20 / 26
第一章:リャンガとして
第十六話:トゥーチョ・彼はロコイサ王が求める才
しおりを挟む
黒い影に拐われた二人がいたのはビャコイヤ商店道・冒テントイ録────────
二人を連れ去った犯人こそ、ダブルホワイトコットンキャンディこと駄遊玩駄モチャオーチであった。捕まった際即座に抵抗しそうなトゥーチョが無言無抵抗でそのまま連れ去られたのは、サイコロ頭に尋常ではない圧をかけられながら動くことと喋ることを禁じると釘を刺されていたためであった。
そして彼らが冒テントイ録へと連れて来られてから程なくしてやってきた夜──────
シャッターが下ろされ電気が消されていた店内。にも関わらず問題なくおもちゃや駄菓子が並ぶ様子が見ることができるのは入り口側から見て左側の奥、硝子ドアごしからのモチャオーチの生活の光が少しだけ届いていたからだ。
静寂の中、そこにいたトゥーチョがひそひそ声でサイコロ頭に聞く。
「おいっサイコロ頭っ、もう喋ってもいいのかっチョ?」
くるっ
「…………。
ああ構わん、翁が戻って来ぬよう静かに話すならな」
少し黙って硝子ドアの方を見てからサイコロ頭はそう答えた。
「よしっ、チョれじゃあさっそく夕方の続きといこうじゃないかっチョ。まずっ、この状況とオマエが一体何者なのかを説明しろっチョッ!」
「そうであったな……。
では、まず第一マス目にだが───」
ヒュッ
その瞬間から数えて一度目のトゥーチョの瞬きの間にサイコロ頭は彼の視界から外れると、二度目の瞬きの間にはトゥーチョを石床へと押し倒していた。
フッッッッ
実際音がほぼ鳴ってないに等しかったその所作だが、トゥーチョ自身の受けた感覚はズッッドォォンッッッ!!ともの凄い衝撃と圧力で押し倒されたかのようなものだった。
「我に対するその口の聞き方は処刑だなっ」
「…………」
声が出ず石床の上に背を張り付けたままガタガタと震えながら恐怖で視線を合わせられずで、ロコイサ王の体の隙間から天井を仰ぎ見ることしかできなかったトゥーチョ。
「では第2マス目に、貴様を死の淵に立たせている我の名は──」
そう言いながらサイコロ頭がトゥーチョからそっと手を放し、マントの中腰の後ろに手を掛けゆっくりと立ち上がる。
「………!!」
その瞬間何かを察したトゥーチョは、反らしていた視線をロコイサ王に向け大慌てで口を開いた。
「あーーーっ!!……貴方様にぃーーっ!!!……ご無礼な口の利き方をし死の淵に立たされている私の名前はトゥーチョと申しますッチョぉッ~~ッ!!」
するとサイコロ頭は動きを止め、トゥーチョを見下ろし言った。
「ほぉー……物分かりが良いな。トゥーチョと言ったか、お主にはやはり才があるようだ……………」
ロコイサ王の言葉の後ろに空いた一瞬の間にすら耐えきれず、トゥーチョが恐る恐るサイコロ頭に聞く。
「? なっ、なんのっ……才ですかッ……チョッ」
「其は、今お主を死の淵に立たせていたこの我【ロコイサ王】の臣下になるために要ず才だ」
「ロ……ロコイサ……おう様です……っチョか?」
「そうだ。トゥーチョよ、ロコイサ王国という国は知っておるか?」
「ロコイサ王国…………もっ……勿論ですっチョッ! ロコイサ王国と言いましたら、あのハレタカヨとシューヨイナの境にあるデカイ廃国のことですっチョねッ!!」
(チョふぅ~っ……何か知らないとヤバいことになってた気がするっチョから、知ってて良かったっチョッ。
あれっ? でも何か今、焦って変なことを言ってしまった気がするっチョけど……)
「廃国か…………。あの国は、我と我についてきた皆とで築き上げた国なのだ」
(はいこくゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!! ロコイサ王様の築き上げた国のこと廃国呼ばわりしてたっチョ~~ッ!! ヤバいっチョッ!! 完全にロコイサ王様の地雷を踏んでしまったっチョ~~ッ!!
んっ? いや、でも待つっチョよ? よく考えてみたらロコイサ王国って400年くらい前にできた国の筈だっチョよなっ?
ということはだっチョよ、今のはロコイサ王様の冗談…………。今ここは笑うべきところだっチョかッ!!!!)
「チョはッ、チョははははははははッ!!」
「どうした? 何が其程におかしいトゥーチョよ。今のどこかに笑うところでもあったか?」
殺気弥立つ声がトゥーチョの感情の一切込もっていない愛想笑いを止める。
「…………チョ……えっ? 何がとは……。私は只……ロコイサ王国があのようになったのは400年程前と聞いておりましたので、今のはロコイサ王様の冗談かとここは笑うべきところだと思った次第でありますっチョッ!!」
トゥーチョの考えを聞くとロコイサ王は納得した様子で。
「あーそうか……ならば今我は400歳以上ということになるのか。フッ……まぁ確かにそんな話なら、我がお主の立場でも真実無しでは信じられないだろう。
良しトゥーチョ。お主にほんの少し我の過去のことを手短に話す、ロコイサ王国があのような姿になる前の我の最後の記憶についてだ。お主は今から聞く話の全てを信じ理解しろ、良いな?」
トゥーチョの首がコクりと頷いた。
「ロコイサ王国が未だ健在だった頃のことだ。我には昔たった一人、惚れた男が居った。其奴の名は【旗呂敷ノ・行事貨】。
ロコイサ王国を築き上げた後、国に平穏がもたらされていた当時我は奴と出会った。それから奴と交じらうことが叶った二年後、奴との初めての口吸いを遂げた夜。その時を最後に何故か我は長い眠りへとついてしまっていた。
目が覚め気付いた頃には時遅く……我の姿は変わり果て、そこには我の知る国の姿も民の姿もなくロコイサ王国はモンスター共の巣窟へと成り果てていた。
目を覚ました我は、残っているものを探そうと国中を必死に探した。そのようになるまで何も出来なかった己の無力さを噛みしめながら心身ともに焦燥していく様を身に染み込ませながら。だが結局何も見つからぬまま、それもいつしか怒りに任せモンスター共を狩りながら死人のようにさまよう日々に変わっていたのだがな。それからモンスターを一掃しロコイサ王国を奪還した我は、この年を重ねても死なぬ身体を持ってお主が言っていた400年以上を生きてきたという訳だ」
一応ロコイサ王の話を聞いていたトゥーチョであったが、話の導入部付近での彼への引っ掛かりがトゥーチョの感情移入を妨げていた……。
(これはもしかして……惨劇のBLってヤツだっチョかっ? いや、正確には惨劇のBSL【ボーイズサイコロラブ】だっチョだろうか……。まさかオレの前にそのご本人様が現れる日がくるっチョは……ビックリだっチョ)
沈黙したロコイサ王の返答を求めるための真剣な眼差しにトゥーチョは。
「ロコイサ王様の御言葉とあれば、信じさせて頂くのみでありますっチョッ!!」
ぐぅ~~~~~
答えたと同時にトゥーチョのお腹が大きく鳴った。するとトゥーチョはウーポシュックスの能力で収縮させ持ち歩いていた保管用ダンボールを取り出し、それを元のサイズへと戻した。その中いっぱいに詰め込まれていたのは【賞味期限切れのお菓子たち】。それはトゥーチョが今の姿になってすぐ、危険を犯しながらも人間だった頃住んでいた宿から非常食として確保してきた物であった。
そこからお菓子を取り出し両手に持ったトゥーチョは、片方の手をロコイサ王へと差し出した。
「賞味期限切れてしまって申し訳がございませんっチョが、宜しければ一緒に食べましょうっチョ」
本来であれば姿が変わって以来何も食わずとも生きられるようになっていたロコイサ王にとって、食べるという行為自体無意味なことであった。だがこの時、そのことを知らないトゥーチョがとった行動にロコイサ王はキョトンとした表情を見せ。
「フッ、やはりお主は才があるなっ…………」
その言葉とともにロコイサ王は優しい笑みを溢していた。
翌日お昼─────
トゥーチョとロコイサ王はモチャオーチの目を盗み脱走できる機会をうかがっていた。
「良いか? 脱走の際、決してあの翁に動いたり話したりしている姿を見られるでないぞ?」
「あーチョういえば連れて来られるときもそうでしたっチョけど、一体何でなんですかっチョ?」
トゥーチョの質問に深刻な顔を見せつつロコイサ王は答えた。
「見られればあの翁が死を迎えるからだ」
「チョへッ!!?」
「あやつが前に一度似たような状況で死にかけたのを我は見たのだ。あれは時折ここへやってくる奇っ怪な遊具を運んでくる男から翁が指導を受けている最中であった。その時翁が男に見せられていたそれは只の【犬の形をした布の綿詰め】だった。事が起きたのは男に言われるがまま翁がその犬の耳を引っ張った時、突如として犬から羽根が生え始めその下から更に風車のようなものが出てきたのだ。終いには犬が吠えながら空を飛び回り始め、それに驚いた翁は倒れて失神……。目覚めたのは二日後だった、恐らくその間生死の境をさ迷っていたのだろう」
「そうだったのですかっチョ……」
その忠告を踏まえた上でロコイサ王と共に4日間連続で脱走を試みたトゥーチョだったが──。
全日とも、ことごとくモチャオーチに見つかり失敗に終わったのであった。挙げ句の果て4日目には。
「ん~~なんだかこのところ万引きが多い気がするねぇ~。この人形の魅力を分かってくれるのは嬉しいんだけども……。あ~いいことを思いついたっ」
モチャオーチの警戒心が高まり、連れ戻されてすぐロコイサ王は頑丈な鍵付きのショーケースへと移し替えられた。
しかし夜になると。
シュピンッ
腰後ろから抜いた赤い柄に金の賽の目の一の紋が刻まれた短刀でショーケースの鍵の付いていない後ろの一面をいとも簡単に切り抜き、難なくと出てくるロコイサ王。トゥーチョはその様子をポカーンと見ていた。
「今日も失敗に終わったな。してトゥーチョよ、明日はどう逃げる?」
聞かれたトゥーチョが(えっ?)と困り顔を見せた。
「い、いや……チョっと待って下さいっチョッ。これ以上脱走に失敗してしまうと余計に警戒態勢が高まり、最悪【あの老夫に我々の動いている姿を見せててはいけない】という条件ありきでの脱走が不可能になりかねませんですっチョ。ですのでロコイサ王様っ、次の脱走を試みるまで少しの間オレに作戦を練らせて頂けませんですかっチョ? 何卒お願い致しますっチョッ!!」
そうトゥーチョが土下座をして頼み込むと。
「面を上げよ……分かった、良かろう。では、お主の才気見せてみよトゥーチョ」
「ありがとうございますっチョッ!! 是非お任せ下さいっチョッ!!」
以降トゥーチョの作戦が練り終えるまで冒テントイ録生活は続いた─────────────
その期間を通して彼らにも段々とモチャオーチという老夫の人間像も見えてきていた。
日々やってくる小さな子供達からはダブルホワイトコットンキャンディさんの愛称で呼ばれ、その度に笑顔で親しげに話す様子。人柄も良く話し方も丁寧、困っている人や動物がいたら助けるのが当たり前。ビャコイヤに住む人達も頻繁に店に訪れ、お裾分け持ってきたり、楽しげな会話がよく弾んでいたりととてもモチャオーチが親しまれているのだと彼らは身に感じていた。
只……トゥーチョが気掛かりだったのは最初の4日間、脱走しようとした時に見せたモチャオーチの恐るべき運動神経。そこの不安だけは日々が経過していく中も常に残り続けていた──────
二人を連れ去った犯人こそ、ダブルホワイトコットンキャンディこと駄遊玩駄モチャオーチであった。捕まった際即座に抵抗しそうなトゥーチョが無言無抵抗でそのまま連れ去られたのは、サイコロ頭に尋常ではない圧をかけられながら動くことと喋ることを禁じると釘を刺されていたためであった。
そして彼らが冒テントイ録へと連れて来られてから程なくしてやってきた夜──────
シャッターが下ろされ電気が消されていた店内。にも関わらず問題なくおもちゃや駄菓子が並ぶ様子が見ることができるのは入り口側から見て左側の奥、硝子ドアごしからのモチャオーチの生活の光が少しだけ届いていたからだ。
静寂の中、そこにいたトゥーチョがひそひそ声でサイコロ頭に聞く。
「おいっサイコロ頭っ、もう喋ってもいいのかっチョ?」
くるっ
「…………。
ああ構わん、翁が戻って来ぬよう静かに話すならな」
少し黙って硝子ドアの方を見てからサイコロ頭はそう答えた。
「よしっ、チョれじゃあさっそく夕方の続きといこうじゃないかっチョ。まずっ、この状況とオマエが一体何者なのかを説明しろっチョッ!」
「そうであったな……。
では、まず第一マス目にだが───」
ヒュッ
その瞬間から数えて一度目のトゥーチョの瞬きの間にサイコロ頭は彼の視界から外れると、二度目の瞬きの間にはトゥーチョを石床へと押し倒していた。
フッッッッ
実際音がほぼ鳴ってないに等しかったその所作だが、トゥーチョ自身の受けた感覚はズッッドォォンッッッ!!ともの凄い衝撃と圧力で押し倒されたかのようなものだった。
「我に対するその口の聞き方は処刑だなっ」
「…………」
声が出ず石床の上に背を張り付けたままガタガタと震えながら恐怖で視線を合わせられずで、ロコイサ王の体の隙間から天井を仰ぎ見ることしかできなかったトゥーチョ。
「では第2マス目に、貴様を死の淵に立たせている我の名は──」
そう言いながらサイコロ頭がトゥーチョからそっと手を放し、マントの中腰の後ろに手を掛けゆっくりと立ち上がる。
「………!!」
その瞬間何かを察したトゥーチョは、反らしていた視線をロコイサ王に向け大慌てで口を開いた。
「あーーーっ!!……貴方様にぃーーっ!!!……ご無礼な口の利き方をし死の淵に立たされている私の名前はトゥーチョと申しますッチョぉッ~~ッ!!」
するとサイコロ頭は動きを止め、トゥーチョを見下ろし言った。
「ほぉー……物分かりが良いな。トゥーチョと言ったか、お主にはやはり才があるようだ……………」
ロコイサ王の言葉の後ろに空いた一瞬の間にすら耐えきれず、トゥーチョが恐る恐るサイコロ頭に聞く。
「? なっ、なんのっ……才ですかッ……チョッ」
「其は、今お主を死の淵に立たせていたこの我【ロコイサ王】の臣下になるために要ず才だ」
「ロ……ロコイサ……おう様です……っチョか?」
「そうだ。トゥーチョよ、ロコイサ王国という国は知っておるか?」
「ロコイサ王国…………もっ……勿論ですっチョッ! ロコイサ王国と言いましたら、あのハレタカヨとシューヨイナの境にあるデカイ廃国のことですっチョねッ!!」
(チョふぅ~っ……何か知らないとヤバいことになってた気がするっチョから、知ってて良かったっチョッ。
あれっ? でも何か今、焦って変なことを言ってしまった気がするっチョけど……)
「廃国か…………。あの国は、我と我についてきた皆とで築き上げた国なのだ」
(はいこくゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!! ロコイサ王様の築き上げた国のこと廃国呼ばわりしてたっチョ~~ッ!! ヤバいっチョッ!! 完全にロコイサ王様の地雷を踏んでしまったっチョ~~ッ!!
んっ? いや、でも待つっチョよ? よく考えてみたらロコイサ王国って400年くらい前にできた国の筈だっチョよなっ?
ということはだっチョよ、今のはロコイサ王様の冗談…………。今ここは笑うべきところだっチョかッ!!!!)
「チョはッ、チョははははははははッ!!」
「どうした? 何が其程におかしいトゥーチョよ。今のどこかに笑うところでもあったか?」
殺気弥立つ声がトゥーチョの感情の一切込もっていない愛想笑いを止める。
「…………チョ……えっ? 何がとは……。私は只……ロコイサ王国があのようになったのは400年程前と聞いておりましたので、今のはロコイサ王様の冗談かとここは笑うべきところだと思った次第でありますっチョッ!!」
トゥーチョの考えを聞くとロコイサ王は納得した様子で。
「あーそうか……ならば今我は400歳以上ということになるのか。フッ……まぁ確かにそんな話なら、我がお主の立場でも真実無しでは信じられないだろう。
良しトゥーチョ。お主にほんの少し我の過去のことを手短に話す、ロコイサ王国があのような姿になる前の我の最後の記憶についてだ。お主は今から聞く話の全てを信じ理解しろ、良いな?」
トゥーチョの首がコクりと頷いた。
「ロコイサ王国が未だ健在だった頃のことだ。我には昔たった一人、惚れた男が居った。其奴の名は【旗呂敷ノ・行事貨】。
ロコイサ王国を築き上げた後、国に平穏がもたらされていた当時我は奴と出会った。それから奴と交じらうことが叶った二年後、奴との初めての口吸いを遂げた夜。その時を最後に何故か我は長い眠りへとついてしまっていた。
目が覚め気付いた頃には時遅く……我の姿は変わり果て、そこには我の知る国の姿も民の姿もなくロコイサ王国はモンスター共の巣窟へと成り果てていた。
目を覚ました我は、残っているものを探そうと国中を必死に探した。そのようになるまで何も出来なかった己の無力さを噛みしめながら心身ともに焦燥していく様を身に染み込ませながら。だが結局何も見つからぬまま、それもいつしか怒りに任せモンスター共を狩りながら死人のようにさまよう日々に変わっていたのだがな。それからモンスターを一掃しロコイサ王国を奪還した我は、この年を重ねても死なぬ身体を持ってお主が言っていた400年以上を生きてきたという訳だ」
一応ロコイサ王の話を聞いていたトゥーチョであったが、話の導入部付近での彼への引っ掛かりがトゥーチョの感情移入を妨げていた……。
(これはもしかして……惨劇のBLってヤツだっチョかっ? いや、正確には惨劇のBSL【ボーイズサイコロラブ】だっチョだろうか……。まさかオレの前にそのご本人様が現れる日がくるっチョは……ビックリだっチョ)
沈黙したロコイサ王の返答を求めるための真剣な眼差しにトゥーチョは。
「ロコイサ王様の御言葉とあれば、信じさせて頂くのみでありますっチョッ!!」
ぐぅ~~~~~
答えたと同時にトゥーチョのお腹が大きく鳴った。するとトゥーチョはウーポシュックスの能力で収縮させ持ち歩いていた保管用ダンボールを取り出し、それを元のサイズへと戻した。その中いっぱいに詰め込まれていたのは【賞味期限切れのお菓子たち】。それはトゥーチョが今の姿になってすぐ、危険を犯しながらも人間だった頃住んでいた宿から非常食として確保してきた物であった。
そこからお菓子を取り出し両手に持ったトゥーチョは、片方の手をロコイサ王へと差し出した。
「賞味期限切れてしまって申し訳がございませんっチョが、宜しければ一緒に食べましょうっチョ」
本来であれば姿が変わって以来何も食わずとも生きられるようになっていたロコイサ王にとって、食べるという行為自体無意味なことであった。だがこの時、そのことを知らないトゥーチョがとった行動にロコイサ王はキョトンとした表情を見せ。
「フッ、やはりお主は才があるなっ…………」
その言葉とともにロコイサ王は優しい笑みを溢していた。
翌日お昼─────
トゥーチョとロコイサ王はモチャオーチの目を盗み脱走できる機会をうかがっていた。
「良いか? 脱走の際、決してあの翁に動いたり話したりしている姿を見られるでないぞ?」
「あーチョういえば連れて来られるときもそうでしたっチョけど、一体何でなんですかっチョ?」
トゥーチョの質問に深刻な顔を見せつつロコイサ王は答えた。
「見られればあの翁が死を迎えるからだ」
「チョへッ!!?」
「あやつが前に一度似たような状況で死にかけたのを我は見たのだ。あれは時折ここへやってくる奇っ怪な遊具を運んでくる男から翁が指導を受けている最中であった。その時翁が男に見せられていたそれは只の【犬の形をした布の綿詰め】だった。事が起きたのは男に言われるがまま翁がその犬の耳を引っ張った時、突如として犬から羽根が生え始めその下から更に風車のようなものが出てきたのだ。終いには犬が吠えながら空を飛び回り始め、それに驚いた翁は倒れて失神……。目覚めたのは二日後だった、恐らくその間生死の境をさ迷っていたのだろう」
「そうだったのですかっチョ……」
その忠告を踏まえた上でロコイサ王と共に4日間連続で脱走を試みたトゥーチョだったが──。
全日とも、ことごとくモチャオーチに見つかり失敗に終わったのであった。挙げ句の果て4日目には。
「ん~~なんだかこのところ万引きが多い気がするねぇ~。この人形の魅力を分かってくれるのは嬉しいんだけども……。あ~いいことを思いついたっ」
モチャオーチの警戒心が高まり、連れ戻されてすぐロコイサ王は頑丈な鍵付きのショーケースへと移し替えられた。
しかし夜になると。
シュピンッ
腰後ろから抜いた赤い柄に金の賽の目の一の紋が刻まれた短刀でショーケースの鍵の付いていない後ろの一面をいとも簡単に切り抜き、難なくと出てくるロコイサ王。トゥーチョはその様子をポカーンと見ていた。
「今日も失敗に終わったな。してトゥーチョよ、明日はどう逃げる?」
聞かれたトゥーチョが(えっ?)と困り顔を見せた。
「い、いや……チョっと待って下さいっチョッ。これ以上脱走に失敗してしまうと余計に警戒態勢が高まり、最悪【あの老夫に我々の動いている姿を見せててはいけない】という条件ありきでの脱走が不可能になりかねませんですっチョ。ですのでロコイサ王様っ、次の脱走を試みるまで少しの間オレに作戦を練らせて頂けませんですかっチョ? 何卒お願い致しますっチョッ!!」
そうトゥーチョが土下座をして頼み込むと。
「面を上げよ……分かった、良かろう。では、お主の才気見せてみよトゥーチョ」
「ありがとうございますっチョッ!! 是非お任せ下さいっチョッ!!」
以降トゥーチョの作戦が練り終えるまで冒テントイ録生活は続いた─────────────
その期間を通して彼らにも段々とモチャオーチという老夫の人間像も見えてきていた。
日々やってくる小さな子供達からはダブルホワイトコットンキャンディさんの愛称で呼ばれ、その度に笑顔で親しげに話す様子。人柄も良く話し方も丁寧、困っている人や動物がいたら助けるのが当たり前。ビャコイヤに住む人達も頻繁に店に訪れ、お裾分け持ってきたり、楽しげな会話がよく弾んでいたりととてもモチャオーチが親しまれているのだと彼らは身に感じていた。
只……トゥーチョが気掛かりだったのは最初の4日間、脱走しようとした時に見せたモチャオーチの恐るべき運動神経。そこの不安だけは日々が経過していく中も常に残り続けていた──────
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる