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奉仕型⑧
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そこまでする必要はない。
そう伝えたかったのだが──彼の表情はみるみるうちに絶望の色に染まっていく。
「うそ、だ」
震える声。へたり、と力が抜けたように床に座り込んでしまう。慌てて立ち上がらせようとしたが、俺の言葉が耳に入っていないように、ただ声を発した。
「嫌だ。ごめんなさい、捨てないで、お願い、お願いします、貴方に見放されたら、僕はもう──」
生きていけない。
震える唇から、零れた言葉。それは酷く悲痛な響きを持って。
「僕の命だって、捧げられます! なんでもいいんです、僕にできることは……!!」
「……捨てないよ。見放したりもしないから、落ち着いて」
しゃがみ、背中を一定のリズムで叩く。焦りの色は消えないが、混乱はどうやら落ち着いたようだった。
「あのね。俺は一方的に何かをしてもらう、みたいな関係性じゃなくてさ。もっと、君と対等でいたいよ」
尽くされるというのは、どうも落ち着かない。自分はそれに値する人間ではないと思えてしまって。
「……それ、は……」
「付き合ったりはできないけど──友だちとして一緒にいよう」
微笑んでそう言えば、彼はゆっくりと唇を開く。
「僕がなにかをするんじゃ、なくて。対等、に?」
「そう。友だちってそうでしょ?」
──友だち。小さく繰り返す彼に、俺はまた続けた。
「俺は、君のことをすごいと思ってる。結果だけじゃないよ、努力をいっぱいしてるところも含めてね」
そうだ。もともと彼は図書館でひとりで黙々と勉強をするくらい努力家なんだ。出会ってたった数日しか経っていなくとも、俺はそれを知っている。
目を丸くしたまま。瞬きを忘れたように言葉の続きを待つ彼を、俺は見つめ返す。
「君のことを認めて、尊敬して、褒めるよ。別に、二階堂くんがそうしてって言ったからじゃない──俺がそうしたいんだから」
『僕を、褒めてください』
彼の本音はそれだ。俺が好き、というのも──恐らくは、いくら努力しても、結果を出しても。欲しい反応を返してくれない親の代わりだ。
すごい、と賞賛する相手が見つかったために、ほんの少し依存しそうになっているだけなのだ。努力家である一面とともに、親に認められない懊悩も、悔しさも、断片的ではあるがわかったつもりだ。
「……そんな関係性じゃ、だめかな」
「──い、え。いえ……むしろ、ありがとうございます…………」
鼻をすする音。酷いことを言ってしまっただろうかと狼狽する俺に、「ごめんなさい、嬉しくて」と。二階堂くんが目元を拭う。
あの、と。掠れた声で、おずおずと彼は言葉を発した。
「……先輩さえ良ければ。また、放課後に……どこかに連れて行って、くれますか」
「うーん」
「……っ、すみま、せん。過ぎたことを……」
「そうだね。今はちょっとあれだから──」
にっと笑う。
「テストが全部終わったら、この前言ってたゲーセン行こうよ。約束してたしさ」
「……!! っはい!!」
目尻に浮かんだ涙を拭って、晴れやかに笑う。その笑顔は、いつもよりずっと年相応に見えたもので。そのいじらしさに、俺も微笑んだ。
両親からの重い期待だったり、自分に課してしまうハードルの高さだったりで苦しいときもあるだろうが──自分ができることならば少しでも楽にしてあげたい。彼の友人として、そう思うのだ。
彼が落ち着くまで、俺たちは図書館の床に座り込んで。現状に、顔を見合せて笑うのだった。
「ああ、先輩、先輩……この胸を割いて、脈打つ心臓を捧げたい。貴方のためになんでもしたい……優しくて、温かくて……。……貴方さえ、望めば……」
***
「……じゃ、アイツは特にヤバいやつじゃなかったんだ。文月のこともあったし、心配してた」
「……うーん、まあ……あのゲームに出てきそうな感じではあったけど……」
「じゃあヤベー奴じゃねーかよ!!」
そう伝えたかったのだが──彼の表情はみるみるうちに絶望の色に染まっていく。
「うそ、だ」
震える声。へたり、と力が抜けたように床に座り込んでしまう。慌てて立ち上がらせようとしたが、俺の言葉が耳に入っていないように、ただ声を発した。
「嫌だ。ごめんなさい、捨てないで、お願い、お願いします、貴方に見放されたら、僕はもう──」
生きていけない。
震える唇から、零れた言葉。それは酷く悲痛な響きを持って。
「僕の命だって、捧げられます! なんでもいいんです、僕にできることは……!!」
「……捨てないよ。見放したりもしないから、落ち着いて」
しゃがみ、背中を一定のリズムで叩く。焦りの色は消えないが、混乱はどうやら落ち着いたようだった。
「あのね。俺は一方的に何かをしてもらう、みたいな関係性じゃなくてさ。もっと、君と対等でいたいよ」
尽くされるというのは、どうも落ち着かない。自分はそれに値する人間ではないと思えてしまって。
「……それ、は……」
「付き合ったりはできないけど──友だちとして一緒にいよう」
微笑んでそう言えば、彼はゆっくりと唇を開く。
「僕がなにかをするんじゃ、なくて。対等、に?」
「そう。友だちってそうでしょ?」
──友だち。小さく繰り返す彼に、俺はまた続けた。
「俺は、君のことをすごいと思ってる。結果だけじゃないよ、努力をいっぱいしてるところも含めてね」
そうだ。もともと彼は図書館でひとりで黙々と勉強をするくらい努力家なんだ。出会ってたった数日しか経っていなくとも、俺はそれを知っている。
目を丸くしたまま。瞬きを忘れたように言葉の続きを待つ彼を、俺は見つめ返す。
「君のことを認めて、尊敬して、褒めるよ。別に、二階堂くんがそうしてって言ったからじゃない──俺がそうしたいんだから」
『僕を、褒めてください』
彼の本音はそれだ。俺が好き、というのも──恐らくは、いくら努力しても、結果を出しても。欲しい反応を返してくれない親の代わりだ。
すごい、と賞賛する相手が見つかったために、ほんの少し依存しそうになっているだけなのだ。努力家である一面とともに、親に認められない懊悩も、悔しさも、断片的ではあるがわかったつもりだ。
「……そんな関係性じゃ、だめかな」
「──い、え。いえ……むしろ、ありがとうございます…………」
鼻をすする音。酷いことを言ってしまっただろうかと狼狽する俺に、「ごめんなさい、嬉しくて」と。二階堂くんが目元を拭う。
あの、と。掠れた声で、おずおずと彼は言葉を発した。
「……先輩さえ良ければ。また、放課後に……どこかに連れて行って、くれますか」
「うーん」
「……っ、すみま、せん。過ぎたことを……」
「そうだね。今はちょっとあれだから──」
にっと笑う。
「テストが全部終わったら、この前言ってたゲーセン行こうよ。約束してたしさ」
「……!! っはい!!」
目尻に浮かんだ涙を拭って、晴れやかに笑う。その笑顔は、いつもよりずっと年相応に見えたもので。そのいじらしさに、俺も微笑んだ。
両親からの重い期待だったり、自分に課してしまうハードルの高さだったりで苦しいときもあるだろうが──自分ができることならば少しでも楽にしてあげたい。彼の友人として、そう思うのだ。
彼が落ち着くまで、俺たちは図書館の床に座り込んで。現状に、顔を見合せて笑うのだった。
「ああ、先輩、先輩……この胸を割いて、脈打つ心臓を捧げたい。貴方のためになんでもしたい……優しくて、温かくて……。……貴方さえ、望めば……」
***
「……じゃ、アイツは特にヤバいやつじゃなかったんだ。文月のこともあったし、心配してた」
「……うーん、まあ……あのゲームに出てきそうな感じではあったけど……」
「じゃあヤベー奴じゃねーかよ!!」
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