25 / 32
25
しおりを挟む胸の中が焼けるように蒸せ返る。もう何の関係もない彼女を閉じ込めるなど、犯罪行為に等しいと言えるだろう。
それでも彼女を外へ出すことは出来なかった。冷静になった今でも、それは変わらない。忘れることが出来たと、俺は確かにそう思っていた。とても時間をかけて、ゆっくり、彼女の面影を自分の心から消した。
それなのにどうして今更、お前は現れた。
「旦那様」
「…なんだ」
執事長の顔には、驚きと戸惑いが混じっている。
「何故、奥様……いえ、カトリーナ様が?」
「…なにがだ」
「メイドが戸惑っています。説明が必要ですので」
「……何か文句でもあるのか」
「そうではありません、ただ…」
執事長の言いたいことは分かる。けれどそれでも、苛立ちが勝ってしまうのだ。
「…カトリーナ様を、これからどうするおつもりですか」
「……部屋から出させるな。あの部屋に抜け出す場所はないはずだが……中に、メイドの見張りを」
「…分かりました」
「……」
突然消えた彼女は、突然現れた。勝手にいなくなり、他の男と現れた。
もしも一緒にいる男があの男ーーフランツなら、俺だって連れ去ったりしなかった。なのに他の男と幸せになるなんて、許せるはずがない。
「…俺は、寂しかったのか」
「は?」
「何でもない、独り言だ。…いけ」
「はい、失礼します」
そう、きっと寂しかったのだ。心の空洞を埋めるように、カトリーナとの傷を癒すように、他のものに救いを求めた。その先が部下たちだった。
(確かにモールスは悪い奴ではないが……)
目の前で他の男のものになろうとしたのだ。それを黙って見ていられるほど寛容ではない。
彼女が俺を嫌いだと言うのならもう姿を表せたりはしない。だからどうか、許して欲しい。目に映らない代わりに、想い続けることを。結局忘れることなど出来なかった俺を、どうか許してほしい。
44
あなたにおすすめの小説
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる