メモリーピース～最強チート彼と探し旅～

飛燕つばさ

文字の大きさ

大中小

25 / 53

25話奮闘

しおりを挟む

《カチャッ！》

　軽快な音を立ててドアが開く。

　レオさんと私はベーゲルダイムの部屋に足を踏み入れた。

　庭や一階には厳重な防衛ラインが敷かれていたが、部屋のドアは拍子抜けするほど無防備だった。施錠すらされていない。油断の証だろうか。

「動くな！」

　彼の怒声が部屋の空気を切り裂く。鋭い声に、室内の二人が一瞬怯んだ。

　調査通り、部屋にはベーゲルダイムとその護衛の二人だけだった。

　ベーゲルダイムは小太りで狡猾そうな目をした男。護衛は、盗賊団の一員と言われても納得できるほどの粗暴な風貌だ。

「うわっ！何者だ？どうやってここに入り込んだんだ？それに、手に持っている…そ、その四角い物体は一体何なんだ？魔導具か？」　

　ベーゲルダイムは驚愕の表情を浮かべ、目を見開いている。

「ああ、これかね？これは秘密だよ。今日はちょっと聞きたいことがあってね。こないだ王子を襲撃したのは、あんたの指図かね？」

　彼はリラックスした表情を崩さず、核心に切り込む。その堂々たる態度に、私は改めて彼の器の大きさを感じた。

　だが、王子襲撃の話題が出た瞬間、二人の表情が険しく変わる。護衛の男が剣を抜き、今にも斬りかかろうとしている。

「それを私が認めるとでも？」

　ベーゲルダイムの顔が引き攣る。しかし、口を割る気配はない。

「確かに、悪党が素直に罪を認めるなら、世の中はもっと優しいだろうな。でも、私があんたの口を割らせる手段を持っているとしたらどうなるかね？」

　彼は眼鏡を押し上げ、冷たい視線をベーゲルダイムに向ける。

「ハッタリだ！だが、貴様らの口を封じれば同じことだ。やれ！」

　ベーゲルダイムはニヤリと笑い、護衛に命じた。私たちを殺して口を封じるつもりだ。

「破砕斬はさいざん！」

　護衛の男が剣を振り上げ、彼に斬りかかる。上段から振り下ろされる一撃は、まさに破壊的だ。

《キーン！》

「ほう、威力はなかなかだな。」

　だが、彼は金属製の篭手でその一撃をいとも簡単に受け止めた。右手には依然として不思議な道具を握りしめたまま、左手一本で全てを受け止めたのだ。

「馬鹿な！」

　護衛剣士の顔に驚愕が浮かぶ。

「はぁぁぁぁ！」

　その隙を逃さず、私は護衛剣士の脇腹を蹴り飛ばした。

《ドン！》

「ぐっ…！」

　蹴りが脇腹に命中し、護衛剣士は大きく後方へ吹き飛ばされる。

「邪魔はよくないわね。暇なら私が相手になるわ！」

　護衛剣士は血を吐きながら立ち上がり、私を睨みつけた。

「チッ、このアマが！」

　私は彼の行動を後押しするため、護衛剣士を引き受ける。

　ベーゲルダイムは彼に任せ、私はこの男を倒す覚悟を決めた。

《キン！キキーン！》

　私のナイフが閃き、奴の剣が唸りを上げた。火花が散るたびに、部屋の空気がさらに張り詰めていく。

　攻防は熾烈を極め、互いに急所を狙った刃がすれ違うたび、命の際どい綱渡りが続いていた。

　一瞬でも隙を見せれば死が訪れる。それが確信として胸を締め付ける。

「やるじゃねぇか！なら、力でねじ伏せてやる！」「圧壊斬あっかいざん！」

　剣を構えた者の全身から溢れ出す威圧感。

　それは肉眼で捉えられるほど濃密であり、剣の周囲に纏う風が渦を巻き、狂気となって空気を淀ませていた。

（──空気が変わった。この一撃を受けるのは危険ね。）

　反射的に気配の異変を察知し、回避を優先する。ナイフでは受けきれない。それは直感で悟った。

《ズガァンッ！》

　その瞬間、剣の一撃が壁にめり込み、大きな亀裂が走った。空間全体が震えるほどの威力──その破壊力に、思わず息を飲む。

「クソッ、外しやがったか。」

「その力、驚いたわ。でも──残念ね。今度はこちらの番よ。」

　奴の嘲笑を切り裂くように、私は音もなく相手の死角へ移動する。

　そして鋭く投擲されたそれは、部屋の暗がりに溶け込む毒針。

《ピュッ！》

「っ、ぐあっ……てめぇ、何を──。」

「初めて見るかしら？これ、毒針よ。あなたの首に刺さっているそれには麻痺毒が仕込まれているの。まぁ、安心して。死ぬことはないけれど──しばらくは動けなくなるわ。」

「う、うぐ…てめぇ…っ。」

　奴の膝が崩れるのを確認しながら、私は一息ついた。

　この毒針にはレオさんに教わった技術と、痺れアゲハの粉が込められている。

　殺す意図はない。ただ、動けなくするだけ。それだけで充分だった。その後、彼を捕縛した。

『シルファ君。アサシンにとって、勝ち方にこだわる必要はない。敵を制するためなら、毒矢でも躊躇わずに使いたまえ。それが生き残るための鉄則だぞ。』

──脳裏に浮かぶのは、レオさんの厳しくも的確な指導の言葉。

　目の前の男が放つ威圧感が脳裏をかすめる。彼は紛れもなく、自分より格上の敵だった。

　それでも、この勝利を手にすることができたのは、レオさんの教えと、血の滲むような鍛錬の成果に他ならない。

「レオさん！片付きました！」

　私は周囲を見渡して彼の存在を確かめる。

　視線の先には、闇に溶け込むように佇むレオさんの姿があった。

　勝利の報告を力強く告げた私の言葉には、自身の成長への自信と、師である彼に認められたいという強い思いが込められていた。

「特訓の通りの成果だ。見事だったよ。」

　レオさんの優しい笑顔に、私は安心する。

　そんな彼はベーゲルダイムの自白を終え、捕縛しているところだった…。

しおりを挟む