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第一章 恋愛編
第24話 退院のお祝い(後編)
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「真由ちゃん、一体どういうことかな?何故彼女さんは、帰ってしまったんだい?」
「ごめんなさい。こんな終わり方になってしまって…。恵美さんと新田さんが御手洗に向かっいる間に、拓弥君と二人で話をしていたんだけど、彼女はそれが気に入らなかったみたい。」
「その程度のことで…。わからないな。他にも理由があるんじゃないのかい?」
「そう…ですね…。恵美さん。私と拓弥君が大学時代にお付き合いしていたのを知っていたみたいだから…。」
「真由ちゃん、それは本当かい?俺は初耳なんだけど…。」
「ごめんなさい。」
「あっ、いや。責めている訳じゃないよ。そうか、それならいい気分はしないかもね。」
「はい…。」
「とりあえず、片付けて帰ろうか。」
(新田さん。きっと私と拓弥君の関係が気になったはずなのに、敢えて聞いて来なかったな。私は、もっと責められると思っていたのに…。)
新田さんは、私が気にしていることを察して、あまり深入りしないようにしているのだろう。
新田さんの優しさが胸に染みる。
それに引き換え私ときたら…。
拓弥君と私がお互いの気持ちを確かめ合ったことが、神罰のように思えた。
あの時、拓弥君が私に向ける思いが、変わることなくずっと続いていたことに、私は心から感激した。
しかし、二人きりで話していることにより、恵美さんを傷つけ、新田さんにも不快な思いを抱かせてしまったことは、深く反省すべきことだ。
私と新田さんは、ゴミを片付け、会計を済ませた後、一緒に帰宅する。
バスに揺られながらの帰り道、新田さんも元気がなく、私も彼に何か言葉をかけたい気持ちになったが、口に出すことができず、ただ外の景色をぼんやりと眺めるだけだった。
東京の夜景は、震災の影響でまだまだ暗く、完全復興には時間がかかりそうである。
そして、昔のような明るさを失った景色の中に、私たちの心もまた暗くなっているように感じたのであった…。
◇ 拓弥 ◇
「恵美!待てよ!」
「来ないで!」
「あんなに取り乱すなんて恵美らしくないよ。」
「私らしいって何よ!」
「いつも余裕があって、堂々としているじゃないか。今日の恵美は何かおかしいよ。ただ真由と話してただけじゃないか。」
「私は、あなたのことになると冷静じゃいられなくなるのよ。あなたと二人きりの様子を見て強い嫉妬心が芽生えたわ。本当は、真由さんに私たちのラブラブな所を見せつけたかったのに…。」
「何故、真由に拘るんだ?」
「言いたくない!」
「えっ!?」
「一つだけ言えるのは、私があの子をキライってことだけよ!」
「恵美…。」
恵美は、そのまま走り去ってしまった…。
追いかけようにも麻痺が邪魔をして走るどころか、素早く歩くことも儘ならなかった。
俺は、この現実の悔しさに唇を噛み締めた。
やがて、恵美の姿はなくなり、俺はその場に立ち尽くしていた…。
俺は、バーベキューの途中だったことを思い出し、一人再び会場に移動を始めた。
ギクシャクしてしまった後の移動は、心の中まで重く感じられ、尚更移動の足を鈍らせた。
先程真由から聞かされた俺への想いは、俺を歓喜の渦に包み込んでいたが、今や一気に海底まで真っ逆さまに落とされた気分となっていた。
先程の場所に、到着する。
そこには、真由や新田さんの姿はなく、片付けも済んでいたようだ。
スタッフが次の組の案内を始めていた。
どうやら、真由達にも迷惑を掛けてしまったようである。
再び俺は、足を進め始めた。
まるで誰かが付き添ってくれているような、そんな心地好い夜道も、今はただ寂しさが漂っている。
長い時間、友人たちと楽しいひと時を過ごしたが、最後は、気まずい幕引きとなってしまった。
真由や恵美には連絡を取ろうかと思ったが、今はまだ声を掛けられるようなタイミングではないと感じた。
深い夜の闇の中、ゆっくりと確かな足取りで一人帰ることにしたのであった。
鉄道が不通になっているため、往路と同じく路線バスに乗り込んだ。
車内は疎らで、外を眺めると暗闇に包まれた世界が広がっていた。
そこに自分の心とリンクするかのような感覚を覚えたのである。
◇◇◇
俺は、ついに自宅マンションに到着した。
バス停から徒歩で10分と聞いていたが、自分の身体の麻痺によって倍の時間が必要だった。
寒空の下、徒歩での移動によって汗をかくことは、ジム通いをしていた頃以来のことだった。
マンションの自室に入り、疲れた身体を浴室に運ぶと、ゆっくりと汗や埃を洗い流すことができた。
日中に感じた喜怒哀楽という様々な感情が、この一日には詰まっていた。
浴槽に湯をため、身体を浸した。
そこに沈むことで、心の疲労も身体の疲労も解放される感覚が生まれたのであった。
《ガラガラ…。》
突如、浴室の扉が開いた音が響いた。
裸体の恵美の姿がそこにあった。
彼女は何も言わずに湯船に入り、俺に跨ってキスをした。
「拓弥は、誰にも渡さないわ。」
彼女とともに、様々な感情が交錯する夜が過ぎていった。
「ごめんなさい。こんな終わり方になってしまって…。恵美さんと新田さんが御手洗に向かっいる間に、拓弥君と二人で話をしていたんだけど、彼女はそれが気に入らなかったみたい。」
「その程度のことで…。わからないな。他にも理由があるんじゃないのかい?」
「そう…ですね…。恵美さん。私と拓弥君が大学時代にお付き合いしていたのを知っていたみたいだから…。」
「真由ちゃん、それは本当かい?俺は初耳なんだけど…。」
「ごめんなさい。」
「あっ、いや。責めている訳じゃないよ。そうか、それならいい気分はしないかもね。」
「はい…。」
「とりあえず、片付けて帰ろうか。」
(新田さん。きっと私と拓弥君の関係が気になったはずなのに、敢えて聞いて来なかったな。私は、もっと責められると思っていたのに…。)
新田さんは、私が気にしていることを察して、あまり深入りしないようにしているのだろう。
新田さんの優しさが胸に染みる。
それに引き換え私ときたら…。
拓弥君と私がお互いの気持ちを確かめ合ったことが、神罰のように思えた。
あの時、拓弥君が私に向ける思いが、変わることなくずっと続いていたことに、私は心から感激した。
しかし、二人きりで話していることにより、恵美さんを傷つけ、新田さんにも不快な思いを抱かせてしまったことは、深く反省すべきことだ。
私と新田さんは、ゴミを片付け、会計を済ませた後、一緒に帰宅する。
バスに揺られながらの帰り道、新田さんも元気がなく、私も彼に何か言葉をかけたい気持ちになったが、口に出すことができず、ただ外の景色をぼんやりと眺めるだけだった。
東京の夜景は、震災の影響でまだまだ暗く、完全復興には時間がかかりそうである。
そして、昔のような明るさを失った景色の中に、私たちの心もまた暗くなっているように感じたのであった…。
◇ 拓弥 ◇
「恵美!待てよ!」
「来ないで!」
「あんなに取り乱すなんて恵美らしくないよ。」
「私らしいって何よ!」
「いつも余裕があって、堂々としているじゃないか。今日の恵美は何かおかしいよ。ただ真由と話してただけじゃないか。」
「私は、あなたのことになると冷静じゃいられなくなるのよ。あなたと二人きりの様子を見て強い嫉妬心が芽生えたわ。本当は、真由さんに私たちのラブラブな所を見せつけたかったのに…。」
「何故、真由に拘るんだ?」
「言いたくない!」
「えっ!?」
「一つだけ言えるのは、私があの子をキライってことだけよ!」
「恵美…。」
恵美は、そのまま走り去ってしまった…。
追いかけようにも麻痺が邪魔をして走るどころか、素早く歩くことも儘ならなかった。
俺は、この現実の悔しさに唇を噛み締めた。
やがて、恵美の姿はなくなり、俺はその場に立ち尽くしていた…。
俺は、バーベキューの途中だったことを思い出し、一人再び会場に移動を始めた。
ギクシャクしてしまった後の移動は、心の中まで重く感じられ、尚更移動の足を鈍らせた。
先程真由から聞かされた俺への想いは、俺を歓喜の渦に包み込んでいたが、今や一気に海底まで真っ逆さまに落とされた気分となっていた。
先程の場所に、到着する。
そこには、真由や新田さんの姿はなく、片付けも済んでいたようだ。
スタッフが次の組の案内を始めていた。
どうやら、真由達にも迷惑を掛けてしまったようである。
再び俺は、足を進め始めた。
まるで誰かが付き添ってくれているような、そんな心地好い夜道も、今はただ寂しさが漂っている。
長い時間、友人たちと楽しいひと時を過ごしたが、最後は、気まずい幕引きとなってしまった。
真由や恵美には連絡を取ろうかと思ったが、今はまだ声を掛けられるようなタイミングではないと感じた。
深い夜の闇の中、ゆっくりと確かな足取りで一人帰ることにしたのであった。
鉄道が不通になっているため、往路と同じく路線バスに乗り込んだ。
車内は疎らで、外を眺めると暗闇に包まれた世界が広がっていた。
そこに自分の心とリンクするかのような感覚を覚えたのである。
◇◇◇
俺は、ついに自宅マンションに到着した。
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寒空の下、徒歩での移動によって汗をかくことは、ジム通いをしていた頃以来のことだった。
マンションの自室に入り、疲れた身体を浴室に運ぶと、ゆっくりと汗や埃を洗い流すことができた。
日中に感じた喜怒哀楽という様々な感情が、この一日には詰まっていた。
浴槽に湯をため、身体を浸した。
そこに沈むことで、心の疲労も身体の疲労も解放される感覚が生まれたのであった。
《ガラガラ…。》
突如、浴室の扉が開いた音が響いた。
裸体の恵美の姿がそこにあった。
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彼女とともに、様々な感情が交錯する夜が過ぎていった。
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