異世界スクワッド

倫敦 がなず

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第一章

15 旅路

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 勇一、ディケーネ、二エスの三人で、『嘆きの霊廟』を目指して街をでて歩き出す。

 街道にも、多くの行商人が行き来している。
 もう王子の来訪が直前ということもあり、ここ数日は特に行商人の数が更に増えている。
 中には、馬車が十数台もつらなる長距離行商隊キャラバンなどもいる。

 荷物は重いものの、ニエスがいてくれるお蔭で、本来の持つべき量に比べれば、かなり少なめだ。
 勇一も、ここ一週間で歩くことにはすっかり慣れてきているし、これくらいなら一日中歩いても問題なさそうである。
 ゆっくりと歩いている商隊などは、どんどん追い抜いて先をいそぐ。

「えっ? ディケーネ様って 奴隷になってしまわれたんですか?」
「ちょっと事情があってな。今はこのユーイチの奴隷だ」
 ディケーネとニエスは顔見知りなので、歩きがてらガーズルトーク(?)に花を咲かせている。

「そうだったんですかあ。色々ご苦労なさってるんですねー」
「それ程でもない。まあ、だから、私のことはもう、ディケーネと呼び捨てにしてくれ」

「う、そう言われましても、いきなり呼び捨てはしずらいですよ。
 年上ですし、ディケーネさんって読んでいいですか?」
「ああ、それでもかまわん」


 天気がよく、風も気持ちいい。
 街から離れると、少しづつ行き交う商人達も減っていく。
 どこまでも続くような草原の中にある一本道を、気軽に歩く。
 なんとも、ほのぼのとしたピクニック気分だ。

 そんな調子で街道を歩き、街をでて一時間程経ったあたりで、街道の前方に見知った集団が見えてきた。

「ん? んんん? あの集団って、例のドラゴン退治のレイドパーティーだよな」
「ああ、そうだな」

 街道の前方に、ドラゴン退治のレイドパーティーの集団だった。
 どうやら目的地の方向が同じらしい。
 先に街を出たレイドパーティーの集団は、馬に乗っている者もいるものの大多数は歩きで、中には荷車を引いている者などもいる。全体の動きは普通に歩くよりもやや遅い。その為に勇一達が追いついてしまったようだ。

「何か問題でも、あるんですか?」
 勇一とディケーネが二人して微妙な顔をしているので、ニエスが不思議そうに聞いてくる。

「いや、別に問題は無いんだけどね」
「ああ、問題ない」
 二人の答えに、さらにニエスが不思議そうにしているが、それ以上は聞いてこなかった。

 歩き続けると、自然に集団の一番後ろに追いついてしまった。
 そのまま歩みをゆるめず後ろから追い抜いていくと、冒険者達がジロジロとこちらをみてくる。
 勇一が見たことある顔もあるし、ディケーネも知っている冒険者がいるはずだが、別に声は掛けて挨拶もしない。
 どんどん追い越し、前へと進んでいく。

 先頭の馬にのった集団の近づいた。『水と炎の旅団』のメンバーがいるのが見える。
 その横を勇一達が通り過ぎようとすると、気がついたグルキュフが声をかけてきた。

「おい、そこのお前、ちょっとまて」

 無視して歩き続ける。こんな男に構っている暇もない。
 そんな勇一に対して、馬を寄せてきた。
 馬上から、蔑むように見下ろしてくる。

「この屑新人が、よくも私の警告を無視して邪魔してくれたな。この報いはいつか受けてもらうからな、覚悟しておけ」

 勇一は、グルキュフの事手にしない。こんな奴、無視するに限る。
 でも、ディケーネは違うようだ。安い脅し文句にも、言い返す。

「よくも、恥ずかしげもなく、そんな事が言えるものだな。お前には誇りはないのか?」

 うーん。
 知ってはいたが、意外と気短いよねディケーネって。言われたら言い返さずにいられない性格だよね。
 すっごい負けず嫌いだし。
 勇一がそんな事を思う。

 そのやり取りが聞こえたのか、後ろにいた『水と炎の旅団』のメンバーの女性が露骨に顔をしかめた。

「グルキュフ、もう止めときなよ。あんたさあ、確かに有能だけど、……時々物凄くかっこ悪いわよ」

 その横にいる、頭に刺青をいれた、やたらいかつい感じの男も、同意するかのように無言で頷いた。
 そんなパーティー仲間二人の意見に、グルキュフは『ふん』と鼻を鳴らすだけで、何も答えない。
 何も無かったかのように隊列の先頭に戻っていった。

 ディケーネはまだ、何か言い足りな気だった。
 事情のわからないニエルは、ちょっと心配そうな表情を浮かべている。
 結局、そのまま歩を進めて、先へと急ぐことにした。
 だが少し歩いて、ある程度集団から離れた頃に、後ろから呼び止める声が聞こえた。

「いよぅぅうう 新人くぅぅぅん」

 嫌な予感しかしない。勇一が振り返ると、やっぱり声を掛けてきてるのは、モヒカンの男だった。
 集団から抜け出して、わざわざ小走りで追いついてくる。
 ディケーネが睨みつけるが、それを無視して勇一に近よってきた。

「そんな怖い顔すんなってぇぇえ」

 またも馴れ馴れしく、無理やりに肩を組んでくる。
 ニヤニヤといやな笑顔を浮かべた顔をちかづけてきて、早口にまくし立てた。

「知ってると思うけどさぁあ、あのグルキュフのぉ旦那は、トドみたいなぁ男爵様に金もらってぇさあ、そこのディケーネちゃんに誰も寄せ付けないよぉうにしいてたんだよぉ。
 俺が新入りのお前にちょっかい出したのだって、グルキュフ旦那のぉ命令さぁあ」

「だからなんだ? 自分は悪くないとでも言うつもりか?」
 勇一は、その言動に腹が立ってくる。

「まあ、蹴りいれたのはぁあ、俺の趣味だけどなぁああ ひゃははははっはは」

 耳元で響くモヒカンの男の笑い声があまりに煩わしくて、我慢できなくなって、体を無理矢理に引き離す。

「怒るなよぉおぉ、新人くぅぅん、じょうおぉく じょうおぉく。冗談だってぇばぁ。
 あれはほらぁ、せんぱぁいからの愛の鞭だとかぁ、そうゆぅうのなんだよぉおおお」

 そして、なんとモヒカン男はいきなり手を合わせて、勇一に頭を下げた。

「ごめぇんごめぇん。本当にあやまるようぅ。仲良くしょうぜえぇ。
 っていうかぁ、俺はよぉ。ちょうっと新人くぅぅんの事を、見直してるんだぜぇええ。俺の蹴りぃくらっても、まったくへこたれずに次の日も依頼クエストうけてたしぃいいいい。根性あるじゃぁぁぁああん。
 それにぃ、それにぃ、聞いたぜぇ、聞いちゃったぜぇぇえええええええ。なんでもすっげぇえ大金で、そのディケーネちゃんを男爵様からぁあ、横からかっさらっちまったらしいじゃねえかぁぉぁああああ。
 邪魔されたぁああ、グルキュフ旦那なんて、顔まっかぁあにしてぇマジギレしてたぜぇぇえええええ。
 やるじゃねえかぁああああ なあぁあああ、新人くぅぅんよぉぉおおおおぉお。
 まじぃいでぇえええ 見直おしちまったぜぇぇぇええええええ。仲良くしようぜぇぇええええええ。
 で、ところでさぁ」

モヒカン男の目が、蛇のように鈍く光る。

「そぉんな大金、どうやってぇ 手に入れたのぉ?」
「こんな奴に構ってる暇はないぞユーイチ」

 ディケーネがそう言って、無理矢理にユーイチとモヒカンの男の間に体を割り込ませてきた。

「さあ行くぞ」

 牽制するようにモヒカンの男を睨みつけ、ユーイチの手を握り、引っ張って早足で歩き出す。
 取り残される形になったモヒカン男は、無理には追ってこず、その場で大きく手をふっていた。

「じゃあぁぁなああ 新人くぅぅん またなぁぁああああ」

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、いつまでも手を振っていた。

 そんな事がありながらも、とにかく『嘆きの霊廟』目指して歩く
 ひたすら、歩いて歩いて歩いて、歩き続ける。

 ――――――

 そして、歩きづくめの一日が、終わった。

「もう、『嘆きの霊廟』は目の前だ。あまり森に入ってしまった所でキャンプすると危険なので、今日はここら辺でキャンプをしようと思うが、どうだ?」

 まだ、日は落ちきっていない若干早目の時間だったが、もちろん異論はない。
 早速荷物を置いてキャンプの準備を行う。
 と、言っても、今回は短期の遠征なので、天幕などは使わないごくごく簡単なものだ。
 皆で手分けして周りから枝木を集め、それにディケーネが魔法具を使って火をつける。
 焚き火を中心にして、周囲に今朝買った魔物除けの薬品をまく。これで終わりだ。

 作業をしている内に、辺りが暗くなってきた。
 焚き火の炎がゆらゆらと揺れ、薄く辺りを照らしだす。
 空を見上げると満天の星が見える。勇一は今まで見てきた都会の星空とは似ても似つかぬ物だった。
 焚き火を囲みながらの食事は乾し肉と堅い黒パンだけの簡単な物だが、まったく苦にならない。
 美女と三人で焚き火を囲んで、何がって訳じゃないけど、いい雰囲気だ。
 アウトドアなど殆ど経験したことがない勇一は、その雰囲気だけでなんとなくワクワクウキウキ気分になってしまう。

 食事が終わるとディケーネが、おもむろに言った。

「じゃあ、ユーイチ。まず寝ろ」
「ワクワク気分ぶち壊しかよ! てか、いきなり寝ろと言われても寝れねーよ!」

「文句を言うな、交代で寝るんだ。さっさと寝ろ。まずは私が寝ずの番をするから、ニエスも先に寝ろ」
「はい、それでは先に寝かさせて頂きますね」

 ニエスは、躊躇なく寝る準備を始める。
 背負い袋バックパックから革製の寝袋を取り出すと、もぞもぞと体を入れ始める。
 可愛らしい芋虫の状態になると、すぐさま目を閉じた。

「ユーイチも、さっさと寝ろ」

 確かにディケーネが言ってる事が正しい。勇一も渋々と寝袋に入る。

 でもなあ、いきなり寝ろと言われても無理だっちゅーの。
 しかも、考えてみたらすぐそこに美少女のニエスも寝てるじゃないか。
 この状況で、どうやって眠れちゅーんだ。無理だっての。
 勇一は、そんな事を思っていたのだが、心配無用だった。
 何気に目をつむると、十秒と持たずに眠りに落ちた。
 荷物を担いで一日歩くのは、予想以上に体を疲れさせていたようだった。


 ――――――


「おい、ユーイチ起きろ」
「うん? ああ 交代の時間か」

 ディケーネに揺り起こされる。
 まだ眠いが、そんな事も言ってられない。
 目をこすり、頭を振って、寝ぼけている頭をなんとか起こそうとする。

「いや、交代じゃない。もう朝だから起きろ」

 んん? どうゆう事だ?
 寝袋から抜け出して、周りを見回すと確かにもう朝だった。

「私が、ちょっと交代の時間を間違えた。寝ずの番は私とニエスで行った。
 とにかく、もう朝だから起きて出発の準備をしてくれ」

 嘘だな。
 さすがに勇一でも解る。
 たぶん疲れて眠りこけている勇一を起こさずにおいて、旅慣れたディケーネとニエスで寝ずの番をまわしたのだろう。

「有難う、ディケーネ。お蔭でぐっすり眠れたよ」
「何の事を言ってるのか解らん」

「とぼける気なのか?」
「何の事か、解らん。解らんが、私はユーイチが無理をしていないか、心配だ……」

「気持ちは嬉しいよ。だけどさ、もうちょっと俺の事も信頼してくれよ」
「……確かにそうだな。すまない」

 ちょっとだが、気まずい空気が流れる。
 そこへ、さっきまで近くにいなかったニエスが、森からでてきた。

「あ、お早うございます御主人様。今日も宜しくお願いしますね」

 森からでてきたニエスは、なんとなく気まずくなった空気の中で、満面の笑みを浮かべて挨拶してくれる。
 朝日を浴びてキラキラと光り、地上に降りた天使そのものの笑顔で、彼女は言った。

「朝っから、たっぷり大きいのが出てスッキリしましたー。ディケーネ様も行かれますか?」
「いや、私はいい」

 んん? んんんん?
 勇一の顔が、ちょっとだけ歪む。
 何か意味不明の事をニエスが言ってるぞ?! 
 何を言ってるのか解らない! 俺にはニエスが何を言ってるのか解らないことにするのだ!
 そうだよ、まさかアイドル顔まけのネコミミ美少女のニエスが! そんな! そんな!
 いや、解ってるよ。解ってはいるさ。現実としては、そりゃそうなんだろうけども! でも、そんな!

 勇一は、深く考える事を、途中でやめた。



 その後、準備を整えて、改めて『嘆きの霊廟』を目指す。

「ここから、北にもう少しいくと『嘆きの霊廟』がある」
「あれ? ここって?」

 勇一には周りの森に、なぜか見覚えがあった。
 気のせいか? 
 森なんて何処でも同じような風景だし。

「ああ、そう言えば、すぐそこでユーイチと初めて会ったんだったな」

 そうだ、ここら辺が、俺が始めてこの異世界に来た場所なんだ。
 見覚えがあって当然だよな。
 元の世界で、行き成り吹き飛ばされて、ここにきたんだ。

 見覚えがある?

 その言葉が別の記憶を急に引き出した。
 ふと、あの曇り空を思い出す。
 モヒカン男に蹴られる直前にみた風景。あの曇り空の日、丘の上の岩の上からみた風景。
 そうだ。
 あれは、子供の頃によく親につれていってもらった自然公園の展望台から見た富士山の風景にそっくりだった。
 思わず勇一が駆け出す。

「おい、ユーイチ何処行くんだ。『嘆きの霊廟』はあっちだぞ!」

 勇一は止まらない。走り続ける。
 走りつづけながら思い出す。
 最近、依頼クエストをこなす為に散々歩き回ったダーヴァの街の周辺を思い出す。
 元の世界の地図を思い出す。 
 それが、頭の中で、ゆっくりと重なりあった。

 ある場所で急に止まる。そこは何もない森の中だった。

「間違いない。ここだ。ここに、覚えがあるんだ」

 その場所は、ちょうど勇一がこの世界に現れた場所だ。

「だから、ここはユーイチが襲われた場所だろう。私と始めてあった場所でもあるな。
 見覚えあるに決まっているさ」

 追いついてきたディケーネが、ちょっと呆れ気味にいう。

 ちがう。
 この場所。
 フェンス沿いのあの道なんだ。
 あの場所だ。
 コンビニに寄ってから、いつも通るフェンス沿いの長い直線を歩いていた、あの場所。
 何の前触れもなく突然に、後方からとてつもない力で吹っ飛ばされた、あの場所。
 体が空中に放り出された瞬間、頭の中が真っ白になって、そこで意識がとだえた、あの場所。
 間違いない。
 フェンスはなくなり、道路のアスファルトがなくなり、草がはえ、森にになっているが……
 同じ場所だ。

「おい、いったいどうしたんだユーイチ。顔色も悪いぞ」
「なあ、ディケーネ。『嘆きの霊廟』ってどっちにあるんだ?」

 ディケーネの心配をよそに、勇一が質問した。
 いまひとつ、訳がわけらなかったが、ディケーネは素直にある方向を指さした。

「あちらに、もう少し歩くだけで『嘆きの霊廟』の入り口があるぞ」

 指さした方向は、元の世界では、長いフェンスの向こう側・・・・だった。
 長いフェンスの向こう側。
 そこは、元の自分がいた世界では、自衛隊の基地があった場所だ。

『嘆きの霊廟』にたどり着いて、一目見たとき、それが何なのか勇一には直ぐにわかった。

 それは自衛隊基地のシェルターだった。
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