13 / 26
夏だ!祭りだ!②
しおりを挟む
あ。
短く声を発すると、優真さんがひとつの店を指さす。子どもたちが何人も集まっているそこは、射的の屋台だった。
「射的あるよ。やる?」
「やる! 茂部くんもやらない?」
「楽しそうだけど、俺こういうの苦手なんだよな……」
そもそも的に当たらないのだ。前に一度だけ挑戦したことがある。しかし目測が相当下手なのかセンスがないのか、見当違いな方向へ弾が飛んでしまい、大恥をかいた。
「ふふ、なら俺がサポートするよ。陽は?」
「僕は見てるだけで十分です」
どうやら優真さんは俺の手伝いをしてくれるらしい。なんだろう。一緒に同じ的を打ってくれる、とかだろうか。
そんなことを話していると、肌の焼けた快活そうな店主が話しかけてきた。
「いらっしゃい! 随分イケメンの兄ちゃんたちが来たね、三人で挑戦する感じかな?」
「いえ、ふたりで。俺はこの子の手伝いをするので」
ふたりぶんの料金を店主へと渡す。あまりに自然な動作に、目を瞬く。
「え、お金……!」
「俺が無理矢理やらせるようなものだし。……ああ、ええとほら。可愛い弟の前だし、いいカッコさせてよ」
なるほど。それなら、納得する。だが、楓真が形容しがたい感情を浮かべた瞳をこちらに向けているのは、何故だろう。自分の兄のブラコン加減になんとも言えなくなっているのだろうか。
手渡される銃は思ったよりも重い。レバーを引き、コルクの弾を詰める。さて、どうしたものか。
うろ、と景品へ視線を迷わせていると優真さんが楽しそうな声色で聞いてきた。
「何が欲しい?」
「うーん……」
ゲームソフトなんかは、嘘か誠かはわからないが固定されてるなんて話も聞くし。そうでなくともコルクでは倒す力が足りなさそうだ。はなから取れないものを狙ってしまえば、せっかく優真さんが出してくれたお金も無駄になるだろう。
「あそこのお菓子とか? 俺、あれ結構好きで」
「うん、わかった。じゃあ構えてみてよ」
よくわからないがそれらしい体勢で銃を構えたとき、後ろから片手が添えられた。どうサポートしてくれるのかと思ったが、こういう形だったのか。
……待て、後ろから?
「力、抜いて」
無理だ。重ねられた手に、緊張から体がこわばる。彼が誘導するまま、標的へと銃が向けられた。
「うん、そのまま……」
低い声が、耳元で聞こえる。これが彼に惚れている女子なら歓喜で卒倒したのだろうが、俺は別の意味で卒倒しそうだ。なんだ。本当に何が起きているのだ、この状況は。
狙う時間が嫌にゆっくりに感じられた。もはやこれは永遠に続くのか、と思ってしまうほどに。冷や汗が垂れる。手が震えそうだ。彼の吐息がすぐそばで聞こえて、頭がおかしくなりそうなそのときだった。
「ここ。引いて」
ぱん。
不意に発されたひとこと。従うままにトリガーを引いていた。小気味よい音とともに、呆気なく菓子が射抜かれる。恐ろしい程、的確に。ぽとりと落ちた菓子が、俺の姿と何故か重なって見えた。まさか、調子に乗るとお前もこうなるぞという警告だろうか。……考えすぎであることを祈るしかない。
「あ、ありがとう、ございます……」
硬い声でなんとか礼を言う。
やけに楽しそうな笑い声が、また耳元で聞こえる。的に当たってご満悦なのだろうか。
「……うん。ふふ……今日は特に調子がいいから、なんでも当たる気がするな」
そうだ。なんでもというひと言にも、なにか深い意味があるように聞こえるのは、俺の気のせい。考えすぎ。うん、気のせいなんだよな。彼が銃を所持していないことを祈ろう。
「──さ、次は何が欲しい?」
重ねられた手に、僅かにまた力が篭もる。……まだ、球が残っていることを忘れていた。おれの心臓は、果たして最後まで持つだろうか。
それから。どうしても拭いきれなかった死への恐怖がぐるぐると頭の中を回ってしまって、それからのことはあまりよく覚えていない。
「兄ちゃん上手いね! ここ潰す気かい、ははは!!」
「わー! ふたりともすっごい! 俺ちょっとくらいしかお菓子とれなかった……」
「いや……ほとんど、っていうか全部優真さんのおかげかな……」
「茂部さん、途中放心してませんでした?」
図星だ。陽真くんの言葉に曖昧に頷く。
気づけば、俺は腕の中で菓子の山を築いていた。優真さんが才能を発揮し、百発百中で目的を射抜いていたらしい。
「……ね、茂部くん。俺かっこよかった?」
後ろから離れた優真さんが、顔を覗き込むようにして聞いてくる。俺──というよりは、弟からどう見えたか気になっているのだろうか。
彼の射撃の腕が恐ろしくはあったが──男としては、正直憧れるものがある。めちゃくちゃ格好いい。俺も迷いなく引き金を引いて、なんてことない顔で的を撃ってみたい。
「はい。あんな撃てるの、正直憧れます。……楓真もきっと、格好良かったと思ってますよ」
「…………そっか、かっこよかったんだ。ふふ、よかった」
嬉しそうに彼が笑う。あとは、そのターゲットが俺にならないことをあとは祈るばかりだ。
菓子は食べきれないので、陽真くんにチョコなどの甘いものを少し分けた。喜色がわかりやすく現れて可愛かった。
短く声を発すると、優真さんがひとつの店を指さす。子どもたちが何人も集まっているそこは、射的の屋台だった。
「射的あるよ。やる?」
「やる! 茂部くんもやらない?」
「楽しそうだけど、俺こういうの苦手なんだよな……」
そもそも的に当たらないのだ。前に一度だけ挑戦したことがある。しかし目測が相当下手なのかセンスがないのか、見当違いな方向へ弾が飛んでしまい、大恥をかいた。
「ふふ、なら俺がサポートするよ。陽は?」
「僕は見てるだけで十分です」
どうやら優真さんは俺の手伝いをしてくれるらしい。なんだろう。一緒に同じ的を打ってくれる、とかだろうか。
そんなことを話していると、肌の焼けた快活そうな店主が話しかけてきた。
「いらっしゃい! 随分イケメンの兄ちゃんたちが来たね、三人で挑戦する感じかな?」
「いえ、ふたりで。俺はこの子の手伝いをするので」
ふたりぶんの料金を店主へと渡す。あまりに自然な動作に、目を瞬く。
「え、お金……!」
「俺が無理矢理やらせるようなものだし。……ああ、ええとほら。可愛い弟の前だし、いいカッコさせてよ」
なるほど。それなら、納得する。だが、楓真が形容しがたい感情を浮かべた瞳をこちらに向けているのは、何故だろう。自分の兄のブラコン加減になんとも言えなくなっているのだろうか。
手渡される銃は思ったよりも重い。レバーを引き、コルクの弾を詰める。さて、どうしたものか。
うろ、と景品へ視線を迷わせていると優真さんが楽しそうな声色で聞いてきた。
「何が欲しい?」
「うーん……」
ゲームソフトなんかは、嘘か誠かはわからないが固定されてるなんて話も聞くし。そうでなくともコルクでは倒す力が足りなさそうだ。はなから取れないものを狙ってしまえば、せっかく優真さんが出してくれたお金も無駄になるだろう。
「あそこのお菓子とか? 俺、あれ結構好きで」
「うん、わかった。じゃあ構えてみてよ」
よくわからないがそれらしい体勢で銃を構えたとき、後ろから片手が添えられた。どうサポートしてくれるのかと思ったが、こういう形だったのか。
……待て、後ろから?
「力、抜いて」
無理だ。重ねられた手に、緊張から体がこわばる。彼が誘導するまま、標的へと銃が向けられた。
「うん、そのまま……」
低い声が、耳元で聞こえる。これが彼に惚れている女子なら歓喜で卒倒したのだろうが、俺は別の意味で卒倒しそうだ。なんだ。本当に何が起きているのだ、この状況は。
狙う時間が嫌にゆっくりに感じられた。もはやこれは永遠に続くのか、と思ってしまうほどに。冷や汗が垂れる。手が震えそうだ。彼の吐息がすぐそばで聞こえて、頭がおかしくなりそうなそのときだった。
「ここ。引いて」
ぱん。
不意に発されたひとこと。従うままにトリガーを引いていた。小気味よい音とともに、呆気なく菓子が射抜かれる。恐ろしい程、的確に。ぽとりと落ちた菓子が、俺の姿と何故か重なって見えた。まさか、調子に乗るとお前もこうなるぞという警告だろうか。……考えすぎであることを祈るしかない。
「あ、ありがとう、ございます……」
硬い声でなんとか礼を言う。
やけに楽しそうな笑い声が、また耳元で聞こえる。的に当たってご満悦なのだろうか。
「……うん。ふふ……今日は特に調子がいいから、なんでも当たる気がするな」
そうだ。なんでもというひと言にも、なにか深い意味があるように聞こえるのは、俺の気のせい。考えすぎ。うん、気のせいなんだよな。彼が銃を所持していないことを祈ろう。
「──さ、次は何が欲しい?」
重ねられた手に、僅かにまた力が篭もる。……まだ、球が残っていることを忘れていた。おれの心臓は、果たして最後まで持つだろうか。
それから。どうしても拭いきれなかった死への恐怖がぐるぐると頭の中を回ってしまって、それからのことはあまりよく覚えていない。
「兄ちゃん上手いね! ここ潰す気かい、ははは!!」
「わー! ふたりともすっごい! 俺ちょっとくらいしかお菓子とれなかった……」
「いや……ほとんど、っていうか全部優真さんのおかげかな……」
「茂部さん、途中放心してませんでした?」
図星だ。陽真くんの言葉に曖昧に頷く。
気づけば、俺は腕の中で菓子の山を築いていた。優真さんが才能を発揮し、百発百中で目的を射抜いていたらしい。
「……ね、茂部くん。俺かっこよかった?」
後ろから離れた優真さんが、顔を覗き込むようにして聞いてくる。俺──というよりは、弟からどう見えたか気になっているのだろうか。
彼の射撃の腕が恐ろしくはあったが──男としては、正直憧れるものがある。めちゃくちゃ格好いい。俺も迷いなく引き金を引いて、なんてことない顔で的を撃ってみたい。
「はい。あんな撃てるの、正直憧れます。……楓真もきっと、格好良かったと思ってますよ」
「…………そっか、かっこよかったんだ。ふふ、よかった」
嬉しそうに彼が笑う。あとは、そのターゲットが俺にならないことをあとは祈るばかりだ。
菓子は食べきれないので、陽真くんにチョコなどの甘いものを少し分けた。喜色がわかりやすく現れて可愛かった。
461
あなたにおすすめの小説
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる
水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。
「君のすべては、俺が管理する」
戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。
これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール
雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け
《あらすじ》
4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。
そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。
平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる