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2章 夢は侍女になることです
26話 キャラ変
イーギス様の胸を押すと、距離が離れる。テレサさんを見ると、黙々と作業を進めていて居たたまれなくなる。私はイーギス様の腕の中から逃げ、テレサさんに駆け寄った。
「すみません、」
「謝らなくていいのに」
テレサさんが苦笑して私に言う。私は肩を竦めた。イーギス様の視線が私に向けられる。私は気にしないように、手を動かした。
「ナターシャ」
イーギス様が私の名前を呼ぶ。甘く低い声にドキンと心臓が高鳴る。
「イーギス様、気が散りますから呼ばないでください」
私は心を鬼にしてイーギス様にお願いする。イーギス様は私の腕を引っ張って、ベッドに押し倒した。全然仕事に集中できない。どくどくと鼓動が速くなる。
「テレサさんが、」
「関係ない」
手首を押さえつけられてイーギス様が私を見下ろす。
「イーギス様、」
「ナターシャは俺付きの侍女なんだよね?俺の遊び相手になってよ」
イーギス様は私の首筋に吸い付く。お、俺……?イーギス様の色気に眩暈がする。まるで、私が知ってるイーギス様になったみたいな……。
「イーギス様、清掃しないと」
「テレサがいるから大丈夫」
全然大丈夫じゃない。だけどイーギス様は私の額に、頬に、鼻にキスを落とす。私は耐えきれなくて、口を手で覆う。
「イーギス様、やめっ」
「やめない」
イーギス様が私の手に吸い付く。恥ずかしくて、私は目を瞑った。
「可愛い」
イーギス様の手が私の頭を撫でる。大きくて温かいその手に、きゅんとする。イーギス様は私の額にキスをして離れた。
「イ、イーギス様……どうして?」
どうしていきなりキャラ変なんか……。私の言葉にイーギス様はフッと笑う。
「気分転換?」
曖昧に返事するイーギス様、絶対そうじゃないってことはわかる。イーギス様はほうきを手で指した。
「仕事続けてどうぞ」
「……わかりました」
フンッとほうきを掴んで、部屋を掃く。テレサさんを見ると、テレサさんもさすがに恥ずかしかったのか耳を赤くしていた。イーギス様が変わった理由……、心当たりがあるといえばあの本かもしれない。イーギス様ももう読んだのだろうか。フローラに好かれるために頑張ってキャラ変したんだとすれば、悪いことしちゃったな。
「イーギス様」
「何?」
楽しそうな顔で私に目を向けるイーギス様。可愛いイーギス様も今のイーギス様も、私はどっちも好きだけど。
「かっこいいです」
「っ、」
フローラと恋するなら今のイーギス様の方がいいだろうから。私の言葉にイーギス様が口を押える。髪の隙間から見えるイーギス様の耳が赤くて、やっぱり可愛いところも残ってるなと安心する。
「ナターシャはずるいね」
「え」
今の会話で何がずるかったんだろうか?イーギス様は布団を被ってベッドに横になる。私は気を取り直して部屋の清掃を再開した。
「お2人は仲が良いですね」
テレサさんが微笑む。私は頬を掻いた。
「イーギス様は、推しなので」
自惚れかもしれないけど、イーギス様も私のこと嫌ってないとは思う。だから、仲良く出来てる今がとても幸せで大切な時間だった。
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