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理由
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「……で?」
正座をするクルエルさんを、クレッシタさんが高圧的に見下ろす。騎士の風格というか、いつもの接しやすい空気とは全く違い、見ているこちらも身が引き締まるようだった。
「……世界を征服したかった」
「は? わり、もう一回聞くわ。なんて?」
「世界を征服したかった」
そういえば、世界がひれ伏す様を──と言っていた。心做しか小さく見える。彼の後ろでは、ケルベロスも小さくなって座り、尾を縮こまらせていた。かわいい。
クレッシタさんが、呆れたように大きなため息をつく。
「……他に誰か誘拐したやつはいんのか」
「いない。その男が初めてだ」
「ええと、俺のこと素材って言ってたのは……」
「……希少な存在の髪とか使って触媒にしたら、強い力が得られるって魔導書に書いてあって……」
子どもが怒られているときのような声色だ。喋り口も訥々としていて、視線はうろついている。
異世界の人間なんて、確かに素材としては十分に思えるだろう。……素材の張本人としては、何の効果も無いと思うけど。
あと、と付け足すと。なんだか憎めないそのリーダーは、頬を僅かに赤く染めて口を開いた。
「一目惚れした……」
「えっ」
「は!?」
俺の声と重なったクレッシタさんの声が裏返る。一目惚れ、って言ったのか。今。
「小動物のようで、愛らしくて……」
え、ペットみたいに見られてる?
「生涯共に居て欲しい、死が訪れた後も冥界にふたりでいたい、」
「重いしこええよ!」
「うわあ。ドン引きですね、ユウトさん?」
「お前が言えたことではないだろう」
結構、重たい。恋愛感情というよりも──愛玩動物へ向けた目のような気もする。それと、依存もあるだろうか。俯いて、彼はまた言葉を続けた。
「……我を見て、愛して欲しい……」
彼がどうしてこんな蛮行をしてしまったのか、その経緯はわからないけれど。あまりにも、捨てられた子犬のような顔をするから。
「……そんな顔しないでください」
止血された手で、彼の頭を撫でる。体躯は俺よりもずっと大きいのに、小さな子どもを相手にしている気分だ。
はぇ、なんて間の抜けた声が彼の口から漏れた。
「ね、クルエルさん。俺のこと、どんな人間かはあんまり知らないでしょう? そんな人と一緒に居ても、楽しくないかもしれないですよ」
「……それは、これから貴様のことを知っていければ……」
「じゃあ、それでもし嫌いなタイプだったら捨ててましたか?」
「す、捨てない。連れていった責任は持つ!」
きっ、と目付きを鋭くして俺の目を見上げる。その声には、ムキになって反論する幼子のような響きがあった。
「そっか、偉いですね。でも義務感で傍に居ても、お互い幸せになりませんよね?」
「……ああ……」
顔を覗き込めば、こくりと小さく頷く。
素直だ。話せばわかってくれるあたり、思った通り根っこは悪い人間ではないようだ。彼の心からの願望は、見て、愛して欲しいこと。なんて純粋な願いだろう。
だけど、相手のことを知りもしないのに近くにいられるほど、俺は楽観的な人間ではないのだ。
「……だから、何も知らない貴方の傍には居られない」
言い切る。鋭い印象を与える双眸は、今ではその影は残っていない。瞳が潤んで、今にも堰を切ったように涙が零れ落ちてしまいそうだった。
──でもね。
口にすると、目を僅かに見開いた。
彼の目を真っ直ぐ見つめる。俺の瞳に、彼以外が映らないほどに。
「俺は、貴方のことを知りたいんです。まずは、お友だちから始めませんか」
「とも、だち……。友だち……!」
瞳が輝いていく。やっぱり、子どもみたいだ。主人の感情の機微を読み取ったらしいケルベロスも、垂れていた耳がぴんと張った。
「君もね。仲良くして欲しいな」
濡れ羽色の毛を撫でる。嫌がってはいないようだ。尾が嬉しそうに揺れていた。
正座をするクルエルさんを、クレッシタさんが高圧的に見下ろす。騎士の風格というか、いつもの接しやすい空気とは全く違い、見ているこちらも身が引き締まるようだった。
「……世界を征服したかった」
「は? わり、もう一回聞くわ。なんて?」
「世界を征服したかった」
そういえば、世界がひれ伏す様を──と言っていた。心做しか小さく見える。彼の後ろでは、ケルベロスも小さくなって座り、尾を縮こまらせていた。かわいい。
クレッシタさんが、呆れたように大きなため息をつく。
「……他に誰か誘拐したやつはいんのか」
「いない。その男が初めてだ」
「ええと、俺のこと素材って言ってたのは……」
「……希少な存在の髪とか使って触媒にしたら、強い力が得られるって魔導書に書いてあって……」
子どもが怒られているときのような声色だ。喋り口も訥々としていて、視線はうろついている。
異世界の人間なんて、確かに素材としては十分に思えるだろう。……素材の張本人としては、何の効果も無いと思うけど。
あと、と付け足すと。なんだか憎めないそのリーダーは、頬を僅かに赤く染めて口を開いた。
「一目惚れした……」
「えっ」
「は!?」
俺の声と重なったクレッシタさんの声が裏返る。一目惚れ、って言ったのか。今。
「小動物のようで、愛らしくて……」
え、ペットみたいに見られてる?
「生涯共に居て欲しい、死が訪れた後も冥界にふたりでいたい、」
「重いしこええよ!」
「うわあ。ドン引きですね、ユウトさん?」
「お前が言えたことではないだろう」
結構、重たい。恋愛感情というよりも──愛玩動物へ向けた目のような気もする。それと、依存もあるだろうか。俯いて、彼はまた言葉を続けた。
「……我を見て、愛して欲しい……」
彼がどうしてこんな蛮行をしてしまったのか、その経緯はわからないけれど。あまりにも、捨てられた子犬のような顔をするから。
「……そんな顔しないでください」
止血された手で、彼の頭を撫でる。体躯は俺よりもずっと大きいのに、小さな子どもを相手にしている気分だ。
はぇ、なんて間の抜けた声が彼の口から漏れた。
「ね、クルエルさん。俺のこと、どんな人間かはあんまり知らないでしょう? そんな人と一緒に居ても、楽しくないかもしれないですよ」
「……それは、これから貴様のことを知っていければ……」
「じゃあ、それでもし嫌いなタイプだったら捨ててましたか?」
「す、捨てない。連れていった責任は持つ!」
きっ、と目付きを鋭くして俺の目を見上げる。その声には、ムキになって反論する幼子のような響きがあった。
「そっか、偉いですね。でも義務感で傍に居ても、お互い幸せになりませんよね?」
「……ああ……」
顔を覗き込めば、こくりと小さく頷く。
素直だ。話せばわかってくれるあたり、思った通り根っこは悪い人間ではないようだ。彼の心からの願望は、見て、愛して欲しいこと。なんて純粋な願いだろう。
だけど、相手のことを知りもしないのに近くにいられるほど、俺は楽観的な人間ではないのだ。
「……だから、何も知らない貴方の傍には居られない」
言い切る。鋭い印象を与える双眸は、今ではその影は残っていない。瞳が潤んで、今にも堰を切ったように涙が零れ落ちてしまいそうだった。
──でもね。
口にすると、目を僅かに見開いた。
彼の目を真っ直ぐ見つめる。俺の瞳に、彼以外が映らないほどに。
「俺は、貴方のことを知りたいんです。まずは、お友だちから始めませんか」
「とも、だち……。友だち……!」
瞳が輝いていく。やっぱり、子どもみたいだ。主人の感情の機微を読み取ったらしいケルベロスも、垂れていた耳がぴんと張った。
「君もね。仲良くして欲しいな」
濡れ羽色の毛を撫でる。嫌がってはいないようだ。尾が嬉しそうに揺れていた。
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