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幕間Ⅰ 姉妹の物語
ACT64
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12年前――
業界ナンバーワンお菓子メーカーの新作CMのオーディション。競争倍率は100倍を超えていた。
それでも当時の私は合格する自信があった。
当時4歳の女の子だった私。今になって考えると相当の自信家だなと思うが、そのような考えを持つだけの実績が私にはあった。
欲しいものは全て手に入れてきた。それは当時も今も変わらない。
だけど当時の私にとってCMなんかはどうでもよかった。
欲しかったのは日本に残る理由。
すでに両親は離婚していた。
私は父方の祖父母のもとに預けられていた。アメリカ人の祖父母なのに逢里という苗字の祖父母の家も、それなりの事情があるのだ。そのことを察していた私は何も聞かずに逢里と名乗った。
今でも祖父母が驚きながら、笑いながら、そして泣きながら私を抱きしめた時の事を鮮明に覚えている。
私もそれなりに喜んではいたけれど正直そんなことはどうでもよかった。
父は私を必要としなかった。傍から見たらアメリカ人に見えない子だったから自分の子どもだって感じがしなかったのかもしれない。
私は捨てられたのだ。親権を持ちながらその責務を放棄する程度の価値しか私にはなかったと言う事だ。
お母さんの方にお姉ちゃんと一緒に引き取られたかった。けどそれは経済的に無理。
必要とされない子ども。それが私だった。
だから祖父母が私を愛してくれたことには感謝している。
でも私は祖父母の愛情を嬉しく思ったわけではない。誰かに必要とされることを望んでいた。
そんな中、祖父母以外でお姉ちゃんだけが私を必要だと言ってくれた。
とっても優しいお姉ちゃん。
だから、日本に残りたいと思った。
でも父は世間体を気にして私を本国(アメリカ)に連れて帰る気満々だった。
だから日本での居場所を作ることにした。それが芸能界――その足かけに受けたのがCMオーディションだった。
CMが決まれば父も私が日本に残ることを承諾するだろう。そもそも世間体で連れ帰ろうとしていたのだから、日本においてくる理由が出来れば無理に私を連れ帰ろうとはしないはずだった。
私にとってこのCMオーディションは夢を掴むためのものではなく、居場所を作るためのものだ。落選するわけにはいかなかった。
結果はダメだったわけだけど。
関係者と思しき人たちに愛嬌を振りまいた。胡麻を摺った。
ちなみに当時、私はまだ4歳。この頃には相当したたかな女だったと思う。
本当の意味で腹黒いのはお姉ちゃんではなく私の方だろう。
その腹黒さが裏目に出た。
幼子の悪知恵なんてたかが知れている。当時、CM撮影の助監督を担当していた王子晴信に見抜かれ落とされた。
今でもかなり根に持っている。私とお姉ちゃんの間を引き裂いた一人でもあるから。
王子晴信もこの話を聞いて申し訳なく思ったのか、私に対して負い目があるらしく、割と言う事を聞いてくれる。
だから今回の映画にキャスティングして貰えたのだけど。
このまま最後まで何事もなく終わるなんてことはないだろう。
この前も、お姉ちゃんがこそこそと誰かに電話を掛けているのを見た。
またなんか余計な事してるな、と思ったけれど追及したりはしない。それが私たち姉妹のスタンス――距離感だから。
電話の内容全ては聞こえなかったが、所々聞こえた話を繋ぎ合わせると、電話相手に依頼されていたことを承諾したと言う事らしい。
どうせ、新田結衣に関することで誰かと利害が一致して協力関係を結んだといったところだろう。もしくは今までの手(週刊誌にネタを流す)では生ぬるいと新たな手を繰り出すつもりなのかもしれない。
お姉ちゃんは根が優しいから裏工作とか向かないんだけど……。本人はそう思っていないらしい。
最後の詰めが甘いとでも言えばいいのか、最後のところで優しさが勝ってしまう。そんな人なのだ。
それは今も昔も変わらない。
だから私はお姉ちゃんのためならなんだってする。
日本に戻ってきてから――お姉ちゃんと同居を始めてから毎日強く思う。
お姉ちゃんのためなら私はどんな手を使ってでもお姉ちゃんを守る。
この決意が揺らぐことは無い。
だからお姉ちゃんの好きにさせてあげるの。私ってかなりお姉ちゃんに甘いよね。でもいいの、私が好きでやっているだけだから。
もちろんいざという時だけだよ。
そのいざという時がすぐそこにまで迫っていることを、この時の私は知る由もなかった。
業界ナンバーワンお菓子メーカーの新作CMのオーディション。競争倍率は100倍を超えていた。
それでも当時の私は合格する自信があった。
当時4歳の女の子だった私。今になって考えると相当の自信家だなと思うが、そのような考えを持つだけの実績が私にはあった。
欲しいものは全て手に入れてきた。それは当時も今も変わらない。
だけど当時の私にとってCMなんかはどうでもよかった。
欲しかったのは日本に残る理由。
すでに両親は離婚していた。
私は父方の祖父母のもとに預けられていた。アメリカ人の祖父母なのに逢里という苗字の祖父母の家も、それなりの事情があるのだ。そのことを察していた私は何も聞かずに逢里と名乗った。
今でも祖父母が驚きながら、笑いながら、そして泣きながら私を抱きしめた時の事を鮮明に覚えている。
私もそれなりに喜んではいたけれど正直そんなことはどうでもよかった。
父は私を必要としなかった。傍から見たらアメリカ人に見えない子だったから自分の子どもだって感じがしなかったのかもしれない。
私は捨てられたのだ。親権を持ちながらその責務を放棄する程度の価値しか私にはなかったと言う事だ。
お母さんの方にお姉ちゃんと一緒に引き取られたかった。けどそれは経済的に無理。
必要とされない子ども。それが私だった。
だから祖父母が私を愛してくれたことには感謝している。
でも私は祖父母の愛情を嬉しく思ったわけではない。誰かに必要とされることを望んでいた。
そんな中、祖父母以外でお姉ちゃんだけが私を必要だと言ってくれた。
とっても優しいお姉ちゃん。
だから、日本に残りたいと思った。
でも父は世間体を気にして私を本国(アメリカ)に連れて帰る気満々だった。
だから日本での居場所を作ることにした。それが芸能界――その足かけに受けたのがCMオーディションだった。
CMが決まれば父も私が日本に残ることを承諾するだろう。そもそも世間体で連れ帰ろうとしていたのだから、日本においてくる理由が出来れば無理に私を連れ帰ろうとはしないはずだった。
私にとってこのCMオーディションは夢を掴むためのものではなく、居場所を作るためのものだ。落選するわけにはいかなかった。
結果はダメだったわけだけど。
関係者と思しき人たちに愛嬌を振りまいた。胡麻を摺った。
ちなみに当時、私はまだ4歳。この頃には相当したたかな女だったと思う。
本当の意味で腹黒いのはお姉ちゃんではなく私の方だろう。
その腹黒さが裏目に出た。
幼子の悪知恵なんてたかが知れている。当時、CM撮影の助監督を担当していた王子晴信に見抜かれ落とされた。
今でもかなり根に持っている。私とお姉ちゃんの間を引き裂いた一人でもあるから。
王子晴信もこの話を聞いて申し訳なく思ったのか、私に対して負い目があるらしく、割と言う事を聞いてくれる。
だから今回の映画にキャスティングして貰えたのだけど。
このまま最後まで何事もなく終わるなんてことはないだろう。
この前も、お姉ちゃんがこそこそと誰かに電話を掛けているのを見た。
またなんか余計な事してるな、と思ったけれど追及したりはしない。それが私たち姉妹のスタンス――距離感だから。
電話の内容全ては聞こえなかったが、所々聞こえた話を繋ぎ合わせると、電話相手に依頼されていたことを承諾したと言う事らしい。
どうせ、新田結衣に関することで誰かと利害が一致して協力関係を結んだといったところだろう。もしくは今までの手(週刊誌にネタを流す)では生ぬるいと新たな手を繰り出すつもりなのかもしれない。
お姉ちゃんは根が優しいから裏工作とか向かないんだけど……。本人はそう思っていないらしい。
最後の詰めが甘いとでも言えばいいのか、最後のところで優しさが勝ってしまう。そんな人なのだ。
それは今も昔も変わらない。
だから私はお姉ちゃんのためならなんだってする。
日本に戻ってきてから――お姉ちゃんと同居を始めてから毎日強く思う。
お姉ちゃんのためなら私はどんな手を使ってでもお姉ちゃんを守る。
この決意が揺らぐことは無い。
だからお姉ちゃんの好きにさせてあげるの。私ってかなりお姉ちゃんに甘いよね。でもいいの、私が好きでやっているだけだから。
もちろんいざという時だけだよ。
そのいざという時がすぐそこにまで迫っていることを、この時の私は知る由もなかった。
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