スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)

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必然──ダークエルフの青年①

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「ロイ、おーい、ロイー……?」


 しまった。完璧に、はぐれた。


 王都は珍しいものばかりで、街で売っているものも豪華だがより華々しく映る。足を止めたのは、アクセサリーを売る店の前。右手の指に着けたロイから友情の証として送られた指輪。……その日のことを思い返して、様々な思い出と感傷に浸っている間に。

 俺は、見事にロイを見失った。アホすぎる。

 小学生だってもっとマシな理由で迷子になるだろ。自分の馬鹿さ加減に頭を抱えていると──「ああ!」と弾んだ声がどこかから聞こえた。そちらを見れば、男性が、こちらを見ている──ような。

 柔和な雰囲気を醸し出す男性は、喜色を満面に浮かべながら駆けてくる。褐色の肌に尖ったような耳、そしてさらりと靡く長く艶やかな金髪。後ろを振り向いても誰もいない。


「ああ、ああ! やっと会えた、私の可愛い子!」


 言い終わらないうちに強く抱きしめられる。柔らかい衝撃に目を瞑った。頭は疑問符でいっぱいだ。
 可愛い子? 俺が? ……いや、まさか。混乱でぐちゃぐちゃになりそうな思考をなんとか働かせて、口を開く。

「あの……すみません、ええと……人違いじゃないですか?」



「ううん、合ってるよ。──悠斗」



 愛おしげに名を呼ぶ甘い声。その響きに体が固まった。紛れもない、俺の名だ。

「……魔力もスキルもないんでしょう。唯一無二の存在だ、間違えようもないよ。……ああ、『鑑定』を使ったわけじゃないからね」

 恐らく、嘘ではない。そんな嘘をつくメリットが考えつかないからだ。スキルのためではないなら、なぜそれを知っているのだろう。どこかで聞いたのか。あまり他人には言わないようにしているはずなのに。

「それにしても、本当に魔力を感じない! なんて非力なんだろう!」

 非力。彼の言葉に少しだけ胸を抉られる。黙りこくる俺に構うことなく、彼は声を弾ませ、腕に篭もる力が強くなった。

「ああ、可愛い……大丈夫だよ、力が無くても守ってあげるからね」

 うっとりとしたその言い方は、まるで大切で仕方がない恋人へ睦言を囁くようで。それでありながら、無力な愛玩動物を慈しむようでもあり。
 底の知れぬ気味の悪さに、考えるよりも先に口を開いていた。

「……俺は、ただ守られるのは嫌です」

「ううん、そこも可愛いなぁ。ふふ、意志が強いのも魅力的だ」

 胸板を軽く押す。想像よりもあっさりと腕は離され、微笑を湛えたまま彼が俺を見下ろした。


「貴方、"俺"を見てないでしょう」


 魔力が無い。非力。きっと、この人は自分より力がないから俺に構うのだ。極端な話、魔力やスキルが無ければ誰だって良いのだろう。もしも他に同じ境遇の者がいればそちらに行くはずだ。

 眉を寄せて吐き捨てれば、彼はただ、数秒面食らったような様子を見せ。



「見てるよ。だって君がこの世界に来る前から知ってたから」




 そう、きょとんとした顔で事も無げに言ったのだ。
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