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15話 披瀝
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頬を刺す夜風の中、月明かりだけが静かに──けれど無情に、私の逃げ道を照らしていた。
銀色の光は、まるで私の心の奥まで見透かすように、足元に不気味な影を落とす。
理由なんてもう分からない。ただ、走っていた。
涙に濡れた頬を見られたくなくて。胸の中をぐるぐると渦巻く感情から、逃げ出したかった。
「シルファ君、待ってくれ!」
その声に、心が一瞬だけ揺らいだ。
でも、足は止められない。今の私を彼には見せたくなかった。
だけど、突然目の前に現れたレオさんの姿に、思わず立ち止まってしまう。
こんなときでも彼は反則的な力で私を見つけ出す。憎らしいほどに、私のすべてを見抜いてしまう。
「レオさん…放っておいてください!」
すれ違おうとしたその瞬間、彼の手が私の腕を掴んだ。強く、でもどこか震えているその手に、心がまた大きく揺れる。
「放っておけるわけがないだろう!」
その声が胸に響く。彼の目が真っすぐに私を見つめ、逃げ場を奪っていく。
「君は私にとって…大切なパートナーだ。傷つけてしまった君のことを、見過ごすなんてできない。」
その一言で、何かが崩れ落ちた。張りつめていた感情が、堰を切ったようにあふれてくる。
「知らなかったんだ。」
彼は目を伏せ、声を震わせながら続けた。
「この世界の習慣には疎くて…イヤリングを渡したとき、そこにそんな意味があるなんて、本当に知らなかったんだ。だけど、あの時君がそのアクセサリーを手に取ったときの嬉しそうな顔が…忘れられなくて。」
彼の言葉は真っ直ぐで、迷いがなかった。
ただの謝罪じゃない。そこに込められた思いが、痛いほど伝わってくる。
「君のことを想っていた。ただ、それが君を傷つける形になってしまったことが…本当に悔しい。」
私はもう涙を隠せなかった。彼の気持ちに応えたいのに、どうしても素直になれなかった自分が悔しい。
「私が…子供だったんです。」
声を震わせながら、彼の瞳を見つめる。
「本当はすごく嬉しかった。レオさんからもらえたことが、夢みたいで。でも、それが“特別”じゃないって気づいたら…耐えられなかった。」
それが、本音だった。
「シルファ君、本当にすまない。君の気持ちに気づけなくて…。でも、私は──」
「探している人は、恋人なんですよね?」
思わず遮ってしまった。知りたくなかったその答えを、どうしても確かめたくて。
彼の瞳が揺れる。その沈黙が、すべてを物語っていた。
「分かってました。きっとそうだろうって。だから、私の気持ちは押しつけません。」
唇を噛みしめて、それでも笑顔をつくる。
「それでも…レオさんと一緒にいたいって思ったんです。私に人生を与えてくれた人だから。だから…この想いは、胸にしまっておきます。」
そう言い切った自分に、少しだけ誇りを感じた。報われない恋でも、決して後悔はしない──そう言える強さを持てたことに。
レオさんは静かに視線を落とし、やがてぽつりと口を開いた。
「すまない…本当は、君には話しておくべきだった。」
その声には、どこか覚悟の色が滲んでいた。
二人、並んで小川のほとりに腰を下ろす。水音だけが静かに流れ、夜の静寂を優しく包む。
「まず一つ、私はこの世界の人間じゃない。」
「え…?」
その告白は、胸の奥に静かに、だけど鋭く刺さった。
「私は別の世界で妻と穏やかな日々を過ごしていた。しかし、運命の皮肉で彼女を事故で失ったのだ。」
彼の瞳が遠い記憶を宿し、夜空を見つめる。その眼差しは、深い痛みと後悔を滲ませていた。
「彼女を失ったとき、私は後を追おうと考えた。それほどまでに彼女を愛していた。しかし、死の淵に立った私を女神が止めた。そして、一つの選択肢を与えられた。」
「選択肢…ですか?」
私は思わず問いかける。彼はゆっくりと頷いた。
「彼女は既に転生している。諦めきれないなら、その魂を捜し求める旅を始めろ、と…。」
その言葉は重く、運命の鎖を象徴するかのようだった。
「それで、奥さまを探し続けているのですね。」
「ああ。そして、女神パルナスから幾多の加護を授かっている。それが私の能力の秘密だ。」
(なるほど…だからあんなにも強いのか。でも、女神パルナス様って…夢の中で会ったあの神様?)
私は驚きと興奮を押し殺しながら黙って聞き入る。
「私は妻の魂を追い、この世界に辿り着いた。だから君とは…。」
そこで言葉を詰まらせる彼に、私は意を決して口を開く。
「レオさん、奥さまのことも、あなたの状況も理解しました。そして、私のことは気にしないでください。私が奥さまを見つけるお手伝いができるなら、それで十分です。女神パルナス様にも頼まれたのです。必ず、その目的を果たしましょう。」
私の決意に、彼は驚きの表情を浮かべた。
「シルファ君…。君は今、パルナスと言ったか?」
「はい。」
「やはり…君に彼女の加護があることは知っていたが、直接会っていたとはな。」
彼の表情が驚きに揺れる。
「実は昨日、女神パルナス様に“夢見”でお会いしたんです。」
「夢見?それは何かね?」
「私のエクストラスキルです。夢の中で女神様に会ったり、自分にとって有益な情報を夢から得たりできる能力です。」
その説明に、彼は深く頷き、思案に沈んだ。
「なるほど…女神がその能力を隠していた…という訳か。」
「私自身も、この力を知ったのは最近のことです。」
「では、夢見の中で女神は何を伝えたかったのかね?」
「レオさんに協力すること、そして世界中に散らばる“メモリーピース”を集めること。それがレオさんの目的を果たす手助けになると。」
その言葉に、彼の瞳が運命の重みを悟ったように光を宿した。
「どうやら君と私の旅路は、女神パルナスの導きだったようだ。これも運命なのだろう。シルファ君、改めてよろしく頼む。」
レオさんのその言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
「はい、こちらこそ!」
私の胸にも力強い想いが芽生える。
互いの視線が交わり、不思議な力に背中を押される感覚を覚えた。
夜空を見上げると、無数の星々が瞬き、静かに見守るかのように広がっている。
そのとき、一筋の流れ星が天穹を横切り、儚い軌跡を描いて消えた。
その光の消え際に、私は心の中で小さな祈りを捧げる。
(どうか、この旅がレオさんの運命を繋ぐものとなりますように。そして、この想いが少しでも届きますように──。)
星明かりの下、私たちの旅路は新たな意味を得て、静かに歩みを進めていった。
銀色の光は、まるで私の心の奥まで見透かすように、足元に不気味な影を落とす。
理由なんてもう分からない。ただ、走っていた。
涙に濡れた頬を見られたくなくて。胸の中をぐるぐると渦巻く感情から、逃げ出したかった。
「シルファ君、待ってくれ!」
その声に、心が一瞬だけ揺らいだ。
でも、足は止められない。今の私を彼には見せたくなかった。
だけど、突然目の前に現れたレオさんの姿に、思わず立ち止まってしまう。
こんなときでも彼は反則的な力で私を見つけ出す。憎らしいほどに、私のすべてを見抜いてしまう。
「レオさん…放っておいてください!」
すれ違おうとしたその瞬間、彼の手が私の腕を掴んだ。強く、でもどこか震えているその手に、心がまた大きく揺れる。
「放っておけるわけがないだろう!」
その声が胸に響く。彼の目が真っすぐに私を見つめ、逃げ場を奪っていく。
「君は私にとって…大切なパートナーだ。傷つけてしまった君のことを、見過ごすなんてできない。」
その一言で、何かが崩れ落ちた。張りつめていた感情が、堰を切ったようにあふれてくる。
「知らなかったんだ。」
彼は目を伏せ、声を震わせながら続けた。
「この世界の習慣には疎くて…イヤリングを渡したとき、そこにそんな意味があるなんて、本当に知らなかったんだ。だけど、あの時君がそのアクセサリーを手に取ったときの嬉しそうな顔が…忘れられなくて。」
彼の言葉は真っ直ぐで、迷いがなかった。
ただの謝罪じゃない。そこに込められた思いが、痛いほど伝わってくる。
「君のことを想っていた。ただ、それが君を傷つける形になってしまったことが…本当に悔しい。」
私はもう涙を隠せなかった。彼の気持ちに応えたいのに、どうしても素直になれなかった自分が悔しい。
「私が…子供だったんです。」
声を震わせながら、彼の瞳を見つめる。
「本当はすごく嬉しかった。レオさんからもらえたことが、夢みたいで。でも、それが“特別”じゃないって気づいたら…耐えられなかった。」
それが、本音だった。
「シルファ君、本当にすまない。君の気持ちに気づけなくて…。でも、私は──」
「探している人は、恋人なんですよね?」
思わず遮ってしまった。知りたくなかったその答えを、どうしても確かめたくて。
彼の瞳が揺れる。その沈黙が、すべてを物語っていた。
「分かってました。きっとそうだろうって。だから、私の気持ちは押しつけません。」
唇を噛みしめて、それでも笑顔をつくる。
「それでも…レオさんと一緒にいたいって思ったんです。私に人生を与えてくれた人だから。だから…この想いは、胸にしまっておきます。」
そう言い切った自分に、少しだけ誇りを感じた。報われない恋でも、決して後悔はしない──そう言える強さを持てたことに。
レオさんは静かに視線を落とし、やがてぽつりと口を開いた。
「すまない…本当は、君には話しておくべきだった。」
その声には、どこか覚悟の色が滲んでいた。
二人、並んで小川のほとりに腰を下ろす。水音だけが静かに流れ、夜の静寂を優しく包む。
「まず一つ、私はこの世界の人間じゃない。」
「え…?」
その告白は、胸の奥に静かに、だけど鋭く刺さった。
「私は別の世界で妻と穏やかな日々を過ごしていた。しかし、運命の皮肉で彼女を事故で失ったのだ。」
彼の瞳が遠い記憶を宿し、夜空を見つめる。その眼差しは、深い痛みと後悔を滲ませていた。
「彼女を失ったとき、私は後を追おうと考えた。それほどまでに彼女を愛していた。しかし、死の淵に立った私を女神が止めた。そして、一つの選択肢を与えられた。」
「選択肢…ですか?」
私は思わず問いかける。彼はゆっくりと頷いた。
「彼女は既に転生している。諦めきれないなら、その魂を捜し求める旅を始めろ、と…。」
その言葉は重く、運命の鎖を象徴するかのようだった。
「それで、奥さまを探し続けているのですね。」
「ああ。そして、女神パルナスから幾多の加護を授かっている。それが私の能力の秘密だ。」
(なるほど…だからあんなにも強いのか。でも、女神パルナス様って…夢の中で会ったあの神様?)
私は驚きと興奮を押し殺しながら黙って聞き入る。
「私は妻の魂を追い、この世界に辿り着いた。だから君とは…。」
そこで言葉を詰まらせる彼に、私は意を決して口を開く。
「レオさん、奥さまのことも、あなたの状況も理解しました。そして、私のことは気にしないでください。私が奥さまを見つけるお手伝いができるなら、それで十分です。女神パルナス様にも頼まれたのです。必ず、その目的を果たしましょう。」
私の決意に、彼は驚きの表情を浮かべた。
「シルファ君…。君は今、パルナスと言ったか?」
「はい。」
「やはり…君に彼女の加護があることは知っていたが、直接会っていたとはな。」
彼の表情が驚きに揺れる。
「実は昨日、女神パルナス様に“夢見”でお会いしたんです。」
「夢見?それは何かね?」
「私のエクストラスキルです。夢の中で女神様に会ったり、自分にとって有益な情報を夢から得たりできる能力です。」
その説明に、彼は深く頷き、思案に沈んだ。
「なるほど…女神がその能力を隠していた…という訳か。」
「私自身も、この力を知ったのは最近のことです。」
「では、夢見の中で女神は何を伝えたかったのかね?」
「レオさんに協力すること、そして世界中に散らばる“メモリーピース”を集めること。それがレオさんの目的を果たす手助けになると。」
その言葉に、彼の瞳が運命の重みを悟ったように光を宿した。
「どうやら君と私の旅路は、女神パルナスの導きだったようだ。これも運命なのだろう。シルファ君、改めてよろしく頼む。」
レオさんのその言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
「はい、こちらこそ!」
私の胸にも力強い想いが芽生える。
互いの視線が交わり、不思議な力に背中を押される感覚を覚えた。
夜空を見上げると、無数の星々が瞬き、静かに見守るかのように広がっている。
そのとき、一筋の流れ星が天穹を横切り、儚い軌跡を描いて消えた。
その光の消え際に、私は心の中で小さな祈りを捧げる。
(どうか、この旅がレオさんの運命を繋ぐものとなりますように。そして、この想いが少しでも届きますように──。)
星明かりの下、私たちの旅路は新たな意味を得て、静かに歩みを進めていった。
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