あなたと歩む未来を取り戻したい。

飛燕 つばさ

文字の大きさ
33 / 51
第一章 恋愛編

第33話 クリスマスイブ(後編)

しおりを挟む
 私たちはクリスマスイブの夜、新田さんのお誘いで天ぷらの名店で贅沢なご馳走を堪能した後、夜景の美しいスポットである夕涼みの丘公園に足を運んでいた。

 背景に広がる美しい夜景に誘われ、私は新田さんに促されて、大学時代に拓弥君とお付き合いしていたことや、彼に抱く想いについて語ることにした。

「そうだったんだね。俺も真由ちゃんの心境の変化には気づいていたんだ。でも、真由ちゃんからの愛情を佐野君から勝ち取ることが出来なかった…。」

「俺は、真由ちゃんを幸せにしたかった。真由ちゃんの笑顔を守りたかったんだ。でも、俺では役不足だと気づいてしまったんだよ。だから…俺は、俺の愛する真由ちゃんの笑顔を守る為に、後のことを彼に任せることにしたんだ。」
 
「おーい!」

「えっ!?新田さん、どういうことですか?」

 暗がりから姿を現したのは、拓弥君だったのだ…。

「やあ。真由。」

「拓弥君!?どうして?」

「新田さんにお願いされてね。ここで二人が来るのを待っていたんだ。」

「意味がわからないわ。何故こんなこと…。」

「ごめんね、真由ちゃん。俺が佐野君に頼んで来て貰ったんだよ。実は、俺からも話があるからどうか聞いて欲しい。」

「俺は、真由ちゃんと付き合い始めてから、いや、初めて会った時から、真由ちゃんのことをずっと見て来たんだ。真由ちゃんは、俺のおかしな話にもいつも笑顔で応えてくれたよね。俺は、その笑顔に何度癒され、助けられたことだろう。でも、その笑顔の奥には、心から笑えないような何かがあるように見えていたんだ。」

「真由ちゃんは、俺が結構について話した時も困ったような顔をしていたよね。後々考えると、真由ちゃんはあの時、心の何処かで佐野君を待っていたかったのかも知れないと気づいたんだ。」

「えっ、そんな…。」

 新田さんの言葉でこれまでのことを思い返す。

 新田さんの指摘は的を得ていると感じながらも、同時に私が思いもよらず彼を傷つけてしまったのではないかという思いに駆られ、胸が痛んだ。

「そして、先日のバーベキューでは、二人きりになった真由ちゃんと佐野君の様子を見たんだ。二人は、とても自然な雰囲気で笑顔で話していた。俺はあの時、心の底から笑う真由ちゃんの笑顔を初めて見たよ。俺には真由ちゃんをあんな笑顔にはしてやれないなと思ったよ。悔しいけど、真由ちゃんを幸せにできるのは、俺よりも佐野君だと悟ったんだ。」

「新田さん……」

 私は新田さんの言葉に涙がこみ上げてきた。

 拓弥君への気持ちを新田さんに話していなかったはずなのに、新田さんは私の心情を見抜いていたのだ。

 そして、自分のことよりも私の幸せを優先して、自らが身を引くことを告げてきたのである。

「ごめんなさい…。」

 私は、涙が零れ落ちるのを気にも留めず、ただ謝罪の言葉を口にした。

 しかし、その先の言葉は詰まってしまい、心からの感謝と申し訳なさを新田さんに伝えきれずにいた。

 新田さんが私にとって如何に大切な存在であり、そして彼が自分の幸せを犠牲にしてでも私を手放そうとするその姿勢に、私は深い感動を覚えた。

 気づけば新田さんも涙を浮かべていた。

 私が彼と知り合ってから初めて見た涙であった…。 

「大丈夫!俺はこれから、真由ちゃんと佐野君の友人として陰ながら二人を見守ろうと思う。困ったことがあれば手助けするから…。」

「新田さん。本当にごめんなさい。でも、ありがとうございます。」 

「いいんだ。さあ、佐野君がお待ちかねだ。行ってやって!」

「はい!」

 新田さんは私の背中を押して、彼の元に誘導してくれた。

 そして、少し離れた位置から私達を様子を見守っていてくれた。

 私は拓弥君と向かい合った。

「真由。突然来てしまってごめんね。」

「ううん。会えて嬉しいよ。」

「俺もだよ。大学時代に二人で話した未来の約束。まだ覚えてる?」

「もちろん。二人で何度も話していたわね。」

「真由と想い描いた未来は、俺が誤解したせいで壊れてしまった…。でも、真実がわかった今、真由さえ良ければ、その約束を三年ぶりに実現しようと思っているんだ。」

「本当に?嬉しいけど、拓弥君には恵美さんがいるんじゃ…。」

「恵美には、佐々木先生からの話も伝えて、佐々木恵美と宮原恵美が同一人物であることも本人から確認が取れたよ。そして、俺はこれ以上交際を続けるつもりはないと伝えたんだ。」

「そうなんだ。じゃあ…」

「私は認めないわよ!」

 私と拓弥君は、突然会話に割って入った声に驚いた。

「えっ!?」「わっ!お前は…。」

 その声のする方に目を向けると、姿を現したのは恵美さんだったのであった…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...