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終章《図書館司書の日常》
#3
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「それで? 俺たちにどうしろと?」
アキラは腕組みをして高圧的に尋ねる。
その隣では、フミカが苦笑いしながら「私たちにどうにかできる問題じゃない気がするけど……」と遠巻きにフミハルの相談を断る。
二人がフミハルの相談を煙たがるのには理由がある。
フミハルは二人のデート現場に現れ相談。つまりはデートの邪魔をしているのだ。
「棚本。空気読んだ方がいいぞ。そういうところが問題なんじゃないか?」
「ちょっと、アキラくん。あんまり強く言うのは可哀想だよ」
フミカがフォローしてくれるが、アキラの言葉を否定はしてくれない。
その事実がフミハルを余計に傷つける。
「シオリさんは浮気なんか絶対にしない。でも俺に愛想を尽かすかもしれない。そしたら俺はシオリさんを引き留めることは出来ない。だってそれが彼女の選んだ選択だから」
「いや、普通にその男の方を調べるとかっていう発想はないのか?」
「調べるって言っても素人に調べられることなんてたかが知れているだろ。俺たちはただの大学生だぞ!」
「おい、待て棚本。なにをしれっと「俺たち」って俺まで巻き込んでいるんだよ!?」
「いいじゃないか! 親友だろ!」
「ほんと都合いいなお前」
呆れた顔でアキラが言う。
隣でフミカも笑っているが目は笑っていない。
でもそんなことは気にしない。
結局、人間とは自己中心的な生物なのだ。
「それで俺はどうすればいい?」
「知らないよ。でも、そうだなぁ……その相手の男って言うのは図書館に来ていたんだよな? だったら本田さんが何か知っているかもしれないぞ。常連さんなら知っていてもおかしくないし、シオリさんと仲のいい人間だったら記憶にも残っているだろうからな」
妙案だ。ショウスケが相手と言うのが多少ネックではあるが背に腹は代えられない。
明日にでもショウスケを尋ねることにしよう。アキラと一緒に。
「俺は行かないよ!?」
拒絶の言葉を口にしながらも、明日になれば一緒に図書館に着いて来てくれる優しい奴なのは知っている。
それがわかっているのだろう。フミカは諦めたような表情を浮かべて「私も一緒に行ってあげるよ」と言うのでお言葉に甘えることにした。
そして次の日。
三人は図書館で待ち合わせた。
終始アキラとフミカ(特にアキラ)は、今回の埋め合わせはしてもらうと言うので「わかった」とだけ返す。時間が経って、二人がこの貸しのことを忘れるのを待つほかない。
そんなことを考えていると「今日の帰りにメシ奢ってくれればいいよ」とアキラ。
早速貸しを返さなくてはならなくなった。
するとアキラが「四人でな」と付け加える。
フミハルはこの時、本当に自分はいい友人を持ったと痛感した。
「サンキューな」
聞こえるか聞こえないかという音量で感謝の気持ちを伝える。
アキラは「気にするな」と呟くように言って肩を組んできた。
気恥ずかしさが勝り、フミハルは回された腕を振りほどいた。
「ほら、さっさと行くぞ。四人でメシ食う段取り付けないといけないんだからな」
「わかったよ」
そう答えるアキラの後ろでフミカが声を押し殺して笑っていた。
***
図書館のカウンター席で読書を楽しむ。
新春キャンペーンの時には読書をしている余裕はなかった。
夏休みに入る直前は利用客が増加する。その兆候は見られるが、忙しいという程ではない。夏休みの課題に必要な資料の下見と言ったところだろう。
普段は見かけない学生が、慣れない図書館で資料探しに右往左往している。
司書がいるのだから、一声かけてくれれば目的の資料を探してあげるのに。だが、司書に声を掛けるのには勇気がいるし、気恥ずかしい。そんな気持ちも理解できる。
それに大学附属図書館の司書は学生からの無理難題にも応えることができる。
例えば「◯◯教授の好きそうな主題の本ってありますか?」なんていう質問にも答えて見せよう。
大学の先生方の好みも大方把握している。
けれども案内するのは面倒だから聞かないでいてくれる方がシオリとしては助かる。
それにもしそのような質問が来れば、先輩司書でありシオリ以上に大学の諸先生方の好みを知り尽くしているショウスケにすべて丸投げするのだが。
何故か誰もシオリには声を掛けてこない。
以前フミハルに「読書の邪魔をしちゃ悪いから」と声を掛けない理由を述べてくれたが、シオリは声を掛けられたくらいの事では集中力を失わない。
だが、読書をしているだけで声を掛けられずに済むのであれば読書を続けよう。
仕事は少ないに越したことはないのだから。
ガラス越しにくぐもった蝉時雨が、正面入り口が開けられることで流れ込む熱気と共に明瞭なものとなってシオリの耳に届く。
蝉時雨をバックコーラスに賑やかな声が聞こえてくる。
シオリは顔を上げて「いらっしゃい」と三人の来館者を迎えた。
***
シオリに迎えられ、普段であればそのままカウンターによって立ち話をするところではあるが今日は明確な目的がある。
カウンターへと赴き「本田さんいます?」と尋ねると、フミハルの気のせいだろうか?シオリが一瞬眉を顰め、口を尖らせた。
怒った? 何に?
その答えはわからなかった。だからきっと気のせいなのだ。そう結論付けたフミハルは微笑みかける。
シオリはふぅと息を吐き、諦めたように微笑みを返して上を指さした。
「棚本。早くしろ」
アキラに急かされてフミハルは名残惜しさを覚えながらシオリと別れた。
「なんで本田さんの為に俺とシオリさんの時間が犠牲に……」
「いつまでもグダグダと、それでも男か」
「男だって文句垂れる事はあるんだよ」
「二人とも落ち着いて、ね?」
フミカが仲裁に入る。
どれもこれも全てショウスケの所為だ。あの人の存在が全ての元凶だ。
「ヒドイねぇ。さすがの僕も怒るよ、棚本君」
またしても誰にも気取られることなく背後を取るショウスケ。
この人はきっと忍びの末裔に違いない。
「本当に凄ですけど、やめていただけますか、その特技」
ショウスケは困ったように首の後ろを擦りながら「前に持ったと思うけど、僕は普通に近づいて声を掛けただけだからね」心底侵害だといった表情で言う。
ショウスケはことあるごとに風評被害だと訴えている。
しかし、そんなことはどうでもいい。
フミハルには何の関係もない話だ。
薄情と言われようとも気にしない。所詮はショウスケの問題なのだから。
「本当に君は僕に優しくないね。もし世界中の人すべてが君みたいな人間だったなら僕は地球上に存在できていないね」
そうだったならどんなによかったことか、という言葉は飲み込んだ。
「本当に君はひどい人だ」
否。飲み込めていなかった。
すみませんと、上辺だけを取り繕った言葉を吐く。
それに対してショウスケも「気にしていないから」と嘘で塗り固められた言葉を吐いた。
横からアキラが、本題なんですけど、と話を軌道修正する。
フミハルが一連の話を終えると、ショウスケは「なるほどね」と訳知り顔で呟く。
何か知っているんですか!? と詰め寄る。
するとショウスケはしたり顔で「何も知らないよ」と笑う。
思わず殴りそうになった。
拳を握ったところでアキラに止められたが、もし一対一の対話であればまず間違いなく手を出してしまっていたことだろう。
一緒に来てくれたアキラとフミカに感謝しなくては。
大きく一つ息を吐き、心を落ち着ける。
すると今度はアキラがフミハルに代わって尋ねる。
「シオリさんが一緒に居たって言う男性に心当たりはありますか?」
「平溝さんでしょ?」
フミハルが尋ねた時とは打って変わっていとも簡単に答える。
本当にからかっていただけのようだ。
「どこにいる誰なんですか!?」
「おいおい、棚本。いくらなんでもそこまで知っているはずないだろ」
「や、平溝さんの勤め先ならわかるけど」
「「わかるんですか!?」」
アキラとフミカは声を揃えて驚く。
「まさか本田さん、男性のスターキングも始めたんですか……」
「いやいや、僕男には興味ないんで――って女性相手にもストーキングしたことないからね!?」
「え? ないんですか?」
「ないよッ!?」
どうやらアキラもフミハル同様ショウスケの人間性に疑いを持っていたようだ。フミカも賛同こそしないが、否定の言葉も口にしない。
三人の対応にほとほと愛想を尽かした様子のショウスケは「今日も図書館来ると思うから自分で確かめたらいいよ」とだけ告げて去って行った。
その背中が少しだけ寂しそうだったけれど、自業自得だから慰めてあげたりはしない。
勝手に一人で落ち込んで、立ち直ればいい。
今はそんなことよりも――。
「張り込むぞ」
いつかも似たような理由で張り込みをしたことがあったな、と去年の出来事を思い出す。
今回もシオリに思いを寄せる人間かもしれない。
不安が込み上げてくる。
大丈夫とアキラが肩に手を置く。
フミカもそうだよ、と言って笑っている。
アキラの「シオリさんを好き(本気で)になる物好きはそうはいないから」という呟きには青筋を立てながらも堪えて見せた。
ここで喧嘩をしていても話は一向に前に進まない。
フミハルは階段を下りてカウンターの見える場所に陣取る。
「傍から見たらこっちがストーカーみたいだよな」
「アキラくん静かに」
フミカに注意されるアキラ。
フミハルは目で静かにするよう二人に指示する。
その視線は指示と言うより脅迫に近しいモノだった。
気が立っていることは自分でも理解できている。後で落ち着いたら謝っておこう。
すると図書館に新たなに来館者がやって来る。
入ってきたのは見覚えのある男だった。
――来た!
緊張感がその場を支配する。
さっきまで楽しげに会話をしていたアキラとフミカも口を閉ざす。
三人が息を呑んで男の一挙手一投足に目を光らせる。
男はシオリと軽く挨拶を交わすと書架へと向かって歩き出す。
フミハルたちはその後をつける。
すると次の瞬間――
男の持っていた鞄の留め具が外れた。
そしてカバンの中身が飛び散った。
辺り一面に散乱したそれらを拾い集める。
フミハルも足下まで飛んできたそれを拾う。
そこにはシオリがいた。
優しく微笑むシオリの写真。間違いない。この男はシオリに好意を抱いている。それもストーカーチックに思いを寄せている。
散らばったシオリの写真が動かぬ証拠だった――。
アキラは腕組みをして高圧的に尋ねる。
その隣では、フミカが苦笑いしながら「私たちにどうにかできる問題じゃない気がするけど……」と遠巻きにフミハルの相談を断る。
二人がフミハルの相談を煙たがるのには理由がある。
フミハルは二人のデート現場に現れ相談。つまりはデートの邪魔をしているのだ。
「棚本。空気読んだ方がいいぞ。そういうところが問題なんじゃないか?」
「ちょっと、アキラくん。あんまり強く言うのは可哀想だよ」
フミカがフォローしてくれるが、アキラの言葉を否定はしてくれない。
その事実がフミハルを余計に傷つける。
「シオリさんは浮気なんか絶対にしない。でも俺に愛想を尽かすかもしれない。そしたら俺はシオリさんを引き留めることは出来ない。だってそれが彼女の選んだ選択だから」
「いや、普通にその男の方を調べるとかっていう発想はないのか?」
「調べるって言っても素人に調べられることなんてたかが知れているだろ。俺たちはただの大学生だぞ!」
「おい、待て棚本。なにをしれっと「俺たち」って俺まで巻き込んでいるんだよ!?」
「いいじゃないか! 親友だろ!」
「ほんと都合いいなお前」
呆れた顔でアキラが言う。
隣でフミカも笑っているが目は笑っていない。
でもそんなことは気にしない。
結局、人間とは自己中心的な生物なのだ。
「それで俺はどうすればいい?」
「知らないよ。でも、そうだなぁ……その相手の男って言うのは図書館に来ていたんだよな? だったら本田さんが何か知っているかもしれないぞ。常連さんなら知っていてもおかしくないし、シオリさんと仲のいい人間だったら記憶にも残っているだろうからな」
妙案だ。ショウスケが相手と言うのが多少ネックではあるが背に腹は代えられない。
明日にでもショウスケを尋ねることにしよう。アキラと一緒に。
「俺は行かないよ!?」
拒絶の言葉を口にしながらも、明日になれば一緒に図書館に着いて来てくれる優しい奴なのは知っている。
それがわかっているのだろう。フミカは諦めたような表情を浮かべて「私も一緒に行ってあげるよ」と言うのでお言葉に甘えることにした。
そして次の日。
三人は図書館で待ち合わせた。
終始アキラとフミカ(特にアキラ)は、今回の埋め合わせはしてもらうと言うので「わかった」とだけ返す。時間が経って、二人がこの貸しのことを忘れるのを待つほかない。
そんなことを考えていると「今日の帰りにメシ奢ってくれればいいよ」とアキラ。
早速貸しを返さなくてはならなくなった。
するとアキラが「四人でな」と付け加える。
フミハルはこの時、本当に自分はいい友人を持ったと痛感した。
「サンキューな」
聞こえるか聞こえないかという音量で感謝の気持ちを伝える。
アキラは「気にするな」と呟くように言って肩を組んできた。
気恥ずかしさが勝り、フミハルは回された腕を振りほどいた。
「ほら、さっさと行くぞ。四人でメシ食う段取り付けないといけないんだからな」
「わかったよ」
そう答えるアキラの後ろでフミカが声を押し殺して笑っていた。
***
図書館のカウンター席で読書を楽しむ。
新春キャンペーンの時には読書をしている余裕はなかった。
夏休みに入る直前は利用客が増加する。その兆候は見られるが、忙しいという程ではない。夏休みの課題に必要な資料の下見と言ったところだろう。
普段は見かけない学生が、慣れない図書館で資料探しに右往左往している。
司書がいるのだから、一声かけてくれれば目的の資料を探してあげるのに。だが、司書に声を掛けるのには勇気がいるし、気恥ずかしい。そんな気持ちも理解できる。
それに大学附属図書館の司書は学生からの無理難題にも応えることができる。
例えば「◯◯教授の好きそうな主題の本ってありますか?」なんていう質問にも答えて見せよう。
大学の先生方の好みも大方把握している。
けれども案内するのは面倒だから聞かないでいてくれる方がシオリとしては助かる。
それにもしそのような質問が来れば、先輩司書でありシオリ以上に大学の諸先生方の好みを知り尽くしているショウスケにすべて丸投げするのだが。
何故か誰もシオリには声を掛けてこない。
以前フミハルに「読書の邪魔をしちゃ悪いから」と声を掛けない理由を述べてくれたが、シオリは声を掛けられたくらいの事では集中力を失わない。
だが、読書をしているだけで声を掛けられずに済むのであれば読書を続けよう。
仕事は少ないに越したことはないのだから。
ガラス越しにくぐもった蝉時雨が、正面入り口が開けられることで流れ込む熱気と共に明瞭なものとなってシオリの耳に届く。
蝉時雨をバックコーラスに賑やかな声が聞こえてくる。
シオリは顔を上げて「いらっしゃい」と三人の来館者を迎えた。
***
シオリに迎えられ、普段であればそのままカウンターによって立ち話をするところではあるが今日は明確な目的がある。
カウンターへと赴き「本田さんいます?」と尋ねると、フミハルの気のせいだろうか?シオリが一瞬眉を顰め、口を尖らせた。
怒った? 何に?
その答えはわからなかった。だからきっと気のせいなのだ。そう結論付けたフミハルは微笑みかける。
シオリはふぅと息を吐き、諦めたように微笑みを返して上を指さした。
「棚本。早くしろ」
アキラに急かされてフミハルは名残惜しさを覚えながらシオリと別れた。
「なんで本田さんの為に俺とシオリさんの時間が犠牲に……」
「いつまでもグダグダと、それでも男か」
「男だって文句垂れる事はあるんだよ」
「二人とも落ち着いて、ね?」
フミカが仲裁に入る。
どれもこれも全てショウスケの所為だ。あの人の存在が全ての元凶だ。
「ヒドイねぇ。さすがの僕も怒るよ、棚本君」
またしても誰にも気取られることなく背後を取るショウスケ。
この人はきっと忍びの末裔に違いない。
「本当に凄ですけど、やめていただけますか、その特技」
ショウスケは困ったように首の後ろを擦りながら「前に持ったと思うけど、僕は普通に近づいて声を掛けただけだからね」心底侵害だといった表情で言う。
ショウスケはことあるごとに風評被害だと訴えている。
しかし、そんなことはどうでもいい。
フミハルには何の関係もない話だ。
薄情と言われようとも気にしない。所詮はショウスケの問題なのだから。
「本当に君は僕に優しくないね。もし世界中の人すべてが君みたいな人間だったなら僕は地球上に存在できていないね」
そうだったならどんなによかったことか、という言葉は飲み込んだ。
「本当に君はひどい人だ」
否。飲み込めていなかった。
すみませんと、上辺だけを取り繕った言葉を吐く。
それに対してショウスケも「気にしていないから」と嘘で塗り固められた言葉を吐いた。
横からアキラが、本題なんですけど、と話を軌道修正する。
フミハルが一連の話を終えると、ショウスケは「なるほどね」と訳知り顔で呟く。
何か知っているんですか!? と詰め寄る。
するとショウスケはしたり顔で「何も知らないよ」と笑う。
思わず殴りそうになった。
拳を握ったところでアキラに止められたが、もし一対一の対話であればまず間違いなく手を出してしまっていたことだろう。
一緒に来てくれたアキラとフミカに感謝しなくては。
大きく一つ息を吐き、心を落ち着ける。
すると今度はアキラがフミハルに代わって尋ねる。
「シオリさんが一緒に居たって言う男性に心当たりはありますか?」
「平溝さんでしょ?」
フミハルが尋ねた時とは打って変わっていとも簡単に答える。
本当にからかっていただけのようだ。
「どこにいる誰なんですか!?」
「おいおい、棚本。いくらなんでもそこまで知っているはずないだろ」
「や、平溝さんの勤め先ならわかるけど」
「「わかるんですか!?」」
アキラとフミカは声を揃えて驚く。
「まさか本田さん、男性のスターキングも始めたんですか……」
「いやいや、僕男には興味ないんで――って女性相手にもストーキングしたことないからね!?」
「え? ないんですか?」
「ないよッ!?」
どうやらアキラもフミハル同様ショウスケの人間性に疑いを持っていたようだ。フミカも賛同こそしないが、否定の言葉も口にしない。
三人の対応にほとほと愛想を尽かした様子のショウスケは「今日も図書館来ると思うから自分で確かめたらいいよ」とだけ告げて去って行った。
その背中が少しだけ寂しそうだったけれど、自業自得だから慰めてあげたりはしない。
勝手に一人で落ち込んで、立ち直ればいい。
今はそんなことよりも――。
「張り込むぞ」
いつかも似たような理由で張り込みをしたことがあったな、と去年の出来事を思い出す。
今回もシオリに思いを寄せる人間かもしれない。
不安が込み上げてくる。
大丈夫とアキラが肩に手を置く。
フミカもそうだよ、と言って笑っている。
アキラの「シオリさんを好き(本気で)になる物好きはそうはいないから」という呟きには青筋を立てながらも堪えて見せた。
ここで喧嘩をしていても話は一向に前に進まない。
フミハルは階段を下りてカウンターの見える場所に陣取る。
「傍から見たらこっちがストーカーみたいだよな」
「アキラくん静かに」
フミカに注意されるアキラ。
フミハルは目で静かにするよう二人に指示する。
その視線は指示と言うより脅迫に近しいモノだった。
気が立っていることは自分でも理解できている。後で落ち着いたら謝っておこう。
すると図書館に新たなに来館者がやって来る。
入ってきたのは見覚えのある男だった。
――来た!
緊張感がその場を支配する。
さっきまで楽しげに会話をしていたアキラとフミカも口を閉ざす。
三人が息を呑んで男の一挙手一投足に目を光らせる。
男はシオリと軽く挨拶を交わすと書架へと向かって歩き出す。
フミハルたちはその後をつける。
すると次の瞬間――
男の持っていた鞄の留め具が外れた。
そしてカバンの中身が飛び散った。
辺り一面に散乱したそれらを拾い集める。
フミハルも足下まで飛んできたそれを拾う。
そこにはシオリがいた。
優しく微笑むシオリの写真。間違いない。この男はシオリに好意を抱いている。それもストーカーチックに思いを寄せている。
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