最弱の僕が気づいたら最強に祭り上げられてたけど、頑張って現実にしてみせる

小暮悠斗

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理想郷編

魔王とヴァンパイア⑦

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 すでに階段は塞がれており、瓦礫の山を駆け抜けて行く。
 後ろから、高速飛行で器用に瓦礫の合間を縫って美羽が付いてくる。

「君さ、何してるの?」
「何って?」
「なんで塔に残ったのか聞いてるの」
「だって、まだ、鎧騎士の人があのままだったから」
「敵なのに助けるの?」
「敵でも助けるよ。あの人とは戦ったけど、悪い人には見えなかったから」

 ふーん、と冬夜の話を聞きながら、美羽は「見る目あるじゃん」と笑った。私には無かったな、という呟きは聞こえなかったフリをした。
 瓦礫に埋もれてしまってはいないかと、心配になるほど下の階へ行くほど状況は悪化していた。
 幸いにも鎧騎士は無事だった。愛馬の一角獣が護っていたらしく、周囲には砕かれた瓦礫の山が出来ていた。

「立てますか?」

 肩を貸すと、弱々しく身体を預けてきた。

「物好きだな、君は」

 穏やかな声は戦闘時のものとあまりにもかけ離れていた。

 女性!? 驚きのあまり固まってしまったらしく、美羽が早くしろと急かす。
 意識してみれば#全身鎧__フルプレート__#は確かに重量がある。だが、それだけだ。人が身に着けていると思えないほどに軽い。

「置いて行け。情けは不要だよ。私は負けたんだから」
「そんなんじゃないです。が助けたいから助けるんです。勝手にやってることです。情けとかそんなことはよく分かりません」
「ハハハ、面白いな君は! いいだろう、君に助けられてやろう。その代わり責任は取ってもらうぞ」
「責任?」
「そうだ、死ぬ覚悟を決めていた人間を助けるんだ。

 冬夜には彼女の言っていることの意味が分からなかった。
 だが、この責任は取らなくてはいけないものなのだろう、とも思った。

「分かりました。責任取ります。だから、助けられてください」

 担ぎ上げて一角獣の背に乗せる。

「二人乗れるかな?」
「大丈夫だ……この子は力持ちだから」

 消え入りそうな声で愛馬を撫でる。
 大丈夫だ、とでも言うようにユニコーンは大きく鳴き、地面を蹴る。

「私の後に続いて――《風の弾丸ウィンド・ブレット》」

 放たれた風の弾丸は塔の壁を破壊。次々に打ち込み、空けた穴を広げる。
 三人と一頭が脱出した直後、塔は上層部分から順に下へと崩れ落ちていった。

 全てが終わった。
 世界の命運をかけた戦いがあったことなど、世界中の殆どの人が知らない。
 冬夜たちは名誉も、称賛も、何も得るものはない。
 残ったものは全身に漂う気怠さと、感覚の無くなった右腕だけだ。

 けれども冬夜は後悔なんてしない。
 自分のした選択は決して間違っていなかったと、胸を張って言える。
 だから、今は少し休みたいな……

 薄れゆく意識の中で、こちらに手を振る仲間たちの姿を、目に焼き付けてからまぶたを閉じた――。
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