73 / 111
第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー
ACT72
しおりを挟む
MIKAが『今、旬のタレント――女性部門』において、堂々の第1位を獲得するのに時間はかからなかった。
厳密には、真希からMIKAが大躍進の2位だと聞かされてから半月。
彼女はテレビに引っ張りだこだ。テレビを点ければMIKAがいる。
そんな状況の中、ついに結衣の心にも余裕がなくなりつつあった。
「私が11位?……」
「ようやく事の重大さが分かったのね」
当たり前のように結衣の楽屋に居る真希が言う。
ちなみに真希は12位だ。
二人とも順当に順位を落としていた。
MIKAのような新星などそうそう現れるものではない。
順位を落とした主な原因は、二人が一向にバラエティーに順応出来ていない事にあった。
普段エゴサーチなどしないのだが、世間のリアルな反応が気になり、ついつい見てしまったのだ。
演技に関しては自信があるので見る必要は無いのだが、バラエティーに関してはことさら自信がなかった。
案の定、ネットでは、
結衣ちゃんはバラエティーに出る人じゃない。
女優だからって適当に仕事しすぎじゃね?
綾瀬よりマシってだけで、バラエティーにおいては無能。
そもそも演技も微妙。
新田結衣終了のお知らせ~
割とマシなモノをいくつかピックアップしたけど……つらい。
真希に比べればまだマシなんだけど。
私はスマホの画面を見たまま固まっていた。
液晶画面に視線を落とし、文字を目で追う最中開いた口からため息が漏れる。
「落ち込むくらいなら見なきゃいいのに」
ネット上で叩かれる事に耐性があるのか、真希はそれらを一瞥し鼻で笑った。
「成功者を僻む無能な人間の道楽に、一喜一憂するなんて馬鹿げてると思わない?」
その中には、自分のファンも含まれるということは失念しているらしい。
実際のことは知らないが、真希の性格からして、十中八九エゴサーチを習慣にしていると思うのだが、それを言うと逆上しそうなので黙っておく事にする。
MIKAちゃんはいい娘だと思うけど、そんな事を上から目線で言っていられなくなっていた。
今回の収録からMIKAが福福亭晩春のアシスタント――事実上のMCを務める事になっていた。
完全に番組内においてその立場は逆転。ハッキリと優劣がついた形である。
芸能界の先輩としての威厳も何もない。完敗である。
「私たち、これからあの女に見下されるのよ。最悪の気分ね」
そんな事はない、と言いかけて結衣は言いよどむ。
もしかしたら……そんな考えが頭を過ぎってしまったのだ。
「早くあの女を引きずり下ろさないと……」
そんな真希の呟きを聞きながら、私は盛大にため息をついた。
楽屋を出てからも真希のぼやきは止まらない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、結衣はスタジオへ向かった。
…………
……
…
悔しいかな……今までの収録で一番ウケた。
主に私たち(結衣&真希)の近頃の迷走ぶりをネタに盛り上がったのだ。
今日の収録をお母さんが見たら卒倒するわね。
新田結衣のイメージ的にダメな気がする。
お母さん以上に広報を担当する松崎さんが激怒しそう。
私――新田結衣ってどんなキャラクターだっけ? 何か最近同じような事で悩んだことがある気もするけど……はぁ……。
楽屋で一人物思いにふける。
何だか最近ため息ばかり。
気分はブルー。真希じゃないけど相当気分は落ちてる。
さっさと帰り支度して高野さんの迎えを待とう。
高野さんは仕事の電話で席を外している。
ノックも無しに楽屋の扉が開く。
「ちょっと! 結衣!?」
ちょっとした錯乱状態の真希が訪ねてきた。
正直、相手をしてやる余裕は今の私にはない。
ヒステリックな声を上げる真希は、どこかお母さんに似ていた。
その後、真希が言ったことの一割も覚えてはいなかったが、高野さんはから菓子家ファミリーのCMにMIKAが抜擢されたと報告を受けた。
おそらくこの事を言っていたのだろう。
スター街道を真っ直ぐに駆けてゆくMIKAは、結衣と真希にとってライバルとなっていた。
勢いだけならMIKAが上だろう。
このまま頂点を取ってしまうかもしれない。
帰りの車の中で運転席の高野さんが、ぼそりと呟いた。
「負けっぱなしっていうのも癪よね」
「高野さん?」
「ついこの間出てきたような、ぽっと出のアイドルに劣ってる? そんな訳無いでしょ。芸能界はそんなに甘い世界じゃないわよ」
なんだか、いつになく熱い。
こんな高野さんを見るのは初めてかもしれない。
「そうね……」
私は小さな声で答えた。
真希が勝ち負けにこだわる理由が分かった気がする。
自分の存在価値そのものが、芸能界での立ち位置と直結しているのだ。
後輩にその立場を脅かされて初めて気がついた。
私って真希に負けないくらい嫉妬深いみたい。
大人気アイドル、上等だ。掛かって来い。相手してやる。
伊達に芸歴積み重ねてないんだ。格(年期)の違いを見せてやる。
この業界で負けを認めたら、後は落ちていくだけ。
私はもっと上――高みを目指せる。
「バラエティーだろうが、何だろうが、負けたままじゃダメよね」
決意を新たに襲来した脅威に真っ向から勝負を挑む――一応、先輩だから迎え撃つが正しいかな?
「やるぞー」
「おっ、その意気よ結衣」
――この先待ち受ける試練など知る由もない私は、車内で拳を突き上げた。
厳密には、真希からMIKAが大躍進の2位だと聞かされてから半月。
彼女はテレビに引っ張りだこだ。テレビを点ければMIKAがいる。
そんな状況の中、ついに結衣の心にも余裕がなくなりつつあった。
「私が11位?……」
「ようやく事の重大さが分かったのね」
当たり前のように結衣の楽屋に居る真希が言う。
ちなみに真希は12位だ。
二人とも順当に順位を落としていた。
MIKAのような新星などそうそう現れるものではない。
順位を落とした主な原因は、二人が一向にバラエティーに順応出来ていない事にあった。
普段エゴサーチなどしないのだが、世間のリアルな反応が気になり、ついつい見てしまったのだ。
演技に関しては自信があるので見る必要は無いのだが、バラエティーに関してはことさら自信がなかった。
案の定、ネットでは、
結衣ちゃんはバラエティーに出る人じゃない。
女優だからって適当に仕事しすぎじゃね?
綾瀬よりマシってだけで、バラエティーにおいては無能。
そもそも演技も微妙。
新田結衣終了のお知らせ~
割とマシなモノをいくつかピックアップしたけど……つらい。
真希に比べればまだマシなんだけど。
私はスマホの画面を見たまま固まっていた。
液晶画面に視線を落とし、文字を目で追う最中開いた口からため息が漏れる。
「落ち込むくらいなら見なきゃいいのに」
ネット上で叩かれる事に耐性があるのか、真希はそれらを一瞥し鼻で笑った。
「成功者を僻む無能な人間の道楽に、一喜一憂するなんて馬鹿げてると思わない?」
その中には、自分のファンも含まれるということは失念しているらしい。
実際のことは知らないが、真希の性格からして、十中八九エゴサーチを習慣にしていると思うのだが、それを言うと逆上しそうなので黙っておく事にする。
MIKAちゃんはいい娘だと思うけど、そんな事を上から目線で言っていられなくなっていた。
今回の収録からMIKAが福福亭晩春のアシスタント――事実上のMCを務める事になっていた。
完全に番組内においてその立場は逆転。ハッキリと優劣がついた形である。
芸能界の先輩としての威厳も何もない。完敗である。
「私たち、これからあの女に見下されるのよ。最悪の気分ね」
そんな事はない、と言いかけて結衣は言いよどむ。
もしかしたら……そんな考えが頭を過ぎってしまったのだ。
「早くあの女を引きずり下ろさないと……」
そんな真希の呟きを聞きながら、私は盛大にため息をついた。
楽屋を出てからも真希のぼやきは止まらない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、結衣はスタジオへ向かった。
…………
……
…
悔しいかな……今までの収録で一番ウケた。
主に私たち(結衣&真希)の近頃の迷走ぶりをネタに盛り上がったのだ。
今日の収録をお母さんが見たら卒倒するわね。
新田結衣のイメージ的にダメな気がする。
お母さん以上に広報を担当する松崎さんが激怒しそう。
私――新田結衣ってどんなキャラクターだっけ? 何か最近同じような事で悩んだことがある気もするけど……はぁ……。
楽屋で一人物思いにふける。
何だか最近ため息ばかり。
気分はブルー。真希じゃないけど相当気分は落ちてる。
さっさと帰り支度して高野さんの迎えを待とう。
高野さんは仕事の電話で席を外している。
ノックも無しに楽屋の扉が開く。
「ちょっと! 結衣!?」
ちょっとした錯乱状態の真希が訪ねてきた。
正直、相手をしてやる余裕は今の私にはない。
ヒステリックな声を上げる真希は、どこかお母さんに似ていた。
その後、真希が言ったことの一割も覚えてはいなかったが、高野さんはから菓子家ファミリーのCMにMIKAが抜擢されたと報告を受けた。
おそらくこの事を言っていたのだろう。
スター街道を真っ直ぐに駆けてゆくMIKAは、結衣と真希にとってライバルとなっていた。
勢いだけならMIKAが上だろう。
このまま頂点を取ってしまうかもしれない。
帰りの車の中で運転席の高野さんが、ぼそりと呟いた。
「負けっぱなしっていうのも癪よね」
「高野さん?」
「ついこの間出てきたような、ぽっと出のアイドルに劣ってる? そんな訳無いでしょ。芸能界はそんなに甘い世界じゃないわよ」
なんだか、いつになく熱い。
こんな高野さんを見るのは初めてかもしれない。
「そうね……」
私は小さな声で答えた。
真希が勝ち負けにこだわる理由が分かった気がする。
自分の存在価値そのものが、芸能界での立ち位置と直結しているのだ。
後輩にその立場を脅かされて初めて気がついた。
私って真希に負けないくらい嫉妬深いみたい。
大人気アイドル、上等だ。掛かって来い。相手してやる。
伊達に芸歴積み重ねてないんだ。格(年期)の違いを見せてやる。
この業界で負けを認めたら、後は落ちていくだけ。
私はもっと上――高みを目指せる。
「バラエティーだろうが、何だろうが、負けたままじゃダメよね」
決意を新たに襲来した脅威に真っ向から勝負を挑む――一応、先輩だから迎え撃つが正しいかな?
「やるぞー」
「おっ、その意気よ結衣」
――この先待ち受ける試練など知る由もない私は、車内で拳を突き上げた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる