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【第三章】 旧校舎で肝試し
第43話
しおりを挟むルドガーを先頭に、ウェンディ、私の順で、旧校舎の抜け穴をくぐる。
穴と言うにはあまりにも大きいそれは、草むらの中に隠れている上に、穴の前に大きな石が置かれていて、抜け穴の存在を知らなければ気付くことは出来ないだろう。
逆に校舎内では穴の前に石像が置かれていて、これを動かさないと穴の存在は目視できない。
「平気か? 俺の手を掴めよ」
「ありがとう、ルドガー」
穴を通り抜けたウェンディの手をルドガーが取り、立ち上がるのを手伝ったのだろう。
ウェンディの後ろにいる私にはよく見えないが。
「ほら、お前も」
「え?」
てっきりウェンディだけのサービスかと思っていたが、ルドガーは私にも手を差し伸べてくれた。
しかしルドガーの行動を予想していなかったこともあり、私は一人でサッと立ち上がってしまった。
「あ、ごめん。一人で立っちゃった」
「可愛くねえヤツ」
ルドガーは行き場を失くした手で自身のズボンの埃を払った。
* * *
暗い旧校舎の中を三人で固まって歩く。
それぞれがランプを持っているため、三つを集めると広範囲が照らせるが、バラバラの方向を照らすと途端に目の前しか照らせなくなる。
「もっとこう、超発光!みたいなランプはないのかしら?」
「なんだよそれ」
「眩しいくらいに明るいランプが欲しいという意味よ」
「確かに明るい方が歩きやすいですが、あまり明るすぎると旧校舎に侵入していることがバレてしまうのではありませんか?」
旧校舎の暗さに不満を言う私に、ウェンディの正論が飛んできた。
そういえば今、私たちは立ち入り禁止の旧校舎にこっそり忍び込んでいるのだった。
「この明るさでも歩けないことはないわね、うん」
「どっちなんだよ」
つい論破されたことに気を取られてしまったが、先程のウェンディの声は少し震えていた気がした。
おや、と思いウェンディの顔が見えるようにランプを向けると、ウェンディは可愛い顔を引きつらせていた。
「ねえルドガー、この肝試しってチョークを持って帰ったら終わりなんだよね? それなら近くの教室からチョークを取れば」
「ウェンディ、つまんねえこと言うなって。せっかく来たんだ。奥まで行こうぜ?」
「ええっ!? ローズさんはどう思いますか?」
ウェンディの弱気な発言と、ルドガーの強気な発言。
ルドガーの友人たちが旧校舎に潜んでいろいろと準備をしていることを知っている私としては、すぐに帰ることには賛成できない。彼らの努力が水の泡になってしまうのはさすがに可哀想だ。
そもそもこの肝試しで起こるすべては彼らの仕込みであり、『死よりの者』は関わってこないのだから、怖がる理由もない。
「こんな機会はなかなか無いわ。奥まで行ってみましょう」
「そんなぁ、ローズさんまで……」
「なんだよウェンディ。もしかして、怖いのか!?」
「こ、怖くなんてないもん!」
さすがはヒロイン。
怖くなんてないもん!の一言があざと可愛い。
ウェンディの可愛さがあるからこそ、許される発言だ。
「きゃあっ!?」
怖くないと言った舌の根も乾かぬうちに、ウェンディが小さな悲鳴を上げた。
「どうした!?」
「首筋に冷たいものがっ!」
「首筋……ああ、なんだ。天井から水滴が落ちてきたみたいだな」
「水滴? ほんとにほんと?」
「本当だって。怖くなんてないもん!とか言ってたくせに、しっかりビビってやんの」
「もうっ、本当に怖かったんだからっ!」
首筋に落ちた水滴を怖がってルドガーに抱きつくウェンディ。
ウェンディの首筋を触って原因を突き止めるルドガー。
そして…………一部始終を真顔で見ている私。
他人のイチャつきを目の前で見せられると、つい真顔になってしまうようだ。
そしてイチャつき始めた二人は周りが見えなくなるらしい。
真顔の私を無視してずっと二人で乳繰り合っている。
ローズ的にはルドガーとウェンディが仲良くなるのを邪魔しないといけないのだが、なんと言うか……今の二人は、私の邪魔を燃料にして、より燃え上がってしまうような気がする。
だからまあ……しばらくは放置でいいだろう。
君子バカップルに近寄らず、と偉い人も言っていたし。
あまりにも手持無沙汰なためランプで天井を照らすと、天井には小さなコップが固定されていた。
コップは半分しか固定されておらず、固定されていない側には糸が垂れ下がっている。
糸の先を辿っていくと、糸は窓付近の床に垂れ下がっていた。
きっと窓の外で待機しつつこの糸を持ってコップを固定させていたルドガーの友人が、ウェンディが通りかかる際に手を離すことで、水を垂らしたのだろう。
何回予行練習をしたのかは分からないが、タイミングぴったり。すごい技術だ。
「そんな怖がりで最奥の教室まで行けるのかぁ? 引き返した方がいいんじゃねえ?」
「平気だもんっ……でも本当に幽霊が出てきたら、ルドガーが助けてね?」
「ウェンディ」
「ルドガー」
「ウェンディ」
「ごっほんごほん!」
わざとらしい咳払いをして、二人だけの世界に割り込んだ。
私にも我慢の限界がある。
さすがに目の前でキスシーンをされるのはごめんだ。
「きゃっ、ウェンディさん!?」
「……いたのを忘れてた」
旧校舎での肝試しは、ある意味で私の肝が試される催しなのかもしれない。
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