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1章 転生したら推しの婚約者でした。
5話 黒い天使
しおりを挟むイーギス様を見ると、イーギス様はめんどくさそうな顔で私を見る。
「これは親同士が決めた婚約なんだ。僕が君を好きになるなんて思わないでね」
さらっと冷たく言い放つイーギス様。黒イーギス様!いいっ!ってあれ?
「屈折したの成長してからじゃないんですね?」
「何それ」
もともとそういう性格なのかな?まぁ、上級社会じゃ色々あるよねぇ。
「イーギス様、もっとお話ししましょう!イーギス様の好きな女性はどんな人ですか?」
「そんなのつまらない」
つまらないって。イーギス様の口からフローラの話聞きたかったなぁ。イーギス様はふと立ち上がって、窓に近づく。
「ねずみ飼ってるの?お嬢様なのに」
「あっ、それはちょっとその……」
あなたのお母様の薬を作ってるとは言えなくて、口籠る。
「ねずみすらも可愛がる私って優しい、みたいな?」
「いえいえ、そんなんじゃないんです」
黒い笑みを浮かべて淡々と話すイーギス様。昨日のことが嘘のように冷めた声で私に言うイーギス様。私は知ってるけど、フローラがびっくりしちゃうのも無理はない。
「まぁいいや、君がしてることに興味はないし君にも興味はない。ただ体裁的にお見舞いに来てあげた方がいいと思っただけ」
「イーギス様って、昔から捻くれてたんですねぇ」
でもそれも可愛い。天使みたいな見た目から発せられる言葉の数々。ギャップ萌えだわ!
「……そりゃ、周りの大人見て育ったらそうなるよ」
「それもいいですわ!でもそのうち変わりますから、楽しみにしててください!!」
フローラに出会ってイーギス様は変わる。その変化が堪らなくいいのだ。ぽかんと私を見ていたイーギス様がくくっ、と笑う。
「やっぱ変だね、ナターシャ」
笑った顔は本当にこの世のものとは思えない天使だった。まぁ、ゲームの世界だからこの世のものではないけれど。
「じゃあ僕は帰るよ。長居しても君の体調に響きそうだし」
「元気ですからもっと居てくださっていいんですよ」
もう帰っちゃうのか。ドレスをギュッと掴むと、イーギス様は振り返って私に近づく。そして頭にぽんと手を乗せて、私の顔を覗き込んだ。
「また来るよ。一応君は僕の婚約者だからね」
「はい」
部屋でイーギス様を見送って、ベッドに転がる。まだ2日なのにイーギス様の色んな表情が見れた。私が婚約者だってこと認めてないみたいだけど、それが普通だ。イーギス様はただの一度もナターシャを愛さなかったのだから。それよりも、シルクレードキャンティが貰えるかもしれないことの方がありがたい。イーギス様の幸せに一歩近づいたような気がした。
「ナターシャ様、イーギス様からの贈り物です」
その日の夕方に、それは届いた。私は急いで広間に向かう。
「早く早く」
「何が届いたんだい?ナターシャ」
執事を急かす私に、お父様が微笑ましそうに尋ねる。
「シルクレードキャンティですわ!」
「おや、そんな貴重なものを。すぐにお手紙書かなければいけないね」
もちろんですわ!私は小包を持って、部屋に戻る。手紙を書き終えてから、調合用と栽培用に分けた。ねずみを流行り病にさせないといけないから、明日街へ出かけよう。着々と計画を立てていた時だった。
「ナターシャ、明日グランドル公爵家に行くわよ」
お母様が慌てて私の部屋に入ってくる。婚約者だから行くのは良いとして、お母様の慌てっぷりが気になる。
「どうしたのですか?」
「グランドル公爵夫人が倒れられたそうよ。だからお見舞いに行くの」
えっ、もう……?思ったより早い展開に焦る。けど、グランドル公爵夫人から病原菌をもらってこれるから、まだいいか。いや、良くないんだけど。イーギス様は大丈夫だろうか?
私は取り寄せたハーブを石臼に入れて、ごりごり混ぜる。期限内に上手くいくのだろうか……。心配だけど、私は転生ヒロインだからきっと上手くいくはず。私は明日着ていくドレスを選んで、イーギス様のお母様の無事を祈る。ゲームの中ではいつ亡くなったか、ファンブックにすら書かれてなかったんだよね。薬の材料は載ってたくせに。
「長いなぁ」
イーギス様とフローラが出会うまであと9年もある。そんなの待ってたら、イーギス様が苦しくて堪らないと思う。どうする?シナリオ変える?いや、でも今イーギス様のお母様の死を阻止しようとしてるんだ。フローラとの出会いまで変えたら何が起きるか予測出来なくなる。あれこれ考えても答えは出なくて、私は眠ることにした。
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