スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)

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これからのこと

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「ユウト!! どこにいたんだ、無事だったか!?」

「わあっ」

 元の場所に戻るや否や──どこからかロイが駆けてきて、肩を掴まれた。その勢いに、素っ頓狂な声が出る。大丈夫だよ、と返せば、硬い表情には安堵が宿り──また、険しいものになる。
 後ろにいた、双子たちに視線を向けて。

「初めまして。ロイくんだよね?」

「……貴方たちは」

 じろ、と相手を見定める。警戒する野良猫のようなその態度に、エーベルさんはふふ、と笑い声を漏らした。



「私はエーベル、こっちは弟のリュディガー。ユウトとの関係は……うーん、キスするくらいの仲?」



「…………は?」



 何故かロイが、剣の柄に手をかけた。

「ちょっとロイどうしたの!? やめてやめてマジで!!」

 手には青筋が浮かんでいる。表情が抜け落ちたような顔のまま、ふたりを見つめる彼に焦りと寒気がした。

「あれ。あはは、まずいこと言っちゃった?」

「ああ、間違いなく言ったな。言葉選びを間違えすぎだ」

 慌てる俺には構いもせず、エーベルさんとリュディガーさんは動揺を見せる素振りもなく平常運転で。
 ロイの腕を抑えながら、俺はと言うと──

「説明! とりあえず、今までのこと説明するから落ち着いて、な!?」

 裏返る間抜けな声で、相棒を宥めることしかできなかったのだ。


 ***


「……ってことで、帰れなくなっちゃった。へへ」

「……それ、は……」

 愕然とした表情で、手で口を押え。ロイは言葉を失っているようだった。それもそうだろう。旅の目的でもあった、元の世界に帰る方法はもう無いのだと判明してしまったのだから。

「……最初のこと、覚えてる? 俺、帰る方法を探すために旅してたんだけどさ、」

「……ああ」

 重々しく、ロイは頷いた。真っ赤な瞳が、痛々しげに伏せられて。

「……俺、まだロイと旅したいんだ。ロイさえよければ、もう少し冒険に付き合ってくれないかな」

「は……」

 ばっ、と、顔があげられる。
 ほんの少しの勇気を振り絞って告げた言葉。それを受け入れてくれるかどうか、なんだか怖くなってしまって。視線から逃げるように、俺は顔を伏せた。

「……むしろ、こちらが聞きたかったんだ。目的を見失ったお前が、俺と共に居てくれる、のか……」

 歓喜に震える声。ロイの方を見れば、信じられないというように、目を見開いて。

「うん。だって元々、ロイと冒険がしたかったから」

「ッユウト!」

 がばりと抱きしめられ。その力強さと温かさに、いつの間にか空いていた胸の穴が埋められた感覚があった。
 ああ。俺は、ここにいてもいいのだ。そう、思えた。

「で。これからのことなんだけど、君たちについていくからよろしくね!」

「……ん、え!? ま、まって、聞いてないです!!」

「言ってないからな」

 淡々と告げられるそれに、ロイと顔を見合わせる。
 俺の一存では決められない。それに、友人とはいえ危険な目に遭わせるのもそれは重い責任が伴う。彼らは沢山のスキルや魔力をがあるとはいえ、怪我だってする。痛みだって感じる。もし自分たちに付き合わせて、それで命を落としたら。

 胸に生まれる恐ろしい可能性に、どうしたものかと頭を悩ませていれば。

 くい、と服の端が引かれる。見上げれば、リュディガーさんが寂しそうな顔で言うのだ。

「……駄目か? 悠斗と友人になれて、嬉しかったんだ。共に旅ができたら、もっと楽しいだろうと思ったんだが……」

 う。
 
 リュディガーさんが、捨てられた子犬のような表情で俺を見下ろす。逞しい印象を与えるそのギャップと、縋るような響きに胸が痛くなる。

「うん……言ったよね。私たち、愛に飢えてるって。人との繋がりが恋しくて、仕方ないから……」

 うる、と綺麗な瞳が潤み始めていた。つうと頬を伝う一筋の線に、とうとう良心が爆散した。

「……ロイ~……」

「……わかった。メンバーは多い方が心強いしな」

「あはっ、ありがとね!」

「感謝する」

 え。

 まさか、今のは演技、なのか。
 口を挟む暇もなく、きゃいきゃいはしゃぐ双子を目の前に、呆れて笑う。
 再び始まる冒険と、これから迎えるだろう沢山の出会いを期待し、俺は決意を新たにした。



 ***



「……あはは、ね、ロイくん。あのとき──嬉しかったでしょ?」

「……あのとき、というのは? 共に旅をしたいという言葉なら、素直に嬉しかったが」

「隠さなくてもいい」

 双子は笑う。見透かすようなその視線が、ロイには酷く居心地の悪いものに思えた。

「──帰れないってわかったときだよ」

 エーベルが、透き通る声で言う。否定は、できなかった。
 だって自分はあのとき。切実な顔で、泣きそうな笑顔で告げられた残酷な真実に。隠した口元は──確かに、弧を描いていたのだから。もう、これで離れることはない。共にいられるのだと、安堵したのだから。

 何も言えないロイに、双子はよりいっそう笑みを深くした。

「ふふ、ねえ。私たち、仲間になるんだから……悠斗のこと、一緒に幸せにしてあげようね」

「…………キスをしたことは、許していないからな」

「……まだ根に持っていたのか。互いの額にしただけだ、許せ」
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