしれない。

 神様は、俺の期待を裏切らなかった。

 遂に地下鉄のホームの地点に到達した。

 額の汗を拭き、ホームに上がることを決心した。

 ホームの床に手をついて上がった時、身体が揺れるような感覚を覚え、軽い目眩が起こったことに気づいた。

 真由に気付かれないように、平静を装いつつ、俺は真由を引き上げようと手を伸ばした。

 右手はかなり鈍感になっていたが、左手にはまだ力が残っていた。

 力を一気に込め、真由を引き上げた。再び目眩を覚えたが、何とか耐え忍んだのである。

「電気がついているということは、停電が解消されたのかしら?」

「そうかもしれないね。でも、予備電源が起動した可能性もあるよ。」

 真由の言葉に返事をした直後に、急激な異変が俺を襲った。

 全身から血の気が引き、吐き気や激しい脱力感が襲いかかってきた。

 感覚的にもう一歩も歩けないことを悟り、俺は崩れ落ちそうになった。

(もう、これ以上動けない……。気力を振り絞っても無駄だ。真由は、俺のことを気にかけて背負ってでも、二人で脱出する道を選ぶだろう。しかし、真由の安全を考えたら、俺を置いて少しでも早く脱出することが最善策だ。)

「あっ、拓弥君!?大丈夫?顔色が悪いわよ。」

 俺の異変に気づいた真由は、俺の傍まで移動し、崩れ落ちた俺の身体を支えた。

 その優しい手つきは、俺の心を癒してくれるような感覚をもたらした。

 だが、これ以上、体調のことを隠し通すことが難しいと判断した俺は、真由に正直に打ち明けることにした。

 彼女がそばにいる中、自分自身を偽り続けることはもうできなかった。 

「真由、すまない。何か体調に異常が生じているみたいだ。悪いけど、ここからは、一人で上を目指してくれないか…。」

「嫌よ。ここまで頑張ったんだから、最後まで一緒に頑張ろう。」

「ごめん。男らしく最後まで真由をエスコートして助けたかったけど、俺はもうここまでみたいだ。身体がいうことを聞かなくなっているんだ。もう歩くのが難しい。真由の安全が何よりも大切だ!もちろん、俺にとっても…。だから行って!」
 
「拓弥君…。」

 真由は、大粒の涙をこぼしながら、俺の瞳をじっと見つめていた。

 俺は自由が効かなくなっていく中、真由を安心させたいと必死に笑顔を作った。

「拓弥君!私、急いで助けを呼んでくるわ!私を信じて待っていてね。」 

「わかったよ。待っているよ。もし、俺が助かったなら、昔のように真由の手料理を食べさせてくれないか。」

「わかったわ。絶対に諦めないで待っててね。そしたら、ご褒美にご馳走するわ。」 

 真由は、痛々しい表情を浮かべながら、エスカレーターに向かって歩き出した。

 彼女が一人で歩いている姿を見て、心が打たれた。

 彼女の足取りは、まるで踏み出すたびに地面にしがみつくような、力の入ったものだった。

 顔に浮かぶ苦痛を押し殺し、彼女は前へ前へと進もうとしていた。

 その姿を目撃した瞬間、胸中に思いがめぐる。

「相当痛いだろうに…。ごめんな。最後まで一緒に行けなくて。頑張れよ、真由。」

 俺は、体調が悪いことよりも、情けない自分の姿を真由に晒したことや、もしかしたら、このまま死んでしまい、もう真由に逢えなくなってしまうことが辛くて涙が込み上げてくる。

 真由の姿は、徐々に小さくなっていく。

 彼女は振り返り、こちらに手を振っていた。

 俺は最後の力を振り絞り、手を振り返した。

 その後、身体の力が抜け、俺は遂に床に倒れ込んだ。

 再び顔を上げると、真由の姿は確認できなくなっていた。

 薄れゆく意識の中、真由の顔を思い浮かべる。

「真由…ごめ…。」

 このシーンを見届けると、俺の奇妙な夢は終わりを告げたのであった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...