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第二章
30 名前
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「こちらがライトドラゴンの首に掛かっていた懸賞金、金貨八百枚になります」
ドカッと、大きな革袋がカウンターの上に置かれた。
「なお、ドラゴンの死体の買い取りについては、価格を査定後に、後日あらためてお支払いさせて頂きます」
胸の大きい受付嬢が、ニコニコと笑顔を浮かべて教えてくれた。
ライトドラゴンの首には、多額の賞金がかかっていたうえに、死体を結構な金額で買取りしてくれるそうだ。
ドラゴンの死体はやっぱり良い素材になるらしい。
カウンターの上に置かれた革袋を手に取ってみる。
お、重い。
金貨八百枚。約8Kg程の重さがあるから、片手で持つのが無理なくらいだ。
それにしても物凄い大金だ。
そして偶然にもその金額は、ディケーネの奴隷として買い取った金額と、同じ金額だった。
ただ、その事を口に出して言うのは、さすがにデリカシーにかけるだろうなあ。
そう思って勇一は口に出さずにいた。
「ふむ、私と同じ金額だな」
ディケーネ本人が口に出して言ってしまったよ!
しかも
「ディケーネさんって、そんなとんんでもない値段でご主人様に買われたんですか?!」
そうニエスが驚くと、なんかちょっと
『実は、私はライトドラゴンと同じ金額の女なんだよ』的に自慢げな表情を浮かべている。
まあ、それはさすがに、勇一の気のせいかもしれないが。
とにかく、金貨八百枚の入った革袋を肩に担いで、カウンターを離れる。
改めて冒険ギルド内を見ると、最高に沈んだ雰囲気だった。空気が重い。
ここに入るまで歩いてきた街の中の、熱気あふれ浮かれた雰囲気と真逆の空気だ。
それもそのはず、冒険ギルドの中には、『水と炎の旅団』を中心に、無事に帰ってきたレイドパーティーの生き残り達が座っている。
あまりにも重く、暗い空気だ。
なんか、あまり関わりたくないな。
そう思って、何も言わずに横を通り過ぎようとする。
「おい、ちょっとまて。聞きたいことがある」
呼び止められてしまった。
声のほうを振り向くと、グルキュフが立ち上がってこちらに寄ってくる。
「なんだよ?」
「ライトドラゴンと戦った先発隊に、誰か生き残りはいたか?」
「一人だけ残して全滅してたよ。生き残っていたのは……」
あれ? あのモヒカンの男って、何て名前だっけ?
さっきディケーネが街で同じような質問を受けた時に、名前を言っていたような気もするけど、思い出せないぞ。
勇一が困っていると、ディケーネが代わりに答えてくれた。
「"ウロガエル"と呼ばれている男だけが生き残っていた。
他の冒険者の死体に魔物除けの薬品をふりかけていたが、多分もうすぐ帰ってくるだろう」
「ウロガエルか、あいつの悪運だけは本物だな。
詳しい事はウロガエルが帰ってきたら聞くことにするか」
話は終わったといわんばかりに、ディケーネが歩き出そうとする。
「まて、もう一つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「いや、ディケーネ。お前でなくて、そっちの男に改めて聞きたい」
グルキュフはもちろん、勇一のことを見ていた。
「なんだよ?」
問いただすとグルキュフが、真正面から見据えてくる。
「名前だ」
「名前? なんのことだ?」
いきなり”名前だ”と言われても何のことか、勇一には解らない。
そんな勇一を馬鹿にするような表情を浮かべてから、グルキュフが聞いてきた。
「お前の名前に決まってるだろう。 おまえ、名は何と言う?」
今頃、それを聞くのかよ!
思わず、勇一が心の中で突っ込みをいれる。
どうやら、今までは名前を知らないことも気にならないくらいに、勇一のことが、まったく眼中に入って無かったらしい。
「俺の名は、勇一 五百旗頭だよ」
「ユーイチ・イオキベか。覚えておくぞ」
その端正な顔を歪めて、グルキュフは、獣のように笑う。
今までは、”どこにでもいるただの新人の一人”と思い、まるで眼中になかった男。
その男を初めて敵として、いや、"獲物"と認識した。そんな感じの表情だった。
――――――
その後、三人で冒険ギルドの建物を出る。
すると、急にディケーネに腕を引っ張られた。
「ユーイチちょっとこっちへ来い。大事な話がある」
腕を引っ張られたまま、少し離れた路地に連れて行かれた。
ディケーネがいつにも増して厳しい表情だ。
「また、いきなり何だよ、大事な話って」
「ニエスの事だ」
少し離れた所で、手もちぶさたに待っているニエスをチラリと見る。
「彼女がどうしたんだ?」
「ニエスは知りすぎた。
"嘆きの霊廟"で見つけた品々がとんでもない伝説級の物だと言う事は私にも解る。それらについてニエスは多くを知りすぎてしまった。
さらに問題なのは、"嘆きの霊廟"に、まだ多くの品が残っている事をニエスが知っていることだ」
「彼女が、他人にしゃべってしまうと?」
「ニエスを信用する、しないの問題じゃない。
ニエスは奴隷だからな。本人に喋るつもりがなくても、主人に命令されれば喋べらざるをえない」
「なるほど、納得。
さて、どうしたもんかな」
勇一の暢気な問いかけに対して、ディケーネの目が更に鈍く、ギラリと光った。
「口を封じるしかないだろう」
え?
口を封じるって……、それって、どういう意味だ?
勇一が困惑する。
ディケーネの目は、真剣だ。
その、あまりにも真剣すぎるディケーネの瞳が、勇一を更に困惑させる。
"口を封じる"って、まさか……
まさか、ニエスをコロス……とか、考えて……
「今回は金の力を使って口封じをしよう。
ドラゴンを退治したおかげで金はあるんだ。いっそのことニエスを買ってしまうのはどうだ?」
「あ、うん、そうだよな! それがいい! そうしようそうしよう!」
勇一はもちろん大賛成する。
あー よかった。
ニエスをコロスとか変な事、ディケーネが言いださなくて。
ディケーネなら、なんとなく言い出しかねない所があるから、怖いんだよなあ。
心の中だけで安堵のため息をつく。
「それって、明日でいいんだよな」
「ああ、元々のニエスの返却予定が明日だからな。返しにいくついでに買取の話をすればいい」
「OK、じゃあ、今日はもう宿屋に泊まって寝よう」
今日は、なんかもう疲れた。
とにかく眠りたい。
近くの宿屋に三人で部屋を取る。
部屋に入って、飯も食わずそのままベッドに倒れこみ、泥のように眠った。
こうして、長い長い一日が、やっと終わりを告げた。
*お知らせ
『異世界スクワッド』を愛読ありがとうございます。
この作品はいままで小説家になろうサイトと、アルファポリス 二つに同時に投稿しておりました。
ですが、二章に入り、作者も忙しくなった為、アルファポリスにはリンクのみの形に変更したいと思います。
続きは以下の作者ページより、リンクをご確認ください。
http://www.alphapolis.co.jp/author/detail/735223216/
お手数をおかけして大変申し訳ありませんが、宜しくお願いいたします。
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ライトドラゴンの首には、多額の賞金がかかっていたうえに、死体を結構な金額で買取りしてくれるそうだ。
ドラゴンの死体はやっぱり良い素材になるらしい。
カウンターの上に置かれた革袋を手に取ってみる。
お、重い。
金貨八百枚。約8Kg程の重さがあるから、片手で持つのが無理なくらいだ。
それにしても物凄い大金だ。
そして偶然にもその金額は、ディケーネの奴隷として買い取った金額と、同じ金額だった。
ただ、その事を口に出して言うのは、さすがにデリカシーにかけるだろうなあ。
そう思って勇一は口に出さずにいた。
「ふむ、私と同じ金額だな」
ディケーネ本人が口に出して言ってしまったよ!
しかも
「ディケーネさんって、そんなとんんでもない値段でご主人様に買われたんですか?!」
そうニエスが驚くと、なんかちょっと
『実は、私はライトドラゴンと同じ金額の女なんだよ』的に自慢げな表情を浮かべている。
まあ、それはさすがに、勇一の気のせいかもしれないが。
とにかく、金貨八百枚の入った革袋を肩に担いで、カウンターを離れる。
改めて冒険ギルド内を見ると、最高に沈んだ雰囲気だった。空気が重い。
ここに入るまで歩いてきた街の中の、熱気あふれ浮かれた雰囲気と真逆の空気だ。
それもそのはず、冒険ギルドの中には、『水と炎の旅団』を中心に、無事に帰ってきたレイドパーティーの生き残り達が座っている。
あまりにも重く、暗い空気だ。
なんか、あまり関わりたくないな。
そう思って、何も言わずに横を通り過ぎようとする。
「おい、ちょっとまて。聞きたいことがある」
呼び止められてしまった。
声のほうを振り向くと、グルキュフが立ち上がってこちらに寄ってくる。
「なんだよ?」
「ライトドラゴンと戦った先発隊に、誰か生き残りはいたか?」
「一人だけ残して全滅してたよ。生き残っていたのは……」
あれ? あのモヒカンの男って、何て名前だっけ?
さっきディケーネが街で同じような質問を受けた時に、名前を言っていたような気もするけど、思い出せないぞ。
勇一が困っていると、ディケーネが代わりに答えてくれた。
「"ウロガエル"と呼ばれている男だけが生き残っていた。
他の冒険者の死体に魔物除けの薬品をふりかけていたが、多分もうすぐ帰ってくるだろう」
「ウロガエルか、あいつの悪運だけは本物だな。
詳しい事はウロガエルが帰ってきたら聞くことにするか」
話は終わったといわんばかりに、ディケーネが歩き出そうとする。
「まて、もう一つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「いや、ディケーネ。お前でなくて、そっちの男に改めて聞きたい」
グルキュフはもちろん、勇一のことを見ていた。
「なんだよ?」
問いただすとグルキュフが、真正面から見据えてくる。
「名前だ」
「名前? なんのことだ?」
いきなり”名前だ”と言われても何のことか、勇一には解らない。
そんな勇一を馬鹿にするような表情を浮かべてから、グルキュフが聞いてきた。
「お前の名前に決まってるだろう。 おまえ、名は何と言う?」
今頃、それを聞くのかよ!
思わず、勇一が心の中で突っ込みをいれる。
どうやら、今までは名前を知らないことも気にならないくらいに、勇一のことが、まったく眼中に入って無かったらしい。
「俺の名は、勇一 五百旗頭だよ」
「ユーイチ・イオキベか。覚えておくぞ」
その端正な顔を歪めて、グルキュフは、獣のように笑う。
今までは、”どこにでもいるただの新人の一人”と思い、まるで眼中になかった男。
その男を初めて敵として、いや、"獲物"と認識した。そんな感じの表情だった。
――――――
その後、三人で冒険ギルドの建物を出る。
すると、急にディケーネに腕を引っ張られた。
「ユーイチちょっとこっちへ来い。大事な話がある」
腕を引っ張られたまま、少し離れた路地に連れて行かれた。
ディケーネがいつにも増して厳しい表情だ。
「また、いきなり何だよ、大事な話って」
「ニエスの事だ」
少し離れた所で、手もちぶさたに待っているニエスをチラリと見る。
「彼女がどうしたんだ?」
「ニエスは知りすぎた。
"嘆きの霊廟"で見つけた品々がとんでもない伝説級の物だと言う事は私にも解る。それらについてニエスは多くを知りすぎてしまった。
さらに問題なのは、"嘆きの霊廟"に、まだ多くの品が残っている事をニエスが知っていることだ」
「彼女が、他人にしゃべってしまうと?」
「ニエスを信用する、しないの問題じゃない。
ニエスは奴隷だからな。本人に喋るつもりがなくても、主人に命令されれば喋べらざるをえない」
「なるほど、納得。
さて、どうしたもんかな」
勇一の暢気な問いかけに対して、ディケーネの目が更に鈍く、ギラリと光った。
「口を封じるしかないだろう」
え?
口を封じるって……、それって、どういう意味だ?
勇一が困惑する。
ディケーネの目は、真剣だ。
その、あまりにも真剣すぎるディケーネの瞳が、勇一を更に困惑させる。
"口を封じる"って、まさか……
まさか、ニエスをコロス……とか、考えて……
「今回は金の力を使って口封じをしよう。
ドラゴンを退治したおかげで金はあるんだ。いっそのことニエスを買ってしまうのはどうだ?」
「あ、うん、そうだよな! それがいい! そうしようそうしよう!」
勇一はもちろん大賛成する。
あー よかった。
ニエスをコロスとか変な事、ディケーネが言いださなくて。
ディケーネなら、なんとなく言い出しかねない所があるから、怖いんだよなあ。
心の中だけで安堵のため息をつく。
「それって、明日でいいんだよな」
「ああ、元々のニエスの返却予定が明日だからな。返しにいくついでに買取の話をすればいい」
「OK、じゃあ、今日はもう宿屋に泊まって寝よう」
今日は、なんかもう疲れた。
とにかく眠りたい。
近くの宿屋に三人で部屋を取る。
部屋に入って、飯も食わずそのままベッドに倒れこみ、泥のように眠った。
こうして、長い長い一日が、やっと終わりを告げた。
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