29 / 51
第一章 恋愛編
第29話 恵美の真実
しおりを挟む
◇ 拓弥 ◇
病院の後、再び営業の業務に戻り、会社に戻る。
事務所の通路を通過して営業部室へ移動する。
すると、俺の帰りに気づいた恵美が声を掛けてきた。
「拓弥、お帰りなさい。今日の営業はどうだった?」
明るい笑顔での声掛けに、佐々木恵美との違いを改めて感じてしまう。
大学時代の恵美とは友人として交流していたが、真由や今の恵美のような柔らかい雰囲気は全く無かったことを思い出す。
「ただいま。なかなか好感触だったよ。あのさ、恵美。今日は、外で何か買って家で食べないか?」
「ええ。いいわよ。後30分で上がりだから一緒に帰ろう。」
「わかった。」
お互い業務に戻って残りの仕事をこなして、時間を合わせてから一緒に帰る。
晩御飯は、デパ地下のお弁当を購入して、二人で俺のマンションを目指した。
「拓弥の部屋で食事は久しぶりね。何かあったの?」
「ああ、ちょっとね。」
バスで15分程揺られると、マンションの近くのバス停に到着した。
◇ 自宅マンション ◇
テーブルに二人の弁当を並べて置く。
俺は、二人分のコップと冷蔵庫からお茶を取り出して準備する。
コップは、恵美が買ってくれた色違いでお揃いのコップである。
「じゃあ、食べようか。」
「うん。いただきます。」
改めて恵美を見る。
美しい外見や仕草、そして恵美自身が放つ雰囲気…。
大学の頃の恵美とは全く別人のようである。
「ん?どうかしたの?」
「いや…。」
俺は今日、恵美に全てを話すつもりだ。
大学時代のことも、佐々木先生と話したことも…。
俺たちは、今日の職場での出来事を話しながら、いつも通りに食事を続けている。
やはり、恵美は職場で知り合った時から、優しく、穏やかな雰囲気を放っており、あんなことをした人物とは到底思えなかった。
(このことを話せば俺たちの関係は確実に終わる…。本当に言うべきことなのだろうか?佐々木恵美はともかく、宮原恵美としての彼女は、俺にとって決して悪い相手では無かった。)
本当に話して良いのだろうか。
この期に及んで迷い始める…。
そんな優柔不断な自分が情けなくなる。
しかし、直ぐに真由の顔が思い浮かんだ。
優しく、穏やかで、俺のことを最も理解し、支え続けてくれた女性である。
真由とのの思い出が今脳裏に過ぎっていく。
俺は、決心した。箸を置いて恵美を見据えて口を開いた…。
「恵美、あのさ…。」
恵美の真っ直ぐで優しい視線が俺を捉えている。
「ん?何?」
「恵美は、宮原恵美で佐々木恵美なんだろ?」
「えっ!?拓弥…何を言っているの?」
恵美は、俺の突然の発言に目を見開き、明らかに動揺した様子を見せていた。
「佐々木恵美は、大学時代に華香と結託して俺を陥れ、有りもしない浮気情報を与えて俺と真由を別れさせた。」
「拓弥!何のことかな?変な話しないでよ!」
「俺は、あの時から三年間。何も知らないまま過ごして来たんだな。」
「拓弥!もう止めて!私はそんな話したくない!」
「恵美。これは大事な話なんだ。だから包み隠さず本当のことを話して欲しい。君は、あの佐々木先生の娘なんだろ?」
「ち、違うわよ!あの時先生も言っていたじゃない?私達は、親子ではないわ。親戚なのよ。」
「佐々木先生が恵美を娘だと認めたよ…。」
「嘘よ!そんなめちゃくちゃな話。私は、あの人の娘なんかじゃないわ。」
「これを聞いてもそう言える?」
俺は、佐々木先生に許可を頂き、病院でのやり取りを保存した音声を再生した。
佐々木先生自らが恵美に関して語っている内容が耳に届いてくる。
「酷いわ!こんなのって…。」
恵美は、涙を流して嘆き始める。
「全部知られてしまったから言うけど、私だってあなたに振り向いてもらう為に必死に頑張っていたのよ。外見を美しくする為に、わざわざ韓国に渡って整形手術して、メイク技術も学んだ。就職が中途採用になったのは、半年間韓国に行っていた為よ。性格だってあなたに気に入られるように真由さんを参考に研究して、ずっと装って生きていたの。」
(なるほど…何となく真由に雰囲気が似ていたのはその為か…。)
「恵美の頑張りは認めるけど、陰湿な手段を使って俺たちを無理やり引き裂いたのは許せないし、真由を装っていたなら、俺が付き合っていたのは一体誰だったんだ?恵美だって真由を真似して無理して生活していくのは大変だっただろう…。きっと、恵美のやり方は間違っていたのだと思うよ。さあ、音声にはまだ続きがあるんだ。」
続きの音声を再生する。
それは、佐々木先生が恵美に宛てて残した言葉であった。その内容は…。
『恵美ちゃん。パパは、恵美ちゃんのお願いを守ってあげられなくてごめんね。佐野さんと話をした上でそう判断したんだよ。恵美ちゃんがしたことは、愛し合う恋人の仲を無理やり引き裂き、自分の利益の為に二人の未来を狂わせてしまう非道なやり方だった様に思う。恵美ちゃんが彼を想う気持ちはきっと本物だろうし、疑う余地もない。好きな人に振り向いて貰うために必死に頑張ることは、素晴らしいことだと思う。しかし、アプローチの仕方を間違えていたんだ。恵美ちゃんには、幸せになって欲しい。歪んだ偽物の恋愛ではなく、お互いが尊重しあい、惹かれ合うような、真実の愛が恵美ちゃんに訪れることを祈っています。』
ここで音声は、途絶えた。
佐々木先生の言葉は、とても優しく、恵美を諭すような内容だった。
恵美も父の言葉に心打たれたようで、ポロポロと涙を流していた。
「私が間違っていたようね。でも、あなたを想う気持ちは本当よ。私、まだあなたを諦めたくない!」
「恵美、ごめん。俺の気持ちはもう…。」
「それ以上は言わないで!まだ受け入れられないから…。」
恵美は、そう言うと足早に部屋から立ち去ってしまったのであった…。
「恵美…。」
病院の後、再び営業の業務に戻り、会社に戻る。
事務所の通路を通過して営業部室へ移動する。
すると、俺の帰りに気づいた恵美が声を掛けてきた。
「拓弥、お帰りなさい。今日の営業はどうだった?」
明るい笑顔での声掛けに、佐々木恵美との違いを改めて感じてしまう。
大学時代の恵美とは友人として交流していたが、真由や今の恵美のような柔らかい雰囲気は全く無かったことを思い出す。
「ただいま。なかなか好感触だったよ。あのさ、恵美。今日は、外で何か買って家で食べないか?」
「ええ。いいわよ。後30分で上がりだから一緒に帰ろう。」
「わかった。」
お互い業務に戻って残りの仕事をこなして、時間を合わせてから一緒に帰る。
晩御飯は、デパ地下のお弁当を購入して、二人で俺のマンションを目指した。
「拓弥の部屋で食事は久しぶりね。何かあったの?」
「ああ、ちょっとね。」
バスで15分程揺られると、マンションの近くのバス停に到着した。
◇ 自宅マンション ◇
テーブルに二人の弁当を並べて置く。
俺は、二人分のコップと冷蔵庫からお茶を取り出して準備する。
コップは、恵美が買ってくれた色違いでお揃いのコップである。
「じゃあ、食べようか。」
「うん。いただきます。」
改めて恵美を見る。
美しい外見や仕草、そして恵美自身が放つ雰囲気…。
大学の頃の恵美とは全く別人のようである。
「ん?どうかしたの?」
「いや…。」
俺は今日、恵美に全てを話すつもりだ。
大学時代のことも、佐々木先生と話したことも…。
俺たちは、今日の職場での出来事を話しながら、いつも通りに食事を続けている。
やはり、恵美は職場で知り合った時から、優しく、穏やかな雰囲気を放っており、あんなことをした人物とは到底思えなかった。
(このことを話せば俺たちの関係は確実に終わる…。本当に言うべきことなのだろうか?佐々木恵美はともかく、宮原恵美としての彼女は、俺にとって決して悪い相手では無かった。)
本当に話して良いのだろうか。
この期に及んで迷い始める…。
そんな優柔不断な自分が情けなくなる。
しかし、直ぐに真由の顔が思い浮かんだ。
優しく、穏やかで、俺のことを最も理解し、支え続けてくれた女性である。
真由とのの思い出が今脳裏に過ぎっていく。
俺は、決心した。箸を置いて恵美を見据えて口を開いた…。
「恵美、あのさ…。」
恵美の真っ直ぐで優しい視線が俺を捉えている。
「ん?何?」
「恵美は、宮原恵美で佐々木恵美なんだろ?」
「えっ!?拓弥…何を言っているの?」
恵美は、俺の突然の発言に目を見開き、明らかに動揺した様子を見せていた。
「佐々木恵美は、大学時代に華香と結託して俺を陥れ、有りもしない浮気情報を与えて俺と真由を別れさせた。」
「拓弥!何のことかな?変な話しないでよ!」
「俺は、あの時から三年間。何も知らないまま過ごして来たんだな。」
「拓弥!もう止めて!私はそんな話したくない!」
「恵美。これは大事な話なんだ。だから包み隠さず本当のことを話して欲しい。君は、あの佐々木先生の娘なんだろ?」
「ち、違うわよ!あの時先生も言っていたじゃない?私達は、親子ではないわ。親戚なのよ。」
「佐々木先生が恵美を娘だと認めたよ…。」
「嘘よ!そんなめちゃくちゃな話。私は、あの人の娘なんかじゃないわ。」
「これを聞いてもそう言える?」
俺は、佐々木先生に許可を頂き、病院でのやり取りを保存した音声を再生した。
佐々木先生自らが恵美に関して語っている内容が耳に届いてくる。
「酷いわ!こんなのって…。」
恵美は、涙を流して嘆き始める。
「全部知られてしまったから言うけど、私だってあなたに振り向いてもらう為に必死に頑張っていたのよ。外見を美しくする為に、わざわざ韓国に渡って整形手術して、メイク技術も学んだ。就職が中途採用になったのは、半年間韓国に行っていた為よ。性格だってあなたに気に入られるように真由さんを参考に研究して、ずっと装って生きていたの。」
(なるほど…何となく真由に雰囲気が似ていたのはその為か…。)
「恵美の頑張りは認めるけど、陰湿な手段を使って俺たちを無理やり引き裂いたのは許せないし、真由を装っていたなら、俺が付き合っていたのは一体誰だったんだ?恵美だって真由を真似して無理して生活していくのは大変だっただろう…。きっと、恵美のやり方は間違っていたのだと思うよ。さあ、音声にはまだ続きがあるんだ。」
続きの音声を再生する。
それは、佐々木先生が恵美に宛てて残した言葉であった。その内容は…。
『恵美ちゃん。パパは、恵美ちゃんのお願いを守ってあげられなくてごめんね。佐野さんと話をした上でそう判断したんだよ。恵美ちゃんがしたことは、愛し合う恋人の仲を無理やり引き裂き、自分の利益の為に二人の未来を狂わせてしまう非道なやり方だった様に思う。恵美ちゃんが彼を想う気持ちはきっと本物だろうし、疑う余地もない。好きな人に振り向いて貰うために必死に頑張ることは、素晴らしいことだと思う。しかし、アプローチの仕方を間違えていたんだ。恵美ちゃんには、幸せになって欲しい。歪んだ偽物の恋愛ではなく、お互いが尊重しあい、惹かれ合うような、真実の愛が恵美ちゃんに訪れることを祈っています。』
ここで音声は、途絶えた。
佐々木先生の言葉は、とても優しく、恵美を諭すような内容だった。
恵美も父の言葉に心打たれたようで、ポロポロと涙を流していた。
「私が間違っていたようね。でも、あなたを想う気持ちは本当よ。私、まだあなたを諦めたくない!」
「恵美、ごめん。俺の気持ちはもう…。」
「それ以上は言わないで!まだ受け入れられないから…。」
恵美は、そう言うと足早に部屋から立ち去ってしまったのであった…。
「恵美…。」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる