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第5章 難解な恋の図面
第24話
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「三十二、三十三、三十四……あれ三十五?梅子さんと同じ年?」
俺は玄関前の廊下の手すりに両腕を預けて夜空に輝く星の数を数えていた。
「おかしいな、さっきは三十三だったのに……」
玄関の位置は中庭とは正反対の為、手すりから見えるのは星空くらいしかない。何度もスマホを見ながら、俺は不安を紛らわすように今夜はよく見える星を数えて時間をつぶしていた。
(もう三十分は経ったよな……まさかこのまま二人でどっかいくとかないよな?)
梅子は俺のことを好きだと言ってくれた。
それだけで十分なのに欲張りな俺は梅子に俺だけを見ていてほしい。ほかの男のことなんて、一ミリも考えて欲しくない。
(……マジで俺、独占欲強かったんだな……)
こんなにマジになる恋愛が初めてで、自分でもどうしたらいいのかなんてまるで分からない。
ただただ誰にも渡したくない。
──チンッ
(あ……)
小さく聞こえてきたエレベーターの到着する音に俺はすぐに振り返る。聞き覚えのあるパンプスの音が響いてきて、駆け足になると俺の目の前でぴたりと止まった。
「……もう、待ってなくても良かったのに」
困った顔をしながら梅子が俺を見上げる。俺はついさっきまで一緒にいたのに、もう何日も会ってなかったかのような錯覚まで起こす。
恋しくて不安でたまらなかった。
俺は梅子の背中に両腕を回すと、梅子の華奢な肩に頭をぽすんと預けた。
「……世界、くん?……」
「マジで帰って来なかったら……どうしようかと思った」
自分でも予想以上に情けなく掠れた声だった。梅子が困ったように笑う。
「……帰って来るにきまってるでしょ……約束したのに」
「え?」
梅子が俺から少し体を離すと俺の頬に触れながら微笑んだ。
「そんな顔しないで。約束したご飯、すっかり遅くなったけど……一緒に食べよ」
梅子の言葉は魔法みたいだ。あっという間に俺の心は軽くなって、目の前の梅子が愛おしくて梅子を俺だけの胸に一生閉じ込めておきたくなる。
「……うん」
「世界くん?」
「ねぇ、いますぐ食べていい?」
「え?……ンッ」
俺は困らせると分かっていながら梅子の唇をぱくんと食べた。
俺は梅子の部屋に入りジャケットを脱ぐと、いつもの癖でワイシャツの袖を捲った。
「俺もなんか手伝いますよ?」
「もう!世界くんが手伝ったら意味ないでしょ、今日は私が作るって約束したんだからっ」
(まぁ、そうだけど、隣同士でキッチンにたつのも恋人同士の醍醐味っていうか……って言っても無駄だろうな、頑固だから……)
梅子は自分のジャケットをハンガーラックに掛けると冷蔵庫を覗きながらすぐに印籠マークの割烹着を羽織った。
「え?割烹着すか?それも印籠?」
「いいでしょ?暴れすぎ将軍のファン限定発売で千着限りのプレミアムものよ。ん?……何よ?ジロジロみて。あ!これだけは絶対にあげないからねっ」
「……だいじょうぶっす」
「なんだ、欲しいのかと思ったじゃない。良かった」
(いらねーよ……)
梅子はよほど割烹着がお気に入りな様子で鼻歌交じりに豚肉をきると、フライパンに入れ木杓子で炒め始める。豚肉を炒めながらそこにキムチをいれるのが見えた。
「豚キムチチャーハン?」
「さすが世界くん、正解」
梅子が俺の方に向かって、くるりと振り返ると木杓子を振った。
「私、辛いもの好きで、豚キムチチャーハンは得意なのっ、ていっても全材料ぶち込むだけなんだけど……あっ」
「どうしたんすか?」
「ごめん、世界くん……辛いの苦手じゃない?」
俺は心の中で口角をあげた。
「あ…んま辛いと苦手かも?」
「え……どうしよ、味見してみる?辛かったら、うーん砂糖?」
俺は立ち上ると直ぐに梅子の隣に並んだ。
「先に梅子さん味見してみてよ。そのあと俺もする」
「え?私が味見するの?」
「うん、で味ちょうど良かったら梅子さんの先にプレートによそえばいいでしょ?俺のは砂糖いれたらいいし」
「あ、そっか」
梅子は俺の邪な思惑などまるで気づかずに、スプーンでプライパンの端っこからキムチチャーハンを掬うと口にぱくんといれた。
俺はすかさず狙っていた梅子の唇に嚙みつく。
「……ンンッ!」
梅子が咄嗟に俺の胸をぐっと突くが、俺は梅子の後頭部を掌で押さえると、そのまま舌先で梅子の唇を割る。そして強引にキムチチャーハンを奪って自分の口内で咀嚼してからペロッと舌を出した。
「すっげーうまいっ」
「ば、ばか!なんで一緒に食べんのよっ、噛みついてくんのよっ」
梅子の怒った顔を見ながら俺はなぞるように下唇を舐めた。
「は?いいじゃん、俺の女に噛みついて何が悪いの?」
「ちょ……あの、ね……」
「どうしたんすか?顔赤いっすよ」
「キ、キムチが辛かっただけ!」
「そうなんすか?ちなみに俺、辛いのも甘いのも得意なんで覚えといてください」
「なっ……」
梅子が一歩後ろにのけ反った。
「それにあんま隙見せられると、やっぱ一回襲っておこうかなって気になるんでせいぜい気をつけて下さいね」
「やめてよ、なんでそんなことばっかりいうのよ……」
梅子といると直ぐに俺のことで梅子を困らせたくなる。
「返事」
「わ、かったわよ……」
(っていうけどマジで隙だらけ。本気出せばもう五回ほど襲えてんだけどな)
部屋にふたりきりで料理中にキスするだけでこんなに満たされた気持ちになることなんてあっただろうか。こんなささやかな時間が愛おしくて俺の腕の中に梅子を閉じ込めたくなる。噛みついて痕つけていつだって俺のものなんだって実感していたい。
「できたっ、世界くん食べよ?」
梅子がコンロの火を止める。俺は梅子の長い黒髪を一握り掴んだ。
「もう一回だけ味見してから」
俺は梅子を真正面から抱きしめるともう一度キスを落とした。
俺は玄関前の廊下の手すりに両腕を預けて夜空に輝く星の数を数えていた。
「おかしいな、さっきは三十三だったのに……」
玄関の位置は中庭とは正反対の為、手すりから見えるのは星空くらいしかない。何度もスマホを見ながら、俺は不安を紛らわすように今夜はよく見える星を数えて時間をつぶしていた。
(もう三十分は経ったよな……まさかこのまま二人でどっかいくとかないよな?)
梅子は俺のことを好きだと言ってくれた。
それだけで十分なのに欲張りな俺は梅子に俺だけを見ていてほしい。ほかの男のことなんて、一ミリも考えて欲しくない。
(……マジで俺、独占欲強かったんだな……)
こんなにマジになる恋愛が初めてで、自分でもどうしたらいいのかなんてまるで分からない。
ただただ誰にも渡したくない。
──チンッ
(あ……)
小さく聞こえてきたエレベーターの到着する音に俺はすぐに振り返る。聞き覚えのあるパンプスの音が響いてきて、駆け足になると俺の目の前でぴたりと止まった。
「……もう、待ってなくても良かったのに」
困った顔をしながら梅子が俺を見上げる。俺はついさっきまで一緒にいたのに、もう何日も会ってなかったかのような錯覚まで起こす。
恋しくて不安でたまらなかった。
俺は梅子の背中に両腕を回すと、梅子の華奢な肩に頭をぽすんと預けた。
「……世界、くん?……」
「マジで帰って来なかったら……どうしようかと思った」
自分でも予想以上に情けなく掠れた声だった。梅子が困ったように笑う。
「……帰って来るにきまってるでしょ……約束したのに」
「え?」
梅子が俺から少し体を離すと俺の頬に触れながら微笑んだ。
「そんな顔しないで。約束したご飯、すっかり遅くなったけど……一緒に食べよ」
梅子の言葉は魔法みたいだ。あっという間に俺の心は軽くなって、目の前の梅子が愛おしくて梅子を俺だけの胸に一生閉じ込めておきたくなる。
「……うん」
「世界くん?」
「ねぇ、いますぐ食べていい?」
「え?……ンッ」
俺は困らせると分かっていながら梅子の唇をぱくんと食べた。
俺は梅子の部屋に入りジャケットを脱ぐと、いつもの癖でワイシャツの袖を捲った。
「俺もなんか手伝いますよ?」
「もう!世界くんが手伝ったら意味ないでしょ、今日は私が作るって約束したんだからっ」
(まぁ、そうだけど、隣同士でキッチンにたつのも恋人同士の醍醐味っていうか……って言っても無駄だろうな、頑固だから……)
梅子は自分のジャケットをハンガーラックに掛けると冷蔵庫を覗きながらすぐに印籠マークの割烹着を羽織った。
「え?割烹着すか?それも印籠?」
「いいでしょ?暴れすぎ将軍のファン限定発売で千着限りのプレミアムものよ。ん?……何よ?ジロジロみて。あ!これだけは絶対にあげないからねっ」
「……だいじょうぶっす」
「なんだ、欲しいのかと思ったじゃない。良かった」
(いらねーよ……)
梅子はよほど割烹着がお気に入りな様子で鼻歌交じりに豚肉をきると、フライパンに入れ木杓子で炒め始める。豚肉を炒めながらそこにキムチをいれるのが見えた。
「豚キムチチャーハン?」
「さすが世界くん、正解」
梅子が俺の方に向かって、くるりと振り返ると木杓子を振った。
「私、辛いもの好きで、豚キムチチャーハンは得意なのっ、ていっても全材料ぶち込むだけなんだけど……あっ」
「どうしたんすか?」
「ごめん、世界くん……辛いの苦手じゃない?」
俺は心の中で口角をあげた。
「あ…んま辛いと苦手かも?」
「え……どうしよ、味見してみる?辛かったら、うーん砂糖?」
俺は立ち上ると直ぐに梅子の隣に並んだ。
「先に梅子さん味見してみてよ。そのあと俺もする」
「え?私が味見するの?」
「うん、で味ちょうど良かったら梅子さんの先にプレートによそえばいいでしょ?俺のは砂糖いれたらいいし」
「あ、そっか」
梅子は俺の邪な思惑などまるで気づかずに、スプーンでプライパンの端っこからキムチチャーハンを掬うと口にぱくんといれた。
俺はすかさず狙っていた梅子の唇に嚙みつく。
「……ンンッ!」
梅子が咄嗟に俺の胸をぐっと突くが、俺は梅子の後頭部を掌で押さえると、そのまま舌先で梅子の唇を割る。そして強引にキムチチャーハンを奪って自分の口内で咀嚼してからペロッと舌を出した。
「すっげーうまいっ」
「ば、ばか!なんで一緒に食べんのよっ、噛みついてくんのよっ」
梅子の怒った顔を見ながら俺はなぞるように下唇を舐めた。
「は?いいじゃん、俺の女に噛みついて何が悪いの?」
「ちょ……あの、ね……」
「どうしたんすか?顔赤いっすよ」
「キ、キムチが辛かっただけ!」
「そうなんすか?ちなみに俺、辛いのも甘いのも得意なんで覚えといてください」
「なっ……」
梅子が一歩後ろにのけ反った。
「それにあんま隙見せられると、やっぱ一回襲っておこうかなって気になるんでせいぜい気をつけて下さいね」
「やめてよ、なんでそんなことばっかりいうのよ……」
梅子といると直ぐに俺のことで梅子を困らせたくなる。
「返事」
「わ、かったわよ……」
(っていうけどマジで隙だらけ。本気出せばもう五回ほど襲えてんだけどな)
部屋にふたりきりで料理中にキスするだけでこんなに満たされた気持ちになることなんてあっただろうか。こんなささやかな時間が愛おしくて俺の腕の中に梅子を閉じ込めたくなる。噛みついて痕つけていつだって俺のものなんだって実感していたい。
「できたっ、世界くん食べよ?」
梅子がコンロの火を止める。俺は梅子の長い黒髪を一握り掴んだ。
「もう一回だけ味見してから」
俺は梅子を真正面から抱きしめるともう一度キスを落とした。
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