前世が人気声優だった私は、完璧に悪女を演じてみせますわ!

桜咲ちはる

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32話 大切な人:セイヴァン視点/マイ視点


  何が起きてるのかわからなかった。来ると思ってた痛みはなく、腹から流れていた血が消えていく。ただドサッとマイが足元に倒れ、冷や汗が出た。

「マイ!マイ!」

 魔法がいるにも関わらず、マイの体を揺さぶるが反応はない。遠くの方で悲鳴が聞こえ、顔を上げると魔王が灰になって消えた。やったのか……?呆然とその場に座り込んでると、景色が王宮に戻り警備隊が入ってくる。アミューゼを捕える警備隊の姿にようやく理解して、ホッと安堵した。最悪の敵、魔王との戦いは激しく、だけど思ったよりはあっさりと終わりを迎えた。マイの犠牲をもって……。

「マイ、もう3日目だ。そろそろ起きないか?」

 ベッドで眠るマイの手を握って声をかける。小さく息をする音が聞こえるのだけが救いだ。

「マイ、元の世界に戻ってるのか?」

 未だに、ここ以外の世界があるとは信じられないがマイが言うならそうなんだろう。どこでもいい、ただマイが生きていてくれるのなら。

「セイヴァン様、少しよろしいですか?」

 休養中のレビウスに代わり、シオンが声をかけてくる。俺は席を立って廊下に出た。

「セイヴァン様、レイン様の病状ってもしかしたらリリー様と同じ……」
「は?」

 シオンの言葉に鈍器で殴られたような衝撃が走る。マイの言葉が頭によぎった。

”この先、セイヴァンの……セイヴァン様の大切な人が同じ病にかかったとして、後悔しませんか?”

 あの頃は大切な人が出来るなんて考えもしなかった。きっとマイはアミューゼ嬢のことを言っていたんだろうなと今ならわかるが、まさかマイがリリーと同じ病にかかるなんて。俺は自室の金庫に急いだ。

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 眩しい光から目を開けると、見慣れない……ううん。久しぶりに見る部屋が視界に入った。

「戻った……?」

 自分が仕事した役のアニメのDVDにグッズ、台本が並んでいる。紛れも無い私の部屋だった。急いでベッド横のスマホを見ると、メッセージが何百件と届いていた。

「本当に帰ってきたんだ……」

 日付を見ると、1ヶ月しか経っていない。あの世界での出来事は全部夢だったかと思うけど、確かにこのメッセージから私がこの世界にいなかったということを実感する。ネットで姫奈先生のことを検索すると、休載のお知らせが載せられていた。

「姫奈先生……」

 私は戻ってこれたけど、姫奈先生も同じように帰ってきたのだろうか。私だけだとしたら、あの世界に残りたがってた私が戻って、あの世界を嫌ってた姫奈先生が残るなんて皮肉にも程がある。何で帰ってこれたんだろうか……。

「セイヴァンは無事かな……」

 小説を手に取ってぱらぱらと捲ると、記憶と変わらない以前の【氷の公爵のお姫様】がそこには描かれている。あの後セイヴァンがどうなったか、知る手段がない。

「帰りたい……」

 私は床に座って、膝を抱える。あんなに戻りたがってた現実の世界なのに、セイヴァンがいないというだけで悲しい。せめて、セイヴァンが魔王がどうなったかだけでも知りたかった。

「戻る手段ないのかな?」

 前と同じように、家を出ようとしたら転生する?私は着替えてメイクして家を出てみたけど、見慣れた景色がそこにあるだけだった。すぐに部屋に戻って、ベッドに倒れる。メッセージを返す気力もなく、全身の力を抜く。帰りたい。セイヴァンのいる世界に戻りたい。でも、戻りたいと願っても戻れないことを私はよく知っている。何で戻ったんだろう。あの白い光はやっぱり愛の力だったのだろうか。

 小説を見返してもう一度転生する方法を探す。だけど小説には転生の理由は前世で死んだこととしか書かれてなかった。

「死ぬのは怖い……」

 これでセイヴァンに出会えなかったら……?そう思うと震えるけど、セイヴァンと出会ってしまった私はこの世界で1人で生きていく自信がない。私は覚悟を決めて、窓を開ける。ヒューっと冷たい風が吹く。12階から下を見れば、足がすくむ。お父さん、お母さんごめんなさい。私はどうしても、試してみたかった。

「神様お願いします!」

 私はベランダに足をかけ、飛び降りた。セイヴァンに再び会えることを願って……。

「痛、くない?」

 目をつぶって数秒、来ると思ってた痛みはなく恐る恐る目を開ける。見慣れない廊下の景色。どこかのお屋敷なのか、豪華な装飾が施されている。もしかして別の世界に転生した?慌てて髪の毛に触れると肩くらいの短さで茶髪で、レインじゃなく元の世界の私の格好のままじゃないかと冷や汗が出る。

 目の前の扉は少し開いているが、ここからは中が見えない。少し近づくと、何人かの男の人の後ろ姿とベッドが見え、私は慎重に扉を開けた。この屋敷がセイヴァンの家であることを願って……。
 
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