最弱の僕が気づいたら最強に祭り上げられてたけど、頑張って現実にしてみせる

小暮悠斗

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理想郷編

ユートピアと過去⑥

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 気がついたときには、浜辺に打ち上げられていた。
 辺りを見回すも、自分以外に人影は無い。
 打ち寄せる波が、膝下まで迫っている。

(ここは……どこ?)

 押し寄せる不安の波に、飲み込まれそうになる。
 ブロロロと黒い煙りを吐き出すおんぼろバス。
 そこから、藍色を基調とした制服を纏った男性が下りて来る。不気味な笑い声をあげながら。

「ヒヒヒ――、本当に来たねぇ。アイツは――来てないか……」

 浜辺を見渡して、沙月しかいないことを確認して、淋しそうに呟いた。

「こんにちはお嬢さん。もう、こんばんはかな?」

 空はまだ明るかったが、空には星が散らばっていた。

「お嬢さん、君をここに飛ばした爺さんはどうした?」

 沙月は答えられなかった。
 だって何も知らないから。
 だから沙月は見たままを話した。

「そうか……、アイツはもう……」

 意図的に濁した言葉は、沙月に配慮した結果か。
 それでもニュアンスで大体のことは察しがついた。
 おじいさんは無事ではいられなかったのだと。

 だからこそ正直に話してもらいたかった。
 包み隠さず話してもらいたいと頭を下げた。

 渋い顔をしながらも男は、ポツリ、ポツリと話し始めた。

 おじいさんは、かつては大魔導師と呼ばれた人間であること。
 人とあやかしの共存のために、世界を股にかけて活動していたという。
 その活動の最中さなか、行方が分からなくなったらしい。

 男はおじいさんの話を、どこか懐かしそうに――そして哀しそうに語った。

 頬を伝って落ちた雫が、足下に小さなシミを作っていた。

「おやおや、アイツのために泣いてくれるのかい?」

 嬉しいねぇ、と考え深そうに言うと、行く当てはあるのか? と尋ねる。
 沙月は首を振る。

「わたしは、どうしたらいい?」

 うーん、と唸ってから、

「お嬢さんが良ければ、アイツが作った施設に行くといい。送って行ってあげるよ」
「しせつ?」
「ああ、怪奇学園だよ」

 ヒヒヒと笑った男は、

「ところで、お嬢さんはいくつかな?」


 沙月は怪奇学園初等部に入る。
 それから十年の月日が流れる――
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