推しの幸せのために婚約破棄を狙う悪役令嬢ですが、当の推しが独占欲の塊になって逃がしてくれません!

桜咲ちはる

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1章 転生したら推しの婚約者でした。

20話 嫉妬


 クルーゼに挨拶した後、イーギス様に強く手を引かれる。それはエスコートしていた時とは違う強い力で、バルコニーの方に進んでいく。

「イーギス様?」

 名前を呼んでもイーギス様は足を止めず、バルコニーに着いて振り向いた。

「ナターシャ、何あれ?」
「何、とは?ただ挨拶していただけですわ」

 呆れたような口調のイーギス様に私は戸惑いつつも答える。はしたなかっただろうか。

「セリとクルーゼの時だけ明らかに違ったよね。自分から友達になろうとして。他の人に惚れちゃダメだよって言ったよね?」
「ほ、惚れてなんていませんわ!お友達になろうとしていただけです」

 なんて言いがかりだ。私はイーギス様のために、セリとクルーゼと仲良くなっておこうと思っただけなのに。イーギス様が私の手を引っ張って、引き寄せる。私はそのままイーギス様に抱きしめられた。

「他の男なんか見ないで」

 小さな声が、息が耳にかかる。顔を上げようとすると、イーギス様に押さえつけられ肩に唇が当たる。

「僕だけを見ててよ、ナターシャ」

 泣きそうな声で、イーギス様が私に言う。私はとんとんとイーギス様の背中を叩いた。

「イーギス様のためですわ」
「僕のため?友達作ろうって言ったから?」

 それだけじゃないけど、上手く答えられないから私は頷く。するとイーギス様は口を尖らせた。

「だったら友達なんて要らない」
「そんなこと言ってはダメですわ」

 私はイーギス様の頬に触れ、諭す。

「大丈夫、私はイーギス様しか見えていません。イーギス様の幸せのために、動いてるんです」
「……嘘ついてない?」

 瞳を揺らすイーギス様に、私は強く頷いた。

「嘘は言いません。私はイーギス様を幸せにするために、ここにいるんです」

 それが私の生きる意味だから。イーギス様はひざまずいて、私の左手の薬指に吸い付くようにキスをする。

「ナターシャはずっと、僕のだから」

 まるで勘違いしそうになる、束縛のセリフ。私はイーギス様の髪を撫でた。

「大丈夫です、イーギス様。この私がイーギス様の願いを叶えますわ」
「……なんか、わかってない気がする」

 顔を上げて頬を膨らませるイーギス様。わかってますわ、イーギス様の幸せを誰よりも1番。

「私ほどイーギス様のことがわかってる人いませんわ。お肉が苦手でパンが好きなこと。中でもサックサクのクロワッサンが大好きで、朝とおやつによく食べてること。くまのぬいぐるみを抱いて毎晩寝ることも、軽薄に見えてただの寂しがりやなことも」
「ちょ、ちょっと待って何で知ってるの?」

 慌てるイーギス様に私は笑う。でもそんなに表情が変わることを私は知らなかったですわ。私の知ってるゲームのイーギス様は、ずっと余裕な表情をしてたから。

「てか、軽薄って何?僕が軽薄なの?」
「あ……、いえ。失言でしたわ。でも、私イーギス様のことなら何でも知ってますわ」

 口に手を当てて、おほほほと笑うとイーギス様が私の両頬を引っ張る。

「ずるい。僕もナターシャのこと知りたい。教えてよ、ナターシャのこと」
「私のことはいいんですのよ」

 知ったって何にもなりませんわ。あ、でも。

「……これだけは覚えといてほしいですわ。私は将来、とんでもない悪女になりますの。お嬢様ですらなくなりますわ」
「え……。何で?悪いことするの?どうしてもしなきゃダメなの?」

 困惑した顔で私に言うイーギス様に申し訳なくて目を伏せる。なるべく断罪されない方法で、シナリオ通りのナターシャを進めたい。

「ええ、それがイーギス様に幸せをもたらしますわ」
「ナターシャ……。僕はナターシャがいてくれるだけで幸せなんだよ」

 縋るように手に触れて、頬につけるイーギス様。残念ながらその願いだけは叶えられないけど、絶対フローラをイーギス様ルートに進ませてみせますわ。
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