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第七章
第九十九話・ドラゴンへッドへ②
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「アルゲート身体は大丈夫なの?」
アレンはオークを見送って側にやって来た飛竜に尋ねた。他の者達はアルゲートの異様な有様に、遠巻きに眺めている。
彼の身体は所々鱗が剥がれ落ち肉や骨までもが露出し、身体の半分は焼けただれて見るも無残な有様だったが、唯一の救いは露出した箇所から炎の吹き出しが治まっている事だ。
「はい、大丈夫ですご主人様。あなたの身体は、大変に居心地が良く癒やされております」アルゲートは真面目な顔で頷き掛ける。
(竜面って、表情がよく分からないなぁ)
「そうなの・・・アルゲートは火竜だったの?」
「いいえ、飛竜です。ですが、主様より炎の力を譲られました」
「そうなんだ。飛竜だったら・・・」アレンは”飛べるのか”と言う言葉を飲み込んだ。アルゲートの背中には焼け落ちて骨だけになった翼の残骸が片方だけ突き出していたのを思い出したからだ。
ロンデルが足元に気を付けて近寄って来た。それと言うのも、アルゲートの長い尾がゆるりゆるりと左右に振られており、その尾に当たれば人間など軽く吹っ飛びそうだ。
「おい、大丈夫か?大丈夫なら、血の匂いを嗅ぎつけていろんな獣がやって来ない内にさっさと此処からずらかろう」彼は嫌そうに辺りを見回して鼻を顰める。
周りはコブリン達の死骸が血の海に死屍累々と横たわり、その数は五十体近くありそうだ。その上、オークの焼けた匂いが強烈に漂っていて鼻が曲がりそうだった。
アレンがロンデルの言葉に返事を返しアルゲートに頷き掛けると、彼はアレンの胸へと吸い込まれるように姿を消した。
ジョエルが苦労して馬を御しながら近寄って来て、アレンを鞍の上に引っ張り上げる。実は馬達は飛竜の出現で恐慌状態に陥ってしまい、戦いの途中棹立ちになり危ない所だったが、結果的にアルゲートのお陰てコブリン達を追い払えて事なきを得た。
「アレン、今度から飛竜を出す時は一言声を掛けて欲しい」
「ごめんね、ジョエル。でも、あっという間に勝手に出て来たんだよ」
「ハアー。クッキーと言い、飛竜と言い、一筋縄でいかない奴ばかりだな」
「うん、そうだね。アハハ」アレンは力無く笑った。
「よし、出発だ」準備が整いロンデルが手を振り上げて合図する。ロンデルの後ろにイグナッシュが続く。もう直ぐウナスの森を抜け北の原生林、マイヨールの太古の森へと入っていくからだ。
一行は、お昼ごろには原生林に足を踏み入れたように感じ始めた。一歩踏み出す毎に森の木々は密生し、木々の幹は太く葉も密度を増し空を覆っているが、閉塞感は無く、寧ろ静謐な雰囲気で空気も清々しい。
彼等は誰も口を開く事なく、粛々と進んで行った。
わずかな下ばえの踏み固められた獣道を頼りに進んでいた先頭のロンデルが馬を止めて、直ぐ後ろのイグナッシュを振り返る。
「お手上げだ、これ以上進む道が分からねぇ」ロンデルは赤い眉毛を下げ、肩を竦める。
いつの間にか周りは大きな木々に取り囲まれ、最早獣道さえ見当たらなくなっている。皆が後ろを振り返っても、今来た道すら見当たらない。まるで森に取り込まれたように。
イグナッシュはロンデルの言葉に軽く頷くと、先頭に進み出て馬から降りた。
「太古の森の同胞よ、マイヨールの民よ。我はメイランドの始に連なりし者、フィナッシュの息子なり。我が名はイグナッシュ、訳あって太古の森を罷り通ふ者なり。
どうか我に森を開き、精霊の守りし道を指し示し給え」
イグナッシュが森に向かって大きく手を広げ朗々とした声で宣誓すると、辺りの空気が一気に濃密になり一瞬、目の前の景色が歪んだように見えた。
次の瞬間、目の前に通り道が出来た。
イグナッシュは素早く馬に跨ると、後ろを振り返る。
「僕に付いて来て!一気に駆け抜けるから、絶対に離れないで。兎に角何も考えずに前だけを見て!」イグナッシュは叫ぶように言うと、馬の腹を蹴って駆け出した。
ロンデル達は彼の言葉に頷く暇も惜しいように即座に反応し、同じく馬の腹を蹴り森の道に飛び込む。
正しく、森の道に飛び込んだのだ。森の大きな木々は左右に道を分けるように開いて行く。まるで、地面に馬の足が着いていないかのように駆けている。
彼等は馬体に伏せ、一本の矢のように突き進む。彼等が通り過ぎると即座に木々が道を塞いで行き、立ち止まれば密生した大きな木々に挟まれ圧死しそうだ。
どれくらい走っただろう、時間の感覚も分からない。進行方向に光が差し始め、目の前が一挙に明るくなり唐突に森が終わっている開けた箇所に躍り出た。
目の前の景色に彼等は息を飲み、イグナッシュも同じように立ち竦んでいる。
彼等の前に太古の森が変わり果てた姿を晒していた。木々はなぎ倒され、冷え固まった溶岩が一面を覆い尽くし、それは遠くドラゴンヘッドの山頂まで続き荒涼とした景色に様変わりしていた。
目の前の溶岩は冷え固まっていたが、山頂に続く溶岩は所何処赤黒く、至るところで煙を上げその頂きからは噴煙が立ち上っている。とても、人間が辿り着けそうもない。
皆は言葉無く、その景色を見つめていた。
アレンは静かに、ジョエルの後ろから降りた。
「アレン」ジョエルは不安そうに声を出す。アレンはジョエルの目を真っ直ぐ見て口を開いた。
「ここからは僕一人で行くよ」
「駄目だ!」ジョエルは即座に首を振り、馬の背から滑り降りてアレンの腕を掴んだが、その手は震えている。
「そうだ、絶対に無理だ。とても山頂まで行けるとは思われ無い」ナリスも馬を降りて、アレンの側に来てジョエルに同調する。
アレンは腕に置かれたジョエルの手に、自分の手を重ねた。
「最初から決めていたんだ。山頂には僕一人で行こうと」
ロンデルがアレン達の輪に加わり、他の傭兵達は静かにそれを見守る。
「おまえはそう言うが、冷静に考えても無理だ。俺達にすら無理だ、無謀過ぎるぜ。ここからじゃ分からないかも知れんが、あっちの方の溶岩は固まってない。人間の軟な身体じゃたちどころに焼け爛れ死んじまうぞ。悪い事は言わねぇ、諦めろ」
「アレリス様、我らも同意見です。残念ですが引き返しましょう」ナグがいつの間にか、人間化して言い添えた。 (彼の腰には、シャツが巻かれている)
「大丈夫だよ、ロンデル、ナグ。僕は約束を果たす為にここまで来たんだから」アレンは彼等に微笑んだ。
「しかし・・・」
「僕には、守護魔獣がいる。ここから、トゥルールに山頂まで運んで貰おうと考えていたんだ。だから、皆はここから戻って欲しい。イグナッシュ、帰りも頼めるよね」
「それは・・大丈夫ですが、山頂に行っても足を下ろせる場所が無いのではないでしょうか?」
「そうだよ、近付けば近ずく程、地面の温度は上がるだろう。ましてや、あの山はいつまた噴火するかもしれない」ナリスが断固反対と言う風に再び、アレンに詰め寄る。
「アレンがどうしても行くと言うのなら、俺も付いて行く」それまで黙っていたジョエルが口を開いた。
「駄目だよ、ジョエル。無理だよ」
「何が駄目だ!お前だけを危険な所に行かせる訳にはいかない!お前ばかりが貧乏くじだ」
アレンの言葉にジョエルは、カッと目を見開いて叫ぶように言った。
「そんな風に思っていたの?」
「そうだよ!元はと言えば、俺が貴族になれと言った所為だ!お前は貴族じゃなく、普通の生活を望んでいたじゃないか・・そしたら、危険な目にも嫌な目にも遭わずに済んだ。こんな所にだって来ずに済んだ・・・ずっと後悔していたんだ、アレン」最後の方の声は震えていた。
「ジョエル・・・」
「クソッ!」ジョエルは自分の頭を掻き回すと、後ろを向いて再び大声で叫ぶと、蹲ってしまった。
彼には分かっていた、自分の力ではアレンを護り切れないと、到底力が及ばないと。そして、アレンはいつも手の届かない所へ一人で行ってしまうと。
そんなジョエルの丸い背に、アレンは後ろから手を回し彼をギュウツと抱きしめると囁いた。
「ジョエル、大好きだよ。・・・僕はちっとも後悔していない、それに貧乏くじだとも思ってないよ。もし、普通の生活をしてたら、絶対にこんな旅出来なかった。それに、皆とも知り合えなかった」
ジョエルは頭を抱えていた手を下ろし、後ろから回されたアレンの小さな手を握る。
「僕は幸せ者だと思ってる。だって、貴族になったお陰で僕に家族ができた。優しいお爺様は僕を愛してくれているし、バルトはお父さまみたいだし、ジョエルはお母さまみたいに心配してくれる」
「誰がお母さんだ・・・」ぽつりと、ジョエルが突っ込んだ。
「ふふ、ジョエルはお母さんでお兄さんだよ。僕は王都に行ったし、お城まで見た。王様とだって話したし、友達だってたくさん出来た。それに、ナリスと力を使って蝗虫退治だって出来た。ナグやべゼルやケルトと助け合ってここまで旅をして来た。目まぐるしいけど、凄く充実してるよ。僕でも人の役に立てた」
「十分過ぎる程だ・・・」
「そうじゃなくて・・僕は母さまが死ぬ時に力が有ったらと悔やんだ。でも、今はその力を持ってる。だから、それを役立てたいと思うんだ。どうなるか分からないけど、出来るだけの事はしたい。それが僕の道だと思う。だから、ジョエルは村で待ってて。ジョエルが待っててくれたら、僕はきっと帰って来れるから」
ジョエルは俯いて大きく息を吐き出すと、後ろから回されたアレンの腕を外して立ち上がった。
「分かったよ、村で待ってる。その代わり、絶対に生きて戻ってこいよ。約束出来るか?」振り向いたジョエルは赤い目をしていた。
「うん、約束する」
「ジョエルは結局、アレンに甘いな」ナリスがブツブツ呟いた。
「ふん、俺がどんなに反対したって、アレンは自分の思った通りにするんだ。甘いとかじゃない、彼が頑固なだけだ」
「まあ、まあ、話しは分かった。こんな所で長話をしてる場合じゃねぇ。行くんなら、早いとこ用意をしな。俺達はお前を見送ってから、引き返す」ロンデルが割って入り、アレンに促した。ドラゴンヘッドが噴火すれば、一挙に皆巻き込まれる。
「分かった。ロンデル、皆を無事に村に連れ帰ってね」
「任せろ」
アレンはロンデルの言葉に頷くと、皆から少し離れてトゥルールを呼び出した。
「トゥルール、出てお出で」
アレンの胸から、小さな赤い小鳥が飛び出すと、ホバリングし始める。
「トゥルール、僕を乗せてあの山の頂きまで飛んで欲しいんだ」アレンが煙の出ている山頂を指すと、赤い小鳥は小さく鳴いて空に舞い上がった。
トゥルールは空中で一回転すると、アレン目指して下りて来たがその身体は近付くにつれ大きくなり、皆は慌てて遠くに避けた。
アレンは迷い無くトゥルールの背に乗ると、皆の方に笑顔を向けて手を振った。
「行ってきます」
その言葉が終わると、トゥルールがふわりと羽ばたいて空に舞い上がる。
守護魔獣はゆっくり上昇すると、分かれを告げるかのように皆の上を大きく旋回して、頂上を目指し飛んで行った。
++++++++
やっと体調が戻り、PCの前に帰って来れました。(PCの置いてある部屋が寒くて鼻炎が~~)
さて、次で百話。切りの良いところで七章を終りたいのですが・・・(希望)
第百話・再び扉の向こうへ(予定)山頂がえらい事になってます・・・
アレンはオークを見送って側にやって来た飛竜に尋ねた。他の者達はアルゲートの異様な有様に、遠巻きに眺めている。
彼の身体は所々鱗が剥がれ落ち肉や骨までもが露出し、身体の半分は焼けただれて見るも無残な有様だったが、唯一の救いは露出した箇所から炎の吹き出しが治まっている事だ。
「はい、大丈夫ですご主人様。あなたの身体は、大変に居心地が良く癒やされております」アルゲートは真面目な顔で頷き掛ける。
(竜面って、表情がよく分からないなぁ)
「そうなの・・・アルゲートは火竜だったの?」
「いいえ、飛竜です。ですが、主様より炎の力を譲られました」
「そうなんだ。飛竜だったら・・・」アレンは”飛べるのか”と言う言葉を飲み込んだ。アルゲートの背中には焼け落ちて骨だけになった翼の残骸が片方だけ突き出していたのを思い出したからだ。
ロンデルが足元に気を付けて近寄って来た。それと言うのも、アルゲートの長い尾がゆるりゆるりと左右に振られており、その尾に当たれば人間など軽く吹っ飛びそうだ。
「おい、大丈夫か?大丈夫なら、血の匂いを嗅ぎつけていろんな獣がやって来ない内にさっさと此処からずらかろう」彼は嫌そうに辺りを見回して鼻を顰める。
周りはコブリン達の死骸が血の海に死屍累々と横たわり、その数は五十体近くありそうだ。その上、オークの焼けた匂いが強烈に漂っていて鼻が曲がりそうだった。
アレンがロンデルの言葉に返事を返しアルゲートに頷き掛けると、彼はアレンの胸へと吸い込まれるように姿を消した。
ジョエルが苦労して馬を御しながら近寄って来て、アレンを鞍の上に引っ張り上げる。実は馬達は飛竜の出現で恐慌状態に陥ってしまい、戦いの途中棹立ちになり危ない所だったが、結果的にアルゲートのお陰てコブリン達を追い払えて事なきを得た。
「アレン、今度から飛竜を出す時は一言声を掛けて欲しい」
「ごめんね、ジョエル。でも、あっという間に勝手に出て来たんだよ」
「ハアー。クッキーと言い、飛竜と言い、一筋縄でいかない奴ばかりだな」
「うん、そうだね。アハハ」アレンは力無く笑った。
「よし、出発だ」準備が整いロンデルが手を振り上げて合図する。ロンデルの後ろにイグナッシュが続く。もう直ぐウナスの森を抜け北の原生林、マイヨールの太古の森へと入っていくからだ。
一行は、お昼ごろには原生林に足を踏み入れたように感じ始めた。一歩踏み出す毎に森の木々は密生し、木々の幹は太く葉も密度を増し空を覆っているが、閉塞感は無く、寧ろ静謐な雰囲気で空気も清々しい。
彼等は誰も口を開く事なく、粛々と進んで行った。
わずかな下ばえの踏み固められた獣道を頼りに進んでいた先頭のロンデルが馬を止めて、直ぐ後ろのイグナッシュを振り返る。
「お手上げだ、これ以上進む道が分からねぇ」ロンデルは赤い眉毛を下げ、肩を竦める。
いつの間にか周りは大きな木々に取り囲まれ、最早獣道さえ見当たらなくなっている。皆が後ろを振り返っても、今来た道すら見当たらない。まるで森に取り込まれたように。
イグナッシュはロンデルの言葉に軽く頷くと、先頭に進み出て馬から降りた。
「太古の森の同胞よ、マイヨールの民よ。我はメイランドの始に連なりし者、フィナッシュの息子なり。我が名はイグナッシュ、訳あって太古の森を罷り通ふ者なり。
どうか我に森を開き、精霊の守りし道を指し示し給え」
イグナッシュが森に向かって大きく手を広げ朗々とした声で宣誓すると、辺りの空気が一気に濃密になり一瞬、目の前の景色が歪んだように見えた。
次の瞬間、目の前に通り道が出来た。
イグナッシュは素早く馬に跨ると、後ろを振り返る。
「僕に付いて来て!一気に駆け抜けるから、絶対に離れないで。兎に角何も考えずに前だけを見て!」イグナッシュは叫ぶように言うと、馬の腹を蹴って駆け出した。
ロンデル達は彼の言葉に頷く暇も惜しいように即座に反応し、同じく馬の腹を蹴り森の道に飛び込む。
正しく、森の道に飛び込んだのだ。森の大きな木々は左右に道を分けるように開いて行く。まるで、地面に馬の足が着いていないかのように駆けている。
彼等は馬体に伏せ、一本の矢のように突き進む。彼等が通り過ぎると即座に木々が道を塞いで行き、立ち止まれば密生した大きな木々に挟まれ圧死しそうだ。
どれくらい走っただろう、時間の感覚も分からない。進行方向に光が差し始め、目の前が一挙に明るくなり唐突に森が終わっている開けた箇所に躍り出た。
目の前の景色に彼等は息を飲み、イグナッシュも同じように立ち竦んでいる。
彼等の前に太古の森が変わり果てた姿を晒していた。木々はなぎ倒され、冷え固まった溶岩が一面を覆い尽くし、それは遠くドラゴンヘッドの山頂まで続き荒涼とした景色に様変わりしていた。
目の前の溶岩は冷え固まっていたが、山頂に続く溶岩は所何処赤黒く、至るところで煙を上げその頂きからは噴煙が立ち上っている。とても、人間が辿り着けそうもない。
皆は言葉無く、その景色を見つめていた。
アレンは静かに、ジョエルの後ろから降りた。
「アレン」ジョエルは不安そうに声を出す。アレンはジョエルの目を真っ直ぐ見て口を開いた。
「ここからは僕一人で行くよ」
「駄目だ!」ジョエルは即座に首を振り、馬の背から滑り降りてアレンの腕を掴んだが、その手は震えている。
「そうだ、絶対に無理だ。とても山頂まで行けるとは思われ無い」ナリスも馬を降りて、アレンの側に来てジョエルに同調する。
アレンは腕に置かれたジョエルの手に、自分の手を重ねた。
「最初から決めていたんだ。山頂には僕一人で行こうと」
ロンデルがアレン達の輪に加わり、他の傭兵達は静かにそれを見守る。
「おまえはそう言うが、冷静に考えても無理だ。俺達にすら無理だ、無謀過ぎるぜ。ここからじゃ分からないかも知れんが、あっちの方の溶岩は固まってない。人間の軟な身体じゃたちどころに焼け爛れ死んじまうぞ。悪い事は言わねぇ、諦めろ」
「アレリス様、我らも同意見です。残念ですが引き返しましょう」ナグがいつの間にか、人間化して言い添えた。 (彼の腰には、シャツが巻かれている)
「大丈夫だよ、ロンデル、ナグ。僕は約束を果たす為にここまで来たんだから」アレンは彼等に微笑んだ。
「しかし・・・」
「僕には、守護魔獣がいる。ここから、トゥルールに山頂まで運んで貰おうと考えていたんだ。だから、皆はここから戻って欲しい。イグナッシュ、帰りも頼めるよね」
「それは・・大丈夫ですが、山頂に行っても足を下ろせる場所が無いのではないでしょうか?」
「そうだよ、近付けば近ずく程、地面の温度は上がるだろう。ましてや、あの山はいつまた噴火するかもしれない」ナリスが断固反対と言う風に再び、アレンに詰め寄る。
「アレンがどうしても行くと言うのなら、俺も付いて行く」それまで黙っていたジョエルが口を開いた。
「駄目だよ、ジョエル。無理だよ」
「何が駄目だ!お前だけを危険な所に行かせる訳にはいかない!お前ばかりが貧乏くじだ」
アレンの言葉にジョエルは、カッと目を見開いて叫ぶように言った。
「そんな風に思っていたの?」
「そうだよ!元はと言えば、俺が貴族になれと言った所為だ!お前は貴族じゃなく、普通の生活を望んでいたじゃないか・・そしたら、危険な目にも嫌な目にも遭わずに済んだ。こんな所にだって来ずに済んだ・・・ずっと後悔していたんだ、アレン」最後の方の声は震えていた。
「ジョエル・・・」
「クソッ!」ジョエルは自分の頭を掻き回すと、後ろを向いて再び大声で叫ぶと、蹲ってしまった。
彼には分かっていた、自分の力ではアレンを護り切れないと、到底力が及ばないと。そして、アレンはいつも手の届かない所へ一人で行ってしまうと。
そんなジョエルの丸い背に、アレンは後ろから手を回し彼をギュウツと抱きしめると囁いた。
「ジョエル、大好きだよ。・・・僕はちっとも後悔していない、それに貧乏くじだとも思ってないよ。もし、普通の生活をしてたら、絶対にこんな旅出来なかった。それに、皆とも知り合えなかった」
ジョエルは頭を抱えていた手を下ろし、後ろから回されたアレンの小さな手を握る。
「僕は幸せ者だと思ってる。だって、貴族になったお陰で僕に家族ができた。優しいお爺様は僕を愛してくれているし、バルトはお父さまみたいだし、ジョエルはお母さまみたいに心配してくれる」
「誰がお母さんだ・・・」ぽつりと、ジョエルが突っ込んだ。
「ふふ、ジョエルはお母さんでお兄さんだよ。僕は王都に行ったし、お城まで見た。王様とだって話したし、友達だってたくさん出来た。それに、ナリスと力を使って蝗虫退治だって出来た。ナグやべゼルやケルトと助け合ってここまで旅をして来た。目まぐるしいけど、凄く充実してるよ。僕でも人の役に立てた」
「十分過ぎる程だ・・・」
「そうじゃなくて・・僕は母さまが死ぬ時に力が有ったらと悔やんだ。でも、今はその力を持ってる。だから、それを役立てたいと思うんだ。どうなるか分からないけど、出来るだけの事はしたい。それが僕の道だと思う。だから、ジョエルは村で待ってて。ジョエルが待っててくれたら、僕はきっと帰って来れるから」
ジョエルは俯いて大きく息を吐き出すと、後ろから回されたアレンの腕を外して立ち上がった。
「分かったよ、村で待ってる。その代わり、絶対に生きて戻ってこいよ。約束出来るか?」振り向いたジョエルは赤い目をしていた。
「うん、約束する」
「ジョエルは結局、アレンに甘いな」ナリスがブツブツ呟いた。
「ふん、俺がどんなに反対したって、アレンは自分の思った通りにするんだ。甘いとかじゃない、彼が頑固なだけだ」
「まあ、まあ、話しは分かった。こんな所で長話をしてる場合じゃねぇ。行くんなら、早いとこ用意をしな。俺達はお前を見送ってから、引き返す」ロンデルが割って入り、アレンに促した。ドラゴンヘッドが噴火すれば、一挙に皆巻き込まれる。
「分かった。ロンデル、皆を無事に村に連れ帰ってね」
「任せろ」
アレンはロンデルの言葉に頷くと、皆から少し離れてトゥルールを呼び出した。
「トゥルール、出てお出で」
アレンの胸から、小さな赤い小鳥が飛び出すと、ホバリングし始める。
「トゥルール、僕を乗せてあの山の頂きまで飛んで欲しいんだ」アレンが煙の出ている山頂を指すと、赤い小鳥は小さく鳴いて空に舞い上がった。
トゥルールは空中で一回転すると、アレン目指して下りて来たがその身体は近付くにつれ大きくなり、皆は慌てて遠くに避けた。
アレンは迷い無くトゥルールの背に乗ると、皆の方に笑顔を向けて手を振った。
「行ってきます」
その言葉が終わると、トゥルールがふわりと羽ばたいて空に舞い上がる。
守護魔獣はゆっくり上昇すると、分かれを告げるかのように皆の上を大きく旋回して、頂上を目指し飛んで行った。
++++++++
やっと体調が戻り、PCの前に帰って来れました。(PCの置いてある部屋が寒くて鼻炎が~~)
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