12 / 26
夏だ!祭りだ!①
しおりを挟む
「こんばんは、茂部くん!」
夜、夏祭りの日。待ち合わせ場所のコンビニで楓真たちを待っていると、明るい声と駆け寄る足音が聞こえてきた。スマホから視線を上げる。
「おー、やっ……ほー……」
目を疑った。浴衣姿のイケメンが三人もこちらに向かってきていたから。数秒経って、ようやくそれが楓真たちなのだと認識できた。心做しか、周りの待ち合わせ目的だろう人たちもざわついているように思える。
「茂部くんも浴衣なんだね! 似合ってるよ!」
「うん、色もすごく合ってる。ね、陽真?」
「……っは、はい。新鮮で……良いと、思います」
「あはは……ありがとう」
彼らが浴衣で来ると言うから、この日のために買ったそれ。陽真くんも訥々と褒めてくれたけれど。横に並ぶのは、すごく、場違いな気がする。「声かけてみる?」「あの人友だちなのかな」なんて声が周りから聞こえる。注目を集めていたのは間違いではなかったらしい。
早いところここを離れた方がいいだろう。この前の海での二の舞になってしまう。
「じゃあ、ええと……行きましょうか」
「うん! 俺すっっごく楽しみにしてたんだ、早く行こ!」
弾んだ声とともに手を取られて、賑やかな通りへ急ぐ。近づくにつれて大きくなる人々の声と、祭囃子の響きの非日常感に──俺も胸が弾んだ。
「うわあ……いろいろある! うう、なにからやろう……!」
「っはは、時間はいっぱいあるから。ゆっくり見てこうよ」
かき氷やお好み焼き、流行りの食べ物に射的やくじ引き。どれもこれも魅力的で、次から次へと目移りしてしまう。ああ、ボタンを押すとキラキラ光る棒なんかも童心が擽られる。後で要らなくなる予感がするから、理性を総動員させて欲を抑えた。
「……僕、チョコバナナ食べたいです」
「ふふ、陽、ほんと甘いもの好きだね」
おずおずと陽真くんが言う横で、優真さんが愛おしそうに笑う。甘いものが好きなんだ、意外だ。……かわいい、と口走りそうになった言葉を引っ込める。
「いいね。俺も食べようかな」
「……茂部さんも、好きなんですか」
「うん。お菓子とか、人並みに好きだよ」
「…………へえ」
興味無さそう!!
素っ気ない返答に頭を抱えそうになる。……だが、前よりはずっと慣れた。相変わらずの反応に、苦笑する。こうして笑えるほどには、陽真くんという人を理解できるようになった。俺たちの関係も、少しづつだが変化が生じてきたように思う。
「じゃあ、卵焼きのお礼に今度チョコでも作ろ──」
「俺が見てる前で作って。茂部くんの口に入るものだから、さすがに監視するよ」
「信用無さすぎじゃない?」
容赦のない楓真の言葉と、傷ついたような優真さんの声。兄弟の応酬に、笑ってしまう。そんな話をしていればすぐに順番は来て、結局俺たちは皆してチョコバナナを頬張った。
「んー、うま!」
「うん、美味しいね」
「久々に食べたなあ、おいしー!」
「……おいしい」
一口かじって、へにゃ、と陽真くんが笑う。本当に甘いものが好きなのだろう、普段は見れないほどに柔らかい笑顔だった。
ふと、気づく。相好を崩した彼の口端に、チョコが付いていて。
「付いてる、よ…………」
楓真にするように、俺はいつもの習慣で。それを指先で掬って、自分の口に運んだ。運んでしまった。
「……大胆だね、茂部くん?」
「~~~~~~ッッ!! な、なにしてるんですかッ!!」
優真さんの含みのある言い方に背筋が凍った。陽真くんが顔を真っ赤にして怒る。当たり前だ。さすがに気持ちが悪すぎた。苦手な相手にそんなことをされれば尚更だろう。
「すみません本当にすみません!! いつもの──」
癖で、という言葉を飲み込む。あ、殺される。夏、肌にまとわりつく暑いはずの空気が、一気に何度も温度が下がったように思えた。
「……なるほどね。そっか、へえ……」
「あはは、いつも俺顔に付けたの取ってもらうもんね」
楓真やめてくれ!!!
優真さんはもう察していたようだが、トドメが刺された。照れたように笑う楓真を、信じられないものを見る顔で陽真くんが見つめる。言葉を失っているらしい。本当にごめん。もうしないので許して欲しい。
「じゃ、食べ終わったら向こうの店も見ようよ!」
微妙になってしまった空気を、楓真が変える──までは行かなくとも、濁してくれた。意図してはないだろうが、その場はなんとか収まった、ように思えた。
なんだか、今日は特にまずい気がする。なにがかはわからないが、なにかとんでもないことが起きる予感がする。収まらない胸騒ぎに、小さく息を飲んだ。
夜、夏祭りの日。待ち合わせ場所のコンビニで楓真たちを待っていると、明るい声と駆け寄る足音が聞こえてきた。スマホから視線を上げる。
「おー、やっ……ほー……」
目を疑った。浴衣姿のイケメンが三人もこちらに向かってきていたから。数秒経って、ようやくそれが楓真たちなのだと認識できた。心做しか、周りの待ち合わせ目的だろう人たちもざわついているように思える。
「茂部くんも浴衣なんだね! 似合ってるよ!」
「うん、色もすごく合ってる。ね、陽真?」
「……っは、はい。新鮮で……良いと、思います」
「あはは……ありがとう」
彼らが浴衣で来ると言うから、この日のために買ったそれ。陽真くんも訥々と褒めてくれたけれど。横に並ぶのは、すごく、場違いな気がする。「声かけてみる?」「あの人友だちなのかな」なんて声が周りから聞こえる。注目を集めていたのは間違いではなかったらしい。
早いところここを離れた方がいいだろう。この前の海での二の舞になってしまう。
「じゃあ、ええと……行きましょうか」
「うん! 俺すっっごく楽しみにしてたんだ、早く行こ!」
弾んだ声とともに手を取られて、賑やかな通りへ急ぐ。近づくにつれて大きくなる人々の声と、祭囃子の響きの非日常感に──俺も胸が弾んだ。
「うわあ……いろいろある! うう、なにからやろう……!」
「っはは、時間はいっぱいあるから。ゆっくり見てこうよ」
かき氷やお好み焼き、流行りの食べ物に射的やくじ引き。どれもこれも魅力的で、次から次へと目移りしてしまう。ああ、ボタンを押すとキラキラ光る棒なんかも童心が擽られる。後で要らなくなる予感がするから、理性を総動員させて欲を抑えた。
「……僕、チョコバナナ食べたいです」
「ふふ、陽、ほんと甘いもの好きだね」
おずおずと陽真くんが言う横で、優真さんが愛おしそうに笑う。甘いものが好きなんだ、意外だ。……かわいい、と口走りそうになった言葉を引っ込める。
「いいね。俺も食べようかな」
「……茂部さんも、好きなんですか」
「うん。お菓子とか、人並みに好きだよ」
「…………へえ」
興味無さそう!!
素っ気ない返答に頭を抱えそうになる。……だが、前よりはずっと慣れた。相変わらずの反応に、苦笑する。こうして笑えるほどには、陽真くんという人を理解できるようになった。俺たちの関係も、少しづつだが変化が生じてきたように思う。
「じゃあ、卵焼きのお礼に今度チョコでも作ろ──」
「俺が見てる前で作って。茂部くんの口に入るものだから、さすがに監視するよ」
「信用無さすぎじゃない?」
容赦のない楓真の言葉と、傷ついたような優真さんの声。兄弟の応酬に、笑ってしまう。そんな話をしていればすぐに順番は来て、結局俺たちは皆してチョコバナナを頬張った。
「んー、うま!」
「うん、美味しいね」
「久々に食べたなあ、おいしー!」
「……おいしい」
一口かじって、へにゃ、と陽真くんが笑う。本当に甘いものが好きなのだろう、普段は見れないほどに柔らかい笑顔だった。
ふと、気づく。相好を崩した彼の口端に、チョコが付いていて。
「付いてる、よ…………」
楓真にするように、俺はいつもの習慣で。それを指先で掬って、自分の口に運んだ。運んでしまった。
「……大胆だね、茂部くん?」
「~~~~~~ッッ!! な、なにしてるんですかッ!!」
優真さんの含みのある言い方に背筋が凍った。陽真くんが顔を真っ赤にして怒る。当たり前だ。さすがに気持ちが悪すぎた。苦手な相手にそんなことをされれば尚更だろう。
「すみません本当にすみません!! いつもの──」
癖で、という言葉を飲み込む。あ、殺される。夏、肌にまとわりつく暑いはずの空気が、一気に何度も温度が下がったように思えた。
「……なるほどね。そっか、へえ……」
「あはは、いつも俺顔に付けたの取ってもらうもんね」
楓真やめてくれ!!!
優真さんはもう察していたようだが、トドメが刺された。照れたように笑う楓真を、信じられないものを見る顔で陽真くんが見つめる。言葉を失っているらしい。本当にごめん。もうしないので許して欲しい。
「じゃ、食べ終わったら向こうの店も見ようよ!」
微妙になってしまった空気を、楓真が変える──までは行かなくとも、濁してくれた。意図してはないだろうが、その場はなんとか収まった、ように思えた。
なんだか、今日は特にまずい気がする。なにがかはわからないが、なにかとんでもないことが起きる予感がする。収まらない胸騒ぎに、小さく息を飲んだ。
468
あなたにおすすめの小説
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる
水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。
「君のすべては、俺が管理する」
戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。
これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる