巫女劇団『Roman house』~あの世と現世の夢を繋ぐ~

真夜中の帰り道

文字の大きさ
5 / 7

⑤朗読劇『マリさんのぶらり坂①』

しおりを挟む
 
 (Scenarioシナリオ  fileファイル   ①)

♢ ♢ ♢ ♢

朗読劇『マリさんのぶらり坂①』

♢ ♢ ♢ ♢

 わたしは坂や階段の多い町に住んでいる。家は西洋風の建物。
 今日も、いつもの1日が始まろうとしている。

「もう起きないと、 学校遅れますよぉ」
「はぁぁぁい」

 わたしがダイニングキッチンに降りていくと、おばあちゃんは朝食の準備をしていた。
 昔のアイドルの歌なんか口ずさんで、今日もご機嫌のようだ。
 今朝のメニューは、フレンチトーストとスクランブルエッグとソーセージとサラダ。それにスープね。
 おばあちゃんは68歳なのに、とにかく気が若い。ほとんど白くなった髪をポニーテールにして、薄いブルーに白い水玉模様のワンピースを着ている。
 足には真っ赤なハイヒール。いくら、西洋風の家の中でも、ハイヒールは珍しいはず。初めて見る人は驚くかもね。
 わたしに気づいたおばあちくゃんが、振り向いた。いつもの満面の笑顔だ。

「おはよう、ヨシコさん」

 そう呼ばれると、ちょっとむず痒《がゆ》い。これにはなかなか慣れないんだよね。

「マリさん、おはよう」

 わたしはおばあちゃんを名前で呼んでいる。本人のリクエストなんだ。
 おばあちゃんの名前は入江真理。最初はやはり、抵抗があった。68歳のおばあちゃんを“マリさん”、なんてね。友達や近所の人に聞かれたら恥ずかしい。
 でも、それはまだいい方で、おばあちゃんから、

「わたしのことを“お姉さん”と呼んで」

 とお願いされたときは、絶対無理だと思った。
 マリさんでいい。ううん、マリさんがいい、てね。
 おばあちゃんは近所の人から、よく若作りだと笑われる。おばあちゃんは気にしていなくて平気そうだけど、わたしは少し気になる。
 若作りって、そんなにいけないこと?
 だって、いつも明るく、笑顔のおばあちゃんは、わたしに元気をくれる。それって、すごいことでしょう。それに、ふたり暮らしだから、感謝もしているんだ、本当に。口には出さないけど。
 でも、わたしも偉そうなことは言えない。以前は、おばあちゃんと一緒にいて、恥ずかしいと思ったこともあるから。

「顔、洗ってらっしゃい」

 おばあちゃんに言われて、わたしは洗面所に入った。
 ここでも、変わっていることがある。鏡がないこと。この家には、鏡どころか、顔が映りそうなものはなにもない。
 例えば、窓もすりガラスだし、テレビの画面にはカーテンがついている。
 10歳の多感な女子には、辛すぎる。
 髪、大丈夫かな? 
 顔になにかついてないかな? 
 服、似合ってるかな? 
 “?”マークがつきまとう。だから、

「ごちそうさまでした。行ってきまぁす」

 外出するときは、いつも早めに家を出る。

 登校途中、わたしには毎日寄る場所がある。すぐ近所にある両親の家だ。それは、半年前から、わたしの日課になった。
 美容院をやっている両親の朝は遅いから、今起きたばかりのようだ。

「パパ、ママ、おはよう」
「おはよう」 

 まだ、眠そうな両親の声を背中越しに聞きながら、そのまま洗面所に入る。そして、念入りに鏡の中の自分と対面するってわけ。
 わたしと両親は、ずっとおばあちゃんと一緒に住んでいた。
 でも、半年前に両親だけが引っ越していった。しかも、すぐ近所に。
 クラスメイトから、よく

「どうして、両親は引っ越したの?」

 とか、

「どうして、親と一緒に暮らさないの?」

 とか聞かれた。
 その度に、困った顔で、

「色々と複雑なのよ」

 なんて、思わせぶりな大人の言い方を真似してみせたっけ。

よめしゅうとめ問題だって」

 近所のおばさんたちの噂話が聞こえてきたこともある。
 確かに、パパはおばあちゃんの実の息子だから、ママはお嫁さんになる。でも、おばあちゃんとママはすごく仲良しだったんだ。少なくとも、1年前までは。
 洗面所を出たわたしは、

「パパ 、ママ、行ってきまぁす」
「いってらっしゃい」

 また、両親の声を背中で聞きながら、飛び出した。

 4年2組の教室に入ると、浅野君がニヤニヤしながら近づいてきた。嫌な予感。

「昨日の、入江のばあちゃんなんだろ?」

 そうか。昨日、おばあちゃんと一緒に歩いているところを見られたんだ。

「あぁいうのを、若作りって言うんだってさ」

 自分で言うのはいいけど、人から聞かされると、やはり傷つく。この年頃の男子は、幼稚なくせに言葉は知っているから、ズバズバ攻撃してくるんだよね。

「気持ち悪ぅ。年を考えろよ、年を」

 悔しい。だけど、言い返せない。だって、半年前までは、わたしもそう思っていたから。今は後悔しているけど……。
 そのときだった。

「あたしはうらやましいけどなぁ」

 みっちゃんだ。

「うちのおばあちゃんなんて、あれはするな、これもするなって説教ばっかり。あんな若いおばあちゃんだったら、色々相談にものってくれそうだしね」
「そうよそうよ」

 みっちゃんのお陰で、女子のほとんどが味方してくれて、いつしか、男子対女子の言い合いになった。口で、男子が女子に勝てるはずないのにね。

「みっちゃん、ありがとう」

 わたしが礼を言うと、みっちゃんは笑顔を返してくれた。
 それでも、懲《こ》りないのが男子だ。

「お前、いつからヨシコになったんだよ? 入江里美だろ」

 浅野君が痛いところをついてきた。
 そう、わたしもずっと、おばあちゃんに言いたかったんだ。

「わたしは孫の里美よ。おばあちゃんの妹のヨシコおばあちゃんじゃないんだから」

 でも、毎日ギリギリのところで、グッと我慢した。だって、おばあちゃんは記憶障害だったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

異世界ファンタジー的短編まとめ

よもぎ
ファンタジー
異世界のファンタジー的短編のまとめです

よくある風景、但しある特殊な国に限る

章槻雅希
ファンタジー
勘違いする入り婿、そしてそれを受けてさらに勘違いする愛人と庶子。そんなお花畑一家を扱き下ろす使用人。使用人の手綱を取りながら、次期当主とその配偶者の生きた教材とする現当主。それをやりすぎにならないうちに収めようと意を痛める役所。 カヌーン魔導王国では、割とよくある光景なのである。 カヌーン魔導王国シリーズにしてしまいました(笑) 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる

葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。

魅了魔法の正しい使い方

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のジュリエンヌは年の離れた妹を見て、自分との扱いの差に愕然とした。家族との交流も薄く、厳しい教育を課される自分。一方妹は我が儘を許され常に母の傍にいて甘やかされている。自分は愛されていないのではないか。そう不安に思うジュリエンヌ。そして、妹が溺愛されるのはもしかしたら魅了魔法が関係しているのではと思いついたジュリエンヌは筆頭魔術師に相談する。すると──。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...