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【第5章:社会的試練と二人の選択】 (第25話~28話)
第28話「新しい人生への選択」
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一ヶ月が過ぎ、雨の季節が去った。
初夏の陽射しが、アトリエに差し込んでいる。
透也は、窓辺で本を読んでいた。
美術の専門書。
教師を辞めても、美術への情熱は消えなかった。
「透也」
柊の声。
振り返ると、柊がイーゼルの前に立っていた。
「ちょっと、来てくれ」
透也が立ち上がり、柊のもとへ。
キャンバスには、窓辺で本を読む透也の姿が、柔らかな光に包まれて描かれていた。
「これ…さっき?」
柊が頷く。
「ああ」
「お前が、あまりに綺麗で」
透也の顔が赤くなる。
「くそ…」
柊が笑った。
「可愛い」
透也が柊を睨む。
「笑うな」
だが、その目は優しい。
柊が、透也を抱きしめた。
「愛してる」
透也も、柊を抱き返す。
「俺も」
これが、二人の新しい日常になっていた。
個展は一ヶ月間続き、毎日、多くの人が訪れた。
賛否両論はあったが、大きな話題となり、柊の名前は広く知られるようになった。
そして、「愛を選んだ教師」として、透也の名前も。
ある日、アートディレクターがアトリエを訪れた。
「柊先生」
「次回の個展を、ぜひ」
「海外での展示も、考えています」
柊の目が輝く。
「本当ですか」
「はい」
「あなたの作品は、世界に通用します」
柊が透也を見る。
透也が微笑む。
「やってみたら?」
柊が頷く。
「ああ」
柊のキャリアは開けていったが、透也はまだ、自分の道が見えなかった。
ある夜。
透也はベッドで眠れずにいた。
隣で、柊が穏やかな寝顔で眠っている。
「俺は…何をすればいいんだ」
呟いた。
教師を辞めて一ヶ月。
柊の個展を手伝い、家事をしてきたが、それだけでいいのか。
透也の心に、空虚感があった。
教えることが、好きだった。
生徒たちと話すことが。
美術を、伝えることが。
「でも…もう、教師には戻れない」
透也の目に、涙が滲む。
すぐに拭う。
「くそ…」
柊が目を覚ました。
「透也?」
透也が驚く。
「起こしたか?」
柊が首を横に振る。
「大丈夫」
柊が透也を抱きしめる。
「泣いてたのか」
透也が顔を背ける。
「…別に」
柊が透也の顔を自分に向ける。
「無理するな」
透也の涙が溢れる。
「くそ…」
柊が優しく拭う。
「何があった?」
透也はすべてを話した。
自分の空虚感。
教えることへの想い。
でも、もう戻れない現実。
柊は黙って聞いていた。
透也が話し終えると、柊が口を開いた。
「透也」
「教えることは、学校だけじゃない」
透也が柊を見る。
「え?」
「美術教室を、開けばいい」
透也の目が、見開かれる。
「美術教室…」
柊が頷く。
「ああ」
「このアトリエで」
「子供たちに、美術を教える」
透也の心が跳ねる。
「でも…俺、もう教師じゃない」
柊が微笑む。
「資格は、関係ない」
「情熱があれば、教えられる」
透也の目に、光が戻る。
「本当に…できるかな」
柊が透也の手を握る。
「できる」
「お前なら、できる」
透也の心が温かくなる。
「蒼一郎…」
「ありがとう」
二人の唇が、重なった。
優しく、深く。
翌週、透也は準備を始めた。
アトリエの一角を教室スペースにし、小さな机を並べ、画材を揃える。
チラシを作る。
「透也美術教室」
その名前を見て、透也の心が躍る。
柊も手伝ってくれる。
「ここに、棚を置こう」
「照明も、増やした方がいい」
二人で準備する時間が、楽しかった。
一週間後、チラシを近所に配った。
「美術教室、開きました」「子供から大人まで、歓迎」
最初の生徒が来た。
小学生の女の子。母親と一緒に。
「あの…」
母親が戸惑った表情をする。
「先生は…」
透也が微笑む。
「篠原透也です」
母親の目が見開かれる。
「あの…テレビの」
透也が頷く。
「はい」
「でも、心配しないでください」
「美術を、真剣に教えます」
母親が少し考えて、頷いた。
「お願いします」
女の子が透也を見上げる。
「先生、絵を教えて」
透也の心が温かくなる。
「ああ」
「一緒に、描こう」
透也の新しい人生が、始まった。
数ヶ月後。
美術教室は順調だった。
最初は一人だけだった生徒が、今では十人になっていた。
子供も大人も、様々な人が来る。
透也は、教えることの喜びを、再び感じていた。
「先生、これでいい?」
小学生の男の子が絵を見せる。
透也が微笑む。
「いいね」
「でも、ここの影を」
「もう少し、濃くしてみよう」
男の子が頷く。
「うん!」
透也は幸せだった。
学校ではないけれど、教えることができる。
それだけで、十分だった。
ある日。
柊が、嬉しそうに帰ってきた。
「透也」
透也が振り返る。
「どうした?」
「パリでの展示が、決まった」
透也の目が輝く。
「本当に?」
柊が頷く。
「ああ」
「来月、一ヶ月間」
透也が柊を抱きしめた。
「すごいな」
柊も透也を抱き返す。
「お前の、おかげだ」
透也が首を横に振る。
「お前の、才能だ」
柊が透也の額にキスをした。
「一緒に、来てくれるか?」
透也が戸惑う。
「でも、教室が…」
「一ヶ月、休みにすればいい」
透也が考える。
「…ああ」
「一緒に、行きたい」
柊が微笑む。
「ありがとう」
二人の、新しい冒険が、始まろうとしていた。
一ヶ月後。
透也と柊は、空港にいた。
パリ行きの飛行機。
「緊張する?」
柊が聞く。
透也が頷く。
「少し」
「初めての海外だから」
柊が透也の手を握る。
「大丈夫」
「俺が、一緒にいる」
透也が微笑む。
「ああ」
搭乗時刻になった。
二人は飛行機に乗り込み、窓際の席に座る。
透也が窓の外を見る。
「ここから…新しい人生が始まるんだな」
呟いた。
柊が透也の手を握る。
「ああ」
「俺たちの」
飛行機が動き出す。
滑走路を走り、速度が増していく。
そして、浮き上がる。
地面が、どんどん遠ざかる。
東京の街が、小さくなる。
透也は、その景色を見つめた。
「さようなら」
小さく呟いた。
過去への別れ。そして、未来への旅立ち。
柊が、透也の肩に頭を預けた。
「愛してる」
透也が、柊の髪を撫でる。
「俺も」
二人の旅は、まだ始まったばかりだった。
パリは、美しかった。
古い街並み、セーヌ川、エッフェル塔。すべてが新鮮だった。
柊の展示は成功した。
多くの人が訪れ、フランス人だけでなく世界中から集まった。
「Magnifique!(素晴らしい!)」
「L'amour est universel(愛は普遍的だ)」
人々の声援。
透也と柊は、手を繋いで会場に立っていた。
ここでは、誰も二人を批判しなかった。
男同士で手を繋いでいても、キスをしても、当たり前のように受け入れられた。
「ここは…自由だな」
透也が、呟いた。
柊が微笑む。
「ああ」
「でも」
柊が透也を見つめる。
「俺たちの場所は、東京だ」
透也が頷く。
「ああ」
「帰ったら」
「また、教室を開く」
「お前は、絵を描く」
「そうやって、生きていく」
柊が透也の手を強く握る。
「ああ」
一ヶ月後。
二人は東京に戻った。
「ただいま」
透也が呟いた。
柊も微笑む。
「ただいま」
アトリエに帰ると、郵便受けにたくさんの手紙が入っていた。
透也がそれを開ける。生徒たちからの手紙。
「先生、お帰りなさい」
「早く、教えてください」
「待ってました」
透也の目に、涙が滲む。
「待っててくれたんだ…」
柊が透也の肩を抱く。
「愛されてるな」
透也が頷く。
「ああ」
翌日。
透也は教室を再開した。生徒たちが集まってきた。
「先生!」
「お帰りなさい!」
子供たちの笑顔。
透也の心が満たされる。
「ただいま」
「さあ、今日も描こう」
教室に、笑い声が響く。
柊は、その様子をアトリエの奥から見ていた。
微笑みながらキャンバスに向かう。
筆を持ち、透也と生徒たちの姿を、描き始める。
これが、二人の日常になった。
一年後。
透也の美術教室は、「愛を選んだ教師の教室」として有名になっていた。
メディアにも取り上げられたが、透也は変わらなかった。
ただ、生徒たちに、美術を教え続けた。
柊も個展を重ね、国内外で評価は高まっていった。
だが、二人の生活はシンプルだった。
朝、一緒に起きる。コーヒーを飲む。
透也は教室へ、柊はアトリエで制作。
夜、一緒に夕食。
ベッドで、抱き合って眠る。
その繰り返し。だが、それが幸せだった。
ある冬の夜。
雪が降っていた。窓の外に、白い世界。
透也と柊は、ベッドで抱き合っていた。
「蒼一郎」
「ん?」
「幸せか?」
柊が透也の髪を撫でる。
「ああ」
「お前は?」
透也が微笑む。
「俺も」
「すごく」
柊が透也を見つめる。
「あの時」
「お前を選んで、良かった」
透也が柊の頬に触れる。
「俺も」
「お前を選んで、良かった」
二人の唇が、重なった。
優しく、深く。愛を込めて。
やがて、キスが深まる。
柊の手が、透也の身体を撫で始める。
「透也…」
透也も、柊に応える。
「ああ…」
二人は、愛し合った。
窓の外の雪を見ながら。
ゆっくりと、深く、確かめ合うように。
「蒼一郎…」
「透也…」
名前を呼び合う。身体を重ねる。
「ああ…」
「ああ…」
二人の吐息が、部屋に響く。
到達して、抱き合ったまま。
「愛してる」
柊が囁く。
「俺も」
透也が囁き返す。
翌朝。
透也は、柊の腕の中で目を覚ました。
窓の外は、雪景色。真っ白な世界。
「綺麗だな」
呟いた。
柊も目を覚ます。
「おはよう」
「おはよう」
二人はベッドから出て、キッチンへ。コーヒーを淹れる。
テーブルに座り、窓の外を見ながら。
「今日も、いい一日になりそうだ」
透也が呟く。
柊が微笑む。
「ああ」
二人の手が、テーブルの上で触れ合う。指が、絡み合う。
社会は、まだ完全には受け入れていない。
批判の声も、ある。冷たい視線も、ある。
だが、二人は。
その中で、生きていく。
堂々と。愛を持って。
透也は、教え続ける。
柊は、描き続ける。
二人は、愛し合い続ける。
それが、二人の選択だった。
完璧なハッピーエンドではない。困難は、まだある。
でも、二人は、その困難を、一緒に乗り越えていく。
それが、二人の物語だった。
窓の外の雪が、ゆっくりと降り続ける。
白く、静かに。世界を、覆っていく。
だが、アトリエの中は、温かかった。
二人の愛で、満たされていた。
「蒼一郎」
「ん?」
「ずっと、一緒にいような」
柊が微笑む。
「ああ」
「ずっとだ」
二人の手が、強く握り合う。
未来は、まだ見えない。だが、それでいい。
二人で歩けば、どんな道でも乗り越えられる。
その確信だけが、確かにあった。
雪は、降り続ける。
だが、二人の心は、春のように温かかった。
【完】
初夏の陽射しが、アトリエに差し込んでいる。
透也は、窓辺で本を読んでいた。
美術の専門書。
教師を辞めても、美術への情熱は消えなかった。
「透也」
柊の声。
振り返ると、柊がイーゼルの前に立っていた。
「ちょっと、来てくれ」
透也が立ち上がり、柊のもとへ。
キャンバスには、窓辺で本を読む透也の姿が、柔らかな光に包まれて描かれていた。
「これ…さっき?」
柊が頷く。
「ああ」
「お前が、あまりに綺麗で」
透也の顔が赤くなる。
「くそ…」
柊が笑った。
「可愛い」
透也が柊を睨む。
「笑うな」
だが、その目は優しい。
柊が、透也を抱きしめた。
「愛してる」
透也も、柊を抱き返す。
「俺も」
これが、二人の新しい日常になっていた。
個展は一ヶ月間続き、毎日、多くの人が訪れた。
賛否両論はあったが、大きな話題となり、柊の名前は広く知られるようになった。
そして、「愛を選んだ教師」として、透也の名前も。
ある日、アートディレクターがアトリエを訪れた。
「柊先生」
「次回の個展を、ぜひ」
「海外での展示も、考えています」
柊の目が輝く。
「本当ですか」
「はい」
「あなたの作品は、世界に通用します」
柊が透也を見る。
透也が微笑む。
「やってみたら?」
柊が頷く。
「ああ」
柊のキャリアは開けていったが、透也はまだ、自分の道が見えなかった。
ある夜。
透也はベッドで眠れずにいた。
隣で、柊が穏やかな寝顔で眠っている。
「俺は…何をすればいいんだ」
呟いた。
教師を辞めて一ヶ月。
柊の個展を手伝い、家事をしてきたが、それだけでいいのか。
透也の心に、空虚感があった。
教えることが、好きだった。
生徒たちと話すことが。
美術を、伝えることが。
「でも…もう、教師には戻れない」
透也の目に、涙が滲む。
すぐに拭う。
「くそ…」
柊が目を覚ました。
「透也?」
透也が驚く。
「起こしたか?」
柊が首を横に振る。
「大丈夫」
柊が透也を抱きしめる。
「泣いてたのか」
透也が顔を背ける。
「…別に」
柊が透也の顔を自分に向ける。
「無理するな」
透也の涙が溢れる。
「くそ…」
柊が優しく拭う。
「何があった?」
透也はすべてを話した。
自分の空虚感。
教えることへの想い。
でも、もう戻れない現実。
柊は黙って聞いていた。
透也が話し終えると、柊が口を開いた。
「透也」
「教えることは、学校だけじゃない」
透也が柊を見る。
「え?」
「美術教室を、開けばいい」
透也の目が、見開かれる。
「美術教室…」
柊が頷く。
「ああ」
「このアトリエで」
「子供たちに、美術を教える」
透也の心が跳ねる。
「でも…俺、もう教師じゃない」
柊が微笑む。
「資格は、関係ない」
「情熱があれば、教えられる」
透也の目に、光が戻る。
「本当に…できるかな」
柊が透也の手を握る。
「できる」
「お前なら、できる」
透也の心が温かくなる。
「蒼一郎…」
「ありがとう」
二人の唇が、重なった。
優しく、深く。
翌週、透也は準備を始めた。
アトリエの一角を教室スペースにし、小さな机を並べ、画材を揃える。
チラシを作る。
「透也美術教室」
その名前を見て、透也の心が躍る。
柊も手伝ってくれる。
「ここに、棚を置こう」
「照明も、増やした方がいい」
二人で準備する時間が、楽しかった。
一週間後、チラシを近所に配った。
「美術教室、開きました」「子供から大人まで、歓迎」
最初の生徒が来た。
小学生の女の子。母親と一緒に。
「あの…」
母親が戸惑った表情をする。
「先生は…」
透也が微笑む。
「篠原透也です」
母親の目が見開かれる。
「あの…テレビの」
透也が頷く。
「はい」
「でも、心配しないでください」
「美術を、真剣に教えます」
母親が少し考えて、頷いた。
「お願いします」
女の子が透也を見上げる。
「先生、絵を教えて」
透也の心が温かくなる。
「ああ」
「一緒に、描こう」
透也の新しい人生が、始まった。
数ヶ月後。
美術教室は順調だった。
最初は一人だけだった生徒が、今では十人になっていた。
子供も大人も、様々な人が来る。
透也は、教えることの喜びを、再び感じていた。
「先生、これでいい?」
小学生の男の子が絵を見せる。
透也が微笑む。
「いいね」
「でも、ここの影を」
「もう少し、濃くしてみよう」
男の子が頷く。
「うん!」
透也は幸せだった。
学校ではないけれど、教えることができる。
それだけで、十分だった。
ある日。
柊が、嬉しそうに帰ってきた。
「透也」
透也が振り返る。
「どうした?」
「パリでの展示が、決まった」
透也の目が輝く。
「本当に?」
柊が頷く。
「ああ」
「来月、一ヶ月間」
透也が柊を抱きしめた。
「すごいな」
柊も透也を抱き返す。
「お前の、おかげだ」
透也が首を横に振る。
「お前の、才能だ」
柊が透也の額にキスをした。
「一緒に、来てくれるか?」
透也が戸惑う。
「でも、教室が…」
「一ヶ月、休みにすればいい」
透也が考える。
「…ああ」
「一緒に、行きたい」
柊が微笑む。
「ありがとう」
二人の、新しい冒険が、始まろうとしていた。
一ヶ月後。
透也と柊は、空港にいた。
パリ行きの飛行機。
「緊張する?」
柊が聞く。
透也が頷く。
「少し」
「初めての海外だから」
柊が透也の手を握る。
「大丈夫」
「俺が、一緒にいる」
透也が微笑む。
「ああ」
搭乗時刻になった。
二人は飛行機に乗り込み、窓際の席に座る。
透也が窓の外を見る。
「ここから…新しい人生が始まるんだな」
呟いた。
柊が透也の手を握る。
「ああ」
「俺たちの」
飛行機が動き出す。
滑走路を走り、速度が増していく。
そして、浮き上がる。
地面が、どんどん遠ざかる。
東京の街が、小さくなる。
透也は、その景色を見つめた。
「さようなら」
小さく呟いた。
過去への別れ。そして、未来への旅立ち。
柊が、透也の肩に頭を預けた。
「愛してる」
透也が、柊の髪を撫でる。
「俺も」
二人の旅は、まだ始まったばかりだった。
パリは、美しかった。
古い街並み、セーヌ川、エッフェル塔。すべてが新鮮だった。
柊の展示は成功した。
多くの人が訪れ、フランス人だけでなく世界中から集まった。
「Magnifique!(素晴らしい!)」
「L'amour est universel(愛は普遍的だ)」
人々の声援。
透也と柊は、手を繋いで会場に立っていた。
ここでは、誰も二人を批判しなかった。
男同士で手を繋いでいても、キスをしても、当たり前のように受け入れられた。
「ここは…自由だな」
透也が、呟いた。
柊が微笑む。
「ああ」
「でも」
柊が透也を見つめる。
「俺たちの場所は、東京だ」
透也が頷く。
「ああ」
「帰ったら」
「また、教室を開く」
「お前は、絵を描く」
「そうやって、生きていく」
柊が透也の手を強く握る。
「ああ」
一ヶ月後。
二人は東京に戻った。
「ただいま」
透也が呟いた。
柊も微笑む。
「ただいま」
アトリエに帰ると、郵便受けにたくさんの手紙が入っていた。
透也がそれを開ける。生徒たちからの手紙。
「先生、お帰りなさい」
「早く、教えてください」
「待ってました」
透也の目に、涙が滲む。
「待っててくれたんだ…」
柊が透也の肩を抱く。
「愛されてるな」
透也が頷く。
「ああ」
翌日。
透也は教室を再開した。生徒たちが集まってきた。
「先生!」
「お帰りなさい!」
子供たちの笑顔。
透也の心が満たされる。
「ただいま」
「さあ、今日も描こう」
教室に、笑い声が響く。
柊は、その様子をアトリエの奥から見ていた。
微笑みながらキャンバスに向かう。
筆を持ち、透也と生徒たちの姿を、描き始める。
これが、二人の日常になった。
一年後。
透也の美術教室は、「愛を選んだ教師の教室」として有名になっていた。
メディアにも取り上げられたが、透也は変わらなかった。
ただ、生徒たちに、美術を教え続けた。
柊も個展を重ね、国内外で評価は高まっていった。
だが、二人の生活はシンプルだった。
朝、一緒に起きる。コーヒーを飲む。
透也は教室へ、柊はアトリエで制作。
夜、一緒に夕食。
ベッドで、抱き合って眠る。
その繰り返し。だが、それが幸せだった。
ある冬の夜。
雪が降っていた。窓の外に、白い世界。
透也と柊は、ベッドで抱き合っていた。
「蒼一郎」
「ん?」
「幸せか?」
柊が透也の髪を撫でる。
「ああ」
「お前は?」
透也が微笑む。
「俺も」
「すごく」
柊が透也を見つめる。
「あの時」
「お前を選んで、良かった」
透也が柊の頬に触れる。
「俺も」
「お前を選んで、良かった」
二人の唇が、重なった。
優しく、深く。愛を込めて。
やがて、キスが深まる。
柊の手が、透也の身体を撫で始める。
「透也…」
透也も、柊に応える。
「ああ…」
二人は、愛し合った。
窓の外の雪を見ながら。
ゆっくりと、深く、確かめ合うように。
「蒼一郎…」
「透也…」
名前を呼び合う。身体を重ねる。
「ああ…」
「ああ…」
二人の吐息が、部屋に響く。
到達して、抱き合ったまま。
「愛してる」
柊が囁く。
「俺も」
透也が囁き返す。
翌朝。
透也は、柊の腕の中で目を覚ました。
窓の外は、雪景色。真っ白な世界。
「綺麗だな」
呟いた。
柊も目を覚ます。
「おはよう」
「おはよう」
二人はベッドから出て、キッチンへ。コーヒーを淹れる。
テーブルに座り、窓の外を見ながら。
「今日も、いい一日になりそうだ」
透也が呟く。
柊が微笑む。
「ああ」
二人の手が、テーブルの上で触れ合う。指が、絡み合う。
社会は、まだ完全には受け入れていない。
批判の声も、ある。冷たい視線も、ある。
だが、二人は。
その中で、生きていく。
堂々と。愛を持って。
透也は、教え続ける。
柊は、描き続ける。
二人は、愛し合い続ける。
それが、二人の選択だった。
完璧なハッピーエンドではない。困難は、まだある。
でも、二人は、その困難を、一緒に乗り越えていく。
それが、二人の物語だった。
窓の外の雪が、ゆっくりと降り続ける。
白く、静かに。世界を、覆っていく。
だが、アトリエの中は、温かかった。
二人の愛で、満たされていた。
「蒼一郎」
「ん?」
「ずっと、一緒にいような」
柊が微笑む。
「ああ」
「ずっとだ」
二人の手が、強く握り合う。
未来は、まだ見えない。だが、それでいい。
二人で歩けば、どんな道でも乗り越えられる。
その確信だけが、確かにあった。
雪は、降り続ける。
だが、二人の心は、春のように温かかった。
【完】
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さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
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