巫女劇団『Roman house』~あの世と現世の夢を繋ぐ~

真夜中の帰り道

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③突然の挑戦状

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 いつからだろう。テレビや広告で、“夢”と見聞きする度に、
「押し売りのつもりなの!?」
 と、怒鳴りたい衝動に駆られるようになったのは……。
 夢と言いさえすれば、格好いいと思っているの? バカバカしい。それは魔法でもロマンでもない。現実逃避なのよ。夢を見た分、現実から置いてきぼりをくった浦島太郎になってしまう。
 いつからか、わたしはそう思っていた。
 ところが、1ヶ月前のある日、わたしはバカバカしい夢が奇跡に変わる瞬間に立ち会ってしまった。
 今でも不思議でならない。
 頭はそんなことありえないと嘲笑しているのに、心が奇跡だと言ってきかない。駄々っ子のような心に手を焼いた頭は、仕方なく認めざるを得ないのだろう。
「わかった。そういうことにしてやる。ただし、奇跡は奇跡でも、バカバカしい奇跡だ」と。
 頭の嫌味が心に通じたかどうかはわからない。ただ、そのバカバカしい奇跡のお陰で、わたしが第二の人生をスタートできたのは、まぎれもない事実だ。
 すべては10日前、突然、自宅に届けられた一枚のはがきから始まった。

 ♢ ♢ ♢ ♢

 野間 豊
     様
 野間 香

 ♢ ♢ ♢ ♢

 招待状

 あなたの夢を、素敵なストーリーと音楽で、芝居仕立てで叶えます。
 あなたの劇団『Romanロマン Houseハウス』。

 今回は朗読劇の映像にしました。上映会を行いますので、お越しください。
 会える日を楽しみにしています。

 日時:9月1日 13時から。
 場所:◯◯神社内:劇団『Romanロマン Houseハウス

(詳しくは、下記の地図をご覧くだい。)

       団長 並木知美

 ♢  ♢  ♢  ♢

 それはまだまだ残暑が厳しい日曜日の午前中のことだ。
 居間のテーブル上に置かれたはがきを確認したわたしは、心中で毒づく。
「他人の夢を芝居仕立てで叶えるって!? バカバカしい。そんなことで誰が喜ぶのよ? 大体、そこまでして夢にすがりつかなければならないの。所詮夢は世の中が作り出した幻想よ。騙されないから!」
 わたし自身、血圧の急上昇に気づく。心の中が息苦しい。だから、
「バカにしないで!」
 と、遂に怒鳴ってしまった。
 よりによって、夢を憎む自分の家に送り届けるとは、まるで挑戦状である。
 いや、待って、と考え直す。
 わたしももう18歳。成人だ。こんなダイレクトメールごときに目くじらを立てるのはみっともない。それでは敵の思う壺だ。
 そう思い直したわたしが挑戦状をひねりつぶし、ライターで火あぶりの刑に処す、その直前だった。
「俺が頼んだんだ」
 わたしの手からはがきを奪い取ったのは、父だった。丁寧に、テーブルの上で伸ばし始める。
 ん? とわたしは首を傾げた。
 今まで、父に夢があるなど聞いたことがない。真面目で、堅実な性格だから、夢なんて見ないと思っていた。
 大体、あの手この手の詐欺事件が横行しているというのに、そんな簡単に信じてどうするのよ?
 そこまで心の中で呟いたあと、わたしは遂に口を開いてしまった。
「いくら払ったのよ?」
 つい、責める言い方になってしまう。
 わたしの質問に、え? と不思議そうに振り向いた父も、やっと理解できたのか、
「まだ、劇団を立ち上げる前の準備期間だから、代金はいらないってさ」
 と説明した。
 ”只より高いものはない”という諺を知らないの。
 わたしが心中で毒づいていると、父が、
「そこの女団長さん、並木知美さんっていう大学生なんだけど、実家が神社で、巫女さんとして手伝いながら、神話などを広める劇団をやっているんだってさ。この前わざわざ俺に連絡くれて会ったんだよ」
 と、鼻歌でも口ずさみそうな表情で、はがきを伸ばし続けている。
「彼女から、その劇団を始めると聞いて、俺の夢を叶えて欲しいと頼んだんだ」
「お父さんの夢ってなんなのよ?」
 手を止めた父が、わたしをしっかりと見つめ返す。
「もう一度だけでいいから、お袋に会わせてほしいってさ」
 一瞬、わたしは自分の耳を疑った。
 今、父はなんて言ったの……?
 そんな、まさか。
「バカなこと言わないでよ。いい年して気持ち悪い」
 わたしは思わず怒鳴ってしまった。
 父の言うお袋、つまり、わたしにとっての祖母は、1年前に死んでいたのだ。

 ♢  ♢  ♢  ♢

 わたしが中学2年生のとき母が死んだ。それから、わたしと小学生だった弟は祖母に育てられたようなものだ。
 最初の頃、祖母はとても優しかったのに、わたしが高校に入った頃からおかしくなった。父や弟のことは覚えているのに、孫娘のわたしを思い出せないことが多くなった。
 医者が言うには認知症らしいが、そんな都合のいいことがあるのだろうか?
 医者からは、まだ解明されていないことが多いからなんとも言えないが、あり得ないことではない。祖母にとって、なにか特別な事情があるのかもしれたい、と説明を受けた。だから、話を合わせてほしいと言われ、わたしだけ他人の振りをするしかなかった。
 家族なのに、自分だけが忘れられただけでもショックなのに、もっと最悪なことが起こった。お見舞いに行ったときのことだった。
 祖母がわたしを睨んで、
「悪魔だ。死神があたしを殺しに来た。早く追い出してぇぇぇ……」
 と泣き叫んだときは、悲しいとか辛いとかより、恐怖だった。何に対する恐怖なのかわからないけど、恐くて恐くてたまらなかった。
 その祖母が死んで、1年が経つ。
 その間、わたしはどんどん塞ぎ込むようになった。他人が恐くて外に出られないくせに、父には悪態をつくようにもなった。父も事情をわかっているだけに、何も言わない。それがまた腹立たしくて、ますます口が悪くなる。父のせいではないとわかっているだけに、自己嫌悪。
 それでも、わたしにはどうすることもできなかった。
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