巫女劇団『Roman house』~あの世と現世の夢を繋ぐ~

真夜中の帰り道

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④何故、『Roman house』を尋ねたか?

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 挑戦状が届いてから1週間後、わたしは父に促されて外出した。はがきに記された地図を頼りに、劇団『Romanロマン Houseハウス』がある神社を尋ねたのだ。
 何故、わたしがここに来る羽目になったのかというと……。
 それは、父が珍しく自己主張したからだった。
 中学2年生で母を亡くし、母親代わりの祖母から忘れられたわたしを気遣ってか、それまで父はわたしにはなにも要求しなくなった。
 ところが、劇団『Romanロマン Houseハウス』から挑戦状が届いたあの日は違った。どうしてもこの劇団の朗読劇を見にいくと、父は主張した。 
「じゃ、お父さんひとりで行けばいいじゃない」
 と言ったものの、父は、
「お前も一緒に行くんだ、絶対」
 と譲らなかった。
 面食らったわたしは、素直に疑問をぶつけた。
「どうして、そこまでこの劇団に拘《こだわ》るの?」
「団長の並木知美さんは小児白血病らしいんだ。ある日、発作が起こってあの世とこの世の狭間はざまを彷徨っていたら、お袋が、帰りなさいって助けたらしい。そのときお袋から、俺たち宛のメッセージを預かったって言うんだよ」   
 どう考えても、胡散臭うさんくさい。いい年をして、そんなこともわからないの、と頭の中で一喝したあと、わたしは追求せずにはいられなかった。
「そんなバカバカしい話を信じたの?」
「信じたわけじゃないけどさ、久しぶりにお袋の話ができて、なんていうか、嬉しかったんだよ」
「じゃ、わたしに話せばいいじゃないの」
「お前に話したら、今更って逆ギレするだろ」
「どうしておばあちゃんの話を聞いて怒るのよ!」
「ほら、やっぱり怒ってるじゃないか」
 そんなはずはない、とわたしは反論しようとしたが、声が出なかった。 
 確かに、頭の中で鼓動がドラムのようにドンドン響いていたし、喉もカラカラだった。今から思えば、めまいもしていたような気がする。 
 それが何故なのかわからないから、わたしは今ここにいる。
 もちろん、こんなバカバカしい劇団を信じているわけではない。ただ、父の気が済めばいいと、わたしは思っているだけだった。 
 神社の鳥居のまえで、わたしと同年代の巫女の格好をした若い女性が待ち構えていた。
「まだ、劇団の看板もないんですよ」
 そう微笑んで自己紹介したのが、団長の並木知美だった。年寄りを食い物にしている詐欺グループの女ボスというわたしの想像とはかなり違い、長めの髪を結び、爽やかで好印象だった。
 いやいや、とわたしはすぐに思い直す。善人を装うのが彼らの手口だと思い出し、危ない危ない、と自分に言い聞かせた。
 団長の後ろに立っている女性に気づいたわたしは、ん? と眉間に皺を寄せた。目前の女性二人の顔がそっくりだからだ。
 わたしの疑問はあっさり読まれたのだろう。団長から、双子の妹の愛合めぐりだと紹介があった。確かに顔は似ているが、 妹の方は短めの髪、それ以上にアクティブな印象で 、同じ顔に巫女の格好なのに、双子とは思いづらかった。
 それはともかく、何故か彼女の爽やかさもわたしをがっかりさせた 。
 ある部屋に案内されたわたしたち親子は女団長から説明を受けた。ここは社務所という巫女さんたちの待機する部屋で、今日の上映場所らしい。
 続いて、わたしは音楽担当の山根聡と脚本担当の木戸浩二という男を紹介された。山根はまだ大学1年という初々ういういしい印象が残っていた。一方、木戸という男を見たわたしは、やっと安心することができた。大学4回生の22歳という若さなのに、一癖も二癖もありそうな陰鬱さを漂わせていたからだ。猜疑心さいぎしんが甦り、何故かほっとした。
 わたしたち親子は、スクリーンの前に置かれた椅子に座らされた。
 神社とはいっても今日は他の誰にも会わなかった。やはり怪しい。
 わたしの指は、ポケットの中の携帯電話を握っていた。ワン切りで、知り合いの弁護士が警察に連絡してくれることになっている。
 社務所内のカーテンが閉められ、ライトが消えた。薄暗い中、スクリーンが白く光った。反射する薄い明かりのせいで、隣りに座っている父の横顔が、ぼんやりと見えた。 
 年をとったな、と思う。それは実年齢だけではなく、死んだ母親に会いたいというバカバカしい夢を見ては裏切られ続けたせいなのだ。
 そんな弱みにつけ込もうとしている人が許せない。たとえ詐欺ではなかったとしても、期待を持たせておいて、やはりダメでした、では済まされないのだ。体だけではなく、心の傷に対する抵抗力も衰えているのだから。
 わたしがそんなことを考えているうちに、朗読劇の上映会が始まった。
 スクリーンに題名が表示される。


♢ ♢ ♢ ♢


朗読劇『マリさんのぶらり坂』


♢ ♢ ♢ ♢


 題名からして、駄作のにおいがプンプンする。

 既に、わたしは臨戦態勢に入っていた。
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