11 / 102
【第一章】 乙女ホラーゲームの悪役なんて願ってない!
第11話
しおりを挟む『死花の二重奏』で起こる事件には共通点があった。
どの遺体にも外傷は無く、毒物や病気の痕跡も無い。
さらには魔術痕も無く、死因は全くの謎。
誰もが眠るように息を引き取っている。
そして、遺体の心臓部からは一本の花が咲いている。
この花の在り様は地球上の植物には当てはまらず、まるで花を模して作られた死花のようだったことから、付いた名前が『死花事件』だ。
『死花事件』の主犯は悪役令嬢のローズ・ナミュリー。
……つまり、私。
そのはずなのに。
「そんな、どうして!? 私は殺してないわ! 私は守ろうとしただけなの!」
「お嬢様が何もしていないだろうことは、存じております」
「私じゃない! 私じゃないの!」
「分かっております、お嬢様」
パニックになりながら叫ぶ私を、今度はナッシュがなだめた。
「お嬢様を疑っているわけではありません。私はお嬢様のことが心配でやって来たのです」
「ちょっといいですか」
するとそれまで黙って成り行きを見守っていたジェーンが、私とナッシュの間に割って入った。
「よく分かりませんが、事件が昨夜起こったのなら、ローズ様がその事件に関係無いことは私が証明できます。昨夜ローズ様は私とずっと一緒にいたのですから」
「先程も言ったでしょう。私はお嬢様を疑っているわけではありません。私はお嬢様の安否確認がしたかっただけです」
「だからと言って、返事も待たずに勝手に淑女の部屋に入るのは失礼ではありませんか?」
「今は緊急事態です。人が亡くなっているのですから。一刻も早くお嬢様の無事を確認する必要がありました」
「それならもう十分ですよね。よくない噂が立つ前に早く部屋から出て行ってください」
いつの間にか二人は強い口調で言い争いをしていた。
しかし二人が言い争いをしている間にも、私の身体の震えはどんどん大きくなっていき、二人に構っている余裕などなかった。
「こんなことに、なるなんて……」
私は何もしていないのに。
ローズは何もしていないのに。
起こるはずのない『死花事件』が起こってしまった。
私は誰かを殺そうとなんかしていない。
『死よりの者』を召還なんかしていない。
『死よりの者』に命令なんかしていない。
していない、していない、していない。
私はジェーンを守ろうとしただけ。
だけどその身代わりで清掃員が殺された。
私の行動のせいで死ぬ予定になかった清掃員が殺された。
私が『死よりの者』を退治しなかったから罪の無い人間が殺された。
殺された、殺された、殺された。
私がいたせいで清掃員は死んだ。
死なないはずの人間が私の行動によって死んだ。
私の行動のせいで……つまりは私が……殺した。
殺した、殺した、殺した、殺した、殺した。
私がいたせいでまた人が死んだ。
これまでと同じように。
屋敷から逃げても変わらなかった。
どこにも逃げ場なんてない。
これから先もきっと私の周りでは人が死に続ける。
私のせいで。
私が生きているせいで。
私の、私の、私の…………。
「ローズお嬢様!」
名前を呼ばれてハッとした。
…………私は今、何を考えていたのだろう。
いいえ。
今のは一体、『誰』の考えなのだろう。
私の考えに誰かの考えが入り混じっている。
私が考えるはずもない考えが湧いてくる。
「これまでと同じように」って何?
ローズの周りではこれまでも人が死んできたってこと?
だとしたら…………今の考えは、ローズのもの?
「やめてください。何も考えてはいけません。お嬢様は何も悪くありません!」
茫然としていると、私の両手が握られた。
ナッシュだ。
両手がじんわりと温かい。
「ナッシュ……?」
「今回の事件はお嬢様のせいではありません。それに屋敷での事件だってお嬢様のせいではありません。お嬢様は、誰も殺そうとなどしていないでしょう!?」
ナッシュは今にも泣きそうな声でそう言った。
私の両手を握る手に力がこもる。
「だから、責任を感じる必要はありません。もし本当にお嬢様の考えている通りだったとしても、それなら責任は全て私にあります。罪を背負うべきは、私です」
ナッシュはとうとう嗚咽を漏らし始めた。
暴走状態のナッシュを見るのは二度目だ。
一度目は私が「死」という単語を放った直後。そして、今。
ナッシュはローズの付き人だから主人の死を恐れているのだと思っていたが、そう簡単な話でもなさそうだ。
きっとナッシュは、ローズに関係することで一種のトラウマのようなものを抱えている。
ゲームではローズルートをプレイしていないためトラウマの内容は分からないが、ナッシュの言葉から察するに、ローズの周りでは過去に大きな出来事が起こった。
そしてそれは…………終わってなど、いない。
――――――ガチャリ。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
婚約破棄の、その後は
冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。
身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが…
全九話。
「小説家になろう」にも掲載しています。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる