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^!^!愛と別れ
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「vivi、あのさ…」
上手く言葉が出てこない。言いたいことは、いつも伝わるわけじゃない。100点満点の言葉なんてあるんだろうか。僕はいつもそう思うばかりである。
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもないや…」
(どうして、でてこない。ずっと一緒にいたのに。
どうして、でてこない。たった5文字のおまじないみたいなものなのに。)
伝えたい。伝わらない、そんな想いだけが胸に残った。
寂しさが喉に込み上げて言葉を探している。
「そっか。それじゃあ、またあしたね!」
「お日様があの鐘に重なる頃にこの木の下で!」
viviは指をさしながらそう言って微笑みを見せた。
「うん、またあした。」
僕は手を振って小さくなっていくviviの背中を見つめていた。
「ただいま。」家に着くと直ぐに、
「座りなさい、話があるの。」
お母さんの曇った表情。
「どうしたのそんな顔して~。」
僕にはまだ分からなかった。
茜色の空と灯りの灯らないこの部屋。
お母さんは深刻な顔で言った。
「引っ越すことになったの。」
「え!なんで、」
「お父さんの仕事が忙しくてね。」
……
「そんなのヤダ!viviはどうなるの!」
「viviちゃんは分からないわ…」
「そんな…」
僕は家を飛び出した。庭を出て通りを出て、約束の木の下へ走った。
(なんで行かなきゃならないんだ。まだ言えてないのに。)
あの時塞ぎ込んだ言葉が僕を付きまとってくる。
明後日、引っ越す。明日は何を言おうか。何が出来るだろうか……。
ずっと考えて、僕は手紙を書くことにした。
面と向かって言えないなら、文面でいえばいい。
簡単な話だった。そう思っていた。
もしかしたらviviもここに来ないかんて考えながら、重たい足を何とか動かして家に帰った。
部屋に戻って、筆を執った。
-1945年3月15日 とりあえず日付を書いた。さあ、何を書こうか、安直に言葉を並べてみた。でも何故か、形にするとあやふやになって、重たい手紙になってしまう。思い出を綴っているのに。想いを伝えたいのに。言葉にする嘘くささと、手紙にする不明瞭さに不甲斐なさすら覚えた。
次の日、お日様は昇り、鐘はそれを隠した。
僕は木の下でviviを待つ。
「おっはよう!」
とびきりの笑顔でviviは僕に挨拶した。
「おはようvivi」
「実はね。これを渡したくて」
僕は後ろに隠していた手紙を渡した。
「え、なにこれ?私に?」
「うん、家に帰ったら読んでほしい。」
「分かった!ありがとうね!」
まだ子供だった僕たちは、知らないままでいた。
この日もいつものように遊んだりお話したりしながらゆっくりと過ごしたのである。
茜色の空はまたやってきた。
「帰ろっか。」
viviは疲れたのかあの笑顔は見られない。
「そうね、帰ろう。」
「めっちゃ疲れたね!なんか眠くなっちゃった笑笑」
「確かに笑」
「それじゃあ、…笑」
同時に言い出したものだからなんだか笑ってしまった。
小さくなる背中を見る。いつもよりずっと遠く感じた。
来る別れの日。親はあとから行くと言って、僕を先に行かせた。街を出る荷物を持って駅に向かう途中だった。
遠くから誰か走ってくる。僕の名前がだんだん大きく聞こえる。
viviだった。なぜかviviの目には涙があった。
「もう手紙読んだんだね。ごめんvivi。」
「…。」
俯くvivi。
「僕はずっと、viviが好きだった。愛してるよvivi。」
「知ってるよ。だって読んだもん。」
泣きながらも笑顔を見せようとするvivi。
「確かに、そうだったね。」
「わ、…。私も!好きだったよ。」
「もっと早く言えばよかった。」
「ずっと言えなかった。」
今更わかっても遅いのに。
駅のホームには子供が大勢いた。
(それもそうだよな。)
そう思わざるを得なかった。
ここのところ怪しい飛行機が空を飛び回っていた。
この時代に、転勤なんてあるわけが無い。
引越しなんて、嘘だ。
分かっていた。
ずっと。
訪れるべき時が来たのだ。
この街は、もう終わるんだ。
意外にも安堵したviviの表情に僕は悟った。
そして、僕もまた、安堵した。
電車はまもなく出発する。viviは涙をこらえて、いつもの笑顔で送り出そうとした。窓越しには声が届かない。
でも分かる。5文字のおまじないのような言葉。
「愛してる。」
僕は、悔しかった。時代の流れには、運命には抗えない。子供にできることなんて、ありやしない。
もう少し大きくなれば、国のために捧げる命になる。
祈ることしか出来ないのだ。
「さよなら、vivi。」
僕の去った日。飛行機は猛威を振るった。町は諸共、県全体の左半分は焼け滅んだらしい。
灰になる街。
微睡んでいく町を、viviを置いていった。
viviは、生きてるかな。元気してるかな。
さよならだけが僕らの愛だ。
1945/03/17神戸大空襲より
上手く言葉が出てこない。言いたいことは、いつも伝わるわけじゃない。100点満点の言葉なんてあるんだろうか。僕はいつもそう思うばかりである。
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもないや…」
(どうして、でてこない。ずっと一緒にいたのに。
どうして、でてこない。たった5文字のおまじないみたいなものなのに。)
伝えたい。伝わらない、そんな想いだけが胸に残った。
寂しさが喉に込み上げて言葉を探している。
「そっか。それじゃあ、またあしたね!」
「お日様があの鐘に重なる頃にこの木の下で!」
viviは指をさしながらそう言って微笑みを見せた。
「うん、またあした。」
僕は手を振って小さくなっていくviviの背中を見つめていた。
「ただいま。」家に着くと直ぐに、
「座りなさい、話があるの。」
お母さんの曇った表情。
「どうしたのそんな顔して~。」
僕にはまだ分からなかった。
茜色の空と灯りの灯らないこの部屋。
お母さんは深刻な顔で言った。
「引っ越すことになったの。」
「え!なんで、」
「お父さんの仕事が忙しくてね。」
……
「そんなのヤダ!viviはどうなるの!」
「viviちゃんは分からないわ…」
「そんな…」
僕は家を飛び出した。庭を出て通りを出て、約束の木の下へ走った。
(なんで行かなきゃならないんだ。まだ言えてないのに。)
あの時塞ぎ込んだ言葉が僕を付きまとってくる。
明後日、引っ越す。明日は何を言おうか。何が出来るだろうか……。
ずっと考えて、僕は手紙を書くことにした。
面と向かって言えないなら、文面でいえばいい。
簡単な話だった。そう思っていた。
もしかしたらviviもここに来ないかんて考えながら、重たい足を何とか動かして家に帰った。
部屋に戻って、筆を執った。
-1945年3月15日 とりあえず日付を書いた。さあ、何を書こうか、安直に言葉を並べてみた。でも何故か、形にするとあやふやになって、重たい手紙になってしまう。思い出を綴っているのに。想いを伝えたいのに。言葉にする嘘くささと、手紙にする不明瞭さに不甲斐なさすら覚えた。
次の日、お日様は昇り、鐘はそれを隠した。
僕は木の下でviviを待つ。
「おっはよう!」
とびきりの笑顔でviviは僕に挨拶した。
「おはようvivi」
「実はね。これを渡したくて」
僕は後ろに隠していた手紙を渡した。
「え、なにこれ?私に?」
「うん、家に帰ったら読んでほしい。」
「分かった!ありがとうね!」
まだ子供だった僕たちは、知らないままでいた。
この日もいつものように遊んだりお話したりしながらゆっくりと過ごしたのである。
茜色の空はまたやってきた。
「帰ろっか。」
viviは疲れたのかあの笑顔は見られない。
「そうね、帰ろう。」
「めっちゃ疲れたね!なんか眠くなっちゃった笑笑」
「確かに笑」
「それじゃあ、…笑」
同時に言い出したものだからなんだか笑ってしまった。
小さくなる背中を見る。いつもよりずっと遠く感じた。
来る別れの日。親はあとから行くと言って、僕を先に行かせた。街を出る荷物を持って駅に向かう途中だった。
遠くから誰か走ってくる。僕の名前がだんだん大きく聞こえる。
viviだった。なぜかviviの目には涙があった。
「もう手紙読んだんだね。ごめんvivi。」
「…。」
俯くvivi。
「僕はずっと、viviが好きだった。愛してるよvivi。」
「知ってるよ。だって読んだもん。」
泣きながらも笑顔を見せようとするvivi。
「確かに、そうだったね。」
「わ、…。私も!好きだったよ。」
「もっと早く言えばよかった。」
「ずっと言えなかった。」
今更わかっても遅いのに。
駅のホームには子供が大勢いた。
(それもそうだよな。)
そう思わざるを得なかった。
ここのところ怪しい飛行機が空を飛び回っていた。
この時代に、転勤なんてあるわけが無い。
引越しなんて、嘘だ。
分かっていた。
ずっと。
訪れるべき時が来たのだ。
この街は、もう終わるんだ。
意外にも安堵したviviの表情に僕は悟った。
そして、僕もまた、安堵した。
電車はまもなく出発する。viviは涙をこらえて、いつもの笑顔で送り出そうとした。窓越しには声が届かない。
でも分かる。5文字のおまじないのような言葉。
「愛してる。」
僕は、悔しかった。時代の流れには、運命には抗えない。子供にできることなんて、ありやしない。
もう少し大きくなれば、国のために捧げる命になる。
祈ることしか出来ないのだ。
「さよなら、vivi。」
僕の去った日。飛行機は猛威を振るった。町は諸共、県全体の左半分は焼け滅んだらしい。
灰になる街。
微睡んでいく町を、viviを置いていった。
viviは、生きてるかな。元気してるかな。
さよならだけが僕らの愛だ。
1945/03/17神戸大空襲より
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