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鈍感バカップルは知らない
しおりを挟む彼女が白い衣装を見にまとい、幸せそうな顔をして彼の隣へ立つ。かつては好きだと思った彼女に対して、今は素直におめでとうと思える。
彼女はステーシア。まだ学生だが、妊娠したということで急ぎ挙式を上げたらしい。
(絶対図ったな、アルフレッドのヤツめ…)
まぁ、ステーシアが幸せそうならいい。
この頬の、もう治りかけた傷に手を添える。このガーゼはある意味八つ当たりだ。もちろん、ステーシアではない、アルフレッドに対してだ。
(ったくよー…)
ステーシアに協力したのは、ステーシアに想いを寄せていたからだ。あわよくばアルフレッドからかっさらってしまおうと画策していた。の、だが。
激痛に目が覚めて、周りを見れば医務室。そしてステーシアがいるかと思いきや、そこにいたのはバルド…クラスメートであり、アルフレッドの親友だ。
「よう。バカップルの痴話喧嘩に巻き込まれたんだって?」
ステーシアでないことに少し寂しさを覚えながら、僕はため息をついた。
「派手に殴られたなぁ」
「何故君がいる?バルド」
「ステーシアを家まで送るから、グレイソンを送ってくれって頼まれた」
「…絶対襲うな、あの野郎…」
実は意識を失いながらも、聞こえていた。なんだっけ?俺を医務室に運んだら、すぐにでも、
死ねバカップル。いや、死ねアルフレッド。たった今怪我させたヤツの前で言うことか。
「…僕は一人で帰れる」
「ーーなんでグレイソンってさ、わざわざ一人称を僕にしてんの?」
「は?」
「俺、だろ?いつも僕、僕って」
驚いた。まさか、普段話もしないこの男に指摘される日が来るとは思わなかった。
「…なんのことかな」
「ステーシアの好みに少しでも合わせようと?」
あぁ、そうか。この男は俺がステーシアに想いを寄せていることを、知っているのか。
ーーそんなに俺は分かりやすかったか?
「じゃあ失恋したところで、遠慮なく俺って言わせてもらう」
「開き直りやがったな」
「逆に聞くけどさ」
「ん?」
「お前こそステーシアに持っていかれて良かったのかよ」
「ーーはぁ?」
「お前、何年も前からアルフレッドが好きだっただろう」
友人にしては過剰なスキンシップに、気付いた者の反応は様々だったが。喜ぶ女子がいたのはさすがに引いた。
「な、ななな、なんでっ…!」
ボッと、俺よりも真っ赤になったバルドが狼狽える。黙っていればイケメンなのに、と思う。まぁこんなバルドは新鮮だから面白いけれど。
「…あそこまであからさまで、よく気付かれていないと思ったもんだ」
「も、もしかしてアルフレッドも気付いてっ!?」
「いや、それはないだろ」
あそこまであからさまにアルフレッドに愛されていたのにそれに気付かなかったステーシア。けれどそれ以上に、アルフレッドも鈍感な部分がある。
「どうせアルフレッドは、それが親友同士のスキンシップくらいにしか思ってないだろうな」
そう、たまにウザそうな顔をするけれど、全然気付いてないだろう。唯一、マリーンとやらの奇行には気付いたらしい。当たり前だ、マリーンがアルフレッドに服を脱いで詰めより、抱けと言ったこと。令嬢とはいえないはしたない行いに、学園の者は皆、顔をしかめたものだ。
「…そ、それは黒歴史ってことで」
「黒歴史、ね。じゃあもう好きじゃないのか」
「目が覚めたんだよ!アイツ、ステーシアだけ愛してるし」
「…そんなステーシアを恨めなかった、か」
「っ……」
図星か。
ステーシアが最低な悪女なら、バルドは躊躇せずにアルフレッドを奪っただろう。それこそ、自分の人生を賭けて。
けれどステーシアに恨む要素など何もなく、お互いが想い合っているのだ。それを引き裂く権利も度胸も、バルドにはなかったのだろう。
「…はー……悪い、服どこだ」
身体の至るところがアザだらけだ。服を着れば擦れて痛いだろうけれど、仕方ない。
「ほら」
服を投げられ、それを見て首を傾げる。
「俺の服じゃない」
「…お前のはもう着れないほど血がついていたからな。俺の替えで悪いが」
「え、お前のなの?」
そこまでしてもらっていいのか、という意味だった。多分、この服にも血が滲んでしまうだろう。そう思ってのことだったが。
「やっぱ、ホモの奴の服なんか着たくねえよな。悪い、なにか他の…」
「いや、そういうんじゃなくて」
「え」
「別にホモとかそういうの気にしないし、俺も一度だけ付き合ったことあるし」
あ、しまった。口を滑らせた。
「…え、え、マジ!!?」
「あーもう、今のナシ!!」
もう何年も前のことだ。興味本意で付き合って、…やめよう、考えるのは。
「だから別に、同性愛に対する嫌悪感とかないし」
「でもお前もステーシアが好きなんじゃ…」
「俺は優しくされたらコロッと落ちるんだよ!悪いか!」
「ーー別に、悪くない」
そう、興味本意で一人の男と付き合った。相手は本気だったんだ。結果、お互いが傷付いた。俺がちゃんと向き合おうとしなかったから。興味本意で、遊び心で、相手も自分も傷付けてしまった。
そんなときにステーシアに出会い、優しくしてもらって、俺はコロッと落ちたんだ。
「…あのバカップルは、どこまでもバカップルだ」
きっとステーシアが学園に来ることはもうないだろう。あのアルフレッドがそれを許すはずもない。
傷は痛むけれど、彼女が幸せになるならそれでいい。なんて偽善者を装ったり。
鈍感バカップルはこんな話をしていたと、きっと知ることもないだろう。今ごろヨロシクやってるに違いない。
まぁとにかく、しばらくはアルフレッドを足で使おうか。
あの幸福者を。
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こちらにコメント失礼します
ヤクザが私を溺愛中の11話の盗聴器仕掛けていると話している最初のあたりで咲良が美雪に対してツッコミ入れてるシーンで美雪に対して咲良が言ってるのに間違えて咲良自信が自分に対してツッコミを入れてるふうになってました
あそこでは多分美雪と入れるはずだったのだと思いますが間違えて咲良と書いてました
あちらではコメント受け付けていませんでしたのでこちらに書かせていただきましたm(*_ _)m
ヤクザが私を溺愛中続き更新されるの楽しみに待ってます(((o(*゚▽゚*)o)))
退会済ユーザのコメントです
感想ありがとうございます!
グレイソン、確かに少しかわいそうですよね…。
後日、アルフレッド視点とグレイソン視点、そしてグレイソンの親友視点など、様々な視点から書いてみようと思います!
よければ見てください( ・-・ )