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2話 再会
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「ほぅ…。君が冒険者パーティで戦士を務めていたとはな。」
レオさんの低く落ち着いた声には、微かな興味が滲んでいた。
「だが、余計なお世話かもしれんが、率直に言わせてもらおう。シルファ君、君は戦士には向いていないだろう。」
「おじさ…あ、レオさんもそう思いますか?」
私は苦笑交じりに返事をしたが、その裏側には諦めにも似た感情が隠れていた。
自分から戦士という役割を選んだわけではない。実際のところ、パーティのメンバーに半ば押し付けられた形で、その立場に追いやられたのだ。
「見たところ、君は腕力も体型も、力で敵を制するタイプではない。むしろ、身軽さと器用さが際立っている。いわゆる『シーフ』や『アサシン』のような役割が、君には合っていると思うがね。」
その言葉を聞いて思わず口を噤んだ。その理由も理論的で、納得せざるを得なかった。
レオさんと知り合ったのは、仲間に裏切られ、盗賊たちの餌食になりかけた私を助けてくれたことがきっかけだった。
今はそんな恩人とともに街道を歩き、彼を街まで案内している途中でのことだ。
「レオさんって、なんでも知ってますね!一体、何のお仕事をされているんですか?」
好奇心が高まり、思わず問うと、彼の歩みが僅かに止まった。
「ああ、ただのサラリーマ…。いや、普通の旅人だよ。」
微かに目を逸らす仕草が印象的で、これまでの冷静さとのギャップに驚きを覚える。
(仕事に何か問題でもあるのかな?)
「ところで、その服。すごく珍しいデザインですね。どこで手に入れたものなんですか?」
「やはり、そう思うかい?これは、私の住んでいた地域では一般的な仕事着なのだよ。おかしいかね?」
淡々と答える一方で、その口元には余裕のある微笑が浮かんでいた。
「少し…。でも、素敵だと思います。」
「ありがとう。このスーツには、防水、防汚、身体強化、各属性耐性、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、状態異常耐性などなど、色々と…。ん!?聞いていないことまでペラペラと語ってしまったな。すまない。私の言っている意味がわからなかっただろう?」
「あ!いえ…。何か凄ごそう…とは思う…。」
(正直、よくわからない…。)
彼との会話を続ける中、いくつかの事実が明らかになった。
彼は遠い異国「ニホン」からやってきたというが、その国の名を私は初めて耳にした。
それに25歳と聞けば驚きだ。どこか無邪気さと深遠な知性が同居するこの人物が、そんな若さとは。老けているという意味ではない。知識や経験が豊富で、実年齢より大人びているような印象だ。
彼は多くを語ろうとしないが、家族や恋人と離れ離れになり、この地に一人で来てからわずか一ヶ月ほどだという。
「家族や恋人に会えなくて寂しくないですか?」
「それは寂しいさ…。」
その時の彼の顔は、それまでの余裕や飄々とした態度とは異なり、まるで深い哀しみを隠しきれない表情に思えたのだった…。
── 国境の街ミッドワン ──
ついに、私の暮らす街に辿り着いた。
人口5000名程度の小規模な街ながら、王家の意向によって整然と美しい街並みが広がる。
しかしその一方で、個人の個性や自由は抑えられているのも事実だ。
門をくぐる際、私は冒険者カードを提示し問題なく通過したが、レオさんは身分証明がないことから足止めされていた。
(どうやってこれまで暮らしていたんだろう。この人、本当に謎が多いわ…。)
最終的に彼は冒険者として登録することを条件に入場を許された。これで、私の街に無事迎え入れることができる。
「レオさん。冒険者登録なんてしちゃって良かったんですか?」
彼は旅人と言っていたので、冒険者になることに抵抗があるのではと心配になった。
「ああ。構わないさ。私は人探しをしながら、宛のない旅をしているだけだ。それに、冒険者になれば旅に必要な路銀も稼げるのだろう?」
彼が前向きに捉えてくれていてホッとする。
(でも、人探しか…。やっぱり恋人かな?一体誰を探しているのかしら。)
私の好奇心が顔を覗かせる。
「それより、君こそどうなんだね?君を裏切った仲間たちなんだろう?顔を合わせるのが気まずいのではないのかね?」
「そう…ですけど、それより怒りの方が強いです。でも、仕返ししようにも私は弱いから…。」
そうだ。自分が弱いせいでパーティメンバーからも馬鹿にされ、こんな状況を招いたのは自覚している。
(私にもっと力があったら…。)
「何かあれば力になろうじゃないか。お節介じゃなければ…だがね。」
今度は眼鏡を釣り上げる仕草に、頼もしさを感じたのであった…。
── 冒険者ギルド ──
「シルファじゃない!どうしたの?あなた、盗賊に襲われて、みんなを救うために盾になったって…。」
冒険者ギルドの扉をくぐると、職員のサラが駆け寄ってきた。
レオさんの冒険者カードを作るために訪れたのだが、私を見つけた彼女の表情は驚きと安堵が入り混じっていた。
「サラ。彼、レオさんに助けてもらったのよ。それより、私がパーティを救うために盾になったですって?誰がそんなことを?」
「それは『アカシア』のみんなよ。」
その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。
(盾なんて綺麗事を!『捨て石』や『犠牲』の方がしっくりくるわ!)
私が言うならまだしも、あいつらがそんなふうに言う資格はない。
「サラ、聞いて。私はあいつらに捨てられたのよ!自分たちが助かるために、無理やりね。」
「嘘!?それってまさか…!」
サラの顔が青ざめる。
彼女が聞いていた話とはまるで違う内容に、動揺を隠せないようだった。
「ええ、裏切られたの。彼に助けてもらえなかったら、今頃私は…。」
私たちの声がギルドホールに響き渡り、周囲の冒険者たちがざわめき始める。そのざわめきに気づいた「アカシア」の面々が、ついにこちらへとやってきた。
「あれ?シルファじゃねぇか。」
「アンタ、生きてたんだ。」
「嘘!?なんでアンタが…。」
「マジかよ…。」
彼らの驚きと狼狽が露骨に表れている。私は彼らを睨みつけ、冷たい声で告げた。
「私があんな酷い目に遭ったのに、誰一人心配する言葉もないのね?そのまま死んでいた方が良かったかしら?」
皮肉を込めた言葉がホールに響き渡る。
彼らの顔が引きつり、周囲の冒険者たちの視線が一層鋭くなるのを感じた。
「ま、待て!そんなわけないだろ?」
「そ、そうよね。シルファのこと、ずっと心配だったのよ。」
「ああ。俺たち、お前に助けてもらったからよ。」
「私たち仲間でしょ?助かって嬉しいわよ。」
彼らの言葉は空々しく、表情は明らかに作り物だった。ホール中の注目を浴びる中で、彼らの罪が暴かれる恐怖が見え隠れしている。
「みなさん、これは大変なことですよ!」
サラが声を張り上げる。
「仲間を裏切って捨て石にするなんて、殺人と同じです!」
ホール内がざわめきに包まれる。
冒険者たちの視線が「アカシア」のメンバーに突き刺さる。
「違うんだ!」
「シルファ、違うよね?」
「何かの間違いだ!」
「シルファ、お願いよ!」
彼らは必死に弁解しようとするが、私は冷たく言い放った。
「無駄よ。私はアンタたち全員に裏切られた。蹴り飛ばされ、20人もの盗賊の中にたった一人放り込まれたこと、忘れないわ!」
その言葉に、彼らの顔が青ざめたが、やがて怒りに染まる。
「調子に乗るな!この無能が!よくも…お前なんか!」
逆上したミケラが剣を抜き、私に切りかかろうとした。私は為す術なく、抵抗することもできなかった。
《キーン!》
しかし、ミケラの剣が私を切り裂くことはなかった。 レオさんが金属製の篭手で受け止めたのだ。
「嘘!防がれた。アンタ…何者?」
ミケラが驚愕の表情を浮かべる。
「私かね?ただの旅人だ。」
レオさんは微笑みながら眼鏡を押し上げる仕草をすると、言葉を続けた。
「仲間というのは尊く、美しいものだ。不必要に傷つけたり、捨て駒にするものではない。君にも彼女の痛みを教えてやるとしよう。」
その表情には、どこか楽しげな雰囲気が漂っていた。
「はぁ?ちょ…ちょっと待って…。」
ミケラは動揺の色を隠せなくなっていた。
そんな彼女の必死の訴えを無視し、レオさんは一歩踏み込んで拳を振り抜いた。
『ズンッ!』
「ゴブッ…。」
ミケラは腹部を一撃され、その場に崩れ落ちた。レオさんは倒れ込む彼女を支え、そっと地面に寝かせる。
「まったく…こんな所で剣を抜くとは愚かな…。」
その動きは、まさに達人の技だった。彼の一撃は速すぎて、目で追うことすらできなかったのだった…。
レオさんの低く落ち着いた声には、微かな興味が滲んでいた。
「だが、余計なお世話かもしれんが、率直に言わせてもらおう。シルファ君、君は戦士には向いていないだろう。」
「おじさ…あ、レオさんもそう思いますか?」
私は苦笑交じりに返事をしたが、その裏側には諦めにも似た感情が隠れていた。
自分から戦士という役割を選んだわけではない。実際のところ、パーティのメンバーに半ば押し付けられた形で、その立場に追いやられたのだ。
「見たところ、君は腕力も体型も、力で敵を制するタイプではない。むしろ、身軽さと器用さが際立っている。いわゆる『シーフ』や『アサシン』のような役割が、君には合っていると思うがね。」
その言葉を聞いて思わず口を噤んだ。その理由も理論的で、納得せざるを得なかった。
レオさんと知り合ったのは、仲間に裏切られ、盗賊たちの餌食になりかけた私を助けてくれたことがきっかけだった。
今はそんな恩人とともに街道を歩き、彼を街まで案内している途中でのことだ。
「レオさんって、なんでも知ってますね!一体、何のお仕事をされているんですか?」
好奇心が高まり、思わず問うと、彼の歩みが僅かに止まった。
「ああ、ただのサラリーマ…。いや、普通の旅人だよ。」
微かに目を逸らす仕草が印象的で、これまでの冷静さとのギャップに驚きを覚える。
(仕事に何か問題でもあるのかな?)
「ところで、その服。すごく珍しいデザインですね。どこで手に入れたものなんですか?」
「やはり、そう思うかい?これは、私の住んでいた地域では一般的な仕事着なのだよ。おかしいかね?」
淡々と答える一方で、その口元には余裕のある微笑が浮かんでいた。
「少し…。でも、素敵だと思います。」
「ありがとう。このスーツには、防水、防汚、身体強化、各属性耐性、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、状態異常耐性などなど、色々と…。ん!?聞いていないことまでペラペラと語ってしまったな。すまない。私の言っている意味がわからなかっただろう?」
「あ!いえ…。何か凄ごそう…とは思う…。」
(正直、よくわからない…。)
彼との会話を続ける中、いくつかの事実が明らかになった。
彼は遠い異国「ニホン」からやってきたというが、その国の名を私は初めて耳にした。
それに25歳と聞けば驚きだ。どこか無邪気さと深遠な知性が同居するこの人物が、そんな若さとは。老けているという意味ではない。知識や経験が豊富で、実年齢より大人びているような印象だ。
彼は多くを語ろうとしないが、家族や恋人と離れ離れになり、この地に一人で来てからわずか一ヶ月ほどだという。
「家族や恋人に会えなくて寂しくないですか?」
「それは寂しいさ…。」
その時の彼の顔は、それまでの余裕や飄々とした態度とは異なり、まるで深い哀しみを隠しきれない表情に思えたのだった…。
── 国境の街ミッドワン ──
ついに、私の暮らす街に辿り着いた。
人口5000名程度の小規模な街ながら、王家の意向によって整然と美しい街並みが広がる。
しかしその一方で、個人の個性や自由は抑えられているのも事実だ。
門をくぐる際、私は冒険者カードを提示し問題なく通過したが、レオさんは身分証明がないことから足止めされていた。
(どうやってこれまで暮らしていたんだろう。この人、本当に謎が多いわ…。)
最終的に彼は冒険者として登録することを条件に入場を許された。これで、私の街に無事迎え入れることができる。
「レオさん。冒険者登録なんてしちゃって良かったんですか?」
彼は旅人と言っていたので、冒険者になることに抵抗があるのではと心配になった。
「ああ。構わないさ。私は人探しをしながら、宛のない旅をしているだけだ。それに、冒険者になれば旅に必要な路銀も稼げるのだろう?」
彼が前向きに捉えてくれていてホッとする。
(でも、人探しか…。やっぱり恋人かな?一体誰を探しているのかしら。)
私の好奇心が顔を覗かせる。
「それより、君こそどうなんだね?君を裏切った仲間たちなんだろう?顔を合わせるのが気まずいのではないのかね?」
「そう…ですけど、それより怒りの方が強いです。でも、仕返ししようにも私は弱いから…。」
そうだ。自分が弱いせいでパーティメンバーからも馬鹿にされ、こんな状況を招いたのは自覚している。
(私にもっと力があったら…。)
「何かあれば力になろうじゃないか。お節介じゃなければ…だがね。」
今度は眼鏡を釣り上げる仕草に、頼もしさを感じたのであった…。
── 冒険者ギルド ──
「シルファじゃない!どうしたの?あなた、盗賊に襲われて、みんなを救うために盾になったって…。」
冒険者ギルドの扉をくぐると、職員のサラが駆け寄ってきた。
レオさんの冒険者カードを作るために訪れたのだが、私を見つけた彼女の表情は驚きと安堵が入り混じっていた。
「サラ。彼、レオさんに助けてもらったのよ。それより、私がパーティを救うために盾になったですって?誰がそんなことを?」
「それは『アカシア』のみんなよ。」
その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。
(盾なんて綺麗事を!『捨て石』や『犠牲』の方がしっくりくるわ!)
私が言うならまだしも、あいつらがそんなふうに言う資格はない。
「サラ、聞いて。私はあいつらに捨てられたのよ!自分たちが助かるために、無理やりね。」
「嘘!?それってまさか…!」
サラの顔が青ざめる。
彼女が聞いていた話とはまるで違う内容に、動揺を隠せないようだった。
「ええ、裏切られたの。彼に助けてもらえなかったら、今頃私は…。」
私たちの声がギルドホールに響き渡り、周囲の冒険者たちがざわめき始める。そのざわめきに気づいた「アカシア」の面々が、ついにこちらへとやってきた。
「あれ?シルファじゃねぇか。」
「アンタ、生きてたんだ。」
「嘘!?なんでアンタが…。」
「マジかよ…。」
彼らの驚きと狼狽が露骨に表れている。私は彼らを睨みつけ、冷たい声で告げた。
「私があんな酷い目に遭ったのに、誰一人心配する言葉もないのね?そのまま死んでいた方が良かったかしら?」
皮肉を込めた言葉がホールに響き渡る。
彼らの顔が引きつり、周囲の冒険者たちの視線が一層鋭くなるのを感じた。
「ま、待て!そんなわけないだろ?」
「そ、そうよね。シルファのこと、ずっと心配だったのよ。」
「ああ。俺たち、お前に助けてもらったからよ。」
「私たち仲間でしょ?助かって嬉しいわよ。」
彼らの言葉は空々しく、表情は明らかに作り物だった。ホール中の注目を浴びる中で、彼らの罪が暴かれる恐怖が見え隠れしている。
「みなさん、これは大変なことですよ!」
サラが声を張り上げる。
「仲間を裏切って捨て石にするなんて、殺人と同じです!」
ホール内がざわめきに包まれる。
冒険者たちの視線が「アカシア」のメンバーに突き刺さる。
「違うんだ!」
「シルファ、違うよね?」
「何かの間違いだ!」
「シルファ、お願いよ!」
彼らは必死に弁解しようとするが、私は冷たく言い放った。
「無駄よ。私はアンタたち全員に裏切られた。蹴り飛ばされ、20人もの盗賊の中にたった一人放り込まれたこと、忘れないわ!」
その言葉に、彼らの顔が青ざめたが、やがて怒りに染まる。
「調子に乗るな!この無能が!よくも…お前なんか!」
逆上したミケラが剣を抜き、私に切りかかろうとした。私は為す術なく、抵抗することもできなかった。
《キーン!》
しかし、ミケラの剣が私を切り裂くことはなかった。 レオさんが金属製の篭手で受け止めたのだ。
「嘘!防がれた。アンタ…何者?」
ミケラが驚愕の表情を浮かべる。
「私かね?ただの旅人だ。」
レオさんは微笑みながら眼鏡を押し上げる仕草をすると、言葉を続けた。
「仲間というのは尊く、美しいものだ。不必要に傷つけたり、捨て駒にするものではない。君にも彼女の痛みを教えてやるとしよう。」
その表情には、どこか楽しげな雰囲気が漂っていた。
「はぁ?ちょ…ちょっと待って…。」
ミケラは動揺の色を隠せなくなっていた。
そんな彼女の必死の訴えを無視し、レオさんは一歩踏み込んで拳を振り抜いた。
『ズンッ!』
「ゴブッ…。」
ミケラは腹部を一撃され、その場に崩れ落ちた。レオさんは倒れ込む彼女を支え、そっと地面に寝かせる。
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