上 下
20 / 50
第一章 覚醒

20話 指名依頼

しおりを挟む
 アマーシャとシノブとの模擬戦は、アマーシャの勝利で終了した。

「ヒビキ君。ありがとうね!シノブさんと対戦出来て良かったわ。ギリギリ勝利出来たけど、まだまだ未熟なのだと気づいたわ。そして、この剣聖のジョブの可能性にもね。だから、もっともっと頑張らなきゃ。」 

「うん。アマーシャならもっと強くなれるよ。」

「ありがとう。私は、王都を出ようかと思うの。色々な街や国を渡り、魔物を討伐したり、ダンジョンを攻略しながら己を磨こうと思うの。」

(なるほど、王都の外や、別の国に、ダンジョンか…。そんなこと考えたことも無かったな。)

「いつ出発するの?」

「準備できたらすぐかな?」

「そうか…友人になれたのに寂しくなるな。」

「ええ。本当に。でも、君のお陰で自分がやるべきことが見えた気がするよ。」

「それなら良かった。では、いつか再会するのを楽しみにするとしよう。」

 アマーシャとは、ここで別れた。この後、ルナさんに挨拶に行ってから、旅の準備をするのだそうだ。

――――

(翌日 宿屋 銀月)

 翌日、アマーシャから出発の連絡があり、宿の外で見送ることにした。

「じゃあ、私…行くね!」

「うん。お互い頑張ろう!元気でな!また会おう!」

 再び握手を交わした私とアマーシャ。アマーシャは、振り向き、胸を張り、しっかりとした足取りで、大通りの方へ歩き出した。

 私は、アマーシャの背中を見送り、その姿が完全に見えなくなるまで見つめていた。

――――

(冒険者ギルド)

「おい、アイツだ。」「最弱職の…。」「ボギー倒したそうだぞ。」「最弱じゃないのか?」「スマホマスターって何だよ。」

 俺はギルドロビーに入ると、周囲からの視線を一斉に感じた。どうやら、昨日ボギー達と模擬戦をしたことが噂になっている様だった。俺は、そんな話に気にも止めずにギルマスのルナさんの元に向かった。

「あっ!きたきた。ヒビキ君!待っていたよ!」

「ルナさん。そんな大声で呼ばなくても聞こえてますって!」

「ああ、ごめんごめん。そうだ。今回、ヒビキ君に指名依頼来てるよ。」

「指名依頼ですか?Dランクなのに?」

「指名依頼は、ランクなんて関係ないよ。アルマ商会のアルマさんよ。」

「ああ。知っています。たしか、王都の三大商会の一つでしたかね?」

「ええ。アルマさんは、王都では三番目の規模ではあるけれども、一代でここまで大きくしたやり手の商人ね。」

「そんなお方が、どうして?」

「アルマさんは、今度隣の国のナバラム聖王国で商売するらしくてね。往復路の護衛を要請された訳。冒険者ギルドに要請された数は5名。その内一人は、ヒビキ君にお願いしたいと、先方からのご指名だったの。」

「お会いしたこともないのに、どうして俺が?」

「ギルド会長は、近頃、アルマ商会をひいきにされているようよ。」

(あのオッサンか…。)

「わかりました。引き受けます。他の4名は?」

「うん。勿論決まっているわよ。冒険者パーティ"蒼天の翼(そうてんのつばさ)"よ。じゃあ、早速紹介するわね!蒼天の翼さん!こっちに来て貰える?」

 ギルドの待合から、軽鎧を身にまとった剣士風な男と、身軽な軽装備の女性。如何にも魔法使い風なローブを身にまとった男に、聖職者風な出で立ちの女性の4名が現れた。


「こちらが蒼天の翼のメンバーよ。こちらは、ヒビキ君。」

 お互いに目を合わせて、軽くお辞儀をする。

「君が、噂のスマホマスターのヒビキか。歓迎する。私は、剣士でパーティのリーダーをしているアインだ。こっちが魔法使いのゼキ。シーフのリセと、ヒーラーのキロルだ。」

「ヒビキだ。ランク外の最弱職と呼ばれている。よろしく!」
 
「はい。お互い挨拶は済んだわね!集合時間は、明日の4時に正門前だそうよ。」

「片道で5日~7日はかかると思うから、遠征の準備を整えておいてね。では、解散!」

(団長。こっちの4時はWWGでいう8時だよね?)
(そうだよ。WWGは、日本と同じ24時間制だけど、こちらは12時間制だからね。)
(なるほどね。じゃあ、明日の朝は、寝坊しないように起こしてあげるよ。)
(ああ。よろしく。)

 俺は、ルナさんと、蒼天の翼のメンバーと別れてギルドを後にする。これから、王都の商店で遠征の買い物をする為である。 

 これまで、銀月で食事を頂いており、食事に関して困ることがなかった。

 王都に来てから食器や調理器具を扱ったことも、触ったこともないので、これから一通り揃えようかと思う。

(団長、調理器具揃えるなら"ニャンコック"を顕現したら?彼女は、戦姫でも珍しい料理人のジョブだから、団長の遠征の際には役に立つと思うよ。)

(確かにそうだな…。でも、彼女は戦闘スキルだけで、調理スキルは無かったと思うけど…。)

(それは、WWGのスキルは、戦闘関連のものばかりだからね。でも戦姫の能力は、スキルが全てじゃないよ。)

「そうだな。わかった。顕現してみよう。」
「北条 響が命ずる!戦姫にゃんコック。前へ!」

「はいにゃ!」

 俺の掛け声に反応して、にゃんコックがスマホ画面に表れる。俺はにゃんコックの存在を確認して指示を与える。
 
「顕現せよ!!」

 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からニャンコックの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、ニャンコックの形が浮かび上がっていった。
 

「団長、呼んだかにゃー?」

 にゃんコックは、WWGでは戦闘員として登場する。当然料理を行う描写は存在しなかった。ルナさんと同じく猫人族の女性である。猫耳やしっぽの特徴はあるものの、大きく人間と変わらない印象を受ける。コックさんのコスチュームは、こちらの世界ではかなりインパクトがありそうだ。

 にゃんコックのステータスをチェックする。

名前 ニャンコック
年齢 42歳
性別 女性
種族 猫人族
ランク R ( レア )
ジョブ 料理人
レベル 125 (MAX)
HP 700
MP 650
AT 710
MAT 640
DEF 580
MDEF 550
DEX 730
INT 600
AGI 480
スキル 両刀ぶった斬り
説明 戦場を駆け回る料理人。両手に持つ包丁は、戦場では武器に代わる。料理人の腕は、達人を超えて仙人級。世界のあらゆる素材や料理に精通している。人が良く、気配り上手である。双子の妹にニャメコックがいる。包丁は、愛刃の包丁マサムネと、包丁ムラマサの二刀流である。
 
(確かに、スキルは戦闘用だけど、ジョブと説明文には、能力の高いコックなのが良くわかる。もしかしたら、このステータスの内容は、戦姫の能力や特徴、性格などに関わるのかも知れないな。)

「ニャンコック、久しぶりだね。情報共有で状況はわかってるよね?」

「はいにゃ。団長の旅の準備をお手伝いするにゃん。」

「うん。遠征中の食事は、ニャンコックと妹のニャメコックにお願いするから頼んだよ。」

「はいにゃ。任せて下さいにゃん。」

―――― to be continued ――――
しおりを挟む

処理中です...