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おじさん、勘違いに気づくの巻

第41話 おじさん、差し入れる

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「うぃ~っす。お~、今日も忙しそうだこと」

 焼き鳥をパクりしながら冒険者ギルドに顔を出した俺をベルドがなじる。

「誰のせいだと思ってんだ! お前は冒険者を復興させるっつってたけど、いくらなんでも……急すぎるだろぉ~!」

「え~? そんなこと俺に言われてもぉ~、もぐもぐ」

「もぐもぐすなっ! ったくよぉ~!」

 レインから自供を引き出した俺たちは、また五日かけてガタゴトと馬車に揺られて王都カイザスへと戻ってきていた。
 気を抜くと認識阻害のスキルでうっかりレインを逃がしそうになるし大変だったぜ。
 んで、ラミアの皮の素材回収に向かうための大人数パーティーが急遽組まれてるってわけ。
 ってことで、エルくんたちはまたあの洞窟に出戻り。
 隠し扉もあるからテンも一緒に。
 その準備で今まさに冒険者ギルドはごった返してるってわけ。

「お前の愛しのお嬢さんたちが向こうでお待ちだぜ」

「誰が『愛しの』だ、誰が」

 冒険者ギルドの奥。
 そこにはいくつかの部屋がある。
 冒険者たちが打ち合わせをしたり。
 時にはベルドが応接間として使ったり。
 まぁ、どこも飾り気のない無骨な部屋。
 その中の一つの扉をココンとノックする。

「俺だけど~?」

 すると扉が真っ黒な闇に包まれて、その中からミカがヌッと顔を突き出す。

「待ってた。早く入って」

 そう言って手を掴むと、ミカはぬぷっと俺を闇の中へと引き入れた。

「お~、昨日から相変わらずみたいだな」

 ミカの広げた黒帳ナイトシェードの中。
 そこにいるのはミカ、ミカの師匠リンネ、セオリア、ハンナの四人。
 そして、その奥に──。

 レイン。

 半人半魔のスキル使い。
 魔物大量暴走スタンピートを起こそうとしてた張本人。
 白髪碧眼の美青年。
 体中に護符を貼り付けられまくったレインがぐるぐる巻きの姿で床に転がっていた。

「お札……増えた?」

「暇じゃったからの。増やしてみたわい。ほら? ワシらピチピチの乙女じゃろ? 認識阻害のスキルを操るあやしき半魔にあんなことやこんなことをされたら、嗚呼……ぶべっ!」

 一人盛り上がるリンネの口に焼き鳥を突っ込んで、セオリアたちに声をかける。

「お疲れ。差し入れ買ってきたぞ~」

「ありがとう、ケント」
「ちょうど腹減ってたんだ、いただき~!」
「焼き鳥は片手で食べられて合理的。さすがはケント。見張りをしている私達への差し入れに最適。見事な判断力。天才」

「いやいや、なんてったって一晩こいつの見張りを四人だけでやってくれてたんだからな~。さすがにねぎらわないと。大人として」

 なんでレインを俺達が見張っているのか。
 それは。

「もごもぐ……ごっくん。……にしても騎士団はしょうもないのぅ。半人半魔で人心を惑わすスキル持ちと知るやいなや責任を冒険者側に押し付けてきよった」

「あはは……すみません。騎士団、特に男の方のマヒラ団長は責任を取りたがらない方で……。もし騎士団で預かって問題が起きたら自分の地位に関わると……」

 セオリアが申し訳無さそうに言う。

「よいよい。その代わり、お主のような立派な騎士がこうやって一晩責務を果たしてくれたのじゃろうが」

「えへへ……」

「それにチビの副団長も来てたな」

「あれはレインの顔ファンでしょ。なんかキモかったからすぐ帰ってもらったし」

 顔ファン……?
 チビの副団長ってジャンヌのことだよな。

「キング副団長も顔を見せたのう。セオリアに酷いことを言うからこの黒帳ナイトシェードの中で永遠に続く地獄を見せてやろうかと思ったぞ」

「師匠、国際問題になりますのでお控えください」

 ミカとリンネの息の合った掛け合い。
 キングにジャンヌ。
 カイザスに帰ってきたばかりなのに二人とも顔を出してくれたらしい。
 俺はおじさんなので旅の疲れを抜くべく宿屋で爆睡してたけど……。

「にしてもケントはマジですげぇな! こいつにゴーレム、ラミア、んで死神吸血鬼シアター・デス・ヴァンパイアってやつまで倒したんだろ!? くぅ~、私もケントの活躍をこの目で視たかったぜぇ~!」

「それはキングくんやエルくんたちが優秀だったからだよ。現場ではジャンヌだって活躍してたんだぜ?」

 ……。

 ……ん?

 ズゥ~~~ン……。

 なんか急に空気が重く……。

(あっ……)

 そうか、十年前に自分たちが俺から危険に晒されたトラウマが蘇っちゃったのか……。
 あちゃ~、これはやっちゃったな。
 空気の読める俺だからこうやってすぐに気付けたものの、下手したら一挙即発だったな。
 よ~し、ここは颯爽と話題を変えて……。

「孤児院! ほら、孤児院も心配だよな!? なんてったって地下に死者の王デスサルコーが封印されてたなんてな~! いや~、全然気づかなかったよ!」

 ドズ~ン……。

 え? あれ?
 まだ全然暗いままなんだけど?

「こほん、ケントよ。孤児院や宝珠オーブに関してはまだまだ調査を進める必要がある。そして、ワシとミカも滞在を延長することに決めた」

「おお、それはありがたい。魔法に関してはさっぱりだからな」

「うむ、ありがたく思うがよい。そしてこの男の体の中に護符を埋め込み──」

 シュッ──!

「うっ……!」

 リンネの指から放たれたお札がレインのむき出しの肌に張り付き、そのまま体内へと溶けていった。

「ワシらに対してスキルの効果を発動せぬように制限をかけておる途中じゃ」

「そんなことが出来るのか。よっ! さすが万能の天才魔道士!」

「ふふ……最強の剣士に褒められると気分がよいのう。じゃが、この作業が終わるまであと二日はかかる」

「なかなかにかかるもんだな」

「ああ、じゃからケントよ。お主──」

 お、なんだろう。

「この三人とデートしてこい」

 ……。

「はい?」

 こうして。
 俺はセオリア、ハンナ、ミカと一日ずつ。
 三日に渡ってそれぞれデートすることになった。
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