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第一幕 転校生は朝ドラ女優!?
ACT7
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週刊誌の記事が出て、初めて公の場に顔を出す。
今日は三ヶ月前にクランクアップした映画の試写会当日。
一応、映画に関する質問以外はNGを出している。
それは私だけじゃなくて他の俳優さんたちも同様の対応をしている。
役者は自分の演技にプライドを持っている。
演技に対する賛辞には素直に喜ぶし、批判は紳士に受け止める。
まさに試写会は演者にとっての晴れ舞台とも言える。
だからこそ、そんな場で無粋な質問は遠慮してもらう。
それが高飛車だとかってマスコミに叩かれる原因になってる人もいるけど……。
そういう人の方が役者魂は持っている気がする。
人当たりがいいだけの大根役者―もとい大根女優である真希の演技力を見れば私の持論の信憑性は確かだ。
「結衣。週刊誌の記事のことは気にしちゃダメよ。あんな根も葉も無い話に構ってる余裕はないの」
言い聞かせるように松崎さんは話す。
現在私はマネージャーの高野さんの運転する車の後部座席に寝そべっている真っ最中だ。
松崎さんは忙しなく手帳に予定を書き込んでいる。
松崎さんの予定=私の予定である。
心の中でマジかよとため息をつく。
休めるときに休むのも私の仕事と割り切って微睡むことにした。
***
どれだけの時間が経ったのか。
目覚めてみれば車窓から見える風景はご近所のものではなくなっていた。
無事に試写会会場に到着したようだ。
「結衣。あまり時間ないからちゃっちゃと着替えてちょうだい」
松崎さんのはせかせかと準備を整え先に車を降りる。
「ま、待ってよ」
私も急いで最低限の身なりである事を確認して車を降りる。
車内から高野さんが、
「私も車止めたらすぐに向かうから」
「はーい」と返事をしてから松崎さんを追う。
時間はない。しかし、だからといってドタバタと髪を振り乱して走るわけにはいかないのだ。
走る松崎さんを私は歩いて追わなくてはならない。
どこで写真を撮られてもおかしくないこのご時世、いつ何時においても女優、新田結衣でいなくてはならないのだそうだ。
めんどくさーい。
でも、私もこの世界で10年以上活動してきたのだ。その辺りのことは心得ている。
この日も駐車場に数人の記者が張り込んでいた。
記者たちに手を振りながら歩く。
飛び交う質問に笑顔を返す。
「質問に答えてください!」
「答えられないんですか?」
初めのうちは平凡な質問だったのだが次第に……
「やはり記事の内容は事実という事なのですね?」
「他にも色々と書かれていますがそれらも事実なのでしょうか?」
「無視ですか? 無視しないでください! 質問に答えてくださいよ!」
最後の方は質問というより煽っていたような印象しかない。
仕事なんだろうけどほんと嫌な人たち、と半ばあきれながら記者たちを素通りした。
***
2時間強の映画を見終えた観客から拍手が沸き起こる。
私の真後ろの席にはお母さん、その右隣には松崎さん、左隣には瑞樹が座り、そのまた隣にお母さんと距離を取りたい高野さんが座っている。
「結衣よかったよ。可愛かった」
瑞樹がそっと耳打ちする。私がお礼を言うと「ところでさ…」と話題を変える。
「結衣、お母さんに言うの?」
(うっ…忘れてた。だって、映画に見入ってたから。主役じゃなかったけどかなり印象に残る演技がで来たんじゃないかしら?)
自分の演技を自画自賛していたところを現実に引き戻された。
お母さんの顔色を伺う。
目が合うと白い歯を見せて笑う。
私の演技には満足したらしい。
この笑顔が急転直下で険しいものになるのを想像する。
どうしよう……。やっぱり今日はやめておこうかな。瑞樹と高野さんを見る。
目配せで「言え」と伝えてくる。
高野さんは、お母さんが人目を気にして人前では取り乱すことはないだろうと予想して人が多い場所で伝えるのが得策と言っていたけど……。
試写会のスタッフがすぅーと無音で近寄ってきた。
そっと囁くように言う。
「結衣さん。そろそろ壇上にお願いします。」
「わかりました」
観客の目に留まらないように女優オーラを完全に消し去り席を立った。
舞台袖にはすでに主演俳優とヒロインとが待機していた。
「お待たせしちゃいましたか?」
二人のもとに駆け寄る。
「大丈夫よ」
手を振りながらヒロインの草薙美帆が答える。
「本当ですか?」
先輩を待たせるなど言語道断なのだが。
「気にしなくてもいいわよ。瀧川さんもついさっき来たところなのよ」
「いやいや、君も変わらないだろう?」
主演俳優の瀧川雅也は言い返す。
歳の近い主演二人は仲がいい。
カメレオン俳優と呼ばれる瀧川さんとは同じ現場になることも何度かあったが、草薙さんとは今回の映画が初共演だった。
ステージ上では司会者が観客を煽りに煽っていた。
「それでは登場していただきましょう。本作の主役、大神尊役の瀧川雅也さんに城戸蘭役の草薙美帆さん! さらに倉科佐織役の新田結衣さんでーす!!」
(何で私を最後に呼び込むの!? 私は助演に過ぎないのに)
黄色い声援を浴びる2人に続いてステージ中央へと進む。
キャー、と鳴り止まない声援に3人で手を振って応える。
一回り歳の離れた2人に人気は絶大で、声援や歓声を通り越し絶叫になりつつある。
歓声が落ち着きを見せはじめ、ようやく映画の話題に移行したところで私の気分は無情にもへし折られた。
司会者が、
「今日は特別ゲストとしてこの方にも来ていただきました」
呼び込みの声とともに姿を見せたのは真希だった。
(映画出てないじゃん!?)
私は心の中でツッコミを入れる。
笑顔の真希に対して笑みを返す。
こういう時につくづく私って芸能人だなって思う。営業スマイルはおてのもの。
それにしても、何しに来たんだコイツ。
結衣の心中は穏やかではなかった。
今日は三ヶ月前にクランクアップした映画の試写会当日。
一応、映画に関する質問以外はNGを出している。
それは私だけじゃなくて他の俳優さんたちも同様の対応をしている。
役者は自分の演技にプライドを持っている。
演技に対する賛辞には素直に喜ぶし、批判は紳士に受け止める。
まさに試写会は演者にとっての晴れ舞台とも言える。
だからこそ、そんな場で無粋な質問は遠慮してもらう。
それが高飛車だとかってマスコミに叩かれる原因になってる人もいるけど……。
そういう人の方が役者魂は持っている気がする。
人当たりがいいだけの大根役者―もとい大根女優である真希の演技力を見れば私の持論の信憑性は確かだ。
「結衣。週刊誌の記事のことは気にしちゃダメよ。あんな根も葉も無い話に構ってる余裕はないの」
言い聞かせるように松崎さんは話す。
現在私はマネージャーの高野さんの運転する車の後部座席に寝そべっている真っ最中だ。
松崎さんは忙しなく手帳に予定を書き込んでいる。
松崎さんの予定=私の予定である。
心の中でマジかよとため息をつく。
休めるときに休むのも私の仕事と割り切って微睡むことにした。
***
どれだけの時間が経ったのか。
目覚めてみれば車窓から見える風景はご近所のものではなくなっていた。
無事に試写会会場に到着したようだ。
「結衣。あまり時間ないからちゃっちゃと着替えてちょうだい」
松崎さんのはせかせかと準備を整え先に車を降りる。
「ま、待ってよ」
私も急いで最低限の身なりである事を確認して車を降りる。
車内から高野さんが、
「私も車止めたらすぐに向かうから」
「はーい」と返事をしてから松崎さんを追う。
時間はない。しかし、だからといってドタバタと髪を振り乱して走るわけにはいかないのだ。
走る松崎さんを私は歩いて追わなくてはならない。
どこで写真を撮られてもおかしくないこのご時世、いつ何時においても女優、新田結衣でいなくてはならないのだそうだ。
めんどくさーい。
でも、私もこの世界で10年以上活動してきたのだ。その辺りのことは心得ている。
この日も駐車場に数人の記者が張り込んでいた。
記者たちに手を振りながら歩く。
飛び交う質問に笑顔を返す。
「質問に答えてください!」
「答えられないんですか?」
初めのうちは平凡な質問だったのだが次第に……
「やはり記事の内容は事実という事なのですね?」
「他にも色々と書かれていますがそれらも事実なのでしょうか?」
「無視ですか? 無視しないでください! 質問に答えてくださいよ!」
最後の方は質問というより煽っていたような印象しかない。
仕事なんだろうけどほんと嫌な人たち、と半ばあきれながら記者たちを素通りした。
***
2時間強の映画を見終えた観客から拍手が沸き起こる。
私の真後ろの席にはお母さん、その右隣には松崎さん、左隣には瑞樹が座り、そのまた隣にお母さんと距離を取りたい高野さんが座っている。
「結衣よかったよ。可愛かった」
瑞樹がそっと耳打ちする。私がお礼を言うと「ところでさ…」と話題を変える。
「結衣、お母さんに言うの?」
(うっ…忘れてた。だって、映画に見入ってたから。主役じゃなかったけどかなり印象に残る演技がで来たんじゃないかしら?)
自分の演技を自画自賛していたところを現実に引き戻された。
お母さんの顔色を伺う。
目が合うと白い歯を見せて笑う。
私の演技には満足したらしい。
この笑顔が急転直下で険しいものになるのを想像する。
どうしよう……。やっぱり今日はやめておこうかな。瑞樹と高野さんを見る。
目配せで「言え」と伝えてくる。
高野さんは、お母さんが人目を気にして人前では取り乱すことはないだろうと予想して人が多い場所で伝えるのが得策と言っていたけど……。
試写会のスタッフがすぅーと無音で近寄ってきた。
そっと囁くように言う。
「結衣さん。そろそろ壇上にお願いします。」
「わかりました」
観客の目に留まらないように女優オーラを完全に消し去り席を立った。
舞台袖にはすでに主演俳優とヒロインとが待機していた。
「お待たせしちゃいましたか?」
二人のもとに駆け寄る。
「大丈夫よ」
手を振りながらヒロインの草薙美帆が答える。
「本当ですか?」
先輩を待たせるなど言語道断なのだが。
「気にしなくてもいいわよ。瀧川さんもついさっき来たところなのよ」
「いやいや、君も変わらないだろう?」
主演俳優の瀧川雅也は言い返す。
歳の近い主演二人は仲がいい。
カメレオン俳優と呼ばれる瀧川さんとは同じ現場になることも何度かあったが、草薙さんとは今回の映画が初共演だった。
ステージ上では司会者が観客を煽りに煽っていた。
「それでは登場していただきましょう。本作の主役、大神尊役の瀧川雅也さんに城戸蘭役の草薙美帆さん! さらに倉科佐織役の新田結衣さんでーす!!」
(何で私を最後に呼び込むの!? 私は助演に過ぎないのに)
黄色い声援を浴びる2人に続いてステージ中央へと進む。
キャー、と鳴り止まない声援に3人で手を振って応える。
一回り歳の離れた2人に人気は絶大で、声援や歓声を通り越し絶叫になりつつある。
歓声が落ち着きを見せはじめ、ようやく映画の話題に移行したところで私の気分は無情にもへし折られた。
司会者が、
「今日は特別ゲストとしてこの方にも来ていただきました」
呼び込みの声とともに姿を見せたのは真希だった。
(映画出てないじゃん!?)
私は心の中でツッコミを入れる。
笑顔の真希に対して笑みを返す。
こういう時につくづく私って芸能人だなって思う。営業スマイルはおてのもの。
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結衣の心中は穏やかではなかった。
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