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閑話(おじさん周りの方々)

第33話 リンネ、見抜く

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「はぁ……ケントの子供を孕みたいのぅ……」

 あ、やば、声に出してしもうた。

「師匠、場をわきまえてくださいね? 今は騎士団のみなさんとの今後についての打ち合わせの最中ですよ?」

「そうは言ってものぅ……」

 規律と誇り。
 そんなものしか伝わってこないニュンバーク城の一室、誓剣の間。
 要するに無骨な会議室。

 つ・ま・ら・ぬ。

 魔法の「魔」の字も理解できぬアホどもに何度も何度も同じ話をさせられて……。
 しかも口調がクソ高飛車。
 まったくこれだから役人は……。

「チッ」

 思わず舌打ちも出ようというもの。

「キミ! なんだね、その態度は!? ったく、この魔道士とかいう者は本当に信頼できるのか!?」

 マヒラ、とか言ったか。
 騎士団長。
 小物、じゃのぅ……。
 己の地位と権力にしか興味のなさそうな男。
 このような者が中枢にいると滅びるぞ。
 国というものは得てしてな。

 ま、そんなことはどうでもよい。
 こんな下らぬ国の行く末などな。
 それより。
 次にこいつがワシを侮辱するようなことを言ったらキレてやろうかのう。
 だってのぅ……。
 だってせっかく見つけた優良子種の持ち主。
 ケント・リバー。
 なのに、ワシの弟子のミカとそのお友達たちがきっちり先約済みじゃったからのう……。
 だから、ほら。
 テンションもあがらぬのじゃよ。
 はぁ……。
 せめてケント……。

「子種だけでよいのじゃがのう……」

「師匠? 話聞いてましたか?」

「聞いてないのぅ。もう同じことを何度も話すのは嫌なんじゃ~。どうやらこの役人ども、我ら天才の時間と凡人の時間を同じとでも思っておる」

 ガタッ──!

「な──っ! こいつ……このガ……」

 ガキが。
 はい、バカが決まって言うお決まりの捨て台詞。
 人を見た目で判断するアホ。
 そんな連中とは関わること自体が不益じゃ。
 さ~、ドバァーっとキレて、ここ数日で溜まった鬱憤うっぷんを晴らしてアノスに帰るとするかの~。

 と、思いきや。

「マヒラ団長? この方は近隣諸国一の大魔道士リンネ・アンバー様ですよ? 我々が無理を言って来ていただいているのです。もう十分に時間も取っていただきましたし、そろそろお開きにしてはどうでしょう」

 キング副団長がサラリとフォローを入れて場を収めよった。
 ふむ。
 このキング・マイセンなる騎士もなかなかの男前じゃが……。

 な~んか好かん。
 
 虫が好かない。
 胡散臭い。
 いい線いっとるのはいっとるが、子種は欲しくない。
 やはり子を残すならに限る。


『スキル』


 それはいまだ明かされていない未知の概念。
 魔法。
 神力。
 呪力。
 どれとも違う。

『技術や性質が体に染みつき、達人の域にまで昇華したもの』

 簡単に言えばそういうものじゃ。
 だが、そのスキルは多岐にわたりすぎておる。
 よって正確に定義は定めきれぬ。
 そもそも。
 スキルを宿せる者が少なすぎる。
 しかも研究に身を捧げるような者にはスキルは宿らず、スキルの宿るのはいつも──。

 下賤げせんの者。

 学のない者。
 貧しい者。
 そういった者ばかり。
 そして、そういった連中は環境ゆえに冒険者や盗賊などの危険を伴う道に進み──若くして命を落とす。

 だから珍しいのじゃ。
 ケントほどの年齢まで生き残っていた「スキル持ち」は。
 大体スキルを持ってるかどうかなぞ、外からはわからぬからのう。
 ただでさえ少ないスキル持ち。
 その中でただでさえ少ない生き残り。
 しかも男。
 イケメン。
 ワシ好み。
 あぁ~、ケントぉ~。
 どうかワシに……。

「では、リンネ様。最後にもう一度だけこの宝珠オーブがどのようなものかをご説明ください」

「はぁ……仕方ないのぅ。この宝珠オーブは魔の者を魅了し、引き寄せる代物じゃ。これが洞窟にあったというのであれば、そこにはかなりの数の魔物がひしめいておるはずじゃ」

「ジャンヌ副団長、洞窟に魔物の数はどれほど?」

 キングが宝珠オーブの発見者、ジャンヌという少女に話を振る。

「はぇ? あんまりいませんでしたよ? 宝珠これも入口ですぐに見つけたし。その代わり、すぐワイバーンに見つかって逃げ帰ってきましたけど」

「ということは、この宝珠オーブだった?」

 キング、話をまとめて外堀り埋めるのが上手いのぅ。

「その可能性は考えられるのぅ。で、魔物を通らせたい場所にその宝珠オーブを複数置いていたとすると……」

魔物大量暴走スタンピートを引き起こすことが出来る……」

「可能性、じゃがな。そもそも自然発生の魔物大量暴走スタンピートなどそうは起こらん。大体は誰かが目的があって仕掛けてるものじゃ」

「問題は、ですが……」

「あ~、知らんぞ! それは知らん! ワシらの仕事は宝珠オーブの鑑定、それに伴う可能性の提示までじゃ。そっから先は貴様ら役人の仕事じゃ」

「ですね♡ リンネ様、ありがとうございます。本日はどうも長く引き止めてしまって申し訳ありませんでした」

 うむ、これだけ雰囲気悪くしとけばわずらわしい会食などに誘われずに済むじゃろう。

「さ、ミカよ、こんなむさ苦しいとことからはさっさとオサラバじゃ」

「はい、師匠。このあとは?」

「決まっておろう。冒険者ギルドに立ち寄ってケントとワンチャンの可能性を見いだすのじゃ」

「させませんからね?」

「その権利がそなたにあると?」

「師匠? 私は十年間我慢してきたんですよ?」

 うぉ、ミカのやつすごい迫力じゃ……。
 これは本気で呪術……今は「寿術」じゃったかな、を食らったらワシの付け焼き刃の呪術知識では太刀打ちできぬやもしれんのぅ……。

「なぁ、ミカ?」
「はい?」
「お主はあれで手を打たぬか?」
「あれとは?」
「ほら、最近冒険者ギルドに出入りしておるじゃろ。白髪の男」
「白髪の男? いましたっけ?」
「はぁ? よく出入りしとるじゃろ?」
「? 記憶にありませんね……」
「え、あの荷物持ちの男じゃよ?」
「荷物持ち? ああ、そういえばそういう人がいたようないないような……」

 ふむ。
 ミカほどの魔力と知能を持った人物があれを見落とす……?
 これはこれは……。
 とんだところにいたかもしれんのぅ。


 が。


 認識阻害?
 記憶操作?
 あまり魅力的なスキルではなさそうじゃのぅ。
 そういえば、あの荷物持ちも洞窟探索に参加すると言ってなかったか?
 う~む。
 う~~~~~む、これは……。

「どうしたんですか師匠、そんなに唸って? お腹でも痛いですか?」

「ミカ!」

「はい?」

「あの騎士団の中で信用できそうだとお主が思ったのは?」

「まずはセオ姉。これは絶対に信用できます。真面目バカなので」

「では信用できぬのは?」

「キングさんです」

 ほう、意外な答え。

「マヒラ団長ではなく?」

「ええ、団長さんはわかりやすいじゃないですか。女はクソ、子供はクソ、男と貴族と権力が最高。単純です。逆に信用できます。キングさんは、なんというか……存在自体が破綻しかけてる? そんな感じがします。まるで呪いでもかけられているような」

 ふむ。
 呪いではなく、なんらかの誓約であろうがな。

「キングも探索にはついていくのじゃったな?」

「ええ、宝珠オーブを見つけたジャンヌさんも。騎士団からは二人だけですね。あとは冒険者ギルドからエルさんたちとケントです」

 ふむ……冒険者の連中はもう荷物持ちと接触しておる。
 すでになんらかの影響を受けているやもしれん。
 となると──。

「ミカ、一旦戻るぞ」

「え? ギルドは?」

「予定変更じゃ。まさか、あのいけ好かん男がケントを守る切り札になるとはな……」

「切り札?」

「ミカよ」

「はい?」

「ケントはどえらい面倒に巻き込まれとるかもしれんぞ」

「はぁ……」

 わかったようなわかってないような顔。
 ふふ、こやつはよく自分のことを「性格が悪い」と言うが、ワシからしたら本当に純朴な子供そのものじゃ。

「ま、大丈夫じゃ。この全能の大魔道士リンネ・アンバーの手にかかれば、すべてまるっと解決間違いなしじゃ」

 こんなことになるなら魔道具をもっと持ってきておくべきじゃったのぅ。
 はぁ……それにしても認識阻害……。
 ワシレベルの魔法回避レジスト能力だから覚えていられたものの……。

「あ、リンネ様! ミカ様! 忘れ物ですか!?」

 ジャンヌ副団長が人なつこい犬のような顔で声をかけてくる。

(ふっ、このようなタイプは認識阻害スキルの格好の餌食じゃろうなぁ)

「いや、忘れ物というか『これから先、忘れんように』じゃな」

「? 天才さんの言うことは難しいです?」

「よい、キング副団長は?」

「はい、こちらです! ご案内します!」

「うむ、頼む」

 こうしてワシは。 
 ケントが出発するまでの間、陰で準備にひた走るのじゃった。
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